14 まだまだこれから
昼食のために立ち寄ったホテルのレストランはかなり広々としていた。
中に入った段階でなんとなく分かっていたが、バイキング形式のようだ。
ホテルのロビーに全員が整列すると、雅野が前へ出て言う。
「静粛に! …えー、テーブルの上に班の番号札を置いてあります。各自、自分の班のところへついてください。なおビュッフェ形式の食事のため、料理の追加をする者が増えると思われます。その場合、人が多い時は人が減るのを待ってから行くように」
「はい、じゃあ一組の一班さんから行ってください」
篠原がそう言うと流れるように一組が移動を始めた。
よほど皆腹が減ってたんだろうな…結構の間バスに揺られてたし無理もない。
「しかし毎度毎度思うんだが、ずるいよな」
「何がだ?」
「ほらさ、いっつも一組が最初だろ?」
「まあ物事の順序は基本的に一からだからな。仕方ないことだ、諦めろ」
三組の番が来て、僕たちも席につく。
早くご飯が食べたいなー。
「おー、久々だね」
そう声をかけながら、優が僕の向かいの席に座った。
久々って、朝話したばかりだろ。時間の間隔どうなってるんだ?
「む、そう言えば君たちも同じ班だったな。では揃ったところで、取りに行こう。正直とてもお腹が減っている」
雅野がそう言って立ち上がると、つられて全員が立ち上がる。
しかしお腹を空かせている雅野なんて、なんかちょっと新鮮だな。
「さてと、じゃあ行くとしますか」
「でも大丈夫かな、人多くない?」
「多少なら大丈夫だろう」
僕の言葉を皮切りに、全員が好き勝手に昼食を取りに向かった。
いやいや…そんなに焦らんでも飯は逃げないからな。
・・・・
「いやぁ、結構取ってきたぞ」
テーブルに最後に戻ってきたのは雅野佐助だった。
戻ってきた瞬間、全員の視線が雅野の持っている皿に集まる。
無理もない。皿いっぱいに炒飯がこんもりと盛られていたのだから。
えっ、何こいつ大食いキャラだったの?
ていうかなんで炒飯だけなの? 肉は? 魚は? お野菜は?
「雅野くん、なんか多いね」
ほぇー、と感心しながら優が呟く。
なんか多い、なんてレベルはとっくに超えてるだろこれ…。
「こう見えても僕は結構大食いなのだ。こういうビュッフェ形式の食事はたらふく食べられるからありがたい」
「さっきからビュッフェって言ってるけど、それ何なんだ?」
「ビュッフェっていうのは、まあ、バイキングと同じ意味だよ」
「へぇ」
「さてと霧生、さっきのゲームの続きでもするか?」
「お前な……食事中はやめとけよ」
「その通りだ。食事中にほかの事をするのは、マナーがなっていない」
「いいじゃねぇか、ちょっとくらい」
「駄目だ。僕が班長である以上は―――」
「ちっ……堅いやつだな…」
「何だとぉ!」
揉めるな揉めるな。声のデカい二人の言い争いはとてもうるさいものだった。
ねえ君たちが一番マナーがなってないってこと、早く気付いて。
僕が白い目で二人を見ながら食事をしていると、優が話しかけてきた。
「ねぇ、霧生くん」
「なんだ?」
「あのさ、今朝こんなの拾ったんだけど」
そう言って優はうちの学校の生徒手帳を差し出した。
拾った…ってことは落し物か。なら先生に届けろよ。
「なになに? 何話してるの? 恋バナ?」
市橋が興味津々で会話に割り込んできた。
てっきり市橋はそういうのに興味ない人間だと思っていたが…案外そうでもないらしい。
まあ今は置いておこう。
「これ、どこで拾ったんだ?」
「えっとね……確か学校のちょっと前くらいの歩道辺りかな?」
「ふむ。じゃあただの落とし物だろ。これがどうかしたのか?」
「うんうん。ちょっと中見てみてよ」
勝手に見て良いものなのか?とも思ったが、持ち主を特定するためだしこの際仕方ないか。僕はその生徒手帳を開く。
手帳には生徒の写真が貼られておらず、さらにはクラスと出席番号も無記だった。
ただ名前と学年はちゃんと書かれていた。
まあたまに居るよな、これだけ書いとけば大丈夫だろ、みたいなやつ。
「うーん、かろうじて二年生だってことは分かるね。ん、貸して。先生に届けるから」
学級委員である市橋まりが手を伸ばす。僕はそれを渡した。
市橋は中をパラパラと捲りながら呟く。
「二年生の……えっと、白井って人だね。おっけ、先生に届けとくよ」
「あ、待って。やっぱり私が届けるから。拾ったの私だし」
優がそう言うと、市橋は「そう?」と優に手帳を手渡した。
なんでわざわざそんな面倒なことをするんだ?
