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ごく普通の高校生の非日常  作者: 瀬川しろう(サイキック)
第一章
4/59

3  視線の先にあるもの

来客に対する対応は大体どこの誰でも同じようなものだ。

知らない人間が訪ねて来て「何奴」と言うやつは基本的にはいない。

いやいないとは言い切れないけど、いたらいたでそれはちょっとやばくないですか。

本日は日曜日、本日も来客がやってくる、そして本日も妹には何も言っていない。


「・・なんで言い忘れるかな」


自分に問いかける。そりゃあ訪ねてくるのは僕の友人なんだから華音の許可なんかいらないだろうとは思う。

だがそういうわけにもいかない。

それは妹が絶対権力者とかいう以前に、少なからず同じ家に住んでいる者同士、払わなければならない礼儀だからだ。

これは礼儀だ、礼儀なんだ。だから聞かないといけない、だから耐えろ。

テレビを見ている妹にそれとなく聞いてみる。


「華音」

「んー?」


華音はこちらに顔も向けず答える。

この野郎、僕が礼儀を払っているというのに。


「今日、僕の友達が来るんだけどいいか? ダメなら出て行くが」

「別にダメじゃないけど。ていうか、何でいちいち聞いてくるの?」


聞かなかったら聞かなかったで『勝手に入れないでよ』とか言うよね?

ともあれ、許可は下りた。これで友人を招き入れることができる。


「別に。こっちも一応礼儀としてだな」

「ふぅん。じゃあ私も言っとく。今日私の友達も来るから、下には降りてこないでね」


・・・今何て?


「え、下って・・一階に降りてくんなってこと?」

「え? そうだけど」


何言ってんのとばかりに妹はこちらに振り向く。

いやそんな当たり前じゃんみたいな感じで言われても傷つくんだが。


「・・・分かったよ。まあ降りてくる用事もないしな」

「ん。ていうかお兄ちゃん、美保と会ったんだ?」

「あ、ああ」


急な質問に言葉が詰まる。お前と違って素直な子だったよと言ってやりたい気持ちでいっぱいだったが抑える。


「昨日の帰りにばったりと会ってな」

「言ってた言ってた。あんまり似てないねって言われちゃった」


可愛らしく笑いながら華音は言う。

ねえなんでそんなに嬉しそうに言うの? 

そんなに僕と似てるのが嫌ですか。


「あ、そうだ。今のうちに買い物とか行ってくるね。留守番よろしく」

「買い物? もう昼になるぞ」


「お菓子とかあったほうがいいじゃん? じゃね」

妹はそのまま玄関へ駆けて行った。あいつ財布持ってんのか?




