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ごく普通の高校生の非日常  作者: 瀬川しろう(サイキック)
第二章
32/59

2  消えた先輩

耕也が転校してきてはや数日、本日は久々のゲーム研究部活動日である。

というのも、特にすることがない状況でも新学期になると毎回集まるのがゲー研の鉄則なのだ。

終礼が終わった放課後、僕たちはそろってゲー研の部室へ向かっていた。


「やー嬉しいな。竹内くん、本当に入ってくれるの?」


嬉しそうにして夏菜が耕也に訊ねる。

こいつは耕也が『入部する』と言って以来それしか言っていない。

とりあえずお前はすぐ隣にいる俊介の気持ちももう少し汲み取ってやりなさい。

見ろ、あのオーラ。憎悪に満ちてるぞ。


「ところでさ、晃平と白瀬くんはゲームはどうする気なの?」

「え、…それは」


夏菜に突然訊かれ苦笑いする白瀬だが、まあ笑っていられる状況ではない。

結局のところ前の文化祭では何もできなかったようなもんだったし…、次こそはちゃんと役に立てるように精進したいところだ。

しかし残念ながらアイデアなどは前回すべて使い果たしてしまっている。


「…前に考えたやつじゃ駄目か?」

「うーん。まあ、駄目かなっ」


笑顔で言う夏菜。そんな屈託の無い笑顔で言われちゃっても困ります。

何か反論できれば良かったのだが、反論は許さないといったオーラが夏菜から滲み出ていたので、僕たちは何も言えなかった。

しかしそんな空気でも耕也は何も動じない。


「なんだ、ゲームがどうかしたのか?」

「あ、竹内くん入部するんだったら教えとかないとね。ゲー研では一年に一回ゲームを作って文化祭で展示するんだよ」

「へぇ…、面白そうだなそれ」


目を輝かせて言う耕也だったが、実際はそんな甘いもんじゃない。

いくらそういうソフトを使ってゲームを作るとはいえ構成を考えるのも一苦労だ。

だが今のですっかり興味を持ってしまった耕也は夏菜に質問を続けた。


「…ふむふむ。で、部費は?」

「…ん? ぶひ?」


耕也のその質問は単純、かつ重要なものだった。

というか部費のことなんて聞いたことが無いな。

先輩もそれについては全く触れなかったし、夏菜もそれについては何も言っていない。

それは部員として間違いなく聞いておくべき事柄だろう。

夏菜の次の一言に耳を傾ける。


「…部費、ってどうなんだろう」

「えっ…」


衝撃の一言だった。

現部長が部費について知らない、って結構大変なことだぞ。

ねえこの子本当に部長やらせて大丈夫かしら。


「…ま、まあ分からないことがあったらそれは部長に訊けば良いんだよ。うん」

「お前あれだけ大丈夫大丈夫言っててそれはないだろ」

「まあまあ…とりあえず、話は部室に着いてからで」


夏菜の焦る様子もなかなか新鮮で観察日記をつけてみたいほどではあったが、今はそれどころではない。

耕也が部に入るか否かはこの部費の件にかかっている。




 ・・・・




科学準備室の扉を夏菜が開く。

久しぶりに来たし、さぞ埃が溜まったりしているだろうと思っていたのだが、そうでもなかった。

休みの間に誰か掃除でもしたのか。


「結構手入れされてるな。こういう部屋って汚れてるイメージだったぜ」

「ほんとだね。あれが片付いてれば、なお良かったんだけど」

「あれ?」


訊ねると夏菜は指をさす。

その先にはホウキが一本、ロッカーの前に立てかけてあった。

掃除した誰かがしまい忘れて行ったんだろうな。

明かりを点け一通り見渡すと、耕也が妙に興奮した様子で言う。


「しかしさすが、コンピュータとかいろいろ置いてあるな!」

「確かにこの部屋、設備だけはすごいよな…」


改めて見てみると壮観だ。教室に見合わないコンピュータやら道具やらがちらほら置いてある。

去年あたりのことだ。

使わなくなった教室が理科室に改装されたことで、旧理科室であるこの部屋はゲー研以外の人間には使われなくなった。

それ故にこんだけものを置いていても許されるのだろうが…この設備、やはり部費がないと揃えられないだろう。


「さ、部長に訊きに行こっか」

「いや部長はお前だろ」

「…そっか。じゃあ狩村先輩に訊きに行こう!」


部室に入ったばかりだというのにさっそく部屋を飛び出すとは。

しかし部費の件は片付けないといけないし、夏菜一人に行かせても心もとないな。


「霧生ー。俺ここに居てもいいか、だりい」

「オレもそうする」

「分かった分かった、そこで宿題やっとけ」


白瀬と俊介を部室に置き去りにし、僕たちは狩村先輩のところへ向かった。




 ・・・・




部室の真ん前にある階段を下りればすぐに三年生の教室がある二階へたどり着く。

しかし僕たちは階段を下りてすぐに、行き場を失っていた。


「ねえ狩村先輩って何組なの?」

「知らん」


僕も夏菜も先輩が何組なのかを知らなかった。

同じ部の先輩だったというのにクラスも知らないとは情けない。


「白瀬くん知ってるかな」

「まあいいだろ。たった三クラスだし、順番に見れば早い」


それに白瀬もどうせ知らんだろうし、今部室に戻っても意味は無いだろう。

ひとまず三年一組の教室まで向かおうとすると耕也が言う。


「でもその狩村先輩とやら、もういないんじゃないか? 放課後だしさ」

「いや、まだいる可能性はある。先輩は受験生だ、残って勉強しているかもしれない」




