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ごく普通の高校生の非日常  作者: 瀬川しろう(サイキック)
第二章
50/59

20 犯人は

修学旅行二日目の朝。自由な時間は、ほんの二十分ほどである。

さすがにそんな短い時間では取り調べは不可能だと二人も思っていたのか、その時は盗難事件に関しては何か言うことは無かった。

計画が立てられたのは午前中のスキーが終わり、部屋に戻っている時のことだ。


「よーし霧生。昼食を食べ終わったらすぐに調査を再開しようぜ!」

「別にそれはいいが、ちょっと休んでからにしないか?」


スキーを実際にやってみると、終わった後にどっと疲れが押し寄せてくる。

足をよく動かすから足が痛くなるのはもちろんのことだが、なぜか腕とか腹のあたりまで痛い。おかしいな、足しか使ってないのに。スキーって意外と全身の筋肉を使うスポーツなんですね…。


「で、次は誰の聞き込みだったっけ?」


スキー靴を脱ぎながら、耕也が問う。

僕もその問いにスキー靴を脱ぎながら答えた。


「次は千葉寺だな。まあ時間はあるし、部屋で少し休むとしよう」

「了解」


どうでもいいけどこの靴硬いな…。

僕が脱ぐのに手間取っていると、耕也が再び僕に尋ねてきた。


「晃平よ。昨日俺が言ってたことについてどう思う?」

「…」


実はそれについては昨晩、寝る前に考えていた。

しかし考えても考えても疑問しか出てこない。


「…犯人は生徒手帳を盗んで、結局何をしたかったのか。それが分からんな」

「さすがだな、俺も同じことを思ってたよ」


考えればすぐに分かる、生徒手帳を盗んだところで何の意味も無い。

入浴時に生徒手帳を見せるのは、戸文校生徒だと証明するため。

つまり、中を開いて見せなければならなくなる。

中を開いて見せれば当然、自分の物ではないとばれて入浴はできない。

つまり生徒手帳を盗むことに意味がないように思えるのだ。

じゃあなぜ犯人は生徒手帳を盗んだんだ?





 ・・・・





それは部屋に戻って間もなくのことだった。

疲れ果てた僕は部屋に戻るなりベッドにダイブした。

耕也が声を上げたのはその直後のことだった。


「……? 無い? 無いぞ!」

「どうした?」


部屋長の雅野が耕也の様子を伺う。

耕也は静かに言った。


「ジュース買いに行こうと思って財布を取ろうとしたんだが、…トランプが無いんだよ」

「トランプ? 昨日、寝る前にやったやつか」

「ああ、今朝確かにここに入れたんだよ」


そう言って耕也は鞄の端についているボケットを指差した。

その場にいた全員が思った、これは盗難だと。同一犯の犯行だと。

トランプも『無くても特に問題ないもの』だ。


「おいおい、盗られちまったぜ。困ったなぁ」

「君、なんか喜んでないか?」


雅野が冷静に突っ込む。自分が被害者になって喜ぶとは、おめでたい人間である。

しかし、この耕也の件で僕に一つ確信が生まれた。

被害者の共通点をようやく見つけたかもしれない。


「おいおい、俺たちも何か取られてるんじゃね?」


すぐに荷物を調べようとした白瀬に、僕はこう言った。


「いや、それはない」

「え?」

「どうしてそう言えるんだ霧生」


雅野が問い詰めてきた。

僕は鞄からノートを取り出し、ざっと書いて全員に見せた。




 ――――――――――――――――――――――――――



  市橋 → 柴木口 → 千葉寺 → 頼田 → 竹内  



 ――――――――――――――――――――――――――




「これは…物が無くなったやつらの順番だな。これがどうかしたのか?」

「ああ、ここに法則を見つけた。とは言っても、犯人を捕まえる手掛かりにはならないが」


それでも被害者に共通点が見つかったのは大きい。

これで間違いなく同一犯の犯行だと考えることができるからだ。

軽く咳払いをし、言った。


「この盗まれたやつらは、名前が『しりとり』になっているんだ」

「しりとり…確かに『いちはし』の次は『しばきぐち』で、『らいた』の次は『たけうち』になってるけど……『せんようじ』はどうするんだ?」

「犯人がもしそれを知らなかったら? お前なら何て読む?」


僕は『千葉寺』という字列を指差して白瀬に尋ねた。


「…ちばでら?」

「ああ。もしくは『ちばてら』だな。もし千葉寺のことを犯人が知らなかったなら、そう呼んでしまっても仕方ない」

「なるほど。『ちばでら』と呼んでしまえば、次の『らいた』に繋がるな!」


白瀬が歓喜の声を上げる。いや、そんなに喜ぶほどのことじゃないと思うよ。

犯人の手掛かりにはなりそうにないし。

僕はそう思っていたのだが、雅野はこう言った。


「……となると、犯人は三組の人間ではないということだな」

「え?」

「む? 同じクラスの人間の苗字くらい、さすがに分かると思うのだが」


雅野くん、それは僕に言っているのかい?

