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異世界戦記  作者: 日本武尊
第一章
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第十話 提案



 その後警戒を終えた岩瀬中佐達と負傷兵と帝国軍の捕虜が臨時指揮所へ連れて込まれて、辻と岩瀬中佐が捕虜への尋問を開始した。

 その途中で何やら悲鳴に近い声がしたような気がするが……聞かなかった事にしよう。


 衛生兵と軍医によって負傷兵の治療が行われ、小尾丸とリアスが衛生兵と軍医の手伝いをしてくれた。

 話によれば負傷兵は矢とか銃弾が腕や肩に命中していたが、傷痕こそ残るが、私生活や戦闘で支障をきたす程の後遺症が残るものではないと言う。


 被害は奇襲が大きかったとは言えど、それでもかなり少なく収める事ができた。




「では、尋問の結果を聞かせてくれ」


 しばらくして捕虜全員の尋問が終わり、天幕の中で俺は辻より報告を聞く。

 ちなみにこの場に小尾丸もいるが、彼女は帝国軍の事を知っているのでアドバイザーとして同席させている。


「ハッ。捕虜の中に指揮官の副官が居ましたので、多くの情報が得られました」


「特に重要と思えるものから順に頼む」


「ハッ!別働隊は五日後に城塞都市ハーベントの側面へと到着する予定であり、本隊もそれに合わせて大きく動くそうです。それと機密性を保つためか、本隊と連絡は取らないようになっているようです」


 辻は机の上に広げた地図を指しながら捕虜より聞き出した情報から説明を入れる。


 しかし捕虜からこのような重要な情報を聞き出すとは……本当に優秀だな。まぁ受けた側はたまったもんじゃないだろうが


「どうしてもここを陥落させるつもりか」


 地図を見て小尾丸の表情は険しくなり、腕を組む。


「そこまで深刻なのか?」


「あぁ。城塞都市ハーベントに並んで拠点は他にも存在するが、ここだけはどうしても守り抜かなければならない」


 小尾丸は最大防衛拠点がある場所を指差し、中でもハーベント城塞都市がある場所を強く指差す。

 ハーベントの後方には距離があるとは言えど、王都まで防衛拠点が無い。


「強固な城壁を四重に設けているからそう簡単に突破はされないだろうが、万が一に突破されてしまえば王都まで防ぐ拠点が無い」


「アンバランスな配置だな。よほどこの城塞都市に防ぎ切れる自信があったようだが、時間と兵力があれば強固な要塞だろうとも必ず攻略される」


「……」


「辻。本隊の規模は聞き出せたか?」


「詳細は不明ですが、少なくとも全てを含めれば4個師団ほどの戦力と思われます」


「4個師団か。多いな」


「最重要攻略目標に対しての攻略ならば、むしろ少ないほうでしょう」


「……」


 俺は顎に手を当て、静かに唸る。



「やはり増援と補給は必須、か」


 ボソッと呟き、小尾丸は首を傾げる。


「辻大将。増援と補給は今から要請すればどのくらいで到着する?」


「早くて二日後、遅くても三日後ですね」


「そうか。なら都合がいい」



「さっきから、何を?」


「あぁ。ちょっとばかり、な」


 話に置いていかれている小尾丸は怪訝な表情で問うと、俺が説明を入れる。


「俺達はこのまま城塞都市を攻めている帝国軍に対して攻撃を行う」


「……私達に協力してくれるのか?」


「あぁ。その為にも戦力増強の為に仲間を呼び寄せる予定だ」


「それはありがたい。だが帝国軍の戦力は――――」


「分かっている。真正面から戦っても勝算は無い。だが、わざわざ正面から戦う必要は無い」


「……?」


「別働隊は五日後に城塞都市の側面を突くと言う手筈になっている。本隊もそのつもりで作戦を練っているだろう。

 だが、別働隊が全滅した事を聞いてないまま作戦を開始すれば、どうなると思う?」


「それは、帝国軍は側面に対して警戒はしていないだろうな。味方が横から来るのだから警戒する必要など――――」


 ふと、小尾丸はピンと来る。


「要は我々が帝国軍の側面を突くのか?」


「そういう事だ。別働隊が殲滅された事は向こうは知らない。安心しきっている帝国軍の側面を突けば、攻撃を受ける前に大きな損害を与える事ができる」


「なるほど。うまくいけば帝国軍を退けられるのか?」


「うまくいけばな。だが、相手は十万以上はある軍団だ。そう簡単にはいかんさ」


「それもそうだな」



「あぁそうだ。小尾丸」


「何だ?」


「一つ頼みを聞いてくれないか?」


「頼み?」


 小尾丸は首を傾げる。


「あぁ。村人の今後についてだ」


「……」


「ここまで帝国軍が侵攻しているとなれば、今後とも村への帝国軍の襲撃が無いとは……いや、十中八九あるだろう」


「確かに」


 今回は事前に知らせる事が出来て最悪な状況にはならなかったが、今回の様に事前に知らせる事が出来るケースはそう簡単には起こらない。


「そこでだ。俺から提案があるんだが」


「提案?」


「村人の安全を考えて、この戦争の間俺たちが責任を持って彼らを保護しようと思っている」


「なに?」


 小尾丸は怪訝な表情を浮かべる。


「サイジョウ殿が、彼らを?」


「あぁ。詳しい詳細は言えないが、保護が出来る環境がある。無論彼らの気持ちと言うものもある。もし村に残ると言うのなら、無理に連れて行くことはしない」


「……」


「戦争が終われば、村の復興は全面協力すると確約すると、小尾丸から伝えてくれないか?俺達から言うより、小尾丸が言った方が村人も聞いてくれると思うからな」


「なるほど。確かに、見知らぬサイジョウ殿たちより私が言った方が無難、か」


 それでも信じるかどうかは向こう次第だが

 

「分かった。私から村長に言ってみよう」


 小尾丸は軽く縦に頷くと、天幕を出る。




「……辻」


「増援と補給要請は既に通信手に伝えております。今頃向こうでは準備に追われているでしょう」


 小尾丸が出て行った直後に俺が問うと、辻はすぐに返事を返す。


「早いな」


「先ほど二人が話している間に手短に。増援は次の戦闘を考慮して戦闘車両を中心に要請しておきました」


「さすがだな」


「褒めいただき、感謝の極みです」


 相変わらずのポーカーフェイスで陸軍式敬礼をするも、顔色は少し赤かった。


「あと、海軍の増援も要請しておいたな?」


「はい。恐らく今頃軍港で準備に取り掛かっていると思われます。遅くても二日後には出港し、必要になる時には近くの海域に居るはずです」


「そのくらいあれば十分間に合うな」



 そのあと辻と今後の動きを相談して決め合う。



 しばらくして小尾丸が天幕に戻ってきた。


「それで、村長たちは何だって?」


「……少し考えさせてくれ、だそうだ」


「そうか。まぁ、当然か」


 今まで住んで来た故郷を一時的とは言えど、しばらくの間離れて暮らす事になるのだ。悩むのは当然だ。


「早くても、明日には答えを出すと言っている」


「ふむ。まぁ決めるのは彼らだからな。準備もまだ時間が掛かる事だから、ゆっくり待つさ」



「……」


 弘樹は再度机に広げている地図に視線を移すと、後ろで小尾丸が目を細める。


(サイジョウ殿。あなたは一体……)


 今のところ敵対する意思はないとは言えど、いつ裏表を変えるか分からないと言う底知れぬ恐怖があった。


「……」 


 彼女はただ、警戒しながらも弘樹を見張るつもりでいた。





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