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ごく普通の高校生の非日常  作者: 瀬川しろう(サイキック)
第三章
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1  すれ違い


第三章です。

第三章では華音と美保を中心に取り上げていこうと思っています。

主軸はあくまでこの二人ですが、他にも見どころ(読みどころ?)を作っていくつもりですのでご期待ください!

ではどうぞ!

ちょっと前まで肌寒いと感じていたのに、最近は半袖でも生活できるくらいには暖かくなった。

今年は桜が咲くのも早く、終業式のころには既に一部の桜は咲いてしまっていた。

この分だと、残念ながら今年の入学式には桜は散ってしまっているかもしれないな。


さて。

学校が与える長期休暇の中で一番長い休暇はいったいどれだろうと考えたとき、答えは春休みしかないと僕は思った。

夏休みや冬休みは課外授業やら何やらでほとんど休める暇がないし、おまけに宿題まである。

思えば一年のときも二年のときも、夏冬休みを満足に楽しめなかったような気がする。

だが、春休みは宿題もほとんど無く、課外授業も無い。

これがどんなにありがたいことか!

僕はそんな風に思いながら春休みを迎えた。


「……むー」


だが何もないというのも、実は割と問題だったのだ。

春休みも残り一週間、未だに家でじっとしているだけで特にやることが無い。

受験生なんだから勉強をしても良いとは思うが、あいにくやる気が起きない。

夏菜も部活やるとか言っておいて結局何も連絡よこさないし…。

こうなると白瀬の突然の訪問がないのが少し寂しいな。

……危ない危ない、危うく白瀬を恋しがるところだった。

しかし妙だ。休みになるや否や家に乗り込んで来るとばかり思っていたのに、白瀬は春休みになって一度もうちに来ていない。

一週間近く音沙汰なしか…。

何かあったんだろうか。





 ・・・・





「ここだっけな…」


白瀬の家を目前にして誰にともなく呟いた。

まさかあいつの家に自らの意思で来る日が来ようとは…。

まあいい暇つぶしにはなるだろ。

そんな軽い気持ちで僕はインターホンを押した。


『……はい』

「あ、あー。霧生と言います。浩太くんいらっしゃいますか」


く、人の家を訪問するなんて全然慣れていないから、何と言えばいいか分からない。

これで良かったんだろうか…。

というか今の声は、ひょっとして美保か?


『えっと…おにいは今出かけていて…。ちょっと待って下さい』

「あ、ああ。はい」


白瀬をおにいと呼ぶところから相手は美保で間違いないだろうな。

しかしなぜ美保が白瀬の家のインターホンに出る? 

白瀬の親、出かけてるのか。

そう考えている間もなく扉が開き、美保が白瀬の家から出てきた。


「あ、こんにちは」

「どうも」

「おにい買い物に行ってるんですよ。すぐに戻ると思うので、良かったら入って待っててください」


美保が扉を大きく開いて入るよう促す。

せっかくの美保の厚意だ。ここは中で待たせてもらうとしよう。




 ・・・・




リビングらしき部屋のソファーに座って、出された麦茶に一口付ける。

しかしあれだな、他人の領地に一人でいると、何やら得体の知れない恐怖に駆られる。

早く美保が戻って来ることを祈っとります。

それにしても静かだ…どうも白瀬の親はいないようだな。

親が先に出かけたのか白瀬が先に出かけたのかは知らないが、いとこ一人を家に残すというのは感心できないぞ。


「あっ…」


そんな声が聞こえたので振り向くと、美保がつまづき……そうになっていた。

危なっかしいな、大丈夫か?

何とか立て直した美保は何事もなかったかのように僕の正面に座った。


「あ、テレビつけましょうか?」

「いや、大丈夫だよ」


僕が退屈そうにしているので気を遣って聞いてくれたのだろう。

本当に良い子だ。こんな子を放って出かけるとはやはり白瀬は薄情ものだ!

しかしその会話以降、特に話をするでもなく沈黙する。

少しの沈黙を挟み、美保が急にこう切り出した。


「…あの、華音はどうしてます?」

「華音?」


前置きも無くいきなり来たな。

話題がないからまた気を遣って適当に話を振ってくれたんだろうか。


「別にいつも通りだ。相も変わらず女の子やってるよ」


まあ最近は家に友達を連れ込むことも少なくなってきたが…。

遊ぶ場所を家から違う場所に変えただけだろう。

僕も追い出されることが無くなって大助かりである。


「……そうですか」


美保はそれだけ呟いた。

なんだ、もう少し会話を続けるのかと思っていたが違うのか?

どうして華音のことをわざわざ僕に聞いたんだろう?

会いに行けば、もしくは電話でもすればいい話じゃないのか。

それとも…会いに行けない?


