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食後のプリンを巡る想像を想像を絶するじゃんけん大会

 今日は数ヶ月に一度、私達の給食でプリンがでる日です。

 この平成の時代においても、未だ消え去ることのないプリンの人気は、この学内では一段と激しく、苛烈をきわめています。

 そのため、今日のような日には欠席者など学年学級問わず、皆無に等しいのが当たり前です。


 ですが、当たり前は必定ではありません。

 必ずしも異例は存在するのです。

 そう、なんと今日、ここ私達の学級に欠席者が出たのです!

 先生方によると、これは年号が平成に入って以来初めての事態らしく、先生方も驚きを隠せていません。


 《欠席者がいる》ということはつまり《プリンが余る》ということです。

 それが意味することは《プリンが2つ食べれるかもしれない》ということです!


 みんなの眼の色が変わった

 やはり、狙っている……!


 今日のようなプリンデイに毎回、欠席者が皆無な理由――。

 それは無理をしてでも全校生徒全員が登校してくるから。

 風邪ひきはもちろん、忌引きのハズの人、はたまたインフル等の人までもが、その日には登校して来ます。


 インフルの人達は別室で食事を取るコトができます。

 これは非インフル患者保護者と被インフル患者保護者の討論の結果からの折衷案らしく、

もう何十年も前に決められたらしいです。

そして忌引きになるハズの人達もまた、今日のような日のためにわざわざ葬儀を欠席してくるほどです。

 また保護者の方が日程をこのためにずらすというケースもあります。


 これらのエピソードから判るとおり、プリンデイは保護者公認なのです。


 もちろん、たまに遅刻して登校する人達はいます。

 しかし、その場合は朝の8時半までに学校側に伝えなければいけません。

 そして遅刻予定者の誰一人として、それを伝えそびえることはこの学校創立以来、この日だけはいません。


 しかし、だからこそ不思議に思う人がいるハズです。

 何故、私達のクラスに欠席者が出たのかを……。

 彼、つまり私達のクラスの欠席者は今日の朝、オートバイにハネられ亡くなったのです。。。

 私達の学級を中心に学校内が震撼しました。


 ――プリンが余った、と


 私を含めた学内全ての人間が、彼の死などではなくプリンが余ったことに対しての話題で持ちきりになっていました。



 私達の学校では、欠席者が出た際に余るおかずやデザートは総て《じゃんけん》というモノで決められます。

 そして人数が多く、なかなか勝敗が決まらないとき、

教師らはある秘策に出るのです、、、


 「んー、なかなか決まらないネ。 じゃあ、みんな立って! 先生とじゃんけんして勝った人だけ立っていてネ。 負けたり、アイコだった人は座ってネ」


 先生とじゃんけんシステム、

これが発動されると私達は有無を問わず、強制的に参加しなければいけません。

 しかし平等であるこのシステム、実は2つの穴があるのです。


 1つ目は、生徒と教師間で談合が行われている場合。

 かなり稀な事例ですが、実際一昨年の9月に他校で、スイカの余りを巡って行われていたそうです。


 2つ目は、じゃんけんで負けたクセに何食わぬ顔で立つヤツがいる場合。

 厄介な問題で、これは互いに監視し合わなければどうにもなりません。


 しかし、やはり他人の目を盗んで立っている者も多いのです。

 かく言う私もその一人なのですが、

だけど自分がやっているから、他人がやっていても許せるワケでもありません。

 しかし他人の指摘をしてしまうと、指摘した自分自身までもが注目を集めてしまいます。

 そしたら当然、不正がバレるワケでして。

 人を呪わば穴二つ、

相手を陥れようとすれば自分もまた道連れになっちゃうのです。


 また、不正して残っていても周りの人数が少なくなれば、当然バレやすくもなります。

 しかし、不正無しで最後まで残るのは、運がものすごく良くなければ無理なコトです。

 つまりさじ加減が難しいということなのです。



 ――そして始まったじゃんけんバトル……。

 第一回戦〜第五回戦までを、先生とじゃんけんシステムで行い、

それ以降を生徒同士のタイマンで行うというルールに決定されました。

 まずは先生とじゃんけんシステムの時に、バレないようにどこまで不正を行えるか。

 残り人数が十人前後になったら切り上げる、と私は予め決めています。

 そこらへんの人数で切り上げるのがベストと、今まで培ってきた私の経験と勘に基づいた次第です。


 第一回戦でクラスの五分の一がリタイアしました、

しかし逆を言えば五分の四が残っているということです。


 第二回戦では更に少なくクラスの八分の一がリタイアしました、

人数はまだ随分と残っています。

 勝率が三分の一であるハズのじゃんけんにおいて、この結果はあまりに低確率な出来事……。

 これは、つまり私と同類がそれぐらいいるということです。

 そして審判でもある先生は、この結果を当たり前のように訝しく思うハズ……!

