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ごく普通の高校生の非日常  作者: 瀬川しろう(サイキック)
第二章
33/59

3  先輩の居場所

進路相談室があるのは職員室を出て少し進んだところ。

会議中の職員室の邪魔にならないように静かにそこへ向かう。

進路相談室の前まで来ると耕也は言った。


「さて、先輩はきっとここで先生と話し合っているはずだ」


意気揚々と、扉を開いた。

いや、中に居ると思うんならそんなに強く開けんなよ…。


「……あれ?」

「誰もいないね」


それは中を見渡すまでもなく分かった。

そもそも進路相談室は、部屋の両脇に資料が置かれているので、実質廊下のようなもの。

そんな空間で話し合いなどしているはずもない。

それに耕也の推理…には致命的な欠陥がある。


「おっかしいな、絶対いると思ったんだが」

「忘れたのか耕也、職員会議のこと。今この瞬間、先生や事務員の人は全員職員室にいるんだよ」


つまり狩村さんとここで話し合っているなんてありえない。

無論、いつ終わるか分からない職員会議のために狩村さんをこんなとこで待たせもしないだろう。

さらに言えば進路相談室は六時を過ぎるまで鍵は開いている。

つまり鍵が開いているかどうかは、中に人がいるかどうかとは関係が無い。


「やれやれ…的外れだったわけか」

「まあ、一応筋は通ってたぞ。それに先輩が居たらいいなとは思ってたし」


肩を落とした耕也を慰めつつ進路相談室から出る。

すると夏菜が呟いた。


「あの人、まだいるね」

「あの人?」


見るとさっきの反省文を書いている生徒が居た。

まだ書いているようだな…そんなに書かないといけないようなことやらかしたのか。


「一年生なのに大変だねぇ」

「? なんで一年生って分かるんだ?」


耕也がふと夏菜に訊ねる。夏菜の知り合いなんじゃないかと思ったが、よく考えればそれは違うか。

こいつが知っている人間に対して『あの人』呼ばわりすることは無い。


「なんでって、上靴の色で…あ、竹内くんは転校してきたばっかりだったっけ」

「上靴?」


なるほど、種が分かれば簡単なもんだな。

戸文高校では学年ごとに上靴の色が違い、今年の一年生は赤、二年は青、三年は緑になっているな。

それで判断したのか。

しかしあの一年、そんなに容姿が幼く見えないな。

そりゃ僕たちと一つしか違わないわけだし、おかしくはないわけだが、年下にはあまり見えない。


「しかし上靴だいぶ汚れてんな、靴は綺麗にしないと駄目だろ。名刺みたいなもんだぞ」

「確かにけっこう汚れてるねー。泥に入ったのかな」


ずいぶん行動力のある一年生ですね。

しかし夏菜の言う通り泥にでも入らなければあんなに上靴が汚れるとは思えんが…ましてや一年生だし。


「やっぱりこの学校でも奉仕活動とかあるのか」

「ん、さあ、あるんじゃないかな。あんまり使われてない教室とかの掃除だった気がする」


やれやれ掃除とは…、奉仕活動なんかやりたくはないな。

当然進学にも影響が出てくるだろうし、まだまだ先を見据えていない僕ならなおさらのことだ。

使われてない教室の掃除……待てよ?


「なあ……」


二人に向かって呟いた。


「先輩の居場所、もしかしたら分かったかもしれない」




 ・・・・



 

