本物の芸術家
私とぶつかった彼は、
少し猫背気味で絵を見ていた。
そんな私は、彼に目を奪われていた。
顔はよくわからないけど、
なんとなく、目が離せないでいた。
「あの…」
「なに?」
想像よりも柔らかい声。
くるりと体ごと私に顔を向けた彼に顔が熱くなる。
思わず話しかけてしまったが、
何を言えばいいのかわからない。
考えないで話しかけてしまったが自分を
叱咤しながら、言葉を考えた。
「…こ、この絵…気に入ったんですか?」
「あーこれ。」
どこか、他人事のように言う。
「気に入ったっちゅうか…
君は?気に入ったの?」
「私…私は、すごいと思います。この絵。」
「凄い?」
「はい。なんというか、とても薄い言葉に思われるかもしれないですけど、私はこれ以上の言葉が見つからないんです。
凄い以上に凄い。他の作品はなんとも思わなかったけど。…あ。」
「ははっ正直だね。」
「い、いや、なんというか!
他の作品は、ただ綺麗に、ただ上手に作られた感じだけど、この絵は深さを感じるんです。愛を感じます。」
「愛…か、それ言ったの君で2人目だ。」
「え?」
くすくすと笑いながら、彼は言う。
私、すごく失礼なこと言った気がするけど…
大丈夫だろうか。