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ごく普通の高校生の非日常  作者: 瀬川しろう(サイキック)
第二章
51/59

21 真相

早いもので、修学旅行もいよいよ大詰め。四日目の夜を迎えていた。

暖房が聞いたロビーだというのに心なしか若干寒く感じる。

二日目以降、何か起こるかもしれないと待ってはみたものの、結局今まで何かが起こることは無かった。

つまり犯行は「竹内耕也」で既に終わっていたのだ。

どうして犯人は二日目の、しかも朝という中途半端な時間で犯行を終わらせただろうか?

その理由は一つしか考えられない。

それは『犯人の目的は既に達成されていた』から。

そう考えついたとき、僕にある推測が浮かんだ。

これからそいつに、犯人に直接確認を取りに行く。

スキーの実習がようやく終わったこの日、疲れ切った生徒たちはほとんど部屋から出て来ないだろう。

実際、今ホテルのロビーには数人ほど他校の生徒がいるだけである。


「……はぁ」


自分でも驚くくらいの深いため息をつく。

しかしどうしてこんなため息をつくのかと考えたりはしない。

理由ははっきりとしていたから。





 ――――





「……寒いな」


思わずそんな独り言も出てしまう寒さの中、僕は一人で突っ立っていた。

いくら暖房が入っているとはいえ、廊下ではその効果も薄まる。

外は寒いのだし、それはなおさらだろう。

無論、好きでこんなところに一人立っているわけもなく…ふと顔を上げると僕を呼び出した相手はもうすでに目の前に立っていた。


「二人で会うのは、久々だね」

「……そうだな、みなみ」


目の前にいる女子生徒は微笑みもせず僕に声をかけた。

僕たちは恋人と呼ぶにはあまりに二人で会う数が少ない。


「その、何て言ったらいいかな」


付き合ったはいいが、これまで二人で遊ぶ回数がほとんどと言っていいほど無かった。けして予定が合わなかったというわけじゃない。僕もみなみも、互いを遊びに誘おうとしなかった。


