昔からの
櫻さんと藤谷楓。
山風さんと藤谷楓。
この繋がりで一つ、わかったことがあった。
それは、うちのおじいちゃんの弟子のこと。
藤谷楓は弟子の2人のうちの1人だということは、
お母さんから聞いている。
そしてもう1人は、山風さんだということ。
母に聞いてみると案の定、山風さんだった。
「あら、径くんのとこで働いてるの⁉︎
あーらそう、全然名前を聞かなかったから、てっきりやめちゃったのかと…
でもよかったわぁ、続けてくれてて。
本当に才能のある子だったから。」
そう言って、昔のアルバムを引っ張り出してきて
6年くらい前の、おじいちゃんもまだ元気で。
その横におじいちゃんを挟むようにして
山風さんと藤谷楓がいた。
ニカって笑ってピースを決める山風さんと
絶対ナルシストだっただろうなっていう表情の藤谷楓
贔屓目でみてるわけじゃないけど、
2人の性格が出ていて、なんだか可笑しかった。
そこで教えてもらったのは、
ちょっとした、2人の過去。
*******
「径くんが中学3年生のときに、おじいちゃんに、みそめられてお弟子さんになったの。
楓くんもそれくらいにお弟子さんになってね。
芸術的センスがあるとモテる!なんて言って来たわ。」
「はは…」
なんとも、"らしい"言葉だ。
「高校3年生くらいになってからかしら。
1人の女の子が訪ねてきたのよ。」
「え?」
「今日は雨が降りそうなのに、傘を持って行ってないので届けに来ました、って。
綺麗な女の子が。」
「それって、櫻さん?」
「そうそう!径くんと仲が良さそうで…
でも、その時いた楓くんが気に入っちゃって。」
…なんとなく、そうだろうなって思った。
「まぁ、楓くんはあの通り自分に自信があるしね、カッコよかったし…アプローチしまくってたんだけど、
櫻ちゃんの心には径くんしかいなくてね。」
…櫻さんは、その頃から山風さんのことが好きなんだ
「それである日…」
「…?」
「受験勉強で暫く2人のは来なくてね。
楓くんは来てたんだけど。
卒業式も終えて、また2人が来るわね、ってそんな時だった。
ある日、おじいちゃんが倒れて。
みんな病院に行ってた。
もちろん、径くんも。
だけど、楓くんが櫻ちゃんを呼び出したみたいで。
そこで…」
なんとなく、察しがついた。
それで、櫻さんはあの時尋常じゃないくらい
怯えた表情だったんだ。
「まぁ、間一髪径くんが来たんだけど。
それから何ですって、2人が付き合い始めたの。」
「そうなんだ…」
*******
突然の藤谷楓の登場に、
隣にいる櫻さんは平静を装いながらも、手が震えていた。
「アイドルかよ。」
「まぁまぁ…今圧倒的に人気だからね。
そんな彼が出品するってつい3日前にわかってファンが殺到したらしいよ。」
「ったく、馬鹿だよね。
対して良い作品を生むわけでもない、顔だけで持ち上げられてるだけなのに、何を勘違いしてんだか。」
「ちょっと和、聞こえちゃうって」
「別にいいよ。本当のことだもん。」
焦るように周りを伺うが、
先輩の言葉を気にとめる人はいなかった。
「まぁ、櫻ちゃんに会って、山風さんがこのコンクールに出品するって知って、勝負しようとか思ったんかね。
自分の魅力のなさを知りもしないで。」
先輩の悪態に、私も同意見だった。
プロならわかるはず。
藤谷楓と山風さんの実力の差がとれほどなのか。
「じ、実はね。」
「ん?どうかしたの、櫻ちゃん。」
「藤谷くんから、なぜかメールがきてて…」
「はぁ!?」
そうやって見せられたメールの本文
そこには、山風さんを貶す内容と
自分の過大評価。
そして、自分が勝ったらもう一度会ってほしい
という文面だった。
律儀に場所と時間まで指定してある。
「ばっかばかしい、自分が勝つとでも思ってんの。
櫻ちゃん、相手にすることないよ。」
「わかってるんだけど…」
次の言葉を述べようとした櫻さんをさえぎるように
コンクールの発表が行われることとなった。




