風邪ッ引きの side和
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結局あれから、水谷さんとも郡司さんとも話すことないまま、卒業した。
同じ部活だったけど、
向こうが確実に私のことを避けてたし、
私も無駄な話はしたくなかったから
打ち上げも1番遠くの席だったし。
溜くんと私が話してても、視線をよこすこともなかった。
今思えば、私があのとき好きって言ってたら
少し変わってたのかもしれない。
…わからないけど。
ピンポーン
誰よ、こっちは体調悪いってーのに。
「ごほっ…居留守だ居留守。」
居留守を決め込むと、
訪問者はわかっていたかのようにドアを叩き始めた。
…こんなことするやつは1人しかいない。
次に携帯が鳴る。
きっと訪問者。
「…なに、溜くん。」
「あ!やっぱ起きてるんじゃん!
あーけーてー!」
「あのね、体調悪くて起き上がれないの。
バカを相手にしてる暇なんてないんだ、帰った帰った。」
一気にまくし立てたせいか、咳き込む。
「あーもう、看病してあげるから!
ちょっと待ってて!」
「え?」
ブチッと切れた電話。
なにを考えてるんだ、あの男は。
怪訝に思うのもつかの間。
がしゃがしゃとベランダから音がする。
…まさか
カーテンの隙間から見えた顔はやっぱり溜くん。
「和!和ー!ここなら開けられるでしょ?
あっけて♬」
ニコニコと眩しい笑顔。
痛む頭を抑えて、窓を開ける。
「自分ちのベランダからうつれるなんて、
ほんと無駄な運動能力…」
「もー、今日くらい毒吐かなくていいから。
おとなしく寝てなさい。」
…なによ、急にお兄ちゃん風吹かせてさ。
「熱は?何度くらい?」
「朝測ったときは38度、くらい…」
「あちゃー。辛いね。」
へにゃりと眉を下げた。
「ご飯食べた?」
「薬飲んだ?」
「水分とった?」
全て首を横に振った。
「ったく、そんなんじゃ治るもんも治らないじゃん。」
「…ごめんなさい」
「とにかく、おかゆ作ってくるからおとなしく寝ててね。」
「うん。」
「…ず、かーず」
「ん…」
いつの間にか寝てたらしい。
目を開けると、私の顔覗き込む溜くんと目があった。
「おかゆ、できたよ。」
「うん。」
「はい、あーん。」
「あー…って、はっ⁉︎」
何食わぬ顔でスプーンを口に持ってくるから
ビックリしたじゃん。
怖い怖い。
天然怖い。
「ほらほら、早く。」
「あの、溜くん。
私そんなに辛くないから。」
「いいからいいから!」
「でも…」
恥ずかしい。
なんていうのも恥ずかしい。
「ほら、今日くらい甘えなよ。」
「え?」
「和はなんでも無理しすぎなの。
今日くらい俺に甘えなよ、ね?」
「溜くん…」
ちょっと泣きそうになった。
今日くらい、素直に甘えてみようか。
「仕方ないな…」
出てくる言葉は素直じゃないけど。




