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ごく普通の高校生の非日常  作者: 瀬川しろう(サイキック)
第二章
49/59

19 犯人の目的

「どうしたの急に?」

「いや、ちょっとさっき話題に上がってな。それで気になっただけだよ」

「ふぅん?」

「…で、どうなんだ?」

「うーん、さっきも会ったけど…特に何も言ってなかったよ」


…なるほど。

それなら外部犯の可能性は限りなく低くなったというわけだな。


「よし、分かった。ありがとな」

「うんっ。じゃあ、また明日ね」

「ん」


返事とも言えないような声を出し、手を掲げてみせる。

こんな適当な挨拶でも気にしないのか、夏菜は笑顔で手を振り行ってしまった。

先ほど聞き込みをしようと思い、部屋を出たタイミングで近くにあった自販機の前に夏菜がいたのを見つけた。

そして今がチャンスとばかりに僕は夏菜に質問をしに行ったのだった。


『お前、さっき山野瀬ってやつと話してたか?』

『え? うん、話したけど…』

『じゃあ単刀直入に聞くが、山野瀬は何か盗難があったみたいなことを言ってなかったか?』


その続きが、冒頭の場面につながる。

女子の伝達力というのは凄まじいもので、ちょっとでも何かあると光の速さでそれは伝わる。盗難みたいな好奇心をそそるような話題ならなおさらだ。

つまり、もし山野瀬のいる高校で何か盗難があったのなら、それなりに話題になっているはずだ。

だが山野瀬は何も夏菜に言っていなかったとのことだった。

ここからすべて判断するのはハイリスクだが、盗難は戸文高校内だけで起きていると見て間違いなさそうだな。

そうなると盗難の犯人は戸文高校の生徒である確率がかなり高まる。

人というのは自分と次元が違う空間には自ら出向かない生き物で、もし犯人が戸文校の生徒だとすれば、ほかの高校から何も盗っていないのも頷ける。

夏菜との会話を終えて、白瀬たちのもとへ戻ってから、今述べた考えを話した。


「なるほどな、さすがだぜ霧生!」

「さすがだぜはいいが俊介、お前夏菜と何か話さなくてよかったのか?」

「いやぁ…もう昼間のだけで胸がいっぱいです」


そう言って照れる俊介。いったいどれだけ踏み込んだ会話をしたんだろう…気になるな。

俊介のことだから大した会話はしてないと思うけど。


「だが、晃平の考え通りでも犯人候補は百人以上いるぞ?」

「まあまあ。他校の生徒を含めれば二千は軽く越えていたことを考えれば、霧生はいい仕事をしたと思うぜ」


そりゃどうも。


「よし、じゃあ聞き込みだな。誰から聞きに行く?」

「紛失した順番通り行くなら市橋だが、女子の部屋には行けない。市橋には明日聞くとして、柴木口からだな」


よし、と意気込む白瀬。

この聞き込みはかなり重要なソースになりうる。

あまり気を抜いてかからないほうがいいかもしれないな。





 ・・・・



 ――――――――――――――


  506号室  部屋長:伊東


 ――――――――――――――



柴木口がこの部屋で間違いないかをしおりを見て確認する。…どうやら間違いないようだな。

しかし、どうやって入るか。

まさか盗難の可能性があるとは言えないだろうし…。

扉の前で迷っていると、


「ヘい!」


勢いよく白瀬が扉を開けた。

いやちょっと待ってくださいよー。


「お前、いきなり―――」

「大丈夫大丈夫、この部屋には知り合いがいるから」


そいつが留守だったらどうする。

…と思ったけど、就寝前のこの時間帯に部屋を出るやつも少ないか。


「おっ、白瀬!」

「おす」


こいつの顔の広さが、こういう時には役に立つな…。

ちなみに部屋長は伊東秀いとう しゅう、白瀬が今話しているのはこいつのようだ。見分け方は簡単、部屋長の証の腕章が付けてある。


「何しに来たんだお前? そろそろ就寝の時間だろ」

「まあ、堅いこと言うなって。柴木口ってのいるか?」

「僕…?」


後ろからなんだか控えめな声が聞こえてきた。

背が割と低めの男子生徒はトランプのカードをテーブルに置いて、こちらへ来た。


「何か用でしょうか?」

「えっと、柴木口くん?」

「はい、そうですが」


敬語で喋るその男子生徒は見るからに腰の低そうな感じだ。

そんな彼に白瀬が尋ねた。


「君がしおりを盗まれたって聞いたんだけど、本当?」

「…なぜそんなことを?」


