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ごく普通の高校生の非日常  作者: 瀬川しろう(サイキック)
第一章
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6  試験前の悪あがき

夏休み。それは春夏冬とある学生の長期休暇のなかでは一番長く、

そして最も学生が楽しみにしている休暇だろう。

だがしかし、夏休みといっても『休み』なんて名ばかり。

実際は、高校生の夏休みなんてほとんど課外授業や部活で潰れてしまうものだ。

真の休日はお盆の前後一週間と言う風になってしまうが、それでも夏休みを楽しみにしているやつは多い。

僕もそれを楽しみにしている人間の一人ではあるのだが。

そして戸文高校でも、そんな夏休みがもうすぐやってくる。

しかし、そうは簡単に休みは訪れてはくれないのだ。なぜなら・・・、


「あああああああ、期末テストかぁ・・・やだなぁ・・・・」


隣で嘆く白瀬。それに対し僕は相槌を打つように答える。


「ああ、まったくだな白瀬」

「おお、霧生が共感してくれている・・」


無論。休みを楽しみとしている僕にとって試験というのは最大の敵だ。

だがそれをもろともしないやつだって中には居る。すぐそこにも。


「おーおー、落ち込んでいるねー男子諸君!」

「他人事のように言うが、お前も受けるんだぞ、そのテストを」


核心を指摘したつもりだったが、夏菜は涼しい顔で答える。


「期末テストなんて無いも同然だよっ、私は相手にしてないからねっ!」

「・・ああ、そうかい」


それもそうだ、よくよく考えたらこいつは普段から勉強している。

それ故試験など少し勉強するだけで事足りるのだろう。

すごいやつだ、日頃から勉強するなんてとてもじゃないが僕にはできない。


「・・・そうだ、霧生」


白瀬はふと起き上がる。


「確かに期末テストは地獄だ、それは分かるな?」

「ああ間違いない」

「喰い気味だね晃平・・」


当たり前だ。ここまで僕の考えの核心まで切り込んだ発言はないぞ。


「だがな霧生、物は考えようだと言うだろ? 

 その地獄の期末テストを乗り越えさえすれば、その後は! 楽しい楽しい夏休みが待っているぞ!」

「・・なるほど、な」


確かにそういう考え方もありだ。

楽しいとはいっても、課外授業ばっかりなんだろうけど、

それを言ってしまうと、こいつの希望を全破壊してしまいそうだったのであえて黙っておくとしよう。

そして、例のあれが発動する。


「というわけで、また霧生ん家に集合だな」

「というわけで、じゃない。またか?」

「ふっ、お前の考え居ることは分かるぞ。どうせ今回もちゃんとやらないと思ってるんだな?」


僕じゃなくても思うことだと思うのだけれど・・。

夏菜、苦笑しているがお前のことでもあるからな?


「だがな霧生、今回は本気だぞ」

「そのセリフこの前聞いた気がするんだが」

「それは気のせいだ」


いや気のせいじゃねえよ。

無かったことにしてんじゃねえよ。

あまりこいつを甘やかすわけにはいくまい。それに僕にも自分の勉強がある。


「白瀬、さすがにもううちは無理だ。夏休みに僕の家で遊びたければ諦めろ」

「くっ・・それを言われると辛いな。・・しゃあない、また俺ん家でやるか」


思ったよりもあっさりと白瀬が折れた。

なんだ、案外この断り文句が効いたのか・・。これは使えるかもしれない。

僕の考えをよそに夏菜が続ける。


「いいねー、また白瀬くんの家かー」

「じゃあ土曜日な。それでいいか、霧生」

「ああ、悪いな」

「良いってことよ。じゃあな」


そういうと白瀬は僕たちと別れ、駆けて行った。

でも結局勉強はしないんだろうな・・・。

そんなことを思いながらも僕は帰路に着いた。




 ・・・・




案外その日は早く訪れた。約束事などをした日はこういうものなんじゃなかろうか。

えと・・筆記用具と勉強道具、あと携帯電話・・・これくらいかな、持っていくもんは。


「さてと・・」

「あれ、お兄ちゃん。どっか行くの?」


玄関で妹と遭遇した。


「ああ、まあな。お前は出かけたりしないのか?」

「は? もうすぐ期末試験なのに、遊びにいくわけないじゃん」


何言ってんの? みたいな視線が痛い。

もうちょっと、こう、言い方を抑えてもらえませんかね。

ふむ、中学校も期末テストがあるんだな。時期もだいたい一緒だし。

・・ということは、美保は白瀬の家じゃなくて自宅にいる可能性が高いな。

いやまあ、別に華音がいるわけじゃないし警戒する必要はないんだけど、一応ね?