市橋に届けてもらえばよかったのに。
「何ですぐに届けないんだ?」
「だってこれ、ちょっと変じゃない? 分かるのは名前と学年だけだし。写真も貼ってないし」
「意図的に貼ってないやつとかもいるぞ。まあそれか、写真を撮る日に欠席していて、それ以降撮る機会がなかったとか、そんな理由かもしれん」
「……まあ確かに。やっぱり早く届けてもらった方がいいかな、これないと困るだろうし」
優は手帳を再びテーブルに置き、言った。
まあ確かに困るとは思うが。
「別に返すの自体は旅行が終わった後でもいいような気もするけどな」
僕がそう言うと優はキョトンとした表情で首を傾げた。
「あれ、霧生くん忘れたの? 入浴する時は、うちの生徒だって確認を取るために、係の人に生徒手帳を見せるって」
「え、そうなのか」
「そうだね。大事なことだから、何回も何回も先生言ってた。最後の集会のときにも『あれだけ言ったんだから、忘れた人は反省文』とか言ってたよ」
そういえばそうだったような…。
先生がいちいち確認を取るのが面倒だから、生徒手帳を見せるってことになったんだっけな。そういや相田が何回も言ってたな。
確かにそういうことなら早く届けてやらないと、白井って生徒が困るだろうな。
「…じゃあやっぱり、それは届けた方がいいんじゃないか」
「やっぱりそうかな? じゃあ、後で先生に届けよっか」
それが良いです。
……ん?
「今の言い方だと、僕も一緒に行くみたいになってないか?」
「え、そういうつもりだけど」
「なんで僕が行くんだよ」
「まあまあ。とりあえず、今は食べようよっ」
「お、おう…そうだな」
なんか軽く誤魔化されたような…まあいいか、腹減ったし。
それにしてもあの二人はまだ言い争ってるな…よく飽きないもんだ。
僕はそんな光景を眺めながら、麦茶を一口飲んだ。
・・・・
Side:TAKEUCHI
修学旅行初日の昼食の時間。周りが楽しそうに会話を繰り広げている中、俺たちのテーブルは静寂に包まれていた。
誰も何も喋らず、ただご飯をほおばっている。
思えばこれは仕方のないことなのかもしれない。
鮎川はもともと喋るような子じゃなさそうだし、浅井は喋らないというよりも食べることに夢中になっている様子だ。何より―――
「………んー」
さっきから俺の隣で黙りこくっているこの男…。
俊介のやつめ…仲を深めるとか言っておいてなんだよこれは…。
今こそ最大のチャンスだろ。
「おい、俊介」
「……お、おう。なんだい」
若干カタコト気味なんすけどこの人。大丈夫かしら。
とりあえず浅井たちに聞こえないように静かに話すか。
「お前、浅井と仲を深めるとか言ってただろ。ほらチャンスだ、何か話せよ」
「何か話せとか、簡単に言ってくれるなよ。これでも極度の緊張で飯も喉を通らないんだ」
「うそつけ」
お前の皿、すでに半分近く減ってるじゃねえか。
どんだけ集中して食ってたんだよこいつ。
…まあ、確かにいきなり話せとか言われても困るわな。
「いいか、今こそ修学旅行の魔法を使うときなんだよ」
「つまり?」
「会話の内容なんかどうだっていいんだよ。どんなに平凡な内容でも、修学旅行中の会話ってだけでそれは特別感が増すんだ!」
「…な、なるほどな」
俺には全然分からんけど、たぶんそんな感じよ。
そして俺はキメ顔で俊介の肩を軽く叩いた。
「…行って来い、俊介」
「よ、よし。なんかやる気出てきた」
いよいよ決心がついたのか、俊介は浅井の方に向き直った。
しかし向き直ったは良いものの、そこで俊介は黙ってしまう。
何やってんだお前、早くしないといつ女子同士で会話始めるか分からんぞ。
そうなったら最期、俊介に…いや男子に取りいる隙など無くなっちまう。