 潮時だ、

と私は思い身を退いて、あとは運に任せようと流れに任せました。


 第三回戦、この大会で初めて正々堂々と勝負をする一試合です。

しかし、私はグーを出してしまい、負けてしまったのです……。

 しかし、私は神サマにまだ見放されてはいませんでした。


 「ちょっと木村クン? 先生見てたわよ。 木村クンは今、グー出して負けていた様に、先生は見えたんだけどなあ……? 気のせぃ〜? そんなワケ無いよね? 先生、ズルするのは良くないと思うなぁ。 ――そこで他人事のように聞いている遠藤クンもそうなんじゃないのぉ? あと佐々木サン、あと上田クン、鈴木サン、渡辺クン、河野サンもそうでしょ?」


 やはり先生はズルがあることを見抜いた……!

 ただ、やはり不正者全員を見つけることは不可能だった。

 それも当たり前、何十人もの不正を彼女の一対しかない瞳だけで探し出すのは到底ムリなのです。

 しかし私としては、自分が脱落してしまったのに、未だ残っている不正者がまだまだいるのは面白くないです。 それは、そこから零れた彼らも同じようで、、、


 「俺だけじゃなくて石田もやってたしっ!」


 「大久保サンもそうですー」

 これが私たちヒトの性なのでしょうか。

 俗に言うチクると云うモノで、彼らはどんどんと道連れを増やしていきました。 また、それにつられて私も含めた脱落組も通報(憂さ晴らし)していきました。

 そして最終的に何故だか私に運が向いてきたのです……。


 「――こんなに悪い子がたくさんいたなんて、先生信じられないわ。 これじゃあ、ちゃんと勝負していた子が可哀想だわぁ……」


 という先生のおかげ(独断と偏見)で見事復活を遂げたのです。


 不正発覚者が道連れにと、

その道連れにされた者がまた別の誰かを道連れにと、

と悪循環になり、結局残り人数は14人になりました。


 そして第五回戦が終わり最終的な人数は私を含めた3人に。

 その点においては、私はすごく運が良かったのではないかと思います。

 だからこそ、私は自分を過信し過ぎてしまったのかもしれません。。。


 「……ね、ねえ」


 教壇前に集まり、そろそろファイナルステージを始めようか、という時に、隣にいたもう一人の女子生徒が私に耳打ちしてくる。


 「……? 何ですか」


 「アタシはさ、ここまで残ったからには絶対プリンを手に入れたいと思ってるんだケドさぁ……」

 彼女の名前は、吉川サンという。

 今まで関係がなかったため、どういう人物かは知らない。

 ……だからこそ、何故彼女が私に話し掛けてきたのかと、当時の私は気にするべきだったのです。


 「……は、はあ」


 何が言いたいのかイマイチわからない……


 「でも、まだ勝てるかどうかわからないワケで……」


 「……?」


 もっとハッキリ言ってほしいですね……


 「それはアナタも同じでしょ?」


 「……えっ、ま、まあ」


 「だったら、アタシがアナタを勝たせてアゲル」


 「はい?」


 この女は何を言ってるのでしょうか……?


 「2人で組めば、勝率はグッと上がる。なにしろ互いにバラバラのを出せばイイんだからね」


 「……? あなたはどうするのですか? 勝つのは結局どちらかで、プリンを手に入れることができるのもそのどちらかなんですよ?」


 「フフフっ、アナタはまだ解っていない。 アタシ達にはまだ究極の奥義が残されていることを――!」


 「…なっ、」


 なんですと…!


 「――その名を…」


 「そ、その名を…?」


 ゴクッ


 「――《はんぶんこ》という!!」


 「…!」


 「例えば、もしアタシがアナタに協力してアナタが勝利した場合、勝ち取ったプリンの半分をワタシに譲るの。 すればどう? どっちもより多くプリンを食べれるわ」


 「お、おお!」


 なんと画期的なアイデアでしょう!

