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ペペロミア  作者: 桜桃
57/58

3 end






「まだアドレス変えてなかったんだね。

メール見たでしょ?なんで来てくれないの?」


「…。」


「俺、まだ櫻ちゃんのことが好きなんだよ。」


「…っ私は、径くんが好きだから。」





私に気づいてないのか、藤谷楓は櫻さんを真っ直ぐと見つめていた。




…私はきっと口出しをしてはいけない。




「アイツなんて、才能ないじゃん。」


「そんなことないもん。径くんは素晴らしいものを持ってるよ。

好きなことを突き詰めていくところが、何よりもカッコいいの。

前にも言ったよね、径くんを悪く言わないでって。」




今までに見たことないくらい、


櫻さんの目には怒気を含んでいた。






「もう、お願いだから私たちに関わらないで。」


「…そんなにアイツのことが好きなの?

俺が勝ったのに。」


「芸術は勝ったとか負けたとかじゃないよ。」


「…っでも、最優秀賞は俺が…」


「その最優秀賞ですけど、そんなに誇れるものなんですかね?」




藤谷楓のことが後ろから出た声の主は


先輩だった。



もれなく、岩崎さんもくっついている。





「審査員の人に聞きましたけど、

賄賂を渡して最優秀賞を取ったみたいですね?」


「…っ!」


「ちゃんと証拠もありますよ。

…これ、バラされたくなかったら、2度と櫻ちゃんに近づかないでもらえます?

私たちにも大迷惑なんで。

じゃないと、私があなたの事を本気で潰しにかかります、よ?」




…めっちゃ怖い、先輩。





「はいはい、和。そこまで。」


そのまた後ろから現れたのは山風さん。




「やっと王子様登場ですか。おっそいんですよ。」


「わりーわりー、ちょっと呼び止められちゃってさ。

聞け、お前たち。」


「いや、いきなり社長風吹かされても。」


「審査委員長から呼び止められてな。

なんか特別賞ってのもらった。

急な賞だから、個展開催の資金援助が副賞でとうだって…」


「ちょ、その仕事受けたんでしょうね⁉︎」




経理の先輩は目の色を変えて食いついた。





「おうよ!」


「資金援助…ようやく火の車から抜け出せそう…」


「だからな、ものすごい忙しくなるぞ。

和は資金の入出で結構動くになると思うし、

岩ちゃんには、買い出しで外出ることが多くなるだろうし、

沙耶ちゃんにはいろんなことまとめてもらうだろ、

それに櫻は俺のスケジュール管理とか打ち合わせで一番忙しくなると思う。

…ついてこれるか?」


「…誰に言ってんの。

お金の計算は得意中の得意です。」


「そうそ!外で回るのなんてへっちゃらだよ!

俺、体力だけはあるから!」


「わ、私も!大学でたくさんレポートかいてきましたから!」


「…櫻は?」


「ついていかないわけないじゃない。

径くんのファン、第1号だもん。」


「ふはっそうだった。」




もう、この場所には藤谷楓がいないみたいで。





「てことで、俺らお前の相手してる場合じゃねぇんだわ。

もう2度と櫻に関わんな。

…去年の個展も、櫻が幅広げるためにって言ってくれたけど、断るべきだった。

それが、お前の行動に火をつけたんなら謝る。

でも、櫻を傷つけるやつは誰だろうと許さねぇから」




低くて、冷たくて、

ドスの効いた声。



ヒュッと藤谷楓の喉がなった気がした。





「前も言っただろ。忘れてんじゃねぇよ。」


「…っ」





藤谷楓はなにも言わずにその場を立ち去った。





「ヒューカッコいい、山ちゃん!」


「だろぉ、俺だってやるときゃやるんだよ。」


「その一言で全部台無しだけどね。

ま、若干1名、物凄く感動してますが。」




先輩の言葉で櫻さんを見ると、


大きな目に涙をいっぱい溜めてた。






「櫻。」



「おいで」とでも言うように、

山風さんは腕を広げる。


櫻さんは飛び込むように山風さんに抱きついた。




後ろで先輩と岩崎さんがヤレヤレなんて


腕をすくめながらも、



私を含めて、幸せそうな顔をしてた。








「ったく、泣き虫だなぁ、櫻は。」


「ばか、径くんがかっこよすぎるの。」


「ははっ惚れ直しただろー」


「…ばか。」


「かぁいいなぁ、櫻は。」


「…ばーか。」


「ばかしか言えねぇのかよ。」


「…あほ。」


「ふははっほんとかわええ。」




…甘い。

甘すぎる。



マーガリンを塗ったホットケーキの上に

蜂蜜をたっぷりとかけて、その上に砂糖をふりかけて、さらにまたチョコレートをかけた感じ。


それぐらい甘い。





「はいはいはい。」



そんな2人にストップをかけるのは、


いつも先輩の役目だ。





「ラブラブすんのはいいけど、家に帰ってからにしてって言ってんじゃん。」


「わりーわりー」


「本当にわかってんすかね。」


「んじゃ、帰るか。

明日から大忙しだからな〜」





山風さんがそっと、櫻さんの荷物を持って。


岩崎さんがさりげなく先輩の手を握って。




それを私は後ろから見る。










1年前、こんな私を誰が想像できただろうか。



こんな幸せな気持ちになれるなんて、


思わなかった。






山風さんについてきてよかった。



この人たちに出会えてよかった。

























私の物語は、まだ始まったばかり。










fin








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