表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ごく普通の高校生の非日常  作者: 瀬川しろう(サイキック)
第二章
41/59

11 ぼくらのたたかい ~灯台もと暗し~

そういえば…あの部屋は。

今更思い出すとは…。


「鍵…」

「鍵? まあ確かにあのゲーム、ロックかけてないからコピーされちゃったら終わりだね」

「いやそうじゃなくて。部室の鍵だよ」


冗談で言っているのか天然で言っているのか、夏菜ちゃんの言うことはよく分かりませんね。


「僕が部室に行ったとき、鍵が掛かってなかったんだ」

「マジかよそれ。じゃあ霧生が部室に行く前に誰かが鍵を開けて、閉め忘れてたってことか?」

「ああ。そしておそらくそいつが犯人だ。そして鍵が開いていたっていうのは重要なヒントになる」

「? どういうこと?」


夏菜が分かってないような顔をする。

説明しようとすると、耕也が続きを話し始めた。


「晃平が言いたいのはだな。たとえば休み時間に盗みをして、そいつが鍵を開けっぱなしにしていたとするだろ? そしたらその部屋の鍵はどうなる?」

「…どうなるんだ?」

「授業中に教頭がよく徘徊しているのはお前らも見るだろ? あれは閉め忘れの教室とかの鍵を閉め直すためにやってるんだ」

「…なるほどな! つまり、もし犯行時刻が休み時間だったんなら、部室の鍵は教頭が閉めてしまってたってことか!」


そういうことだ。犯行時刻は教頭が徘徊を終える終礼後から僕が起きるまでのかなり短い間、ということになる。

ここで夏菜たちに質問をしてみる。


「夏菜たちは昼食は食堂で取ったのか?」

「うん、そうだけど…」

「じゃあ二組の生徒はどのくらいに食堂に来たか分かるか? それで終礼時刻の目安が分かる」

「うーん…差はあったけど、私たちが終礼してから五分後くらい?」


そのころには僕は部室のすぐそばまで来ている。つまり二組の生徒に犯行は不可能だ。ということは、犯人は二年三組の、帰っていないやつも含めた全員のうちの誰かということになる。

あまり同じクラスのやつを疑いたくはないが…。

それにこれ以上は絞りようがない。僕より早く部室へ来てゲームを盗る。修学旅行での係にもよるが、それは三組の人間なら誰でも可能だ。


「…そろそろ帰る? 早めに帰って寝といた方がいいかも。明日修学旅行だし」

「…そうだな」


頷いたり答えたり、全員が同意の意思を見せる。

どうやら今日は解散ということになったらしい。


「じゃあ、鍵閉めないとね」

「まったく…修学旅行前だっていうのにな」


確かにやり切れないだろうな。だが気持ちの切り替えも必要だ。

そうでなければ旅行を楽しむことはできないだろうしな…。

犯人もよくもこのタイミングで盗んでくれたものだ。


「ところで、戸締りできるのか? 鍵無いんだろ?」

「……そういえばそうだな。鍵も部屋のどこにもない」


白瀬の一言で再びざわつく。…犯人が持って帰ったのか? いや、さすがにそれはないだろう。鍵を持って帰るなんて自白するのも同然だ。さらに夏菜も思い出したように発言した。


「……ねぇ? 部室の鍵ってさ、部員にしか貸出さないんじゃない? それこそ盗難とかを防ぐためにさ」

「……そういえばそうだな」


夏菜の言うことは的を得ていた。生徒会が部員以外に鍵を貸し出すなんて…そんな無責任なことするはずがない。おかしい、ゲー研部員の他の誰にも犯行は不可能ということになる。


「いやでも、誰が部員かなんて覚えてないんじゃないか?」

「そうでもないぞ。部活動生の名簿とかはあるはずだ、それと生徒手帳を示し合わせばすぐに分かる。そんなに面倒な作業でもないし、そういう確認をしてても全く不思議じゃない」

「えっ。…てことは、ゲー研の部員の中に犯人が?」


優が呟いた。この子はお馬鹿なの?

真のラスボスが味方陣営にいたみたいな展開は無いよ?