柴木口の質問はもっともだった。

確かに何の関係もない僕たちがそれについて調べているのは不自然でしかないだろう。

どう誤魔化すべきか…と考えていると耕也がフォローに入った。


「あ、ああ。うちの部屋長が聞いてこいって。雅野のやつ、人使い粗いからさ」

「そうそう!」


白瀬もそれに便乗する。

お前ら雅野のことなんだと思ってるんだよ。


「はあ…」

「で、どうなんだ?」

「トイレに行こうと部屋を出たんですけど、場所が分からなくなって。しおりで確認しようと思って、しおりを取りに戻ってみたら―――」

「無くなっていたと?」

「はい、そうです」


説明が的確で、とても分かりやすかったです。

白瀬が問う。


「誰かがいたずらで隠した可能性とかはないのか?」

「いいえ、すぐに周りの人に聞きましたし、彼らは嘘をつくような人たちじゃありませんよ」

「トイレに行く前には確かにしおりはあったんだな?」

「はい、今日の感想を書いていたので間違いないです」


柴木口の喋り方が、英文の日本語訳のように思えて仕方がない。

だが、今はそんなことを気にしている場合ではないな、最後に聞きたい事を訊ねるとしよう。


「…部屋を出て、しおりを取りに戻るまでの時間はどのくらいだったか分かるか?」

「はい。確か、六分くらいだったかと」

「聞いておいてなんだが、よく覚えてるな」

「はい、時計を見ていたので」


最初から最後まで真面目な生徒だ。

感心する反面疲れないのか気がかりでもあるな。

さて、とりあえず柴木口への聞き込みは完了と言ったところか…。

僕たちは柴木口に礼を言い、506号室を後にした。





 ・・・・





さてと、順番通りだと次は千葉寺に聞き込みだが…腕時計を見ると、そろそろ就寝時間だ。

夏菜に聞いた時に時間を食ったのがまずかったか。


「なんだ? ひょっとしてもう就寝の時間か?」

「ああ。今日のところは戻るとするか」

「えー。大丈夫だろ、こっそり続けようぜ」


耕也が文句垂れながら言う。

いや、ばれたときのことを考えるとそれはやめといたほうがいいだろ。

それに明日からスキーなんだぞ? 早めに寝て休んでおくべきだ。

あくまでこの修学旅行のメインはスキーなんだからな。


「とにかく今日は一旦やめだ。また明日の自由時間にでもすればいい」

「……そうだな。まあ、まだあと四日もあるし余裕だろ」


白瀬がそう言い、僕たちの部屋の方へ歩き出した。

あと四日か…。

これが同一犯による犯行だとすれば、今日だけでこれが終わるとはどうも思えないな。

明日以降、また被害者が出る可能性が高いだろう。

そこで共通点が出れば決定打となるかもしれないが…。


「なあ晃平。お前の言ってたことについて考えてみたんだが」


白瀬について行こうとすると、耕也のその一言で呼び止められた。


「僕が言ってたことって?」

「犯人の目的、『カモフラージュ』の可能性についてだよ。俺は犯人の本当の目的は生徒手帳じゃないかと思う」

「生徒手帳? なんでそう思うんだ?」

「お前が言ってたように、犯人が盗んだ物は生徒手帳以外どうでもいいような物ばっかりだろ。生徒手帳は入浴時に必要だし、他と比べて重要度がずば抜けて高いと思わないか」


…確かに。

普段なら生徒手帳もそこまで重要な品ではないかもしれないが、旅行中は生徒手帳を持っていないと入浴できなくなる。

他の物が全く不要な物であるのに対し、生徒手帳はむしろ持ってくる必要がある物だ。

つまり、生徒手帳こそが目的…?


「それを悟らせないために、犯人は他の物を盗んだんだよ。カモフラージュのためにな」

「なるほどな」


それに、手帳を盗まれてもその話が先生まで行っていれば『盗まれたのでは仕方がない』と見逃してくれるだろうし、入浴ができるはず。

つまり手帳自体は重要な品であるが、手帳を盗られることで起きるデメリットはこの旅行中では存在しないということになる。

ということは犯人は生徒手帳そのものが欲しかった、ということなのか?

でもそれは―――


「おーい。戻らないのか?」


白瀬の一言で引き戻される。

見ればすでに消灯時間を二分過ぎていた…そろそろ先生が見回りに来そうだな…戻るか。

ひとまず考えるのをやめ、僕と耕也は駆け足で部屋に向かった。














 


 

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