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ごく普通の高校生の非日常  作者: 瀬川しろう(サイキック)
第二章
42/59

12 それぞれの想いを

時に人はある物事を隠したい際に、過度のことをする傾向にある。

もう少し簡単に言えば、小さなことのために大きな代償を支払うということだ。

たとえば、ついさっきもタクシーに乗って学校へ向かううちの生徒を見かけた。

僕たちはまだ時間に余裕があるが、修学旅行へ行かない下級生たちからすればこの時間帯は遅刻するかどうかの瀬戸際となる時間帯だ。

もしかしたらさっきの学生も遅刻を避けるためにタクシーを使ったのかもしれない。


「どうした道路ばっか見て。俺たちもタクシー使うか?」

「あいにくそんな金は無いな」


修学旅行もいよいよ当日。とはいえ違うのは時間帯と鞄くらいで、僕はいつも通り白瀬とともに登校していた。


「だがよ霧生、俺は本当に…本当にこの時を待ってたんだ!」

「タクシーに乗って学校に行くことか?」

「ちげーよ。聞いたことあるだろ? ゲレンデマジックってやつだよ」

「なんだよそれ…」





 ・・・・



 Side:TAKEUCHI


「うーー……さみぃ」


誰にともなく呟き、学校のグラウンドで一人うずくまる。

学校に一人でいる理由はカンタン、単に登校するのが早すぎたのだ。

修学旅行前日は緊張で眠れないかと思ってたのだが、昨日はかなりぐっすり眠れ、おまけに目覚めるのもかなり早かった。

そうなれば当然いつもより早く家を出ることにはなってしまう。

しかし早く来ても誰もいないもんだな…もうちょっとゆっくり来れば良かったな。


「……暇だなぁ」


意味もなく空を見上げる。学校のグラウンドに暇を潰せるようなものは無く、突っ立っていることしかできない。

しかも今のところこの場にいるのは、俺と数人の生徒だけだ。先生すらほとんど来ていない。


「む? 君は竹内だな」

「雅野?」


後ろから声をかけられたので振り向くと雅野が立っていた。

何やらメガホンみたいなものを持っている。


「それは?」

「む、これか。我々は生徒に呼びかけをしなければならないからな」


そういうもんなのか。そういえば今ここにいるやつのほとんどがメガホンを持ってるな。

まだ生徒が全然いないというのに、学級委員も大変だな。


「普段から遅刻が多い君にしては早いな、何かあったのか?」

「俺が早く来ちゃ悪いかよ」

「いや、遅刻は内申に響くからな。普段から遅刻はしないように気を付けるんだぞ」

「へいへい」


俺に注意をすると雅野は立ち去った。時計を見てみるが、まだまだ時間はあるな。

もう少し雅野に居てもらっても良かったんだがねぇ…。

それでも何かないものかと辺りを見渡してみると、


「ん?」


一人の女子生徒を見つけた。なんだろあの子、見覚えがあるぞ。

確か同じクラスの……鮎川さんだ。たまに晃平たちとつるんでるのを見かける。

ずっと突っ立っているが、彼女も一人なんだろうか。

気付くと俺は鮎川さんのそばまで歩み寄っていた。


「えっと、鮎川さん」

「……」


無視されちゃった☆

確かに俺との絡みはほとんど無いけど、やっぱり傷つくな。

だが俺はめげない! やっと現れたこの暇つぶしの神をなんとしてもものにしてみせる!


「あー、鮎川さん」

「……えっ」


どうやら無視したんじゃなくて聞こえなかっただけのようだ。

いやまあ、無視をするような子には見えないけどさ。

考え事でもしていたんだろうな。


「おはよう。早いんだな」

「えっと……竹内くんだっけ。私はいつもこんな感じだよ」

「いつも早いのか。何やってるんだ? そんな早くに」

「うーん……まあ、予習とか。そんな感じ、かな」


予習…。そんなことができる人間っているんですね、都市伝説かと思っていました。


「竹内くんこそ、いつもは遅刻してるのに、今日は早いんだね」

「はは…」


何、みんな俺が遅刻して当然みたいな感じで俺のこと見てるの?

それならもはや毎日遅刻してこようかなとすら思うんだけど。



「ところで……。竹内くんって、霧生くんとよく一緒にいるよね」

「ああ。まあ俺はあいつの唯一の親友だからな!」

「そうなんだ」


あれ、ちょっとボケたつもりだったんだけど分かりづからかったかな?