「さてと晃平、お前の推理を聞かせてもらうとするか」

「推理って…お前の探偵ごっこと一緒にするなよ」

「探偵ごっこって…傷つくこと言うなお前」


いや傷ついたんなら申し訳ないことだけど。

とりあえずどこから話そうものか…なんたって確証がないから何を話せばいいか分からないが。


「……まずさっき反省文を書いてたやつがいただろ。夏菜は一年生だと言ってたがおそらく、その人は一年生じゃなくて留年した三年生だ」


上靴の色は、一年生の赤、二年生は青、三年生は緑。

これは学年を通してのもので、このカラーリングがループで使用されている。

つまり留年した三年生を分かりやすく四年生と言うならば、四年生の上靴の色は赤色になる。

上靴が極端に汚れているし、これはだいたいそうじゃないかと思う。


「まとめると四年生と狩村先輩が同学年、ということか」

「それと、その四年生は反省文を書いていただろ? 四年生は何か問題を起こしたんだ」

「……何が言いたいのかよく分かんない」


夏菜が首を傾げる。まあ、自分で言っててもこんがらがってくるし、後でまとめるとしよう。

とりあえずは話を続ける。


「そしてこれと一緒に考えてほしいのは、部室が妙に綺麗だったこと」


久々に部室に行ったにもかかわらず、科学準備室はなぜか綺麗になっていた。

そのときの夏菜の反応から見ても夏菜が掃除したということは無いだろう。

部室には半年近く誰も言ってないはずなのになぜ部屋が掃除されていたのか。


「誰かが掃除してってことだな。ホウキも出てたし」

「そういうことだ」


問題はそれが誰かということ。


「簡潔に僕の考えを話すぞ。まず四年生と狩村先輩で何か問題を起こしてしまった」


この前提には若干の無理があるが、先輩と四年生が同じ問題を起こしたとすれば今後の話に合点がいく。


「そうなれば当然先輩たちは反省文を書く羽目になる。反省文を先に書き終えた狩村先輩はなかなか書き終わらない四年生よりも早く、奉仕活動を始めた」


そして奉仕活動の際の掃除場所は、あまり使われていない場所。

それを考えれば…。


「先輩がいるのはここ、科学準備室だ」


耕也は納得がいかないのかさっきの僕のように質問をしてくる。


「でも、俺たちがここへ来た時に合わなかったのはなんでだ?」

「それに関してはよく分からん…。トイレか、何かに行ってたんじゃないか」

「なるほどな。その分じゃ晃平の推理も外れている可能性あるな」

「推理じゃない」


扉に手を掛け、開いた。

中では白瀬と俊介がただプリントに向かって唸っているだけだった。


「おす霧生」

「あれ? いない、か」

「ふん…、読みが甘かったな晃平」


耕也がそう言った次の瞬間、部室の奥から人影が。

その人影の正体こそ狩村先輩だった。

驚いた様子の僕たちを見かねてか、白瀬が説明する。


「霧生たちが出て行ってすぐに入ってきたんだぜこの人」

「なんですぐ教えてくれなかったんだよ」

「いや、すぐ戻ってくると思って」


実際、部室を出てすぐに戻るかどうか決めかねていたわけだったが…。

あの時戻っていれば余計なことをせずにすんだのか。


「浅井に霧生…お前ら、部室使ってないだろ。埃がすごかったぞ」

「いやぁすみません」


咳交じりに言う部長に対し、なんともふ抜けた声で謝罪する夏菜。

先輩が見つかって力が抜けたのかもしれないな。


「あ、部長。この二人新入部員ですよっ」

「お、本当か。これからもがんばってくれな」


先輩は耕也と俊介に対し、軽く会釈をした。

先輩がもし本当に反省文を書いたんなら、どういう案件だったのかが気になったが…それを聞くのはさすがに無粋だろう。

代わりに聞くこともあるし。


「ところで、お前ら何か用があってきたんじゃないのか?」

「あ、そうなんです部長。部費についてなんですが」

「部費? …ああ、悪かったな。今年分はまだ受け取ってないんだ」

「え!?」


部室内に旋律が走る。

えっ、じゃあ僕たち、部費なしで夏休みまで部活をしてきたってことですか。

なんだろう、それってすごいことなのかな。

それともすげえ馬鹿みたいなことなのかな。


「まあとりあえず、生徒会とかに掛け合ってくれ」

「生徒会…ですか」

「ああ、悪いな」


部活動の関連は主に生徒会が仕切っている、というのは聞いたことがある話だ。

まあこうなった以上、先輩の言う通り生徒会に直接掛け合うしかあるまい。


「さて、掃除終わったし俺はそろそろ帰るか」

「…じゃあ、皆も今日はもう解散ってことにして。部費の件はまた明日ってことにしよっか」


夏菜のこの発言により、本日は解散となることが決まった。

もし部費を貰うことができればゲーム作りも少しは楽になるだろう。

そんなちょっとした期待をしながら、帰り支度を始める。

今日のこの件は、少なくとも無駄というわけではなさそうだ。



















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