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ごく普通の高校生の非日常  作者: 瀬川しろう(サイキック)
第二章
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6  ゲーム計画

部費の件があった翌日、さっそくゲーム研究部の活動が再開した。

新たな部員も加わり、部長の夏菜はかなり気合を入れている様子だった。


「さ、いよいよ今日から本格的に始動するよ!」


いつものように大きな声で言う。

広くない部屋だ、そんなにデカい声を出さなくても皆聞こえてる。


「はりきってるね夏菜」

「そりゃー、久々だしねっ」


そう言う夏菜だったが、おそらく理由はそれだけじゃないだろう。

早めに制作に踏み切らないと、前回の文化祭の二の舞になるかもしれないという考えがあるに違いない。

うちの文化祭は来客も多いこともあってか、文化祭でどんなことをするかが部活動の勧誘に間接的につながって行く。

それを考えると、やはり僕たちがゲームを作らなかったのは痛かったのかもしれない。


「この部って、ゲーム作らないといけないんだっけ?」

「ああ。先輩から引き継いだ伝統みたいなものだからな」

「まあ浅井は問題ないだろうし、俺と霧生も大体ゲームの構成は決まってるけど、竹内と青野はどうするんだ?」


白瀬が耕也と優に向かって訊ねる。

さらっと俊介がスルーされてることに誰も何も言わないけど大丈夫なんですかね。


「うーん………私は別に何でもいいんだけど」

「何でもいいじゃ駄目だよ。来年の文化祭に出すんだから」

「そうなの? あれ、でも今年は出て無かったよね?」


その件に関しては触れないでいただきたい。


「うん、じゃあこうしよ。今日の活動は、構成が決まってる人は画面配置とかそんなのを決めて、決まってない人はどんなのにするか決める、ってことで」


夏菜が仕切る様子というのは、なんだか新鮮な気分だ。

というのも、夏菜は昔から何かと仕切りたがりなところがあったのだが、

キャンプや合宿のときみたいに最近は優が仕切っていることが多い。

仕切っている夏菜はどこなく生き生きとしているようにも見えるな。


「夏菜はどんな風にするの?」

「ふっふっふ。それは言っちゃいけないのだよワトソンくん」


なぜ言っちゃいけないのかという追及は面倒だからしないとして、早いとこ取り掛かった方が良さそうだな。

時が経つのは自分が思っている以上に早いものだし。

ここまで何も言わなかった俊介が口を挟む。


「しかし、ゲームとか言われてもいきなりは考え付かないもんだぜ」

「そう? じゃあ、会議的なのを開いてみんなで話し合って決めよっか」


さっき言ったことをいきなり、しかも自分で撤回してしまうあたりが指導者には向いていないかもしれない。

しかし意気込みというか、そういうものは十分に伝わってくる。

全員でそれっぽい形に机を並べ席に着くと、案の定夏菜が指揮を執った。


「はい。では今から定例会議的な、なんかそんな会議を始めたいと思います」


聞いているだけでアホなんじゃないかと思ってしまうような内容だな…。

しかし誰も不思議に思っていない様子で夏菜の発言を黙って聞いていた。

マジかお前ら。


「じゃあとりあえず順番に、ゲームのアイデアを言ってください。その中から二つに絞り込むよ」


私言葉と敬語が混ざっているな。今は別に良いけど面接試験のときとかもうっかりしてそうで怖いよこの子。


「じゃ、白瀬くん」

「俺? うーん…………じゃ野球のゲームがいいかな」


長い間を置いて、白瀬はアイデアを絞り出した。

そういやこいつ、夏休み前もそんなことを言っていたな。

ふむ、またどうせ変なことを言うと思っていた僕からすればかなりいいと思う。

しかし夏菜はさらに詳しく問う。


「ふむふむ。具体的にはどんなの?」

「具体的に? ………まあ、普通の野球ゲームじゃ面白くないな。もっと何かあると良い」

「うんうん、たとえば?」

「たとえば、試合に勝ったらマネージャーが脱ぐとか」

「ほー……」


夏菜は肯定するでも否定するでもなくただ息を漏らした。

いかにも白瀬が言いそうなことだ。

そういやこれも夏休みの時に言っていたような気がする。

そしてなお驚くべきなのはこの場に居る誰も動じてはいないということ。


「なんか浮かんできたぞ。勝つたびに脱いでいって、最終的にはやってくれる!みたいな」


なにそれ。マネージャーは次の試合が来るまでずっと脱ぎっぱなしなの?

