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「んじゃ、絵ぇ描いてくるわ。」
「りょーかい!」
ババッとお昼を食べ終えた山風さんは
アトリエへと戻っていった。
「本当に仲が良いんですね。」
「まぁ、何年も連れ添ってるからねー!」
「全然仲良くなんかないわ。」
…なんとも対象的な。
「物心ついたときから、和とはずっと一緒なの。
実家も隣同士だし、今だってマンションも隣同士でさ!」
「あんたが勝手についてきただけでしょ。」
「もぉ、たまたまだって!
やっぱ、運命の赤い糸で結ばれてるんだよ、俺たち!」
「それを世の中では腐れ縁といいます。」
「もぉ、照れないの!」
何十年も一緒にいるだけある。
岩崎さん、全くへこたれない。
「ごちそうさまでした。
じゃあ、私はちよっと出かけてきます。」
「え、どこに⁇」
「笹倉さんのとこ。」
「あ〜」
「笹倉さん?」
「そっか、沙耶ちゃんにはまだ言ってなかったね。
笹倉さんっていうのは、ざっくり言えば布屋さん。
山風さんの作品にはTシャツとか、靴とか作ってるんだけど、それに使われる生地とかは全部笹倉さんのとこから買ってるんだ。」
「なるほど。」
「んじゃ、行ってきます!」
飲みかけのコーヒーを口に含んで
先輩は出かけていった。
「なんだかんだ、大忙しですね。」
「まぁ、コンクールが控えてるからね〜」
「コンクール?」
「そ。絵画コンクールっていうの?
色んな名画家や評論家が審査員なんだけど、
プロ・アマチュア問わず、応募されるコンクールがね1ヶ月後にあるの。」
「それで最近山風さんがアトリエの方に篭ってるんですね。」
「そゆこと。
それに、その後には発表会みたいなのがあるらしくね。コンクールじゃなくて色んなお偉い先生方から評価をもらう発表会らしいんだけど、それに向けての政策もあるから、山ちゃんは大忙し。」
確かに。
従業員ではなく、芸術家の彼が1番忙しいはずだ。
「そんなコンクールが控えてるときに、
櫻ちゃんが大学が忙しくてこれないんだもん。
山ちゃんもはかどらないよねぇ。」
「…そう、なんですか?」
「うん、多分だけど筆が思った通りに進まないんだと思う。
だって、筆がノッてると山ちゃんはご飯食べることも寝ることも、時間も全て忘れちゃうから。」
それだけ、自分の世界に入り込むってことだよね。
…やっぱり凄い。
「まぁ、だからこそ櫻ちゃんが体調管理とかしとかなきゃならないんだけど、櫻ちゃんが側にいない山ちゃんは超ダメ人間だからさ。」
山風さんの話になると、必ずでてくる…
櫻さんの名前。
私の気持ちを知らない岩崎さんが
櫻さんの名前を出すことに抵抗がないことは当たり前だ。
私の胸が勝手に痛くなってるだけ。
私が勝手に傷ついてるだけ。




