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ごく普通の高校生の非日常  作者: 瀬川しろう(サイキック)
第一章
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4  白盾の向こう側

部活動と一口に言ってもやはりいろいろと種類がある。

運動部なら野球部、バスケ部、サッカー部、

文化部なら科学部や園芸部、オカルト研なんかもある。

研究部と研究会の違いがよく分からない人は他にもいると思う。

部活動の定義はどこの学校も、授業の延長と言ったところだろう。

学校によっては新たに部活動を作るということも可能らしく、うちのクラスの人間が『軽音楽部』を作ろうとしていると前に聞いたことはある。


僕の所属している部活はまさしくそれで、二代ほど前の先輩が作り上げた部活らしい。

名は『ゲーム研究部』、通称『ゲー研』とも呼ばれている。

ゲー研は主にゲームのレビューを書いたり、研究をしたり、作ったりとまあ、結局のところよく分からん部活である。

物珍しさからか毎年見学に来る人間は多く、『こんなのあるんだ』などと

感心した様子で言う。

・・の割には入部希望者は壊滅的だが。

今年の1年生からは入部希望者は0名。よって1年生の在籍はなしだ。


ゲーム研究部は科学研究室を用いて活動している。

とはいえ、ウチの部活は活動頻度が少ない。理由は部長のやる気のなさだ。

まあ三年生が一人しかいないんだから、仕方のないことだとは思うが。


「ねぇ晃平、私が作るゲーム、どんなのか気にならない?」


ぼーっとしていると夏菜が声をかけてくる。

ぶっちゃけ気にならないが、こういうときは聞き返さないと後が大変だ。


「どんなのなんだ?」

「えー、聞きたい? そっかぁ、聞きたいかー」


えへへと照れるような仕草を見せながら笑う夏菜。

何なのこいつイミワカンナイ。


「まあ、聞かせてあげてもいいかなー。どうしても聞きたい?」

「いや結構」


聞かなかった理由としては、ムカついた、というのが一番の理由だ。

僕たちがいるゲーム研究部では、毎年一回ゲームを作ることになっていて、僕たちは高二だから二回目となる。

ゲームを作るといっても、作るためのキットアプリやら何やらがあるらしく、

別に一から作り始めるわけではない。

作ったゲームは文化祭で展示するとか何とか。


「晃平はどんなのにするか決めた?」

「いいや全くだ」


そもそも僕はこういう、何かを作るということには不向きな人間。

与えられた課題はこなせるが、自ら動くことはできないという典型的社畜タイプである。


「白瀬、お前はどんなのにするつもりなんだ?」

「いやー、さっぱりアイデアが思いつかん・・」

「お前もか・・・」


白瀬もゲーム研究部の一員である。

というのも僕と白瀬は無理やり夏菜に誘われてこの部に入部したのだ。

つまり僕たちにもともとゲームを作る才などあるはずがない。

だから僕たちの分のゲームは免除ってことになりませんか。

白瀬と仲良く机の上の計画表とにらめっこしていると、部室の扉が開いた。


「どーだ、やってるか?」


部長だ。


「なんだ、部長かー」

「なんだって・・失礼だな」


入ってきたのは、狩村孝弘かりむら たかひろ先輩。

高校三年生でゲーム研究部の部長だ。

ちなみに、この人はあまりゲームの知識が無いらしいがなぜか所属している。

僕たちみたく引きずり込まれたのだろうか。

いや、この人のほかに三年生はいないからそれはないか。

だったらなぜいるんだろう、ほんと不思議ですね。


「部長、いいアイデアが思いつかないんですけど。何かないですかね」

「そんなこと俺に言われてもなぁ・・・いやぁ、分かんね」


と首をかしげる部長。いやまあ、それはそうだな。

若干投げやりなのが気になるけども。

再び二人で悩んでいると、夏菜が騒ぎだす。


「あ、部長! 私のやつ、気になりません? 気になりますよね!

