例えるならそれは悲しいラブストーリーではないだろう
明日、キミは死んでしまう
何故だかわからないが死んでしまう
それは運命的な何かかもしれないし、
また違うのかもしれない
きっと病気なのかもしれないし、
そしてやっぱり違うのかもしれない
しかし、理由はどうであれキミは明日には死んでしまうのだ
だけど、ボクはそれまでにキミに会わなければいけない
それには明確な理由がある
――ボクはキミにお金を貸したんだ。
ボクにとってのキミは大切な存在だ
いなくなられたらボクはどうすればいいんだろう
困る、なんて言葉なんかでは足りないぐらい困るんだ
会いたいんだ、会わなければいけないんだ
――ボクはキミにお金を返してもらうんだ。
日は沈みかけている
辺りはすでに茜色に染まり、最寄りの学校からは外で遊んでいた子供達に帰宅を促す放送が鳴っている
ここから観える峠の先、そこにいるハズのキミ
歩いて2日はかかるソコへ行く為の移動手段は自身の足しかない
(……行くかっ! ――ボクのお金が消えてしまう前に)
ボクは走った
出せる限りの力で走ったんだ
疾走さ
いや、爆走だ
たぶん、そうなんだ
んで、とにかく走ったんだ
メッチャ走っていたら、逆走してたことに気がつかない程の勢いで走ってたんだ
気づいたときは隣町だったケド、それでもなお走ったんだ
自転車に轢かれても、
顔から転びコケても、
犬っぽいものの糞を踏んでも、
夕時のタイムセールで豚バラがムッチャ安くても、
ちょっと尿意が……でも、走ったんだよ
キミはボクの大事なものを盗んだんだ
返してもらうよ
今、行くからね
(――取り返すんだ、キミからボクの大事なお金を)
どうしてだろう
いつもよりキミの家が遠く感じるよ
この足なんかよりももっとこのココロが早く、とボクを急かしてくるから、なのかな?
《無論、道を間違えていたから、である》
もうさっきまであった足の痛みが消えている
なぜだろう
きっと神サマでさえもが、ボクを応援してくれているんだ
《痛みが感じれていないだけである》
足がふらつく
視界がぼやける
だけれど、いまだに動いている
まだいける、いける筈
そう信じつつ、機械のような足を動かして、東雲の空を視界の端に一蹴した
残っている時間はもうあと僅かだ
軋む足に構わずスピード上げていく
(――ボクの、お金ぇっ……)
節電モードの思考の端でキミの家を探した
差し込み始めた朝日が反射し輝く朝露残る草原で、ボクはただ、ひたすらに前へと走った
(――ボクのお金ぇ、お金ぇ……!!)
やっと目的地が霞んで見え始めた
既に脳内では充電して下さい、という声が響きわたっている
だけどあと少し、あともう少しでキミに会える
言いたいこと、伝えたいこと、たくさんあるんだ
(――お金のこととか、お金のこととか、お金のこととか、、、)
息も絶え絶え辿りついたキミの家
ベッドに横なっているキミがいた
誰ですか?
ハァ、ハァ……、ボ、クだよ……
ああ、あなたでしたか。 何の用ですか?
な、何じゃ、なぃ、っ、貸しっ、たお金をっ、返してぇ、もらいにぃ、きたっ、んだ、よぉっ
息が荒いですよ……、何湧いちゃってんですか
ち、違ぅっ! てか、話をぉ、逸らす、なぁっ!
コワい、コワい。 襲わないで下さいよ?
だからぁ、話をぉ、逸らぁ、す、なぁっ!
……じゃあ言いますケド、私は返すつもりなんてアリマセンからね?
借りたぁ、物わぁ、ちゃん、と返、せよっ!
だって私もう死んじゃうから返す必要ないですもん
持ってっ、いる必要もっ、無いだろっ!
面倒じゃないですか
借りといて、それはっ
じゃあ明日辺りにでも。 私が死んだ後にでも勝手にドウゾ
そ、それは、、、
フフフ、出来ませんよね? したら、それこそアレになりますもんね
ぐっ……!!
ンー、そうですね。 ここは土下座でしょうかねぇ。 テンプレートですが。 あら? いいんですかぁ?
くっ…。 お願いします、お金をお返し下さい。 ……コレでいいかい? 早く返してくれっ
えっ? 私、やったら返すなんて言ってませんヨぉ??
なっ……! 詐欺じゃないかっ、こんなの!!
そんな、人聞きが悪いですネぇ。 ……ッ! ゲホッ、あ、ああ、もうお迎えが来ましたか……。
えっ!? ウソだろっ? えっ、えっ、ホントなのか?! ま、待ってくれっ! ボクのっ、ボクのお金はどうなるんだよぉっ!
知りませんよ、もう…、、、という、かどーでも、いいで、す
そんな無責任なっ…!
最後に一つ、あな、たにこの、言葉を、贈り、ます――――――――――――――――――――――――――――――ドンマイ♪
(氏ねぇぇぇぇぇぇぇぇっっ!!!!……あ、もう逝っちゃうんだった、てへ☆)
キミの顔はイタズラが成功した子供のような笑みのまま、固まってもう動かなかった
今日、キミは死んでしまった。――んなことはどうでもいい
今日、ボクの金は消えてしまったんだ。
大事な大事なボクのお金……。
今はもういないボクのお金……。
二度と戻ってはこないんだ
YUKICHIやぁい
YUKICHIやぁい
何処にいるんだ?
きみはもう帰ってはこない……。だけどボクは、
それでもボクは、
何年先であろうときみのことを待ち続けているからね。。。
……おや? またお客が来たのかな。。。