 ・・・・




「おっす夏菜」

「あ、晃平、おはよっ!」

「あーあー、朝からお元気で」


耳を押さえながら夏菜をあしらう。


「夏菜、今日は勉強しに来たんだからな、その辺忘れるなよ」

「分かってるよっ」


笑顔で鼻歌を歌い、はしゃぐ夏菜。

絶対に分かってないな・・・いつものパターンだ。



 ガチャ



扉の向こうから白瀬が顔を出す。

僕は挨拶のつもりで片手を上げた。


「よ、白瀬」

「おー、意外と早かったな。まあ入れよ」




 ・・・・




「だからー、これが2だとするでしょ? そしたら5xに当てはまるわけだから・・」

「ああ、なるほどな! いやぁ、浅井は頭いいな」

「いやー、そんなに褒められると照れなくもない」


照れる必要は無いよ、それ基礎中の基礎だし。

というかお前が馬鹿なんだよ白瀬。

しかし、今日は珍しくゲームをやるという空気にはならないな。

本当にやる気なのか、今日は。

どうやらこの分だと今日はちゃんと勉強できそうだな。


「あ、霧生、そこの問題集取ってくれないか」

「これか。ほらよ」

「サンキュ」


そんな雑談をしていると、急に夏菜がふっ込んできた。


「そういえば今日はいとこさんいないの? えっと・・ミオちゃん?」

「美保だろ」


つい反射的に言ってしまった。


「? 霧生に美保のこと話したっけ?」

「あ・・いや、華音の友達なんだよ。それで知り合ってな」

「へぇ。お前の妹と友達とは、かなり出世したな美保」


いや、僕からしてみればうちの妹が美保と友達なことが奇跡だよ。

なんであんないい子と友達になれてるんだほんと不思議って絶えないですね。


「美保ちゃん会いたかったなー、可愛いよね」

「やっぱりそう思う? みんなそう言うんだよ」


確かに可愛いな。基本的に脚元あたりしか印象ないけど、すごく可愛いと思う。


「お前と美保・・・ちゃんって、仲いいのか?」


白瀬の前だから躊躇ってちゃん付けしてしまったが、かえって変に思われるか?

だがそれは白瀬のこと、やはりあまり気にはしていない様子だ。


「まあな。美保が小さい頃から遊んだりしてたから、あいつは妹みたいな感じなんだ」

「ふぅん・・・なるほどな」


実際に二人が話しているところは見たことがないが、

美保の話からしても美保は白瀬のことを兄のように慕っていることが伺える。

直接の兄妹じゃなくても、こいつらは立派な兄妹だと僕は思う。




 ・・・・




試験範囲は割と多めに示されている。

だが今日はいつもとは違う、全力だ。

三人で、というよりは夏菜に二人で教わりながら勉強をして・・、


「よし、とりあえず範囲は一通り終わりぃ・・・これくらいで大丈夫かなっ」

「テストは月曜日からだな。明日はさらに勉強しないと」

「ああ、集中した方がいいだろうし、明日は各自で勉強だな」


僕がそういうと、二人とも同意を示した。

久々にしっかりと勉強したな。

夏菜がいると分からないとこがすぐに解決するから助かる。

・・・明日はさらに気を引き締めて、頑張るとしますか!




 ・・・・




翌日の日曜日、僕は自分の部屋で勉強をしていた。

何だかんだ言っても一人の方が集中できる。

結局は使い分けなのだ、一人でやるときと複数人でやるとき。

それぞれに利点と欠点があるのだからそれを補い合えば、

完璧とは言わないまでも理想に近い勉強法にすることはできる。

人間は多少の雑音があるほうが集中できると言われているが、どうやら僕はそうでもないらしい。


うーむしかし、この方程式ってどうやって解くんだっけ・・。

昨日もうちょっと詳しく聞いときゃ良かったかな。

まあ、明日の休み時間にでも聞こう。

そんなことを考えながら、一息着こうと階段を下りていると、

 