 見せてあげます! はいはい、こちらへどうぞー!」

「え・・え、強制?」


半ば強引に、というか完璧に強引に部長が捕まった。

部長はかわいそうだがしばらく夏菜に付き合っててもらおう。

正直このほうが静かでいいからな。


「野球のゲームにするかな」


夏菜が部長を引っ張って行った直後、白瀬が言った。


「いいんじゃないか?」


スポーツゲームは受けがいい。

文化祭で展示するなら適しているだろう。


「お、やっぱりか。俺もいいと思ってたんだよ!」


僕に尋ねたときに少し自信なさげだったのは気のせいなのかな?

白瀬浩太という男はいまいちつかめない。

小学校から同じはずだが、まったく。




 ・・・・




白瀬は頬杖を立てて苦悩していた。


「思いつかん・・・」


ぐったりと寝そべる。

思いつかんってお前・・・。


「最初の威勢はどうしたんだ」

「無くなった」


凄まじい速さで無くなったな。

野球といってもいろいろあるし、野球部に取材でもしたらいいんじゃないの。

そう言おうとすると、夏菜から逃れたのか部長が戻ってきた。


「・・どうした白瀬、机に寝そべって」

「あ、部長。まだいたんすか」

「なんか、俺に対してもっと敬意を表してもいいんじゃないの?」


確かに言った白瀬にそのつもりはないだろうが、少し小馬鹿にしたような言い方だったな。

案外気にしているのかもしれない。

せめて僕は気を遣おう、気を遣ってこの人にはもう話しかけない。


「? なんだ、まだ出来上がってないのか」

「はい、まあ・・」

「まあ、簡単にできるもんじゃないしな。浅井のも結構よかったし、

 最悪俺のと浅井のだけで文化祭はやるからあんまり無理はすんなよ」

「お、ほんとですか!」


この人はけっこう優しいのだ。

見た目はちょっと怖めだが、ゲー研部員はみんな慕ってる。

みんな、というにはちと少ない人数だけれども。




 ・・・・




「じゃ、明日は霧生ん家に集合な!」

「じゃ、じゃねえよ馬鹿」


どうしてそう毎度毎度話が突然なんだ。

どうして僕の家なんだ。

どうして僕と妹が話すきっかけを作り出そうとするんだ。


「だからさ、ゲーム評論会をしようってことだってば」

「そうだってば」


夏菜の真似をして言う白瀬。気色が悪いので流す。


「別にそれならお前の家でもいいだろ」


僕なりの定義を述べると、白瀬は短くこう切り返してきた。


「だめだ、親がうるさくてな」

「あれ? この前は入れてくれたよね?」

「いや、まあ、親がうるさいんだよ」


絶対に何か別の理由だな。

まあ無理と言うなら押しかけるのも悪いし・・仕方ないか。


「分かった・・。明日だな?」

「よし、じゃあ、晃平の家に集合ってことで!」

「霧生、宜しく頼むぞ」


頼りにされてると思うと胸も弾みますねぇ。

というかゲームの計画を立てるのに夏菜は来る必要あるのか?

ないだろ、できてるんだから。




 ・・・・




「ただいま」


そう言って靴を脱ぐ。言ったところで返事は来ないけどな。

・・・・ん? 見覚えの無い靴が・・。

誰か来てるのか?


「ただいま」


リビングへ入り、もう一度同じセリフを言う。


「あ、お兄ちゃんおかえり」

「靴があったけど、誰か来てるのか?」


軽く聞いたのだが、華音の答えは予想を超えるものだった。


「うん、今日美保が泊まりに来てるんだ」


・・・・・・・・・・え。


「うぇ!?」

「何、変な声上げて」

「いや・・・えと、何で?」


いきなりすぎて訳が分からず、僕は妹に聞く。華音は平然と答えた。


「ほら、明日土曜日じゃん? だから泊まりなよって言ったの。で、今は買い物に行ってる」


泊まるって・・・いやまあ、僕に直接影響が及ぶことは無いと思うが。

この前のように、視線に困る展開にはならないように祈る。



 ピンポーン



「はーい」


チャイムが鳴った途端、華音が飛び出して行った。


「ただいまー」

「おかえりー、入って入って」

「おじゃまします」


美保だった。缶ジュースを二つほど持っていて、サンダルを履いていた。

うちの妹、まさか友達にジュースパシらせたりしてないよね?

