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ごく普通の高校生の非日常  作者: 瀬川しろう(サイキック)
第二章
48/59

18 犯人の候補

部屋に戻るや否や、部屋の中からすごい熱気を感じた。

めちゃめちゃ熱い…暖房でもつけっぱなしになっていたのか。

しかし予想以上の熱気に、おもわず「う」と声を出してしまう。

すると後ろから雅野が入ってきた。


「む、消し忘れていたか。僕としたことが」

「最後に部屋を出たの、お前だったのか」

「ああ、そうだ」


ちゃんと暖房は消してくださいね?

暖房が付けっぱなしになっていたことから、部屋には誰もいないと思っていたのだがその予想は外れた。

部屋の真ん中にあるソファーを、白瀬と耕也が陣取っていたのだ。

いや、いるんなら暖房止めようよ…熱くないの?


「…やっぱりこれだけだと難しいな」

「まあ、そこは気合いで何とかするしかない」


近くまで行ってみると、二人は紙に何かを書いていた。

おおかた、例の盗難について自分たちなりにまとめたものをメモしているんだろうな…飽きないものだ。

その近くにあったさっき白瀬が書いた紙がふと視界に入った。




 ―――――――――――――――――


  いちはし   手かがみ

   せんよーじ しょうぎ

  らいた   せいと手ちょう

  しばきぐち   しおり


 ―――――――――――――――――




しかしこれ、盗まれても大したことのないようなものばかりだな。

頼田の生徒手帳はともかく、手鏡やしおりは無かったら無かったで特に問題は無いし、将棋に関しては持ってくる必要もないと言える。

とりあえず、こんな感じで被害者の共通点でも見出すのが得策じゃないかと思うのだが―――


「やっぱり、目的が謎だな」

「俺的にはこう思う、自分が失くしたから盗ったとかじゃないか」


この二人は特にそんなことは考えておらず、ただ話し合っているばかりだった。

なおも話し合いは続く。


「まあでも、各クラスをしらみ潰しに探して行けば見つかるんじゃないか?」

「最悪の場合はそうするしかねえな」

「いやいや…それは無理だろ」


あまりに無謀なその案に、思わず口を挟んでしまった。

当然そこを突っ込まれてしまう。


「なんでだよ霧生」

「…冷静に考えてみろ。確かに市橋の手鏡に関してはうちの学校のやつが犯人と言えるだろが、だが他はどうだ。他は全員、ホテルに来てから盗まれている。となると、このホテルに関係している人物なら誰でも犯行は可能だと思うぞ。他校の生徒でも従業員でも、僕たちが部屋を開けた隙にやってしまえばいい話だからな」


つまりは、うちの学校の生徒だけが犯人候補というわけではないということだ。

さっきは男子部屋からしか盗まれていないという点から、犯人は男子生徒の可能性が高いとも考えたが…それもやはり戸文高校の生徒だということに限定すればの話になる。


「じゃあ、どうすりゃいいんだ?」


別に探さなけりゃいいんじゃなかろうかね。相田先生も言ってたよ、くだらんことよりスキー滑る練習しろって。

しかしそんなことをこいつらに言っても無駄なのはもう分かり切っている。

とりあえず合わせてやるしかあるまい。


「とりあえず、犯行が起きた順番に整理してみるとかな」

「なるほど」

「おい、夕食の集いがあるからそこまでにしておけ」


雅野の言葉で会話は一旦途切れる。

これで夕食後には何もかも忘れていれば好都合だったというものだが、どうにもそういうわけにはいかないようだった。




 ・・・・




夕食を終え、就寝時間まで自由時間となった。

このせっかくの自由時間を明日に備えて有意義に使いたいところだが、そうは問屋が卸さない。


「さ、まとめようぜ霧生」


この男ノリノリである。

僕は軽くため息をついてからこう切り出した。


「…じゃ、起きたことを順に整理するぞ」

「よしよし、今度は丁寧に書いていくからな」


生徒手帳を広げ、シャープペンシルを用意している白瀬。

やれやれ、本当にこういうときだけは張り切るんだなこいつ。


「まず最初に『市橋の手鏡』。市橋が気づいたのは行きのバス内だ」

「なるほどなるほど」


筆を走らせながら白瀬が言う。


「犯人の目星は付いてるのか?」

「さあな。だが手鏡に関しては戸文校の人間と見ていいだろう。残るは『千葉寺の将棋』と『頼田の生徒手帳』、あと『柴木口のしおり』だったか。…そもそもこれらはどういう順番で起きたんだ?」


頭を抱えながら訊ねると、真っ先に白瀬が答えた。


「その中なら、頼田はたぶん最後だ。入浴前に部屋で入浴準備をしてる時に気づいたらしい」

「間違いないのか?」

「ああ」


なるほど、じゃあ頼田が最後だと仮定して考えるか。

考えをまとめようとすると、すぐに白瀬が追い打ちをかける。


「あと、柴木口は集いの集合三十分前にやられたらしい」

「廊下が騒がしくなったときだな」


…となると、これで確定されたな。

千葉寺がやられた経緯はもう耕也に聞いているし、まとめるのは簡単だった。

それを白瀬に伝えると、ほんの一分ほど筆先を走らせて白瀬は手を止めた。

どうやら書き終えたらしい。




 ――――――――――――――――――――――――――


   いちはし  手かがみ、バス乗ったとき気づく

  

   しばきぐち  しおり、トイレからもどってきて気づく


   千ようじ  しょうぎ、集合まえに部屋にもどって気づく


   らいた  手ちょう、入浴まえにきづく


 ――――――――――――――――――――――――――




「どうだ。さっきよりも見やすいだろ?」

「ああ、上出来上出来」


適当に受け流す。てかなんで最後の『きづく』だけひらがななんだ。

しかしこれを見て耕也が呟いた。


「…順番は分かったが、別に被害者に共通点とかも無いな。盗まれたものにも」

「そうだな」


…共通点がない、というのはつまり同一犯じゃないということか?