「なんで僕に聞くんだ? 直接話せばいいと思うんだが」

「……」


そこで美保はなぜか黙ってしまう。

この反応…地雷を踏んでしまったのは間違いないだろうが、ここで話を止めるわけにもいかない。


「今ここを離れられないからって言うんなら、僕がここにいるから別に行ってもいいぞ。どうせ白瀬が帰ってくるまではいるつもりだし」

「あ…いえ、そうじゃなくてですね…」


少しかしこまった表情になる美保。彼女は再びこう切り出した。


「あの…聞いていただいても良いですか」

「あ、ああ。別に良いが」


出された麦茶に再び口を付ける。

この後にどんな言葉が来るか、なんとなく予想はできた。

美保は少し寂しそうに言った。


「…最近、華音が私を避けてるみたいなんです」

「華音が?」


なんでまた、と尋ねる前に美保は話を続けた。

話にむやみに突っ込んでも仕方がない。ひとまずここは聞くとしよう。


「理由が…分からないんです。急に避けるようになったというか…」

「心当たりがない、と? 本当にか?」

「心当たり…ですか。そうですね……」


美保は少し考え始める。

華音が理由もなく美保を避けるなんて…。

…いや、そんなはずはない。

何もないのに華音が友達を避けるなんてことはあり得ない。

どんなに生意気な妹でも、それだけは僕が自信を持って言える。

あいつは友達をそんな風に扱ったりはしない。

美保に心当たりが無いというのなら、それはいったいどういうことなんだろうか…。


「……今思い当たるのは、ちょっと前に無視しちゃったことですかね」

「無視したのか? 美保が?」


僕がそう訊ねると、美保はすぐに弁解を始める。

無意識に聞き方が威圧的になっていたらしい。


「あ、決してわざと無視したわけじゃないんですよ。華音が話しかけてきてくれたのに、それに気づかなかっただけなんです」

「…なら避ける理由になるとは、言い難いな。ちなみにそれ、いつの話なんだ?」

「…確か、春休みの…二日前くらいですかね」


だいたい一週間前か。華音がそんなことを今の今まで根に持っているとは思えない。やはり何か別に理由があるのか?


「他に思い当たることはないのか? 何でもいいんだが」

「……すみません、今思い当たるのは本当にこれだけなんです。でももしかしたら、他に何かしてしまっているのかもしれません」

「そうか」


どうもこれだけじゃ何とも言い難い。

しかしこれは当人たちの問題だ、僕がどうこうするわけにもいかないだろう。

そう思ってはいるのだが……やはり何かが引っかかる。

気づくと僕はこう言っていた。


「なら、僕が華音に直接聞いてみようか」

「い、いえ」


なぜか美保はそれを拒否した。


「もしそれで原因が分かっても、私が先輩を差し向けたみたいで…その、上手く言えませんけど、それじゃ解決になっていない気がするんです」

「…なるほど。ちゃんと考えてるんだな」


確かに直接聞いた方が早いし、解決する可能性も高い。

だがそれは事態を根本的に解決したことにはならない。

原因が分からないのに謝るようなものだ。

それじゃ本当の意味で二人の仲を取り持ったことにはならない。


「分かった。華音に聞くのはやめておく」

「…お願いします」


まあ、聞いたところで華音が正直に答えてくれるとは思えんしな。

なら、別の手でいくしかない。


「原因をできる限りで調べてみる」

「え、いや、あの…」

「大丈夫だ、華音に聞いたりはしないよ。それにこのまま華音と美保が険悪なままなのは、なんか嫌なんだ」


それは本心からの言葉だった。

むかつくぐらい生意気で馬鹿な妹の友人を、原因も分からないまま失わせてはいけない。


「たらいまー」


玄関の方から府抜けた声が聞こえる。白瀬が帰ってきたな。

やれやれ、いい意味でも悪い意味でも雰囲気ブレイカーだな、あいつは。

まったくタイミングのいいやつだ。


「帰ってきたみたいだな。じゃ僕は白瀬の部屋に上がらせてもらう」

「あの、先輩」


立ち上がった僕に向かって、美保も立ち上がり言った。


「私も…できる限り心当たりを思い出すようにします。思い出したら、報告します」

「…了解だ」

「…お願いします」


美保が頭を下げたのを見て、僕はたまらず居間から出たのだった。

あんなことされては僕も気合を入れないわけにはいかない。

今から出たところでちょうど白瀬とはち合わせた。


「お、やっぱり霧生か」

「やっぱり?」

「靴だよ、お前の靴があったからな」


こいつ、僕の靴を記憶しているのか…。凄まじい記憶力だな。


「悪かったな、待っててくれたんだろ。見ろよこのゲーム。今日発売だったんだぜ!」

「お前、ゲーム買いに行ってたのか」

「まあな。ところでお前さっきまで美保と二人きりだったんだよな。何か進展はあったのか?」


進展ねぇ…。そんなものでもあればまだ良かったものだが。

ある意味では後退しているな、あれは。

僕は軽く咳払いしてから、こう切り出した。


「その美保のことでな。ちょっと聞きたい事があるんだが」

「聞きたいこと? …まあいいや、とりあえず俺の部屋に行こうぜ。立ちっぱなしはキツいだろ?」

「ああ」


手で煽り、そのまま階段を上がっていく白瀬。

居間の方を気にしつつ、僕もその後ろからついて階段を上がった。















耕也「ふぅ…この分じゃ今回は俺の出番はなさそうだな」


晃平「まあいいだろ別に。平和な証だよ」


耕也「そんなこと言うなって。俺だってさ、もうちょっと華やかに見せたいんだよ」


晃平「華やかにって、たとえばどんなことを見せたいんだよ?」


耕也「……………」


晃平(何も考えず言ってたのか…)



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