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ごく普通の高校生の非日常  作者: 瀬川しろう(サイキック)
第二章
43/59

13 修学旅行の魔法


 Side:UZUKI


ついに修学旅行が始まった。そしてそれは同時に決戦の鐘がなったということを表している。

揺れるバスの中でオレは決心を固めていた。

俺がこの修学旅行で固める決心といえば、もう決まっている。


「オレは、今回こそ浅井と仲を深める」

「……はあ」


周りの席に座っている三人に、オレは決意を告げた。

そしたらこの反応だ。ねえなんか雑じゃないっすか?

オレの席は竹内の隣、そしてその竹内の隣には霧生、白瀬が座っている。

やはり一番後ろの席を取って正解だったようだな。


「突然何を言い出すのかと思ったら、またそれか。というかまだ諦めてなかったのか」

「諦めるなんて言葉は俺の辞書にゃあ存在しねぇ」


霧生にそう言ってのけた。

オレは夏休みに一度、浅井に思いの丈をぶつけた。

だが結果は特に進展無し…。

だからオレは、この修学旅行という大イベントで仲を深めようと試みているのだ。

霧生と白瀬はもはや動じる様子すら見せなかったが、一人だけノリノリで話を聞いてくれるやつがいた。


「ほー、俊介は浅井が好きなのか! それで詳しくはどうするつもりなんだ!?」


竹内はこれまでに見たことのない食いつきを見せた。

おお…あんまり興味持たれてもなんか恥ずかしいな…。あとあんまり大きい声で言わないでください。

それに、例のごとく詳しいことについてはまだ何も決めていない。

するとそのことを既に察していたのか、霧生が口を開いた。


「そういえば朝から白瀬がずっと言ってたな、ゲレンデマジックがどうとかって」

「ゲレンデマジック?」

「ああ、それか。確かに、うまくやれば仲を深められるかもしれないぜ」


ゲレンデマジックっていうと、雪景色みたいな普段とは違う状況に置かれた男女が恋に落ちやすくなる、みたいなあれのことか。

聞いたことはあるが、具体的にどういう状況でその魔法が発動するのかは全然分からん。

そこんところを白瀬に訊こうと思ったのだが…、


「まあ俺もよく分からんからな。それは自分で考えるしかねえよ」


先に予防線を張られてしまった。なんだよケチ!

内心で白瀬に文句を言っていると竹内が発言した。


「ゲレンデって言うからには、やっぱりスキー中に何かするべきなのかもな。かっこよく滑り倒すとか」

「倒れるんだ…」


ギャグ漫画的な展開しか想像つかないんだけど、それ。絶対恋には落ちないよね。物理的にも精神的にも転落する一方だよね。

それにスキーで上手く滑れる自信なんか全くないんだが…。


「…まあスキーが滑れるくらいで夏菜に好かれるなら、こんなに苦労はしてないわな」

「他人事だと思って簡単に言ってくれるな霧生」

「何を言う。これでも僕は考えている方だぞ。いいか、ゲレンデマジックとは言うが、今回は修学旅行がメインなんだ。だったらゲレンデじゃなくそっちに魔法を適用すればいい」

「待ってちょっと難しい」


なんでこいつは急に上級魔法使いみたいな感じで語りだしたの?

もしやベギラマとか使えるの?


「普段は何気ないような事でも、修学旅行中にしたというだけで印象はかなり違うもんだ。特に夏菜みたいなイベント大好き人間には効果も大きいかもしれない」

「ほう…何気ないような事、ってのはたとえば?」

「結局は会話しかないだろうな。要するに、諦めろ俊介」

「なんで!?」


うっそ、今完全に応援してくれてる流れだったよね?

まさか俺を諭すためにゲレンデマジックの話を持ち出したんじゃないだろうなこの鬼め…。


「なんでも何も…。お前ら、そもそも普段話とかしてるのか?」

「え? ……いや、まあ、そこそこ」


とは言ったが、実はほとんどと言っていいほど話さない。

席も離れているし、部活でも浅井はずっと集中しているから、話す機会というものがそもそも存在しないのだ。

機会がないなら作れ、と簡単に言う人もいるけれど、それができれば初めから苦労はしない。そこまでの勇気は持ち合わせていない。

だからこそ、オレはこの修学旅行というイベントの力を借りるのだ。


「普段話さないんなら、魔法も効果を持たない可能性が高いだろ。だから諦めろ、な」

「ね、ねえお前ガチで諦めさせようとしてない?」


そこまでされると俺もなんか怖いよ…。

身を引いた方が良いかな…とか一瞬思ってた可能性もあったよ。

俺のそんな様子を見かねてか、白瀬がフォローに入った。


「まあまあ霧生。逆の可能性もあるだろ。普段話さないやつが修学旅行で急に話しかけて来たら……俺なら気になっちまうと思うけどな」

「そんなもんか?」

「そんなもんだよ。な、だからやるだけやってみろよ俊介。ゲレンデマジックならぬ修学旅行マジックを発動させるんだ」

「お、おお。そうだな! なんかやる気が出てきたぜ…!」


白瀬の言うとおりだ。まずは相手にオレという存在を意識させないと駄目なんだ。

そのためには、やはり話しかけないといけない。

結局どうあがいてもこの過程をサボることはできないのだ。


「…でも、お前らが普段会話とかしないんなら、どういう会話をすればいいんだろうな?」

「さあ? それはもう俊介が考える問題だろ。頑張れよ」


竹内がオレの肩をポンと叩く。

あれ、これから先のことも一緒に考えてくれるもんだと思ってたんだけど…そんなに甘くは無かったか…。

…いや、思えば俺はこいつらに頼り過ぎていたかもしれない。

夏休みの告白だって霧生に感化されてやったことだし…一度くらいは俺の意思で動いてみても罰は当たらないんじゃないか。


「よし…見てろよお前ら。オレは絶対に浅井との仲を深めてみせるからな!」

「…ああ。決意は分かったけど、声がデカいぞ。聞こえてるんじゃないか」

「…しまった」


霧生に言われ、慌てて辺りを見渡してみる。

……こっちを見ているやつはいないな……たぶん大丈夫だろう。

…よし、旅館についたその時からが、オレの勝負の始まりだな!

再び決意を固め、作戦が決まってきたあたりで、突然睡魔が襲ってきた。

昨日は緊張して全然眠れなかったからな…まあ大体の悩みは解決したし、着くまでのんびり寝るとしよう。

俺は背もたれに体を預けると、そっと目を閉じた。





 ・・・・





意識が朦朧とする中で、バス内に声が響いた。

学級委員長の雅野佐助の声だった。


「バスはそろそろ昼食をとるためのレストランに到着する! 全員、降りる準備を整えること! 寝ている者は起こせ! 白瀬、ゲームはやめろ!」

「へいよ」


注意された白瀬はしぶしぶゲームを手さげにしまった。

やがて少し大きめのホテルが見えてきた。

なるほど、あそこか…。

バスが停止すると、雅野が先導して降りた。


「では、前の席の者から順番に降りるように」

「転ばないようにねー」


市橋も雅野に続いて降りると、相田、そして前の方から生徒が降り始める。

やがてオレたちの順番がやってきた。

いつの間にか、友達と笑顔で喋りながらバスを降りる浅井を目で追いながら、オレはゆっくりと立ち上がった。


「…よし」















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