それにしては立て続けに起き過ぎている気もするが。

共通点がないということは、犯人の目的は何なのだろうか。

…頭の中で少し考えをまとめてから、僕は話を始めた。


「とりあえず、犯人に三つの可能性が出てきた」

「三つもか?」

「ああ一応。一つ目は『愉快犯』である可能性だな。特に共通点を残そうとはせずに盗るだけ盗って遊んでいる、という可能性」

「今回の件はそれなのか?」

「さあな…それはまだ分からん」

「でも愉快犯って普通、自分の仕業だと分かるように何か残すんじゃないか?」


耕也の質問ももっともだ。

だが今のところ共通点は見出せないからなあ…。

つまり、今のところこの線は薄いということになる。

今は話を続けよう。


「二つ目は『利益を得られる』可能性だ。それを盗むことで犯人が何か得をするということ」


だが、手鏡にしおりに将棋に生徒手帳…どれも盗んでまで欲しいというものではないだろうな。

やはり可能性は薄いか。


「で、最後の三つ目は『カモフラージュ』している可能性だ」

「カモフラージュ?」


不思議そうな顔を浮かべて聞いてくる耕也。


「つまり犯人の真の目的はこの盗まれたもの中のどれかにあって、他に盗んだものはすべてカモフラージュ、という可能性だ」


実を言うと、三つの中でこれが一番の本命だ。

どれだけ考えても盗まれた品や人物に共通点は見出せない。そして盗まれたものが盗まれてもそんなに困らないようなものであることから、この説が最も有力だと思う。


「ひとまず、大体の考えはまとまったが、それでも犯人像は見えてこないな」

「せめて戸文校の人間かどうかが分かればいいんだが…」


そうは言ったものの、そんなことが果たして分かるものだろうか?

……いや、そもそも盗難事件が起きているのは、戸文高校の生徒だけなのか?

なんとかそれを確かめられれば…かなり候補は絞れるかもしれない。


「白瀬、お前このホテルに誰か知り合いとかいないか?」

「そうだな……この部屋に四人」

「…他校の生徒でこのホテルに知り合いとかいないか?」


冗談だよと笑って言う白瀬。

お前が言い出したから考えてやってるんだよ?


「さあな。たぶんいないと思うけど…」

「そうか…まあそうだよな」


このホテルにいる人間を把握できてない以上、そいつを探すことは無理だろう。

というか犯人探すよりも難しいんじゃないのか。

万策尽きたかと思っていると、ふと耕也が言った。


「そういえば、さっき浅井が他校の女子と仲良さげに話してんの見たぞ。ひょっとしてお前らと同じ中学とかなんじゃないのか?」

「可能性はあるな…。名前は言ってたか?」

「やまっちとか言ってた気がする」


やまっち…正直夏菜はだれかれ構わずあだ名で呼びたがるところがあるからな。

夏菜がやまっちと呼んでいたやつとか覚えてない。


「白瀬、お前誰か分かるか?」

「さあ……女子とはあんまり接点無かったからな」

「俺分かるぞ」


名乗りを上げたのは俊介だった。


「たぶん、山野瀬さんだ。浅井とよく一緒にいた子だよ」

「お前、よく覚えてるな…」


まさか夏菜とよく一緒にいたから、という理由で覚えてたんじゃないだろうな…。

それだともうなかなか気持ち悪い領域まで来ちゃってると思うんだけど。

そう思っていたが、どうも違うらしい。白瀬から弁解が入った。


「…ああ、山野瀬さんか。確か俊介、よく話してたよな」

「まあな」


…ふぅ、良かった。僕は友達を一人断捨離しなければいけないところだったよう。

しかしその山野瀬について夏菜に聞こうにも、女子の部屋に行くのは禁止されているし。まあ、禁止されていなくても行かないんだけどね。


「…就寝まで、部屋の行き来はしてもいいんだよな?」


この問いに誰よりも早く反応したのは、奥で静かにしていた雅野だった。


「ああ、そうだ。だがあまり騒がしくするんじゃないぞ」

「そうか。というかお前、勉強してるのか?」


さっきから雅野は静かに何をしているのかと思えば、シャープペンシルを片手に座って何かを書いていた。

シャープペンシルを置き、雅野は答えた。


「これは今日の感想文だ。しおりの最後の方に書いてあっただろう」

「感想文?」


そういえばそんなものを書けと言われたな。

しかし旅行中の感想といっても、ほとんどスキーだろうに…どの日もほぼ同じような内容の日記になりそうだな。


「で、どうするんだ霧生」


白瀬に声をかけられ、話に引き戻される。


「あ、ああ。じっとしていても何にもならないし、とりあえず行くとするか」

「行くって?」

「被害者のところだ。結局話を聞かないと何も始まらんからな」


どうせ寝るまでは暇な時間が続くだけだ。

ならばちょっと壮大な暇つぶしとでも考えて、これくらいはしても構わない。

これを終わらせないとスキーを楽しめないような気もするしな。















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