「えっと、浅井……」
「…」
浅井から返事は無かった。ただの屍というわけじゃないようだ。
とはいえ俊介が無視されているわけでもだろう、……見たところ食うのに夢中になってるだけだわあれ。
「おーい…」
「……ん? あ、ごめん気付かなかった。 何ー?」
ようやく気付いた浅井は俊介にそう問いかけた。
…しかし結構友好的な感じだ。恋愛関係でいろいろあったら普通はギスギしちまいそうなもんだけど。
どうにもこの子にそんな感情は無いのかもしれないな。
そんなことを考えている間に俊介が話を切り出した。
「あー、えっと、よく食うな」
「でしょ? 昔からいっぱい食べる子だね~って言われてるんだ」
「そうなのかあ」
そうなのかあ、じゃねえよ。会話終わらせんなよ。繋げよ。
しかし昔からいっぱい食べる割には全然太ってないよな。
体質の問題なんだろうけど、そういう体質は女子にとってはありがたいもんだろう。
「俊介くんはあんまり食べてないね。お腹空いてないの?」
俊介の皿の減り具合を見ても『あんまり食べてない』って…この子はいったいどれだけのポテンシャルを秘めているの。
「いやー、いろいろあって喉を通らんというか何というか」
「ダメだよー、ちゃんと食べないとっ。スキーで倒れちゃうよ?」
「そ、そうだな」
そう答えたかと思えば、今度は俺の方をチラチラと見てくる俊介。
えっ、俺になんとかしろと? もうギブなの?
そんな意を込めた視線を俊介に送りながら俺は浅井に話しかけた。
「あー。ところで浅井ってゲーム好きだよな?」
「うん。もうずーっとやってるよ」
「ああ、晃平がぼやいてたよ。よく白瀬と対戦してるけど、どんなのやってるんだ?」
「そうだねぇ…野球だったりサッカーだったり。あ、格闘ゲームとかも割といけるかな」
「範囲広いんだな」
「ふっふ、私を甘く見てると火傷するぜ」
人差し指を振りながら浅井は言った。
いや、わざわざ箸を置いてまですることなの、それ。
そう心中で突っ込んだとき、タイミングよく雅野の声が響いた。
『えー、静粛に。そろそろバスへ戻る時間なので、各自食べ終わってない者は急いで食べること。どうしても食べきれない場合のみ残すことを許可する! 各自早めにバスへ乗り込むように!』
『堅いやつだなァ…』
『ええい、まだ言うか!』
…最後、マイクから浩太の声が聞こえたような。まあいいや。
さて食べるかと再び机の方に顔を向けると、
「それで、だいたい私が勝っちゃうのに白瀬くんしつこくてさー」
「あー。あいつ負けず嫌いだからな」
「ふっふ。だから私がいつもコテンパンにしてあげているのだよっ」
「あー。それが良いな」
いつの間にか俊介と浅井が自然に会話をしていた。
いや俊介の方はほぼ相槌といった感じだが。…それでもまあこれは大きな前進なんじゃないか?
俺は一人でうんうんと頷く。
鮎川も二人の様子を頬杖をついて眺めていた。
・・・・
Side:KIRYU
食事を終えた僕たちは、再びバスに乗り込みスキー場へ向かっていた。
昼食後というのはやはり眠くなるのだろう、バスに乗っている半数近くが眠っていた。
隣のこいつらも例外ではなく、静かなバスの中で僕は一人暇を持て余していた。
できれば僕も寝たいところなのだが、眠たくないというのが問題だ。
かといってバスの中で本なんか読んだりしたら酔う。絶対酔う。
修学旅行でバス酔いなんて、冗談じゃない。せっかくの旅行を自らぶっ潰してたまるか。絶対に本なんか読まない。
そう固く決意を決めたところで前の方が少し騒がしくなった。
雅野と市橋の声が急に聞こえるようになる。
あの二人に何か起こったのか?
