2 とある妹の奇行
思えば白瀬の部屋に上がるのは久しぶりだな…最後に来たのはいつだっただろうか。内装もだいぶ変わっている。
いつもゲームの話しかしないもんだから、さぞその辺にゲームが散らばっている部屋なのだろうと思っていたのだが、意外に片付いている。
偏見もこじらせると困りものだな。
「まあ座れよ」
そう言って白瀬は座布団を放り投げた。物を投げるのは感心できないが、まあいいや。
こっちは部屋に入れさせてもらっている側だし、この家にはこの家のルールがあるのだろう。
座布団に腰を降ろす。
「で? 聞きたいことってのは何だ?」
「ああ、さっきも言ったが美保のことだ」
そこまで言ってふと考える。
そもそもこいつは事情を知っているのだろうか?
美保が華音に避けられているということを知っているのだろうか?
もし知らないとしたら、僕は美保の悩みを無断で広めてしまうことになる。
それは避けないといけないな……探りを入れる感じでいこう。
当たり障りのないように僕はこう切り出した。
「…最近、美保に何かあったのか?」
「? 何でそう思うんだ?」
白瀬はきょとんとした顔になる。
まあ、そう返してくるとは思っていた。
この反応を見るに、やはり白瀬は美保の現状を知らないのだろう。
とりあえず適当に話を繋ぐか。
「華音がな。最近、美保の付き合いが悪いとかぼやいててな」
「美保がねぇ…。何かあったかな」
「何でもいいんだが」
口に手を当て少々大げさに考える白瀬。
やがて白瀬は思い出したように言った。
「…あ、そうだ」
「何かあるのか?」
「いや、でもこれ美保のことじゃないんだけど。この前、お前の妹を見かけた時のことだ」
美保についての情報を仕入れたかったのだが…しかし、そっちも少し気になる。
このタイミングで言うということは何か美保に関係しているかもしれないとこいつも少しは思っていてのことだろう。
「それ、いつの話なんだ?」
「確か、先週くらいだったかな」
――――
Side:SHIRASE
明日は終業式。そんな日の放課後、俺は本屋へと向かっていた。
終業式の前日だけあって今日は早めに終礼を迎えたので、コミック本の新刊を買いに行くことにしたのだ。
行先はいつか霧生たちと行った『リバティズーン』。
前回行った時はエロ漫画しか見てなかったが、今回は―――
新刊を買って時間に余裕があれば行こう。うん。
「……さてと、どの辺だったかな」
コミックコーナーを探して歩く。やがて俺の視界に『同人誌コーナー』の文字が目に入った。
あれ? コミックこの辺じゃなかったっけ…。
しかしこの俺はそんなことは気にしない。せっかく来たので先に同人誌コーナーを見ていくことにした。
転んでもただでは起きないんだぜ!
この同人誌コーナーには内容的には18禁となるものが圧倒的に多い。しかし『同人誌コーナー』という名目からか、仕切りなどが全くないのだ。
つまり、エロ本万歳。
「おー…出てるな」
思わずつぶやく。本屋に来てふと声を出してしまうことってよくあるよね。よくあるよね。
…これは『服部菊雄』の最新作か!?
そう思って本を手に取ると、本の端が折れているのが目に入った。
やれやれ。店の品物を傷つけたら責任もって買い取るのがマナーというものなのに。ただの持論だが。
「……ん?」
エロ本を見ていると、その奥に何やら見覚えのある茶髪の少女が俺の視界に入った。
距離はほんの五メートルほど。
女の子は本棚を睨みつけている。……あの子、たぶん霧生の妹だよな。
たしかあんな感じの子だった気がするけど…なんであんなに本棚に近づいてんだ。
万引きでもするんじゃないかと若干ハラハラしていると、華音ちゃんは棚の本を手に取った。
「……ラノベ?」
華音ちゃんが手に取った本の表紙が見える。
いわゆるライトノベルと呼ばれる文庫本だ。俺も大好き。
しかし華音ちゃん、ラノベなんて読むのか。
全然そんなイメージが無かっただけに意外だ。
…これ以上眺めていても仕方ない。俺も新刊を買いに行くか。
エロ本を置き、その場を後にした。
――――
Side:KIRYU
「華音がラノベを、ねぇ…」
白瀬の話を聞いて真っ先に出た言葉はそれだった。
僕が知っている限りでは、華音はゲームや本とかをあまり好まないやつだ。
まあ基本的に友達と遊んでいるようなやつだし、無理もない。
そんな華音がラノベを読んでいた……単なる気まぐれなのか。
というかこれ、美保との事に何か関係あるのか? 全然無さそうなんだけど。
「……なるほど。情報提供ありがとう白瀬」
何の参考にもならなかったけれど。
まあ白瀬が協力してくれたのは事実だ、そこには感謝しよう。
「なんだ霧生。わざわざ美保のこと聞きに来たのか? 隅に置けないやつだなー!」
「ちげーよ」
白瀬を心配して来た、とは言えんな。
だが心配の必要も無かったようだし、それは良かった。
「まあ美保についてならいつでも俺に聞けよ。協力してやるぜ」
「お前……まあいいや別に」
白瀬は僕とみなみの関係が終わったことを知っている。
そんな僕を気遣ってか、そんなつもりは別にないのかは分からないが、こいつが良いやつだってのはここでなんとなく再認識できた気がする。
しかし華音の件……気になるな、美保の件とは別にしてこっちも調べてみるか。
耕也「やることが無い時に何をやればいいか考えてみよー」
晃平「いや、別に何かしてればいいだろ。本読むとか」
耕也「誰もがお前みたいに読書が恋人ってわけじゃないんだよ」
晃平「えっ、僕の恋人読書なの? すごい寂しい人間みたいになってるんだけど」
耕也「春休みに男ばっかで遊ぶなんて寂しいもんだろうが」
晃平「偏見だろ…」