「竹内くんはさ、霧生くんのことどう思ってる?」

「えっ、どうって…何が?」

「親友として、何か見てて思うこととか、あるのかな…って。ちょっと気になって」


それにしても突然な話題転換だな。

もしかしたら、霧生のこと好きなのかなこの子。

普段の俺ならあることないことを言って霧生の株を下げてやるところだが、俺も鬼じゃあない。

霧生のいいところを並べ立ててやるとするか。


「いいやつだよ。口は悪いが割といろいろ考えてるところもあるし、だいたい誰に対しても平等なやつだ。信頼はできるやつだと思う。口は悪いけど」


どうだ霧生。お前のいいところだけを並べ立ててやったぞ。

しかしそれを聞いても鮎川さんはクスリとも笑わなかった。


「そっか…。やっぱり霧生くんはいい人だね」

「ああ。いいやつだな」


気になった。なぜこの子は霧生のことについて尋ねてきたのだろう。

この子と霧生との間に何かあったのか?

ふと俺は鮎川さんに訊いてしまった。


「好きなのか? 霧生のこと」

「……」


鮎川さんは少しの間目を閉じ、軽く微笑みながらこう答えた。


「そんなんじゃ、なかったみたい…」




 ・・・・



 Side:KIRYU


「つまりだな、普段とは違う状況に置かれることで、あっこの人素敵!みたいなことになるってことなんだよ」

「もうゲレンデマジックの話はいいって…」


学校ももう近くなってきたという頃、白瀬は未だにゲレンデマジックについて語っていた。

ただでさえ恋愛が発展しやすい修学旅行というイベントに加えてゲレンデマジックとくれば、この男がバカ騒ぎするのも納得がいかない話ではないが、そろそろ鬱陶しいんですけど。


「とにかく! 今しかないんだよ。この修学旅行で俺はヤッホイするしかないんだよ」

「なんだよヤッホイって…」


この調子じゃおそらく今度も何も起こらないだろうな、こいつには。

信号が青になったタイミングで白瀬が話題を変えた。

 

「ところでお前。鮎川とはどうなってるんだ?」

「どうなってる? また変なおせっかいの話か」

「いやそうじゃなくて、単純に気になったんだよ。お前ら、最近一緒にいるところあんまり見ないからな」

「…」


何も言い返すことができなかった。確かにそうだ。

みなみとは二人きりで会うということがまるでない。

最近は部活も活発になってきたし、仕方のないことじゃないかと僕は思うが…。


「倦怠期ってやつかね? 文化祭からまだそんなに経ってないのに、大丈夫か?」

「さあな」

「さあな、って。付き合いたての男女って嫌でも一緒に帰ったりとかするもんだと思ってたんだが、お前らそれすらもほとんど無いだろ?」

「僕にも分からないんだよ、何をすればいいのか、とかは全く。だからみなみに任せようかと思ってるんだ…みなみの性格を考えるとそれも難しくてな」

「…霧生、気を付けたほうがいいかもしれないぜ」


白瀬は少し重たい口調になった。


「修学旅行みたいなデカいイベントには必ず何かが起こるんだよ。イベント中にボルテージが上がって、その勢いで!みたいな感じだ。まあそれが進展か後転かは俺にも分からないけどな」

「何が言いたいんだ?」

「そうだな…。お前、鮎川が何を思ってるか分かるか?」

「分からない」


そう即答した。だって本当に分からないのだから、そう答えるしかなかった。

僕たちは恋人同士なのに互いを分かり合えていない。

互いを知るべきだと言った張本人がそれを実行できていないのだ。

白瀬はいつになく優しい声で僕に言った。


「…ま、そういうことだ。気を付けとけよ、旅行中に何が起こるか分からないぜ」

「…」


僕はしばらくの間、先を歩く白瀬の背中を眺めていることしかできなかった。



 