「………」
暇なこともあり、ちょっとした好奇心で、僕は席を立った。
寝ているやつも多いし、僕がちょっと立っても気にならんだろう。
運転中に立つのは御法度だが、ちょっとだけ勘弁してください。
学級委員は前から二番目の席に座っている。
「どうかしたのか」
「む、霧生。バスが動いているときに移動するなど―――」
「まあ堅いこと言わずに」
こいつもなかなかの大声で会話してたけどな。
見ると、市橋が鞄の中を漁っていた。
「探し物なのか?」
「あ、うん。ちょっと…手鏡が無いんだよ」
「手鏡?」
「うん。家を出る時に確かに鞄に入れたんだけど、いくら探してもないんだよね」
「入れたつもりになってたとかじゃないのか」
「ちゃんと入れたよ」
少しムキになって反論してくる市橋。
おお、市橋がちょっとでも怒りを表すのってすごい新鮮だな。
しかし出かけるときにはちゃんとあったんなら、さっきのレストランに置いてきたとかじゃないんだろうか。
「さっきのビュッフェ会場に置いてきたんじゃないか?」
雅野も同じことを考えていたようだった。
言った後、雅野は席を立ち、前にいる相田のところへ向かった。
ってお前も席立っとるやないかーい!と心の中でビシッと突っ込みを入れる。
「ま、ドンマイ」
「うん。まあそんなに大事なものでもないし、構わないんだけどね」
確かに、鏡ならホテルにあるだろうし、それで妥協はできる。
雅野が相田に確認をしてもらっているのだろうが、これでもしさっきのレストランに無かったとしたら『盗まれた』という可能性が浮上してくることになるが……。
手鏡なんて、いったい誰が何の目的で盗むんだ?
よっぽど見た目に気を遣っている女子生徒が手鏡を忘れた、とかなら分かるが、それでも借りれば済む話だ。
まあそもそも見た目に気を遣ってるのなら、手鏡を忘れたりはしないか
推測をしていると雅野が戻ってきた。
「とりあえず報告はした。先生が確認を取ってくれるそうだ。霧生、君は席に戻れ」
「へいへい」
まあ、どうせすぐに見つかるだろう。
僕はそんな風に考えて席へ戻った。
・・・・
Side:AYUKAWA
静かなバスの中で皆が寝ている。
それは私の隣に座っている夏菜も、前にいる優も例外じゃない。
正直、暇だけど…こういう時間の方が私には合っているような気がする。
今の私には。
私には…恋人がいる。
でも、あまり二人きりで遊んだことはなく、恋人らしいようなことも、ほとんどできてない。
私は今、悩んでいる。
その人と……今後どうするべきなのかを。
でも嫌いになったとか、そんなんじゃない。
私の事を大事に想ってくれてるのは分かってるし、私もきっと…そうだと信じたい。
[何か違う]
うまく表現ができないけど、何かが違う。
頭の中でそんな言葉が駆け回る。
私は今のままでも満足…なはずなのに。
……これで、いいのかな。
・・・・
Side:TAKEUCHI
バスが強く揺れ、ふと目が覚める。
く…頭がぐらんぐらんする…。
どうしてこう、乗り物内での寝起きは辛いんだ。
「キツそうだな。お前結構寝てたしな、大丈夫か?」
晃平が俺を気づかい、俺の背中を擦る。
「うう…いきなりこれか。これからが心配になってきたぜ…」
「まあ今日はスキーはしないから、のんびり部屋で寝てることだな」
「そうさせてもらう…。部屋割はどうなってたっけ」
「お前は僕と白瀬、俊介、あと雅野と一緒だ」
なるほど、ほぼいつものメンバーか。
それならのんびりすることができそう……いや雅野がいたか。
否、雅野なんてこの俺が制圧してみせる!
