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ごく普通の高校生の非日常  作者: 瀬川しろう(サイキック)
第三章
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5  本当に?

その後の話し合いはどうなったのかというと、僕たちにしては珍しいくらいに順調に進んでいた。

しかしそれでもまだ大まかな設定くらいしか決定していないのだが…。

というのも―――


「で、だいたい夜になったらあの二人を同じ部屋に押し入れて二人きりにしてさ」

「なるほどー。でも夏菜って意外と奥手だし、大丈夫かな?」


うん。おかしいね。さっきまでの話し合いで『これまでに無い野球ゲーム』っていう辺りまでは固まってたと思ったんだけど。この二人、さっきからずっとこの調子である。

この流れはまた去年の二の舞になってしまうんじゃないの…。


「なあ、霧生はどう思う?」

「いや別に。とりあえずもう少し真面目にゲームの案を練って欲しいんだけど―――」

「真面目だなー霧生くんは。そんなんじゃモテないよー?」

「くっ」


…天然で人の傷を抉ってきやがる。いつか仕返しをしてやろう。

そう心に決めながらふと時計を見ると、もうすぐ昼になる頃合いだった。

話し合いをしていると案外すぐに時間は経つもんだな。話し合いらしき話し合いはほとんどしてないけどね!


「夏菜、もう昼だけどまだやるのか?」

「え、なに?」


聞こえていなかったのか夏菜はきょとんとした様子で振り向く。僕は黒板の上方にある時計を指さした。


「あっ、もうお昼か。私たちは大体まとまったし、これでいいかな。晃平たちはどんな感じ?」

「とりあえず野球ゲームということは決まった」


僕のその発言を聞いて、夏菜は若干目を細めた。


「…それって部長が居た時と同じ流れだよね?」

「あー…代表して謝る」


この二人をまとめられなかった僕にも責任がないわけじゃないし。しかし夏菜でさえスルーできないとは、結構まずい事態なことには間違いないようだ。


「おっかしいな、晃平たちだいぶ盛り上がってたように思ったんだけど…気のせいだったのかな」

「それはまあ、あれだ。青春について語り合っていたのさ!」

「そうそう、やっぱ謳歌するべきだよね青春!」


白瀬と優が揃えて言うが、夏菜は全く意味を理解できていないのか視線で僕に助けを求めてくる。

ごめんね、僕にも何が正解か分からない。


「晃平たちは後々考えるってことでいいんじゃないか? それより俺腹が減ったな。昼飯食べに行かないか?」


腹を押さえながら耕也が立ち上がる。同意見なのか俊介も大きく頷いていた。

それを見て夏菜は両手をポンと合わせる。


「では部活はこれでお開きってことにして、お昼ご飯食べよっか」

「お! じゃあ俺うどん食べたいな、うどん屋に行こうぜ!」


お昼ご飯という単語に反応したらしい白瀬が勢いよく言った。

青野もいいねいいねと賛同している。なんかお前ら仲良すぎるよ。もう付き合っちゃえよ。


「じゃ決まりだね。よしみんな出てー、戸締りするから」


夏菜の合図を皮切りに、全員が帰り支度を始める。何気にこのメンバーでご飯を食べるのってなかなか無いことなんじゃないだろうか。こういうことがあるから、休み期間中に学校に来るというのも悪くない。


