背中 side和
コンクールまで、今日を入れて3日。
櫻さんが近づいても、サラッと避けてしまう山風さん。
ったく、男が何なってんだか。
行き場をなくした手を戻して、
悲しそうな表情を浮かべて、
秘書室に向かう。
創作意欲がわくはずもない山風さんは
ボケーっと空いたデスクに座って、
窓の外を眺めていた。
運がいいことに、買い出しに出かけた
沙耶ちゃんと溜くんはいない。
「はぁ…」
「オイコラおっさん、何ため息してんねん。」
「え?」
「櫻ちゃんの顔見た?
今にも泣きそうだったよ。」
「…。」
「アンタらしくないじゃん。櫻ちゃんを避けるなんて。高校のときから、くっつき虫みたいにウザいくらいくっついてたのに。」
「一言余計だっての。」
「しゃーせん。…で?どうするつもり?」
口をもごもごとさせる。
「このまま別れるってこと?」
「…そんなわけねぇだろ!」
「じゃあ、どうしたいの?
櫻ちゃんを困らせたいの?」
「…。」
「嫉妬、したんでしょ?」
「え?」
「話は櫻ちゃんから大体聞きました。
それで、きっと藤谷楓に嫉妬したんだろうな、って。」
…図星か。
「…山風さんの気持ちはわかるよ。
私だって溜くんが女の人の香水つけて帰ってきたら嫌だもん。
…でも、櫻ちゃんの気持ち考えてあげた?
櫻ちゃんが藤谷楓のことが苦手なの、あんたがいちばんわかってたじゃん。
そんな櫻ちゃんが藤谷楓に抱きしめられて、最初に思ったことってなんだろうね。
嬉しかったかな、悲しかったかな、それとも…
怖かったかな。」
「…!」
つられたように、顔を上げた。
「ったく、しっかりしなさいよ。
櫻ちゃんの一番の理解者はあんたでしょうが。
なんで私が背中を押してんの。」
「…ごめん。」
「私じゃないでしょ。」
でも、まぁ…
目を覚ましたようで良かった。