「嫌いになったとか…そんなんじゃなくて」


僕たちは互いを知らなさ過ぎた。

知ろうとしなかった。

知らなくても何とかなると思っていた。


『お前、鮎川とはどうなってるんだ?』


ふと、白瀬のそんな言葉を思い返す。

本当にどうなっているのか、僕にも分からない。

みなみのことを何も知らない。恋人同士なのに。


「ただ…私ね…」


みなみから出てくる言葉がどんなものなのか、正直予想はついていた。

だから途中みなみが言っていたことなんて聞いていなかった。

ただ目の前に突然突き付けられた絶望を、別れの言葉を受け入れるほかなかった。

…気付くのが遅かった。



『僕がみなみをどう好意的に想っているのか』



以前僕が彼女に言った言葉を思い出す。

今さら出てきた遅すぎる答えを、僕は彼女に伝えることはできなかった。

どう好意的に想っているのか、なんて考えるだけ無駄だったのだ。

僕はただただ、みなみのことが好きだったのか。





 ――――





再びため息をつく。

今僕は犯人をどう追い詰めるか、なんてことしか考えていなかった。

やがて、僕とは対照的に軽いノリでそいつは現れた。


「…よう」

「ん? 確か…霧生だっけ?」

「ああ。待ってたぞ、長い風呂だったな」


四日目の入浴時間は三組が一番最初だ。

だから僕は早めに入浴を済ませ、そいつをここで待っていた。

そいつは何も知らないように僕に尋ねる。


「で、何か用なのか?」

「まあな。お前にちょっと聞きたい事があった」

「盗難事件についてか。まあ俺に協力できることがあれば何でもするぜ」


そいつはドンと胸を張る。

僕は頭の中の雑念をリセットして、最初の一声でこう切り出した。


「この盗難事件、犯人はお前だな」

「……いきなりだな」

「オブラートに包む必要もないと思ってな」

「…ここで抵抗すれば、自白してるようなもんだよな。とりあえず、どうしてそう思うのか聞かせてくれよ」

「ああ、そうさせてもらう」


僕は白瀬の書いたメモを取り出し、そいつに見せた。


「まず盗まれたやつの確認だ」

「ずいぶんちゃんと調べてたんだな。白瀬が書いたのか?」

「ああ。整理すると、被害者は順番に市橋、柴木口、千葉寺、頼田、竹内だ」


言い終えると、そいつは目を丸くして言ったのだった。


「……千葉寺? ちょっと待て、こいつ『ちばでら』って読むんじゃないのか?」

「やはり知らなかったか。こいつは『せんようじ』と読むんだよ。だがお前が読んだように『ちばでら』と読めば、これはしりとりになっているのが分かる」

「……で、しりとりになってる理由は何だよ?」

「分かりやすく法則を持たせるため、ってことだろ? この盗難事件に現実味を持たせるためにな」

「……」


ただ物が続けて無くなっただけなら「不用心」とか「運が悪かった」とかのの一言で片づけられやすい。

だがそこに何かの一貫性がつくだけで、それは連続盗難事件に成り得るのだ。

それがたとえ、しりとりという至極単純な法則でも。


「そして次に盗まれた物を考える。手鏡、将棋、しおり、トランプとどれも特に影響のないようなものばかりだ。ただ一つ、生徒手帳を除いて」

「なるほど……それで犯人の目的に気づいたってことか?」


そうかそうかとそいつは納得し始めた。

犯人の目的は明らかに生徒手帳だ。では犯人は生徒手帳をどうしたかったのか。耕也に述べたように盗んでも意味が無い。


「これは完全な推測だが…お前ひょっとして『白井』ってやつと同じクラスなんじゃないか?」

「ああ、そうだけど」

「お前はそいつに生徒手帳を落とした話を聞いた…そうじゃないか?」

「……」

「そして、正当な理由があれば入浴もちゃんとできるということを聞いた。…お前は生徒手帳を忘れてきたんだな」


だが『忘れた』というのは正当な理由に入らないと雅野が言っていた。

だとしたら犯人はこう考えたはずだ、『盗まれたことにすればいい』と。


「だからしりとりにした。盗難事件が起きているという『証拠』を作り出すために。そしてその証拠を使ってお前は、忘れてきた生徒手帳を盗まれたことにした。他に盗んだ市橋や耕也は、お前の本当の目的を気付かせないためのカモフラージュだった。…違うか? 頼田」


ここまでの論がすべて合っているかは分からない。

だが、頼田のこの少し腑抜けた顔は、こいつが犯人であること自体はどうやら間違いないようだった。


「…やれやれ。まさかそこまで言われるとは思わなかったな。こんなくだらないこと、誰も気づかないと思ったけど」

「ルームメイトが被害者になったら、そりゃ気にもなる」

「まあ、そりゃそうだな。どうする? お前たちの部屋長に言いつけるか?」

「…いや、今はそんな気分じゃない」


僕はそれだけ言ってその場を後にした。

別に犯人を差し出してやりたいわけじゃない、僕は自分の論が合っているかを確かめたかっただけだ。

そうやって何かに打ち込んでいなければ、現実に目を向けなければならなくなってしまうから。




 ・・・・




「なんだ…結局最後の最後まで、犯人は分からないままだったか」


帰りのバスの中で、白瀬がため息交じりに文句を言う。

それにすかさず言い返した。


「いや…お前ら二日目以降はほとんど何もしてなかっただろ」

「仕方ないだろ、スキーが思った以上に疲れてさ」


結局、一番乗り気じゃなかった僕だけが真相を知った形になったか…。

まあこいつらに話してもいいけど、長くなるしやめておこう。

窓の外をふと見てみる。行きと道は同じはずなのに、なぜか帰りは全く違う景色に見えるから不思議だ。

それには少なからず、僕の今の心境が関わっているのだろうとなんとなく思う。

たまに前方を向くと、彼女が視界に入ってしまう。

それだけで、胸が苦しくなってくるのも不思議だった。
















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