「じゃあ霧生、鍵。頼むぞ」

「はいよ」


この部では、部活動終了後に部室の鍵を返しに行くのは扉の一番近くに座っていた人間である、という謎のしきたりがある。

もちろん僕はそれを避けるために普段は奥の方の席を陣取っているのだが、今日は久々に来たせいでうっかり忘れてしまっていたな。まあたまにはいいか。

全員が部屋から出たのを確認し、施錠する。


「じゃ先に行っててくれ。鍵を返しに行ってくる」

「おう。下駄箱で待ってるぞ」


そう言った白瀬を筆頭に、みんなが下駄箱へと向かった。

というか待っててくれるんなら一緒に生徒会室まで来てくれてもいいような気がする…。

さて僕も行くか。そう思って歩き出すと後ろからパタパタと走る音が聞こえた。


「やっぱり私も行く! まりちゃんから本借りてたから返さないと!」

「なら僕が返しておいてやろうか?」

「駄目だよ、もしまりちゃん居なかったらどうするの?」


その時はまた夏菜に渡すだけだと思うけど駄目なのかね。

まあ、夏菜が行くと言っている以上止める権利もないし、いいか。





 ・・・・





「ふむ…次はどんなゲームを作るんだ。僕はずっと気になって気になって仕方がないのだが!」

「お前、すっかり魅了されてるな…」


興奮した様子の雅野に、僕は呆れたように言った。

しかし雅野は勢いを止めない。


「我が校に存在する部があれほどのゲームを作れるというのがどれほどすごいことか! 僕はそのことをとても誇らしく思っている」

「うんうん、やっぱり雅野くんは分かってるねー」

「これでも少しゲームについて学んだのだ。野球やクイズのゲームもやってみたし、字幕が出るストーリー物もやった」

「ノベルゲームだね。この前見せたやつもそうなんだけど、気付かなかった?」

「む、そうだったのか。イラストに夢中でそこまで気が回らなかった」


不覚だったと頭を掻く雅野。というかこいつ、ゲームについて学んでいるというよりはただゲームをかき集めて遊んでるだけのように思えるんだけど。ゲームオタクと化しつつあるんだけど。春休みが開けたら別人になっていたとかはやめてくれよ…。


「夏菜、もう行くぞ。白瀬たちを待たせてるだろ」

「あ、そうだったね。じゃあまた!」


夏菜は大げさに手を振り、生徒会室の扉を閉めた。


「結局まりちゃん居なかったね」

「旅行に行ってるんじゃ仕方ない。春休みだしな」

「でも雅野くん、私たちがまたゲーム作るって言ったらすごく期待してくれてたね! なんだか嬉しいよ」


夏菜は心から喜んでいるように見えた。分かる気がする、期待してくれる人が居るというのはやはりモチベーションに繋がるものだ。


「ふっふ、そういえば晃平と二人きりで話すのなんて久しぶりだね」

「なんだよ急に」


似たような台詞を昨日白瀬からも言われたんだけど何なんだろう。幼馴染み感謝デーか何かですか?


「だって晃平、最近はいつも誰かと一緒にいるでしょ」

「確かにそうかもしれないな。言っとくが、僕が一人でいるところにたまたま誰かが来るだけだぞ?」

「ふぅん? じゃあ本当は一人で居たいんだ?」

「そういうわけじゃないが」


そこまで言って、若干の沈黙が訪れる。

…図らずも夏菜と二人きりになれたわけだしな。夏菜にも聞いてみるか。


「そういう夏菜は一人で居たいときとかないのか? 人と関わりたくない時とか」

「人と関わりたくない時ー? んー」


わざとらしく腕組みをして考える夏菜。しかし今の利き方はちょっと遠回り過ぎたか。


「無いかな。たぶん」

「…まあ、だと思ったよ」

「人との関わりをやめちゃったら、私が私じゃなくなっちゃうしね」

「そんなに重い話なのか」


でも確かに人を避けて陰で生活している夏菜なんか想像つかない。しかしそれは夏菜に限った話じゃなく、華音もおそらくそういう人間であったはずだ。この二人は一緒なのか。違うとしたら何が違うのか。それが少しでも解決のヒントにならないだろうか。


「もしもの話だが…友達がお前の嫌がるようなことをしても、それでもお前は関わり続けるか?」

「…どうしたの。急に」

「いや深い意味は無い。で、どうだ?」

「難しいねぇ…考えたこともないし」


そういう割に、夏菜はその続きを案外すんなりと述べた。


「それでもやっぱり私は関わりたいかな。友達だしさっ」

「本当にそうか? お前が嫌がることをしてくるようなやつだぞ? それでもか?」


探求するあまり、少し責め口調になっていたかもしれない。だが夏菜は別に気にしている様子でもなく、僕の質問に答えた。


「友達がわざわざ嫌がることをしてくるんだったら、たぶんそれは私がその子に対して何かやらかしちゃってると思うんだよね。だったら関わるのをやめたって仕方ないし、私の方からどんどん関わって行ったら仲直りできるかもしれないじゃん」


昔から変わらない無邪気な笑みを見せながら、夏菜は語った。

つまりこいつは、先に自分が相手にとって嫌なことをしてしまったから、そいつが嫌がることを仕返してくると言っているのだ。

相手が100%悪いなんて考えを、こいつは持っていない。1%でも自分が悪いに違いないから関わるのをやめないと、そう言っている。

その通りだと思う、関わりを続けなければ関係を修復することなどできない。そしてそれはきっとあの二人にも言えることだろう。


「晃平はそういうことあるの?」

「え?」

「人と関わりたくないとか、そういうこと」


てっきり話は終わったものだと自己完結していたために、夏菜の振りに戸惑う。


「…まあ僕はあんまりそういうのは気にしないな。関わりたいときに関わるし、その逆も然りだ」

「本当にそうかー?」


目を細めにやにやしながら夏菜は言う。

なんだよそれ…まさか僕の真似か?