しかし華音のやつ、友達には優しいんだな。学校ではいっつもあんななのだろうか?


「あ、先輩。こんばんは」

「ほいよ、こんばんは」


・・・先輩?

美保と華音はリビングへと向かって行った。

先輩って・・・悪くない響きだな。




 ・・・・




華音と美保は二人でテレビを見ていた。

今日は見たい番組があったんだが・・・まあいいか、楽しそうだし。

うーむ・・しかし、普段の生活の中に家族以外の異性がいるだけでこんなにもちがうとは。

母さんもやけに美保に優しくしてるし。

風呂にでも入るか・・明日もあいつらが来るし早めに寝ておいた方が良いだろう。

しかし、先に入ったら、また華音がいろいろ言ってきそうだな。

だって思春期の娘ってうるさいんだもの。


「華音、風呂に入りたいんだけど先に入っていいか?」


僕がそう問うと、華音はしばらく『むー』と考えてから答えた。


「・・・・・いいんじゃない? どうぞどうぞ」


やけに機嫌の良い返事だった。いつもこうなら可愛いと思えるのに。

とりあえず妹の許可を得た僕は風呂場へと向かう。

この時、冷静に考えていれば、この後の展開は防げていただろう。

美保がいないことに気付けていれば・・・なぁ。


 

 ガラッ



「えっ・・・」

「あ・・・・」


扉を開けたとき僕の目に入ったのは、バスタオルを巻いた女性の姿だった。

母さんではない、だってさっきキッチンで鼻歌歌ってたんだもの!

となると当然、その女性の正体は・・・・美保。

おもわず脚元へと目が移る。


「えと・・」


どうしたらいいか分からず、立ち尽くす。

いや、まだ全裸を見たわけではない、まだアウトじゃない。

アウトじゃない・・・けど別にセーフでもない!

相手は女子中学生だ。妹の友達・・・中学生ともなると、やはりそれなりに成長している。

どこがどう成長してるかはまでは言わないが。

恥ずかしいのか、赤面して黙り込んでいる。いや、そりゃ恥ずかしいよな、うん。

正直、僕もどうしたらいいか分からない・・。


「・・・・あの」

「・・・失礼しました!」


勢いよく扉を閉めた。




 ・・・・




風呂の中で考える。

・・・どうしようか。もっとちゃんと謝った方がいいだろうか?

いや、そりゃそうだろ。

逆の立場なら僕だって・・いや、この場合逆の立場を考えるのは正しいのか?

タオル越しとはいえ年頃の女の子の身体を覗いてしまったわけなんだからな・・・。




 ・・・・




「えっと、美保・・」

「・・は、はい」

「ごめんな、さっきは。その、わざとじゃなくて、誰かいるとか知らなくて、えっと・・」


すごく言い訳染みていた。

いや、テンパりすぎだろ、もうちょっとしっかりしろよ!

これじゃわざと覗いたやつのようにも取れるぞ!

いろいろと責められても仕方ないと思っていたのだが、

僕の謝罪に対する美保の返事はこうだった。


「大丈夫ですよ・・・その、気にしてませんから」


少し頬を赤らめ、そう微笑んだのだった。

気にしていない・・・のか? 

いや、内面は傷ついているのだろうか、きっとそうじゃないか?

・・・だが今はその気にしてないという言葉が救いだ。




 ・・・・




女子中学生の裸を覗いたというレッテルを貼られてしまった。

華音め・こうなるのが分かってて僕を風呂に誘導したのか。

いや許せん。別に火照った女子の身体が見れて良かったとかは断じて思ってない。


とりあえず念のため、警戒は続けよう。

うちの妹が何を考えてるか分からんうちは迂闊な行動はできない。

今日を振り返りながら僕はベッドに入る。

今夜は案外すぐに眠れそうだ・・。

静かな夜、虫の鳴き声だけが小さく聞こえていた。















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