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裸で立つ渡り鳥

逃避、旅立ち、或いは旅行のような

作者: 名前が登録されていません

私がその大学を選んだのは、ほんの些細な理由からだった。



いくつかの因縁が絡まって、そして最終的には自業自得として国立大学への道が潰えた。ああ、いや、一応は合格はしたのだった。ただそれは北の遥か彼方の事であり、他人事であり、受験するその時ですら何の感慨も持てなかった心底どうでも良い道であったから割愛する。とにかくそんな頃だ。


今更になって初めて、私は既に応える者の居ない進路相談室の戸を叩いてた。


もう誰もが自らの進路を決定し、願書を提出して、一歩一歩を踏みしめている頃だった。

私には一人、誰も居ないその部屋の一角に乱雑に積まれた願書の束を、数日掛けて漁った記憶がある。


最早、願書を郵送してもらう時間の猶予も無かった。

そこに願書があって、まず第一に『受験することができる大学』の中で選ぼうとして、いかにも理系らしい信頼感のあるありふれたネーミングと、東京の大学だったという、ただそれだけの事で、私はその聞いたことの無い、けれど何処かで聞いたことのあるような、その私立大学を選んだ。


それまでの私の世界というものは、広くて低い、存在を押し潰すような、孤独で荒涼とした田舎の空だった。 私は何も無い町で、ただ空を眺めて生きていた。 そうでなければ何も見ず、ただ本を読んで過ごしていた。


私には当時、新宿も八王子も見当がつかなかった。 八王子という地名はよくTVで聞いていたから都会だと思っていたし、都庁もやはり東京にあるものだとばかり思っていた。


私は何も知らなかったし、自分が何を求めているのかも、私自身分解っていなかった。


それでも私は、都会にさえ出れば、この押し潰すような空から逃れられると思った。


何時か見た、ビルの隙間から覗く空の高さを信じていた。


本当は機械科が良かったのだけれど、結局私は二度も落ちた。


 代わりに二次志望に書きなぐった化学科に2回とも合格した。


それが2月の終わりのこと。もう引き返す時間もなかった。


そもそも、何処まで引き返せば良いかもわからなかったのだけれど。



『どうせなにものであろうとかまわない』 と。


だから私は、そう決めた。



望まれていた通りに国立大学へ行くと学園長に報告しながら、最後にそれを蹴り飛ばし、

その3年間を全て哂い飛ばして、


私は高校を卒業した。

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