表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ごく普通の高校生の非日常  作者: 瀬川しろう(サイキック)
第二章
35/59

5  篠原会長の秘密

「えっ、あったの?」


生徒会室へ向かっている途中で、夏菜がそう言っているのが聞こえた。

あった、ってまさか鍵か? どこにあったんだろう。


「うん、ごめんね騒がせちゃって」

「あったなら良かったよー。どこにあったの?」

「机の下にあったって、大平くんが言ってたわ」


机の下…ねぇ。

ともあれ鍵が見つかったんなら、後は部費の件を済ませるのみだ。


「あ、霧生くん。ごめんねわざわざ探してくれたのに」

「いや別に良い。それよりも部費のことなんだが…」


僕の言葉が聞こえたのか生徒会室の奥から篠原が向かって来た。

手には紙を持っている。あれが予算表ってやつか。


「えっとゲーム研究部だったっけ? …んと、うん。まだ部費は渡してないっぽいから、先生に申請しておくね」

「ありがとう。じゃ行こっか晃平」

「ああ…」




 ・・・・




「というわけで、部費に関しては解決しましたっ」


部室に入るなり夏菜が全員に伝えた。

というかこいつらとっくに戻ってたのか、皆まだ探してるんじゃないかと思ってたのに。

部費の件を聞いて皆喜んでいたが、耕也だけは何かが気になっている様子だった。


「鍵はどこにあったのか、聞いたか?」

「ああ、机の下に転がってたそうだ」

「机の下……やっぱなんか変だな」


耕也が呟く。そうだ、やっぱりなんかおかしい。

気になったのか白瀬が不思議そうな顔をして耕也に訊ねた。


「何がおかしいんだ?」

「いや、机の下なんか真っ先に探しそうな場所なのにな、と思ってさ」

「あー、確かにそうかもしれないね」


まあ見つけそこなっていただけという可能性もあったが、あの時確かに生徒会室には無いと断言していたし、それはやはり考えにくい。

何かありそうな気はするが…白瀬がその話を打ち切った。


「ま、いいじゃんか。とりあえず、部費は確保できたんだし。それよりもゲームのアイデアとか考えた方が良いと思うぞ」

「そうそう。部費入るんだから、今まで以上に頑張ってもらわないとねっ」


元気いっぱいに言う夏菜だが、言ってることはかなりキツイぞ。

多少ブラックな企業に入社したみたいな気分だよ。


「あ、そういえば優は結局どうするの?」

「うーん……まあ、面白そうだし入ろっかな」

「やった! 確保!」


優に飛びつく夏菜。優、そんな簡単な気持ちで入ったら絶対後悔するよ?

そうならないためにも優に相当なクリエイティブ能力があることを祈るばかりだ。


「さ、今日は解散っ。明日から張り切っていこー!」


冬休み明けに新入部員が二人か…やれやれ、またにぎやかなことになりそうだ。

いっそみなみも入れてやったらどうかとも思ったが…まあ入らないか。


「…」




 ・・・・




「なあ晃平、お前何か分かったか」


帰り際、戸締りを確認していると耕也にそう訊かれた。

突然どうしたんだ、こいつ。


「分かったって何が」

「いや、さっき鍵が机の下に落ちてたって言ってたろ。やっぱりそれおかしい気がするんだ。なんか気になる」


やはり気になっていたのか。

…ふむ、どうしたもんかね。

なんとなくの見当は付いているがそれは単なる憶測にすぎないし…。


「もしかしたら今回の件、鍵は無くなってなかったんじゃないかと俺は思うんだ、どうだ晃平」

「…まあ、確かに。それなら急に机の下から見つかったってのも頷けるしな」

「これは事件の匂いだぜ。なあ晃平、何か分かってんなら教えてくれよ、何でもいいからさ」


目を輝かせ始める耕也。前にも思ったがこいつ、何かしらの謎解きが好きらしい。

話してもいいか、この場にはもう耕也しかいないからな。


「…一応言っておくが今からする話は他言無用だぞ」

「おうよ、まかせろ」

「僕は、鍵はずっと大平が持っていたんだと思う」

「大平?」

「そう考えれば納得がいくだろ。鍵があったって言ったのも大平らしいし」

「ほう。じゃあ大平はいつ篠原から鍵を盗ったんだ?」

「篠原は下校するまで鍵をブレザーのポケットに入れていたと言ってた。なら話は簡単、篠原がブレザーを脱いだ時に盗ればいい」

「ブレザーを脱いだ時って言うけど、篠原がいつ脱ぐかなんて分かんないと思うんだが」


確かにそれもそうだ。脱がない可能性だって十分にあるわけだしな。

そのあたりがはっきりとしていないうちは僕の論理は憶測に過ぎない。


「篠原がどんな格好だったか覚えてるか?」

「ああ、ブレザーは来てなかったが」

「もし篠原がいつもああしているとすれば、今日も脱ぐだろうと生徒会の人間なら予想できる」

「…なるほど。しかし脱いだところで篠原がその場にいたら盗れないんじゃないか?」


こいつ突っ込みどころをちゃんと見つけ出してくるな…。

真実が知りたいという好奇心故の行動なのだろうか。

話が早い分には助かるけど。


「実は、篠原は放課後に視聴覚室に用があってな、走って行っちまったらしい。その時なら鍵を取ることは可能だな」


鍵に紐をつけてたのはポケットのファスナーにでも結んで落ちないようにするためだろう。

ここから考えても落としたという可能性はかなり低そうだ。


「…大平は何のために鍵を盗ったんだろうな?」

「まあ普通に考えれば中の物を僕たちに見られたくなかった、ってところじゃないかと思う」

「大平は俺たちが今日生徒会室に行くって分かってたのかよ」

「ああ、その通りだ。実は昨日、狩村先輩が大平に伝えたらしい。つまり大平は『今日、僕たちが机の中を見に来ること』を知ってたんだよ」


大平は鍵を隠し、無くなったことにして僕たちを追い返そうとしたということだ。

僕たちをやり過ごした後で鍵を見つけたことにすれば事態は収束すると思い…いや、現に収束したな。

今日さえ机の中身を守り切れば、あとは次に僕たちが部費の交渉に来るまでに中身を移動させれば良いだけだしな。


「問題は大平が隠した机の中身だな」

「ああ、一年の書記からの情報からそれはなんとなく見当がついてる。おそらく『篠原が書いたエロ小説』だ」

「は?」


耕也はきょとんとした表情になる。

いや別に僕がそういう妄想をしてるわけじゃないよ…。

これに関しては文句は神谷くんに言ってもらいたい。

まあこのことは神谷くんの話から考えても生徒会の人間はほぼ知っていたようだったな、その中には大平も含まれていただろう」


「つまり、生徒会長の立場とか威厳を守るために、大平がエロ本を隠したってことか…」

「…だろうな」


生徒会長というより、篠原個人の、と言った方が正しいのかもしれない。

大平は良いやつらしい。

ならばそうしたのも考えられなくはないことだ。


「やー、人間の愛って深いもんだな」

「お前何も分かってないような気がするんだが」

「そんなことはねえよ」


耕也は苦笑しながら言う。愛なんて大げさなものじゃないだろう。

ただほんの少し相手を気遣った結果、ただそれだけのことじゃないかと思う。

ずいぶんと話し込んでしまった、夏菜たちも待っているかもしれないな。

戸締りを済ませ部室を出る。

すぐ傍の階段の下からは、おそらく生徒会のものであろう楽しそうな声が聞こえてきていた。



















評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