それと、夏菜の話を聞いて思いついたことがある。


「…生徒会役員が犯人の可能性が出てきたな。それならいちいち許可を取らなくても鍵を使えるし」

「じゃあ、生徒会役員で二年三組のやつが犯人ってことか!」

「でもうちのクラスに生徒会なんているのか?」


耕也が不思議そうに言うと、優が付け加えた。


「あ、学級委員とかもたまに生徒会室にいるの見るよ。雅野くんとかももしかしたらそうなんじゃない?」

「ああ。学級委員とか図書委員なども生徒会役員ではある。特にクラスの代表である学級委員なら生徒会室の出入りも自由なはずだ」


つまり、雅野佐助 か 市橋まり。

この二人のどちらかが犯人であると、そういうことだ。


「消去法で行くなら市橋っぽいけどなぁ」

「でもまりちゃんそんなことしないと思うけど…」

「こればっかりは、行って確かめるしかない」


僕たちは真相を確かめるべく生徒会室へ向かった。

その道中で白瀬が言った。


「だがそのどっちかが犯人だとすると、なんでエロゲーを盗ったりしたんだ? 二人とも縁遠そうだけど」

「その理由も割と見当はついてる」

「マジか霧生?」

「ああ。もし犯人が雅野だとしたら大体のつじつまが合う」

「雅野くんが?」

「そうだ。確か夏菜がさっき言ってたよな、タバコを吸ってる生徒がいたって」

「うん。でも一組の人だよ」

「いやそれは関係ない、問題は雅野だからな。雅野の性格を考えてみろ。そんなことに関して黙ってるはずがないだろ? 隠れてタバコを吸ってるやつが他にもいないか調べるために、全部室の鍵を持って校舎の徘徊をしてたんじゃないか…と」

「じゃあ霧生が部室に行く前に、雅野がゲー研の部室に入って、やつはエロゲーを見つけ、急いで生徒会室へ持って行き、違反物として提出したってことか」

「ああ、鍵を閉め忘れてな」


僕が話を終えると耕也はハッと何かに気付いた様子だった。


「…そういえばあいつ。さっきゲー研に話があるとか言ってたんだけど…もしかして」

「エロゲーに関しての説教かもな」


話してるうちに生徒会室へ着いてしまった。

躊躇っても仕方がない、とっとと入ってしまおう。

そう思って生徒会室の扉を開いた。


「失礼しま―――」

「来たなゲーム研究部。全員揃って来るとはいい度胸だ」


いつにもまして剣幕の強さが増しているなぁ…これは少しだけお怒りのようだ。

雅野の手には僕の予想通りエロゲーが握られていた。

てか何この異様なラスボス感。


「こんないかがわしいものを学校に持ち運ぶとは生徒としてあるまじき行為! いかんせん許し難い! ええい許せん!」

「全然会話になってないな…」

「雅野くんっ」


夏菜が僕の前に飛び出した。

雅野が夏菜を睨みつけるのに対し、少女はいつも通りの笑顔で言う。


「えっとね、それは私たちが作ったんだよ」

「…何?」

「私たちが作ったゲームです」

「………これを作ったというのか?」

「うん」


信じてもらえなければ再び説教が始まる。

早く帰れるか否かの心配をしていたが、その必要無かったようだ。

少し間を開けて、雅野は大きな声で言った。


「すごいな!」

「え?」

「いや、実のところ先ほど、篠原及び他のメンバー一同とこれを見ていたのだ。実売品かと思って見ていたのだが、まさか我が校の生徒が作っていたとは。なんというハイクオリティというべきことか!」


褒めても結局言葉はおかしくなるんだな。

てか生徒会室でエロゲー鑑賞ってそれなんてエロゲ?

それにしても、そんなに出来が良かったのか、あのゲーム。それなら文化祭にも展示できるかもしれないな。


「うむ、そういうことなら、今回は返してやる。次からは無造作に置かないようにしておけ」


雅野はいつも通り厳格な声でそう言い放ち、ゲームを夏菜に手渡した。

いつも仏頂面のやつといつも笑顔のやつの絡み…なんか新鮮だな。


「あと竹内」

「何だよ、何か用か?」

「何か用か?だと。君への用はまだ済んでいないぞ」

「…え」


捕まったな。


「廊下を走った罰だ。反省文を明日までに提出、いいな?」

「おいおいマジか!」


廊下を走っただけで反省文書かされるのか…ちとやりすぎだと思うが。

僕も廊下は走らないようにしよう…。

とりあえず、ゲームが戻ってきてよかった。

これですっきりした状態で明日からの修学旅行に臨むことができる。

高校生活最大のイベントがどんな風に楽しませてくれるか、今から期待が高まっていた。
















評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