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ごく普通の高校生の非日常  作者: 瀬川しろう(サイキック)
第二章
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22 もう少し強く

大イベントである修学旅行も終わった今、僕たち二年生に残されたのはいよいよ勉強のみとなった。

この春休みが終了してしまえば僕たちは受験生。日々勉強に追われる日々となるのだろう。それは正直嫌だが、時の流れには逆らえないし仕方ない。

本日の終業式をもって、僕たちは三年生ないし受験生となるのだ。

とうとうこの日が来てしまったか……早いな、ちょっと前に入学したかと思えば。

終業式を終え、教室に戻っている最中のこと。いつものように白瀬が僕の隣に駆けてきた。


「いやー、いよいよ三年生だぞ霧生」


予想外の第一声に僕は少し驚く。こいつのことだから、春休みが待ち遠しくて仕方がないみたいな内容の話を振ってくると思っていたのだが、そればかりじゃなかったらしい。


「お前が休み期間についてとやかく言わないとは、珍しいこともあるもんだ」

「さすがに今日ばかりはな。だって俺たちもう三年生だぜ? さすがに勉強しないとまずいよなー」

「お前はいつもそう言って、結局しないだろ」

「まあな」


こいつ言い切りやがったぜ!

白瀬は目を輝かせながらこう言った。


「それよりもクラス替えだ! 俺はいったい何人の美少女と同じクラスになっていることやら」


美少女はともかく、クラス替えは確かに最重要事項だ。

これからの残り一年間をいかにして過ごすかはこのクラス替えにかかっていると言っても過言ではない。

白瀬や夏菜が一緒ならそれに越したことはないが、どうなるかは全く分からない。

教室に戻ってもまだまだその会話は続く。


「寂しいな霧生。このクラスの女子とももうおさらばか」

「心配するな。絶対に何人かとは一緒だから」


白瀬と耕也の漫才を見ながら思う。

なんか毎年こんなやり取りを見てるような気がするな、と。

きっと来年の卒業式のときも同じような感じなのだろう

それはそれで湿っぽくなくて良いかもしれないな。


「ま、結局今いろいろ話したってクラス替えの結果は変わらないわけだし。気長に先生の到着でも待とうぜ」

「珍しくまともなことを言うな。だが先生ならもう来たぞ」

「マジか!」


目で教室の入り口を指すと、耕也がそっちに振り向く。

我らが担任である相田先生がそこに立っていた。相田の登場でワーキャー騒ぐ声が少し増す。いや先生来たのに増しちゃうのかよ。


「ほら席に着け、ホームルームが始まらんぞ」

「席に着け! ホームルームが始められないだろう! 聞いているのかそこ!」


学級委員としての最後の仕事をこなしている雅野だが、言っている内容は相田の言ったことそのままだ。

やはり今日ばかりは雅野でも空回りしているらしい。

雅野が注意して数秒で教室がやっと静かになる。

さっそくクラス替えの発表……ではなく通知表の配布だ。


「通知表だが、結果は良かったり悪かったり。まあ、いろいろだ。じゃ配るぞ」


最後の最後までテキトーな教師だ。だがそんな相田でも生徒からの信頼は厚いように思える。

そんな相田が担任でなくなる可能性があるのは、少しではあるが寂しい気もするな。

通知表が配り終えられると全員の空気が一斉に変わる。それはおそらく次に相田が言う一言を期待してのことだろう。


「じゃ、次。クラス替えの発表だ」


その瞬間一気に歓声が起こる。指笛を鳴らすものまでいる…そんなに騒ぎますかね。

またも学級委員が注意する羽目になるかと思ったが、意外にもその歓声はすぐに止む。

いつまでも騒がしくては発表ができないと誰かが感づいたのだろう。ほんと、こういうところで一体感見せるあたりクラスメイトっていうのはすごい。

静まった教室で、相田が一人ずつクラス替えの発表を始める。