 そんな奥の手があったなんて、私は今まで全く気がつかなかった……。

 吉川サン、彼女はデキる……!


 彼女の案で、私はグ・チ・パ、

彼女、吉川サンはチ・パ・グと順番で出すことが決まりました。

 私が勝たせてもらえるんだから何も問題ないんだと、私はひそかに油断していました。

 いつもの私ならばきっと、この裏にも気づけたハズでした。

 しかし、彼女が見せつけた強烈な《奥義》の存在によるインパクトで思考が麻痺していたのかもしれません……。


 私、吉川サン、そしてもう一人のファイナリストである亀田クンという男子生徒。

 この三人でファイナルステージは行われる。

 そして、この勝者のみが優勝賞品である、黄金に輝くぷるぷるした例のブツが贈呈されるのです。


 (通常ならば、ですがねぇ……)


 この時の思考マヒに陥っている私は既に勝った気でいました。


 (私達には《奥義》がある……。優勝者以外にも賞品を口にすることが出来るんですよぉ、フフフ)


 そして始まった試合、

この歴史的瞬間を一目見ようと廊下の外に他学年がゾロゾロと集まって来ている。


 「三人とも準備はイイ?恨みっこ無しだからね?」


 私達は今一度、目配せをした。


 「いくよ――! じゃんけん、ぽんっ!」


 …………。


 「へっ…?」

 当時の私は、そのとき起こった事実が解らないでいました。


 「おお!吉川サンがパーで一気に一人勝ちですネ」


 吉川サンがパー、私と亀田クンがグー、

結果、吉川サンの一人勝ち。


 「――ど、どうして?」


 「……アハハハハハハ! 見事に騙されてくれちゃってぇバッカみたい」


 横を向くと彼女が歪んだ笑みを浮かべている。

 彼女が上げている高笑いは、歓喜というよりかは嘲笑に近かった。

 そして私はその笑いで、事の全てを悟ってしまった。

ああ、私は騙されてたんだな、と。


 「……っ! だ、騙したんですか?! 何で……? ど、どうして何ですかっ!!」


 怒りが当然のように自然と沸いてきました。


 「わからないのぉー? アタシがアナタを騙した、それだけのことよ」


 それくらいならわかっているんですよ。

 ただ、、、


 「やっ、約束したじゃないですかっ!!!」


 「そんな約束なんかしてないわ。 アタシはアナタに『アナタが勝利』した場合のときの約束しかしてないから」


 「っ!! ……ヒ、ヒドイっ! ――で、でも私を騙せたところで、あなたの勝利は決まらなかったハズ……! あなたはもう一人のファイナリストの亀田クンを騙すどころか、接触すらしていなかったのに、どうしてっ!?」

 「そう。 アタシは亀田クンとは話してすらもいなかった。 だけどそれはアタシは彼の弱点といえる特性を知っていたから」


 「なっ!?」


 「彼は毎回のように余り物じゃんけんに参加しているの。 そしていつもココ一番の勝負所の際、必ずあるモノを出すのよ」


 当時の私は皮肉にも、その彼女が口にする言葉を先読みしてしまっていました。


 「――それが、グーよ。 だから私はアナタがグーを使うように誘導した。 もし仮に亀田クンがグー以外を出しても、アナタがグーを出せば、私は即死を免れることが出来るし。 また、アナタが裏切った時も、同様に亀田クンがいるから耐えられる。 どっちもグー以外を出す可能性もあるにはあった、だけどこれは元々運ゲー、そこは割り切ったケドね」


 「――じゃ、じゃあ何で亀田クンも私と同じように騙さなかったんですかっ!? その方がもっと確実だったハズでしょうっ?」


 「理由は簡単、アナタや亀田クンに勘づかれないためよ。 アナタにも亀田クンにも同じ提案しているのが一方にでも悟られたら、この計画自体が破綻してしまう。 だったら欲張らず一方だけにしようって。 そしてその一方は弱点が掴めている亀田クンよりアナタの方がいいってコトよ」