「ところでお前、兄弟とかいるのか」
急なタイミングで晃平がそう訊ねてきた。
なんだ急に。
「何で急にそんなこと聞くんだ?」
「いや、ただの気まぐれだ。意味は無い」
まあ、意味もなく会話ができるのは相手に気を許している証拠とも言える。
では俺も意味の無いように会話を続けるとしよう。
「俺は一人っ子だよ。晃平はどうなんだ?」
「僕か? 生意気な妹がいるにはいるが…」
妹か。羨ましい限りだ。
いや、妹がいるというよりも兄弟がいるという事実が、一人っ子にとっては羨ましいものなのである。
兄弟喧嘩なんてものもしてみたかったし、何より困ったとき互いに助け合える存在が近くにいるというのもいい。
気になったのでまだまだ訊いてみる。
「妹ってのは、やっぱり可愛いもんなのか?」
「可愛い? 見た目の話ならイエスだが」
…今の言い方だと内面に難あり、といったところか。
というか外見だけでも可愛いとか言っちゃってる時点でこいつシスコンなのかなという疑惑が若干浮上してきた。
しかし、俺が聞いたニュアンスは通じていないみたいだ。
「そうじゃなくてだな。俺が聞きたいのは―――」
「まあ大体分かるよ。…小さい時は本当に可愛げのあるやつだったんだけどな。成長するにつれてどんどんクソガキ属性が付与されていく一方……」
…おや、晃平のようすが。
どうも地雷を踏んでしまったらしい。
晃平は強く語り始めた。
「そもそも兄弟が欲しいなんて言うやつの気持ちは分からん。特に妹なんていたって良いもんじゃない。絶対に」
それはお前のとこだけなんじゃなかろうかね…。
それとも兄弟がいるやつはみんなそうなのだろうか。
「おうおうなんだ霧生、妹の話か?」
「起きたか白瀬。帰りまで寝てりゃ良かったのに」
「お前、浩太の扱い雑だよな…」
しかし晃平と浩太のこういうやり取りは、なぜか見ていて飽きない。
なんだかんだ仲がいいのが伝わってくるからだろうか。
「いや竹内よ。妹はいいぞ、うん。俺にもいとこがいてさ、もうほぼ妹みたいなもんだけど、あれは可愛いぞ」
「…お前の『可愛い』いろんな意味が含まれてそうでなんか怖いな」
「霧生は妹のありがたみが分かってないんだよ。俺はたまに美保が本当に妹だったらいいのにな、とか考えてるんだぞ。あ、美保っていうんだよ俺のいとこ」
補足して説明を足す浩太。
しかし、いとこってことは親の兄弟の娘ってことか…一応血つながってるんだよな。
それもう妹でよくね?
「俺はいつもいつも、妹モノのエロゲーとかやってて思うんだよ。ああ、世の中の兄貴たちはこんなにもおいしい思いを―――」
「絶対してない」
なんだろう、こいつの知識いろいろと間違ってるんじゃない?
妹に対する欲求がいろいろ抜き出ちゃってる気がするんだけど。
なおも白瀬の語りは止まらぬ。
「いとこっていう存在は気まずいんだよ。たとえば、妹ならスカートの中を心おきなく見られるが、いとこだとスカートの中を見ることに躊躇しちまうんだよな。やはり問題だと思うんだ」
「お前の考えがもう問題だろ…」
軽くため息をついて晃平が言った。
「やれやれ。いいか白瀬、世の中の兄貴の大半は妹のことを変な目で見たりしてないからな」
「えっ」
「……なんでそんな目で僕を見るんだよ?」
・・・・
やがて雅野が大声を出し始めた。
そろそろ到着するということなのだろう…バスの中なのにあんなに大きな声出す必要もない気がするけど。
「いやぁ、結構話したな。妹トーク」
「ほぼお前のエロ妄想だったけどな―――」
「そろそろ宿泊施設に到着する! 寝ている者は起こせ! 各自荷物を整えて、前から順番に降りること! いいな!」
晃平たちの会話を遮るように、雅野の声が響いた。
窓の外を見ると、ホテルらしき建物が近づくのが見えた。
……いよいよ、始まるな。
バス内での会話なんてまだまだ序の口、修学旅行はここからが本番だ。
俺は楽しむぞ、まだクラスに馴染めているとは言えないが、これをきっかけにすることもできるだろうし。
俺の今回の目標は『楽しむ』だということをここに宣言しておくとしよう。