僕がため息をついたのは三年一組の教室に到着してのことだった。





 ・・・・





「―――というわけで、そろそろ終礼するぞ」


三年一組の仮担任である相田が終礼に入る。

まさか早速、仮担任が相田だったとはな…。

仮担任がそのまま担任になった例はうちの学校ではあまり見ないが、ぜひ担任も相田であってほしいな。

出席番号一番のやつが号令をかけると、その瞬間に僕はその空間から解放される。

部活のために科学準備室に向かうその足取りは少し重たく感じていた。

まさかこうなるとは…。

化学準備室の扉を開けると、それはいつもと変わらぬメンバーが談笑している光景。

…しかし、今となってはその光景すらありがたいように感じるな。

僕が入ってきたのに気づき、耕也が声をかけてきた。


「お、晃平。お前何組だったんだ?」

「お前も教室で聞いていただろ、一組だよ」

「いやー、俺は自分の組を聞きとるのに必死でさ、人のは聞いてなかったんだよ。そうか一組か。俺は三組だったぜ! 青野も一緒だよな」

「うん。あとみなみと俊介くんもだね」


続け様に夏菜が言う。


「私は二組だったよ」

「俺もだ。確か雅野も一緒だったぞ」


白瀬が言い終え、この場にいる人間のクラスが判明した。

…やはり僕以外は固まっているようだ。

とても悲しいことに、一組に僕と親しい人間はいなかった。

もともと人付き合いがあまり良くない性格なのに加えて、人の名前・顔を覚えないという面を合わせ持つ僕にとってこれは地獄そのもの。

正直あのクラスでは僕が孤立している状況しか想像できない…。

怖いよ、僕ぼっちになっちゃうのかなあ。

そんな僕を知ってか知らずか、話を続ける目の前の勝ち組共。


「おっそういえば、二組に篠原がいたよな。いやー、マジでラッキーだ。まさか同じクラスになれるとは思わなかったぜ。それと副会長の三ノ宮!」

「なんか白瀬くんはいつもその二人ばっかり言ってる気がする」

「まあな。女子は俺の元気の源だぜ」

「女子なら俺たちと同じクラスに市橋がいるぞ」


なんか今にも涙が出そう。孤独って辛いのね。

…それはそうとして、今日ここに来たのは一つだけ聞きたい事があったからだった。


「夏菜、春休み中の部活はどうなるんだ」

「春休み中? うーん、そうだねー……」


今から考えるのか、という突っ込みはあえてしないでおこう。

夏菜はしばらく考える。

意外とちゃんとしたやつなので、こういうところは部長の器だ。


「…今のままだと厳しいかもしれないし、もしかしたら春休み中にするかも」

「そうか。分かった、じゃあその時に連絡してくれ」

「はーい」


鞄の紐を肩に掛け、扉へ向かう。


「あれ、帰るのか」

「ああ。春休み中に集まるんなら、ゲームはその時に作ればいいかと」


まあ、結構危険な考え方なんだけどな。


「じゃ、おつかれ」

「じゃあな霧生。また家に行くからな」

「勘弁してくれ」


心にもない一言を言って、扉を閉めた。

下駄箱に着き、持参した袋に上履きを入れる。

こういう機会に持って帰らないと、いつ持ち帰るか分からないからな。

ふと見上げると、上にある『三年一組』のプレートが目に入る。

正直、もう受験生なのだという感覚はまったく無い。

この前まで遊びまくってたわけだし、三年になってからもそれは変わらないだろう。

だが、受験生であるという現実をいつか間近で感じ取らなければならない時は来る。

できればその頃には、今よりももう少し強くなっていたい。

そんなことをぼんやりと考えながら、僕は靴を履いた。
















第二章はこちらの話で終了となります。

時期的には中途半端な時期で終わってしまいましたが、

春休みという時期が次の章にとってちょうどいいと判断しました。


第三章では、一・二章とは少し異なったストーリーを楽しんで頂ければ良いなと思います。




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