 「……私は踊らされてたんですね。吉川サン、あなたはサイテーな女ですっ…!!!」

 「何とでも言えば? 騙される方も悪いんだからね」


 確かに試合前のときの私は警戒心など全く抱かずに彼女を信用しきっていました。


 「は? でも――ッ!?」


 「――ヤメなさい! 先生言ったでしょ。 恨みっこ無しだって。」


 「っ!! ……はい。 すいませんでした」


 先生に止められたらそのときの私は仕方なく、その場を引いた。


 「――優勝は吉川サンでーす!!!」


 ワアアア、という歓声の中、賞品が給食班班長から彼女へと贈呈される。

 彼女の勝ち誇った笑みが、当時の私のかんを刺激していました。


 (悔しい、悔しい、悔しい…)


 その場所に居たくなくて、

私は教室を飛び出した。 何処へ行くやも知れず、ただただ走った。

 走って走って走りまくった。



 「―――廊下は走っちゃイケナイのは一年生でも知っているぞ!わかっているのか?それにまだ昼休みじゃないんだぞ!…わかったら教室に戻りなさい」


 ――そして偶然エンカウントした教師に怒られるのでした……。


 どれもこれもあの女のせいなんですっ!


 ……そして私の中にとある炎が灯りました。

 今更何をしても意味などない、それは確かに理解出来ていたハズでした。

 だけど私は何かに取り憑かれたように暴走して行きました。


 (許さない。絶対に許さない! いつかゼッタイ復讐してやります! そのためには、作戦を練らねばいけませんよネ。 何事も計画的が一番ですからネぇ。 次回のプリンデイは2ヶ月後、ですか……)


 (――では前日に彼女に(自主規制)を飲ませて、喉もろとも(自主規制)で(自主規制)させましょうかぁ〜!! あの女が二度と(自主規制)出来ないように、ねえ……。 そうしてあの女が(自主規制)して余った分のプリンは、私が(自主規制)してやりましょう。

 ……なあに、私だってバレなきゃいいんです、そうバレなければ罪にならないんですよ。

 そうと決まれば、こうしちゃいられません。 さっそく、(自主規制)を入手しなければ…!

 え、学校ですか?サボるに決まっているじゃないですか。 そんなモノもうどーでもいいんです。 少なくとも、次回のプリンデイまでは出るつもりはありませんネ。

 私の怨みはこんなものじゃ収まりませんヨ。 食べ物の恨みは恐ろしいんです。 お礼もお返しも三倍返しなんですからネ。

 クスクス…、許しませんヨぉ〜)



 ――その日から彼女は学校に来なくなった。



 それから2ヶ月後のプリンデイ――、彼女は久しぶりに登校してきた。

 やっとクラス全員が揃うと思われていたが(既にオートバイ事故の件は忘れ去られていた)、またしてもプリンデイである今日に欠席者が出た。

 欠席者の名前は吉川と云う女子生徒。

 吉川は昨日、自室で倒れているのが発見され、病院に緊急搬送されていた。

 消化器官が異常をきたしており、現在は点滴に頼って入院している。


 そのため、吉川が食べられないために、余ったプリンの争奪戦がまたしても、同じ教室で行われた。

 同じ教室で二度連続でプリン争奪が行われたのは、激戦区であるこの学区において、史上初の珍事であった。

 そして、その頂点に輝いたのは、前回のファイナリストであり、それに敗れて以来今日まで不登校になっていた彼女であった……。

 一方その頃、警察は何らかの薬物の影響による傷害事件とみて、吉川の周辺捜査を続けていたが、未だ犯人の手掛かりを掴めてはいなかった。

 結果、警察は吉川の回復を待ち、彼女から供述を得るしか他に手はなかった。


 しかし、その翌日――、吉川は遺体となって発見された。

 病室の窓から飛び降りた典型的な自殺だった。

 そして、事件は迷宮入りを果たすことになった。。。



 「――クスクス…、人のコトを騙したからイケナイんですよぉ。 皮肉なモノですよねぇ、人から騙して手に入れたモノを、自分もまた失うとかぁ〜。 そうですよねぇッ――……。。。」

 ……そして私は何かに取り憑かれたように暴走してイきました。



 そして、また2ヶ月後……。

 またしても欠席者が出た。



 忘れ去られた交通事故……、

食べ物の恨みは恐ろしい……、

人を呪わば穴二つ……、


――次の敗者は誰でしょう?

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