 ・・・・




校門を過ぎ、グラウンドが見えてきたところで白瀬が指を差した。


「おい霧生、竹内がもう来てるぞ」

「何?」


そんなはずがないだろう、と思いながらグラウンドに目をやると、確かに耕也の姿があった。

なんか一人でグラウンドに座り込んでいる。

なんだろう、さみしいやつだな。そう思って耕也に近づき声をかけた。


「おはよう。お前にしちゃ早いな」

「……晃平か。遅かったな、待ちくたびれたぜ」


ゲームのダンジョンボスのように言う耕也。

僕たちが来た時間はまだ集合完了時間の二十分前だが…そんなに早くから来てたのかこいつは。

同じことを思ったのか、横から白瀬が茶化す。


「しかし珍しいな竹内! いつも遅刻してるのに―――」

「やかましい! どいつもこいつも…俺が早いのがそんなに珍しいか!?」

「なんでそんなキレんの!?」


この反応からしてよほどいろいろなやつにそのことを言われたんだろうな。

良かった、僕が言わなくて。


「…まあ、でもお前らが来てよかったよ。暇でしょうがなかったんだ」

「そうだろうな」


一人でしゃがんで砂に絵を描いてる高校生なんて、そうはいないからな。

どれだけ暇だったのかそれだけでもう分かる。

集合時間も近づいてきた…もうすぐ修学旅行が始まると考えると、期待が高まる。

しかしそれと同時に謎の不安感が押し寄せてもいた。





 ・・・・



 Side:AONO


あと十分…よりちょっと少ないぐらい、か。

まあ余裕だね。

私の家は少し遠いけど、いつも早めに家を出てるから問題なし!

スキーかあ…ちゃんと滑れるかなあ。雪だるま作ってるだけじゃ駄目かなあ。

そんなことを考えながら私は学校に向かっていた。


「……?」


何か落ちてる。うちの学校の…生徒手帳かな?

白井しらいさん?って人のみたいだねぇ…なぜか下の名前は書かれてないけど。

相当面倒くさがりな人みたい、他には学年しか書かれてないし。

落とし物っぽいし、学校に持って行った方がいいよね、たぶん。

私は生徒手帳を制服のポケットに入れ、学校に向かった。





 ・・・・



 Side:KIRYU


だんだんと人も集まってきて、グラウンドは賑わいを見せ始めた。

どうやら来ていないのはあと五,六人らしい。


「むぅ……まだなのか、残りの生徒は」

「まあまあ、雅野くん。ちょっとくらい遅れても多めに見てあげようよ」

「事故にでも遭っていなければいいが…」


篠原と雅野など、生徒会のやつがいろいろと話を始めている。

ちなみに来ていない生徒の中には夏菜も含まれていた。

何をやってるんだあいつは…。


「あ、夏菜来たよー」


優がそう言うと、その場にいた全員が後ろを振り向いた。


「遅いぞ、浅井!」

「ごめんごめんっ。いやー、途中で走ってたら疲れちゃって」

「ならば、もう少し余裕をもって家を出ろ! ……まあいい、まだ先生は全員集まってない。今のうちに並んでおけ」

「はぁい」


夏菜は一礼すると、僕たちのもとへ駆けてきた。


「ふぅ……ギリギリセーフだね!」

「アウトだよ」


冷静に突っ込みを入れた。


「まあまあ、私だけじゃないでしょ? まだ来てないの。だからセーフ!」

「何だよその理論…」

「いやあ、いつもなら違反者は先生に突き出しちゃう雅野くんが見逃してくれたんだよっ。あと少し遅かったら私も怒られてたってことじゃん、いやぁ助かったっ」


確かに雅野が遅刻を見逃すなんて珍しいな、いつもは耕也にずっと怒ってるイメージだったのに。

いや、それほど修学旅行というイベントがいつもと規模が違うということなのだろう。

雅野も実は緊張とかしているのかもしれないな。


「では実行委員長の篠原さんに注意事項を話してもらいます」

「はい」


生徒が全員そろったところで、先生が篠原を指名する。

実行委員長まで務めないといけないとは、生徒会長というのもなかなか大変だろう。


「えー、では説明します―――」




 ・・・・




「では、各自荷物をバスに詰め込んで乗ってください。なお行動は迅速に行うように。では一組から」


雅野がそう言うと一組の生徒が移動を始めた。

うちの高校はクラスが少ないから、バスも少なくて済む。

たまにほかの高校のバスとか見てるけど、あれかなり多いよね。絶対途中ではぐれるよね。

さて、そろそろ僕たちの番か。


「よし霧生。俺たちも行こうぜ」

「そうだな」


白瀬にそそのかされ僕たちも移動を始める。

荷物をバスの荷物庫に乗せ、僕たちもバスに乗り込んだ。

中で雅野と市橋が点呼を取っている。


「まだ乗り込んでいない者はいるか」

「大丈夫、もう全員乗ったみたいだよ」

「分かった。相田先生、全員乗ったようです」

「あい」


こんな時でもいつものようにやる気のない返事をする相田。

いや、教師からしてみれば修学旅行は大変なイベントなのかもしれないが。

やがてバスのエンジンがかかった。

この音が何よりも、今から修学旅行が始まるのだということを感じさせてくれた。
















耕也「ついに修学旅行か! いいな、楽しみだ!」


耕也「このワクワク感たるや、さすがは高校生活最大のイベントだな!」


耕也「修学旅行中に何か厄介ごとでも起こらないことを願うぜ!」


耕也「……さみしいな」




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