 ・・・・




華音が出て行ってから十数分が経った。

インターホンが鳴ったのはその時だった。

相手を確認すると玄関の扉を開く。


「よ、霧生」

「早いな。来るのは昼過ぎだったはずだが」

「まあまあ、ちゃんとお昼ご飯は持参してきたからっ」


言うと白瀬と夏菜は何か入ったレジ袋を見せる。

コンビニか何かで買ってきたのか。


「ん? 霧生、一人なのか?」

「まあな。とりあえず入れよ」


僕が指で促すと、二人は靴を脱ぎ始めた。

階段を上がり、僕の部屋に向かっていく途中でまたしても、



 ピンポーン



インターホンが鳴った。

また客か? 何なんだこの客ラッシュは。


「出なくていいのか霧生」

「いや出る。・・そうだな、先に部屋に行っててくれ」

「おう、その部屋だな?」


白瀬が二つ先の扉を指差したので、僕は頷き、踵を返した。




 ・・・・




「あ、こんにちは」


扉を開け立っていたのはまたも見覚えのある顔。

神木美保だった。


「こんちは、えっと・・・」


なんて呼べばいいんだろう。名前を呼ばないのは失礼だろうし、

かといって年頃の女の子を下の名前で呼び捨てで読んだら変に思われないだろうか。

かといって名字で呼ぶのもなんか変だし。

かといって華音の友達とかそんな呼び方もやはり失礼だろうし。

そんな僕の葛藤を知ってか知らずか、彼女は笑顔で言った。


「あ、よければ美保って呼んでください。おにいからもそう呼ばれてるので」

「おにいって・・ああ、白瀬か。・・じゃあそう呼ばせてもらおうかな」


気づかいのできる良い娘さんだ。いいお嫁さんになれるよ。

下の名前で呼べてラッキーとか全然そんなことは思ってない決して。


「あの、華音いますか?」

「いや今は出かけてる。とりあえず入って待っててくれ、すぐに帰ってくるだろ」

「はい、おじゃまします」



 ・・・・



美保をリビングに通す。

華音の発言から考えても、この部屋で遊ぶつもりなのだろう。


「その辺に座っててくれ、お茶でもいいか」

「はい、いただきます」


遠慮をしないあたりが逆に好印象だ。

こっちの気遣いに答えるのが礼儀だという考えを持っているのだろう。

昨日のことといい、美保からは育ちの良さが伺える。

美保に麦茶を差し出す。


「ありがとうございます」

「いえいえ」


ま、客に対する対応としては、こんなもんだろう。

我ながら上出来である。


「というか、いつもそういう格好なの?」

「あ、はい。こういう服が気に入ってるので」


美保の服装はTシャツ一枚にミニスカートというものだった。

若い娘って露出が多い服を好む傾向にあるな。これも思春期特有の症状なのだろうか。

特に意味もないが会話を続ける。


「華音も似たような格好をすることが多いな。風邪をひかないか少し気になってるが」


風邪ひいちまえばいいのに。そしたら精一杯看病して、治った後の立場を逆転させてやるのに。


「夏場は大丈夫ですけど、冬だと風引いちゃうかもしれませんね」

「まあ冬は、さすがにあいつもコートやらマフラーに身を包んでるけどな」

「そうですね、私も冬はミニスカートだけじゃ寒いので、コートとかは着てます」


ミニスカートは絶対なの?

これから来訪してくるたびミニスカートだというのならやめてもらいたいものだ。

絶対見てしまう。

今でさえそうである。

ちょうど向かい合っているこの現状では、スカートの奥の白い布など見るのはたやすいことだ。

いやもちろん、極力見ないようにはしているつもりですよ?

でもどうしても目がいくんです。男だししょうがないよね。

次に来る時はぜひとも超ロングスカートでご来訪願いたい。


「ただいまー」


華音が買い物袋を持って扉を開けた。

やっと帰ってきたか。


「あ、華音・・」

「あれ、美保もう来ちゃってたんだ。ごめんね、待たせちゃった?」


華音が帰ってくると、二人は急に話を始めた。

・・邪魔しない方がいいか。

僕はそっと部屋を出た。




 ・・・・




自分の部屋に戻ると白瀬たちはゲームをしていた。

いや、まあ分かっていたよ、こうなることは。

勉強をしているはずがないとは思っていたよ。

白瀬が僕に気付く。


「お、遅かったな霧生」

「まあ、いろいろあってな」

「お客さん誰だったの?」


興味ありげに聞いてくる夏菜。

そこまで興味を持つようなことじゃないと思うが。


「華音の友達だよ」

「へぇ、華音ちゃんの。小学校の時以来あんまり話してないなー」

「そう、だったか」


そういえばそうか。

中学の卒業式の時に少し話しているのは見たが、それ以降はあまり見ていないな。

別に仲が悪いとかそういうわけではないんだろう。


「ねえ華音ちゃんて、今どんな?」

「別に変わってない。お前が最後に話した時のまんまだと思うぞ」


変わったのは僕に嫌がらせするようになったくらい。

あの時の純真無垢な君がお兄ちゃんは大好きでした。


「へぇ、華音ちゃん会いたいなー」

「はいはい、華音のことはいいから。お前らここに集まった目的忘れるなよ」

「はいはーい、勉強しますよっ」


機嫌が良さそうに、夏菜はノートを広げた。




 ・・・・




あいつらが帰ったのはそれから数時間後のことだ。

結局のところあまり勉強はしなかったのだが・・、別に今からそんなに気を詰めることはあるまい。

昨日勉強できただけでも大したものだと思う。

リビングでは華音がノートに向かって唸っていた。

美保は・・帰ったのか。


「美保はもう帰ったのか?」

「え、あ、うん」


そう言ったかと思うと、華音はパタとノートを閉じた。

直後に僕に訝しげな視線を送る。


「? 何、お兄ちゃん美保のこと呼び捨て?」

「いや、美保がそう呼んでくれって言ってたもんだから」

「そ。あ、そういえば美保が言ってたよ。客のもてなしが上手だって」

「あ、ああ、そうなのか」


なんかすげえ上から語られてる感じが否めないが、褒められると嬉しいものだ。

次に客が来たときにはもっと精進せねば。


「・・・でも、脚のあたりをじっと見られてたのはちょっと恥ずかしかったって」

「・・・・・・・」


妹の表情は笑顔だった。

なのにこのときほど、妹の視線が痛いと思ったことはなかった。





 














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