しかし僕が名前を覚えるのが壊滅級に苦手なだけで、普通の人間は同じクラスならどんなに変わった苗字でも覚えていられる。

そう考えれば、確かに犯人は三組の生徒じゃないと言えるだろう。


「それでも容疑者は多いぜ? うちのクラスを引いてもまだまだ多い」

「いや、それに関しては大丈夫だ」


今度は耕也が声を上げた。

白瀬は「まだ何かあるのか?」とでも言わんばかりに、不思議な眼差しで耕也を見る。


「トランプは朝の時点では絶対にあったんだ、それは俺が保証する」

「…で、それでどうなるんだよ?」

「これだよ」


耕也は修学旅行のしおりを取り出すと、スキーに関するページを広げた。

スキー班紹介の部分だ。





 ―――――――――――――――――――――――――――――


  スキー班   501~512:男子  612~624:女子


 ―――――――――――――――――――――――――――――


   1   A1班  501号室、502号室 

   1   A2班  511号室、512号室 

   2   B1班  505号室、506号室、612号室 

   3   C1班  503号室、504号室 

   3   C2班  614号室、615号室 

   4   D1班  509号室、510号室、624号室 

   5   E1班  507号室、508号室、613号室 

   6   F1班  622号室、623号室 

   7   G1班  618号室、619号室

   8   H1班  620号室、621号室

   8   H2班  616号室、617号室 


  ※常に班別行動を心がける。

  ※他の班に迷惑をかけない。

  ※スキー後、部屋に戻る際はA1班から

   上記の順番でホテルに戻ること。


 ―――――――――――――――――――――――――――――





「このスキー班がどうかしたのか?」


そう訊ねると、耕也は説明を始めた。


「いいか? 部屋に戻る際はこの順番で戻れと書いてあるだろ。部屋を出る前にはトランプがあったんだあから、トランプを盗めるタイミングはスキーから戻る時しかない」

「確かに。スキーの最中に抜け出してまで盗るようなものじゃないしな」


何より、途中で抜け出したりしたら目立つ。

犯人ならそんなリスキーなことはしないだろう。


「俺たちの班はC1だ。そして俺たちより早く戻ってくる班は、A1、A2、B1の班の連中のみ。そして、犯人が女子ではないことと三組の生徒つまり501から504号室の生徒ではないということを含めて考えると……容疑者は505、506、512、513のやつらに絞られるってわけさ!」


耕也が力説を終え、皆その論に納得していた。


「……なるほどな。これってだいぶ搾れたんじゃないか?」

「ああ。まさか十数人近くまで絞り込められるとは思わなかったな」


かといって犯人が誰か分かるというものではないだろう。

それにこの盗難事件、結局は犯人の目的を明らかにしないことには片が付かないように思える。

犯人は生徒手帳を使って何かをするつもりなのか?

それとも…。


「む、そういえば先ほど相田先生から生徒手帳を受け取ったのだった。篠原に渡さなくては」


ふと思い出したように雅野が言った。


「それって、優が拾ったやつか?」

「ああ、そうだ」


なんだあの先生、結局落し物については生徒会に任せちゃうのか。

それに対して白瀬が尋ねる。


「その人、風呂どうしたんだろうな? 手帳無いんじゃ入れないんだろ?」

「いや、『忘れた』という理由以外でもっともらしく、なおかつそれを証明できれば入浴は可能だ」

「でも、無くしたことを証明するって、だいぶ無理な話だよな」

「それは僕も思ったのだが、先生たちが決めたことだし仕方がない。では僕は篠原の元へ行くが、部屋であまり騒がないように」

「お前こそ篠原に淫らなことしないようにな」

「何を!」


なんというか、白瀬と雅野。この二人意外と仲がいいんじゃないの?

いや仲がいいのはいいことなんだけどさ。

それにしても生徒手帳が無いとやはり旅行中は不便だろうな。

そもそもなくしたことを証明するもっともらしい理由なんて、何があるんだ?

来る途中に落としたとか、盗まれたとかしか無さそうなもんだけど…。

……待てよ、もしかすると犯人は―――
















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