 ピンポーン



チャイムが鳴った。毎度毎度階段を下りているあたりで鳴るのに、

作為的な何かを感じてしまうのは僕だけでしょうか、いいえ誰でも。



 ガチャ



「よっ、霧生!」


白瀬は満面の笑みを見せたが、

その笑みは僕の言葉によって瞬時に失せる。


「帰れ。僕にいちいち頼らないとダメなのかその頭は」

「いきなり酷いなお前・・・。まあ待て、話を聞けって」


今日は各自で勉強って言ったはずだが・・・。


「どーしても! 分かんないとこがあって・・教えてくれ」


白瀬は問題集を見せながら言った。

昨日も分からないと言ってたところだな・・・。

電話とかで聞けばいいのに、わざわざうちに来るとは妙なところで律儀なやつだ。

そこまでされると、なんか教えなきゃいけない感じだな。


「仕方ないな、見せてみろ」

「これだ、この問2の③」


えっと、この問題は・・昨日夏菜に習ったところだな。

これなら・・・・さっぱり分からん。




 ・・・・




「呼ばれて飛び出てジャジャジャジャーン!」

「別にくしゃみはしてないぞ」

「冷たいなぁ・・呼ばれたから来たのにぃ」


少し頬を膨らませる。拗ねてるように見えるがこれはこれでこいつは喜んでいるのだ。

 

「で、どこがわかんないの?」

「えっと、ここだここ」

「どれどれ・・・ここは・・・あれ、昨日晃平に教えなかったっけ」

「忘れちまったよ、そんなもん」

「晃平って時々変になるよね・・なんでだろ」


そんなに変だろうか・・?

まあこんな様子ではまだまだ白瀬を馬鹿にはできないな・・頑張らなければ。




 ・・・・




「だから、ここは -5±2i となるわけ」

「おおー、さすが浅井だな!」

「いやー、えへへ」


頭に手を当て笑う夏菜。


「いや、ほんとに助かったよ夏菜」


まあ、問題が解けたのはいいとして、結局三人集まっちまったな。


「まあ、こういうのもいいもんだな」

「なんだ霧生、突然」

「いや別に。続きやるか」




 ・・・・




教室はテスト前の緊迫感であふれている。

最後の勉強をしているものもいれば、もうダメだと諦めたものもいる。

いや諦めないで最後までやろうよ・・。


「さて、いよいよ試験だな」

「うむ、これが終われば楽しい夏休みが待っておるぞ。なあ霧生」


お前はそれだけが目当てなのか、白瀬。


「まあ昨日はけっこう勉強したから大丈夫だよっ。自信持ってこー!」

「そうだな!」

「・・まあネガティブは何も生まないしな」


試験が始まる。




 ・・・・




「いやぁ終わったな霧生」

「ああ・・・・・終わったよ、完全に」

「晃平、それニュアンスが・・・」

「・・どうした霧生? 怖いぞ」

「いや・・・」


全然分からんかった・・・、あれだけ勉強したのに・・。

単語や漢字などは覚えていたのに・・・

やはり一夜漬けでは、授業の深い内容を聞かれると答える事が出来ないのか。

日頃から勉強している人間にはかなわないというのか・・・。

白瀬はそんな僕の肩にポンと手を置き、言った。


「残念だったな霧生。まあ気にすんな、俺もさして分からんかった」

「私の努力って一体・・・ははは」


夏菜が苦笑する。いやまったくその通りだ、申し訳ない。


「だがな霧生! これで夏休みを満喫できるぞ!」

「・・はぁ」

「まあまあ晃平、成績はなんとでもなるよっ。それよりも夏休みだよ夏休み!」

「・・・ああ、そうだな」


確かに、僕たちを縛り付けるものはこれで何もなくなったな。

こうなったらいっそのこと、開き直るが吉!


「あー、でも」


夏菜が笑顔で言った。


「あんまり成績悪いと、夏休みに補習喰らっちゃうかもね」


へへと無邪気な笑みを浮かべる夏菜。

僕と白瀬はしばらく硬直していた。




 ・・・・




一週間後、テストの結果が返ってきた。

結論から言うと、補習はないようだった。

テストの結果に関してはここでは省くとしよう、というか省かせてください。


だがしかし、これからは夏休みを満喫することができる。

そう考えれば帰りの足取りも軽くなるというものだ。

















 


晃平「次回は夏休み編。結構な長編だぞ!」



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