なんかいろいろな意味でまずくねそのゲーム。

さすがの夏菜も採用はしないだろうと思っていると、隣にいる優から賛成の意見が飛んだ。


「うーん、なるほど。男子ウケを狙ったわけだね。最終的にはやってくれるって言ってるけど、それってつまりエロゲーみたいになるってこと?」

「そうなるといいね」


まるで他人事であるかのように答える白瀬。

しかしその案はあまり容易ではなさそうなものだ。


「…根本的な質問だが、学校の文化祭でそんなもの展示できるのか?」


僕が思っていたことを耕也が代わりに訊ねてくれた。

文化祭には当然、近所の子供やお年寄りなんかも来るはずだ。

当然考慮しなければいけない問題だが…これに関しては考えていたのか夏菜が答えた。


「まあまあ。うちの文化祭のコンセプトは『生徒が思いのままに表現する』だから、実質問題は無いんじゃないかな」

「思いが過ぎる気がするんだが」


それちゃんとエロゲーにも適用されるんだろうか。

どうか変なことして部活動停止なんてことにならないことを祈ります。


「エロゲーっぽくなるってことはボイスとかも入るの?」

「別にいいんじゃないのか、やりすぎると本当に―――」

「分かってないな霧生。エロゲーはボイスがないと感じないだろ」

「野球がメインじゃねえんだなこれ…」


耕也が呆れたように呟く。いや全くその通りだ。

仮にこの案を採用するとしてボイスなんか入れて問題ないんだろうかね。

ともあれこれも一つの案には違いないという夏菜の寛容な意見により、この案は候補の一つと相成った。


「えと、次は私だったっけ。サッカーゲーム」


夏菜は立ち上がってそれだけ言うと、再び席に着いた。

……えっ、終わり?

えらく短い提案だったけども…まあ形が決まっているというのは良い事だな、うん。


「さあ次。優だね」

「んー…私が思うに、夏菜と白瀬くんのアイデアを足せば面白くなると思うんだよね」

「おお、それいいな。夢のコラボって感じで。別に俺はエロゲー要素さえあればいいし」

「いいね決定! じゃあ次は晃平」


今凄まじいスピードで決まらなかったですか。

おかしい、何で白瀬のときだけかなりしっかりと話し合いをしていたんだろう…いやそうせざるを得ない内容だったのには間違いないが。

正直まったく考えていないが、どうしたものか。


「? どうしたの?」

「……いや。じゃあ、勇者っぽいのが冒険に出る、みたいな王道なのはどうだ」

「……まあ、悪くは無いかな。じゃ次は俊介くん!」


絶対に今僕のアイデア流したよなこいつ。

ゲーマーにしてみれば僕が言ったのは王道すぎて駄目、ということなのか。


「うむ。まあオレは選択肢次第で展開が変わるゲームとか面白いと思うな」

「なるほどっ、ノベルゲームってやつだね」


夏菜の肯定的な意見を聞いて表情を明るくする俊介。

まあこんなことで好感度が上がったと勘違いしなければいいが。

最後は耕也の晩だったが、やはり特に何も考えてはいなかったらしく黙り込んでしまった。


「やっぱり悩ましいかな?」

「…まあな。どんなゲームが良いんだ?」

「そうだねー…さっきの白瀬くんの出男子ウケは問題ないから、次は女子ウケ狙いたいよね」


優がそう意見する。

確かに、エロゲーともなれば内容が少し不健全とはいえ、男子ウケは心配ないだろう。

しかし女子ウケとなると難しい。


「…よし、最終手段だ!」

「? 何する気なんだ」

「ちょっと参考にゲーム買いに行く」


耕也が唐突なことを言い出した。

参考にゲームを買いに行くって、簡単に言ってくれるな。


「…まあでも、買わないにしても見るくらいならいいんじゃないかな」

「そうかな? じゃあそうしよっか」

「よし。じゃ早いとこ行くか」


そう言って立ち上がる白瀬に僕は言った。


「いや白瀬は留守番だろ」

「え、なんでだよ」

「お前は構成決まってるわけだし、ゲームの設定とか詳しく練らないと駄目だ」

「あ、じゃあ私も残らないと」


夏菜が言う。まあ夏菜が居れば白瀬もサボることはあるまい。

残りの人間で部室を出る準備を始めていると、なぜか俊介も部屋に残ると言い出した。

なぜか、なんてさすがに白々しいか。

まあ単純に夏菜と白瀬を二人にしておきたくないだけなんだろうが……。

俊介の想いが果たしてあいつに届く日が来るのか、こいつらを見てるとどこか不安になってくるな。


















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