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朝、いつもよりもずっと早くに家を出た。
学校では、移動する以外机にずっと伏せて
寝てるふりをした。
たまに感じる、溜くんの視線。
でも、素直に顔なんてあげられなかった。
お弁当は、渡さないわけにはいかないから、
溜くんのいないときを狙って、
こっそりと机の上に置く。
私ってば、本当にガキだなって思う。
「宮野さん、ちょっといい?」
ただならぬ雰囲気を出す郡司さんと
泣いてる水谷さん。
連れてこられたのは、あまり人気のないトイレ。
あー、なんかベタな予感。
「岩崎くんにもう関わらないでくれる?」
「は?」
関わるどころか、今日は一言も話してませんが。
「目障りなんだよね。」
「…グズッ」
よくわからないけど、水谷さんは泣いてるし。
「沙羅が岩崎くんの事好きなのは知ってるでしょ?」
「まぁ…」
昨日ね。
「だったら、幼馴染かなんなのか知らないけど、アンタがいると邪魔なの。」
「なんで?」
「そりゃ好きな男の子に妙な女がいたら気になるでしょ!」
妙な女って私かい。
「とりあえず、岩崎くんとは仲良くしないで。」
命令口調のように言う。
プチンッと何かが切れた音がした。
「私が邪魔だとして、なんで郡司さんに言われなきゃならないわけ?」
「は?」
「水谷さん本人が私に言ってくればいいことじゃん。友達使うなんて、卑怯なんじゃないの?」
溜くんが好きなんだったら、
正々堂々とこいっての。
「自分じゃ何にもできなくて、後ろで泣いて。
そんな人のために頑張るほど私はお人好しじゃないんで。
文句があるんだったら真正面からぶつかって来なさいよ。
人を使うような人に何言われても私は動かない。」
ちょっと言いすぎただろうか。
「あんたねぇ、さっきから言わせておけば何様なのよ!」
「別に何様なでもないけど。
幼馴染だからって私は鼻にかけてるつもりもない。
ただ、溜くんの傍が安心できるから一緒にいるの。
溜くんは何も言わず溜め込むところはあるけど、
私にはちゃんと言ってくれるの。
だから、私が邪魔だったらちゃんというよ。
私は溜くんが拒否しない限り隣を離れるつもりはないから。」
私だって、溜くんが好きだから。
「悪いけど、溜くんの彼女になりたいなら
私なんか相手にしないで溜くんにアタックすることに専念したら?」
最後の言葉がさらに苛立たせたのか、
水谷さんは顔を真っ赤にして
郡司さんは私に向かって手を振り上げた。
「黙って聞きてれば…!」
バシンッ
「いわ、さきくん…」
「悪いけど、和を傷つけたら許さないから。」
「溜くんどうして…」
「和と話したかったから、後付けちゃった。」
ニカッと笑う。
さっきの怖い表情をコロリとかえるから、
ちょっとドキッとした。
「俺さ、昨日言ったよね。」
再び郡司さんと水谷さんのほうを見て、
静かに低い声を出す。
「付き合えない、って。」
ピクリと肩を揺らす、2人。
「で、でも友達にくらいなってくれたって…」
グッとうつむく水谷さんと
引き下がらない郡司さん。
「俺の大事な人傷つけておいて何言ってるの?」
大事な、人?
「そんな人と友達なんて、誰がなるんだろうね?」
笑顔でキツイことをいう。
2人はそのまま走り去っていった。
「溜、くん…」
「もう、和のおバカ!俺いなかったら殴られてたよ!わかってるの!?」
…さっきまでのカッコいいのはどうした。
なんでアンタが泣きそうになってる。
「でも、よかった。和が無事で。」
「溜くん…ごめんね、昨日は。」
「ん?いーのいーの。きっと、あの子達のこともあったからでしょ?それに謝るのは俺も一緒だから。」
「え?」
「関係ないって言ったの、傷ついたよね。」
「…っ」
「違うの。勘違いさせてごめん。
ただ、和とはそういう話じゃなくてバカな話したかったっていうか…言葉のチョイスを間違えました!
ごめんなさい。」
ぺこり、と頭を下げる。
…私、何年幼馴染やってきたんだろ。
溜くんのこと、冷静に考えればわかることなのに。
「やっぱ、私が悪いよ。」
「え?」
「溜くんがバカだってこと、一時でも忘れちゃったからね。」
「も、もー和!」
うん、私たちはこれぐらいが丁度いい。
「和!」
「ん?」
「大好き!」
え…えぇぇぇっ
まさかのここで告白?
当の本人はニッコニコ笑顔♬…って違う、
私も、私も…
「…っわ、私も…その、あの…っ」
言わなきゃ言わなきゃ。
大事な人、まで言ってくれたんだから。
勇気を出して…
「溜くん、私もね…!」
「大事な幼馴染だもん!これからもよろしくね!」
…そーだよ、こういう男だよ。
「大馬鹿野郎。」
「え?え、なんで⁇」
ま、仕方ないか…