「僕はもともと人との関わりも多くないと思っているからな。多くない関わりを無くすなんてことは逆に難しいと思うぞ」


僕は昨日たどり着いた答えをそのまま夏菜に伝えた。夏菜のことだから軽く流すものだろうと思っていたのだが―――


「本当にそう思う?」


夏菜はそうしなかった。さっきの全然似ていない僕の真似なんかではなく、今度は問い詰めるような、同時に何かを優しく見守るような視線を僕に向けた。

どうしてこいつはこんな顔をしているのだろう。僕には全く分からなかった。


「私が言っちゃうと駄目なのかもしれないけどね。私は人と人との関わりって意外と脆いものだと思うんだ。他の人から見たら『どうしてそんなことで』って思っちゃうようなことでも、すれ違っちゃったりとか」

「…ああ、分かるよ」

「だからね、たまーに一回考えなおしてみたりとかするんだ。今やってることを続けてても本当に大丈夫なのかな、って」


普段からただ何も考えずに騒いでいるだけだと思っていたが、違った。

夏菜も、そして優もちゃんと相手のことを考えたうえでそれを行動に移しているのだ。

僕には相手のことを思うような、そういう考えが欠けていたのかもしれない。

もしかしたら夏菜はそんなことを僕に伝えたいんじゃなかろうか。


「…あっ、ごめんね、なんか暗い話しちゃって」

「いいや、初めに話を振ったのは僕だし、気にするな」


むしろそこまでいろいろ考えていたということが分かって、浅井夏菜という人間への見方を少し改めようとも思ったよ。夏菜はそれまでの空気を吹っ飛ばすように背伸びしながら言う。


「よっしゃー、なんか急激にお腹減ってきた! 早く行こ!」

「ああ。本当、元気だなお前は」


そしてその元気がずっと失われることが無いようにと、駆け出していく夏菜を見て僕は思った。





 ・・・・





家に帰り着いたのは思ったよりも早い時間帯だった。久々の活動で疲れたというのもあったのだろう、昼食を終えてすぐに解散という流れになった。

結局ゲームのアイデア自体は中途半端な状態で終わっているし、もしかしたらまた集合がかかるかもしれないな。


「ただいま…っと」


玄関の扉を開け、靴を脱ぎながら誰にともなくつぶやいた。

そして今日もいつも通り自分の部屋へ向かっている時、ふと気づく。

華音の部屋の扉が開いていたのだ。とはいってもほんの少し開いている程度だが。どうせ勢いよく閉めた反動で開いただけだろうな。

それでも部屋の扉が開いているという事実は僕を行動させるきっかけには十分だった。開いてなければ僕はそのまま自分の部屋に向かい、また一人悩んでいたことだったろう。


「……いない、よな」


そっと中を覗く。許してくれ妹よ…僕だってできれば覗きたくはないが、お前とその友のためだ。

靴が無かったからこの家には今誰もいないはずだ。つまり華音の部屋にも誰もいない。僕はそっと華音の部屋に侵入した。華音の部屋に入るなんて、いったい何年ぶりのことだろう。

ぬいぐるみがベッドの上に整頓され、さらに机の上のボードには写真が十数枚貼ってあった。ざっと見ただけでも、本棚と机とベッドが置いてあるだけの僕の質素な部屋とはだいぶ印象が違う。

何気なくボードの写真を見ていると―――


「…これは」


華音と美保の、ツーショットの写真が一番目立つ真ん中に貼られていた。

…華音、少なくとも美保を嫌っているわけじゃないんだな。嫌いになって関わらなくなったんならこんな写真をいつまでも飾りはしないだろう。これは大きな確証を得ることができた。華音と美保が仲違いをしたわけではないという事実は、今後考えるのに必要な前提事項と成り得る。


しかしそれならなぜ華音は美保を避けるようになったんだろうか?

優のように、相手のことを思うことであえて関わりを避けている…ということなのか?

いずれにせよ、僕がいかに華音のことを理解していないか、見ていないか、触れていないかということが明らかになって行くばかりだ。


「…ねえ、何やってんの?」


扉の方を見ると華音がこちらを睨み付けていた。


















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