 ・・・・




「……誰もいないな」


三クラスを覗いて見たが、誰もいなかった。

いや先輩がいないのもまずいけど誰もいないのもまずいだろ。

家で受験勉強してんなら別に良いんですが。


「どうする? 先輩がいないと部費について分からないよ」

「…しゃーない、遠いけど下駄箱まで行くか」

「下駄箱? なるほど、まだ校内にいるなら靴があるはずだってことだな」

「なるほどっ」


耕也の説明を聞き、表情を明るくする夏菜。

白瀬と違って理解が早くて助かる。

しかしよく考えると、靴に名前を書いてないという場合も大いに考えられるな。

ひょっとしたら意味無いかもしれない、と危惧していたのだが下駄箱についてすぐにそれは消え去った。


「これか?」


耕也が真っ先に先輩の靴を見つけた。確かに『狩村孝弘』と書かれている。

同姓同名の人が居ない限りは、この靴は先輩のものと断定していいだろうな。


「これで分かった。つまり、先輩は校舎内に居るということだ!」

「まあどこにいるかは分からんがな」


…何だよ、なんで睨むんだよ、本当の事だろ。

とりあえずまだ校内に居る以上、探してみたほうが良さげだな。




 ・・・・




「職員室にもいないか」


少し覗いただけだが、職員室の中にも先輩らしき人影は見当たらない。

中に居るのは生徒会と思しき生徒や、入り口付近で何かしらの反省文を書いてる生徒のみ。


「先輩って大学とかどうするんだろね。全然知らないや」

「…そういや、そんな話は聞いたことないな」


部活止めてからどうするか、などと言った話は思えば全く聞いたことが無い。

そういや狩り村先輩は勉強関連の話が嫌いだったような記憶もあるな、留年した同級生が居てそいつの影響を受けたとか何とか言ってたっけ。

さすがに三年生で進路が決まってないのはさすがにまずいと思うけど…先輩は真面目な方だからもう決まっていると願いたいものであります。


「まあ学年集会とかで進路は決めてるだろう」

「いやいや、学年集会で進路決めないだろ。普通は面談とかじゃないか」

「だえ、そうなの。俺が前いた学校はそうだったのに」


えらい学校に居たもんだな。よその学校のことはよく分からんが、学年集会で進路決めるって何だよ。

集団の前で自分はこれこれになりたいって語って、大学入ったはいいけど思ってたのとちょっと違ってそこからすれ違いが生じて結局やーめたってなって、周りからちょっと変な目で見られる羞恥プレイになりかねんぞ。

とまあそれは置いておいて。


「あと探してないところは体育館くらいだが」


さすがにそんなところには先輩いなさそうだけど…。

そんなことを考えていると夏菜が言った。


「あ、じゃあ教官室は?」

「教官室? なんだそれ」

「ああ、主に体育の先生が居るところだよ。なるほど、そこなら可能性はあるな」


しかし、大体教官室に生徒が居る時ってのは怒られたときだと相場が決まっているんだが。

とにかく行ってみるしかないか、こうしている間に帰られても困るしな。


 


 ・・・・




教官室は体育館に入った、左の突き当たりにある。

隣で活動しているバスケ部の迷惑にならないよう早めにことを済ませるとしよう。


「うーん……ここなんか緊張するなー」

「まあ、怒られるやつが来るイメージだしな」


夏菜が少し決まりの悪そうな表情を見せる。

僕には分かる、私の代わりにノックしろと言いたいんだな。

夏菜の指示通りに僕はノックをする。

………しかし返事はない。


「………いないのかな」

「何してるの?」

「えっ?」


夏菜が体を震わせる。いきなり後ろから声をかけられたらそりゃ驚くわな、僕も驚いた。

振り向くとバスケットボールを持った生徒が立っていた。

バスケ部の部員か……三年生だろうか、背高いし。

いや単純に僕が見たことが無い同級生かもしれないが。


「ふむ、君たち一、二年生のどっちかだね」

「は、はい、二年生です」


多少堅苦しい敬語を使いながら夏菜が答えた。

言い様から察するにおそらこの人は三年生か…。


「教官室は今は誰もいないよ。職員会議中だから」

「職員会議、ですか?」

「……そういやさっきも、職員室の雰囲気重かったような気がするな」


耕也が言った。確かに、言われてみればそうかもしれない。

中に居た生徒会や反省文を書いてたやつはそれと関係があったのかもしれないな。先輩の行方には関係なさそうだ。

というか、この人なら何か知ってるんじゃないか。


「あの、三年の狩村さんを探してるんですが知りませんか」

「狩村? さぁ…もう帰ったんじゃないか?」

「靴はあったから、校内にはいるはずなんです」

「そか。じゃ、分からんな」

「……そうですか」


駄目だな、まるで力になろうとしてくれていない。態度からすぐに分かる。

まあ部活動で忙しいんだろうし、仕方は無いかもしれないが。


「代田! お前の番だぞ」

「おう! じゃな」

「ありがとうございましたっ」


軽く手を振るとその先輩は去って行った。


「大変だなぁ」

「まあ部活動っていうのは本来あんなもんだ」

「いや、そうじゃなくてさ。三年生なのにまだ部活動やってること」

「そういうことか。まあ引退しても部活に顔を出すのは珍しくないだろ」


むしろ一回くらいは顔出してくれてもいいんじゃないだろうか。

狩村先輩なんかあの送別会以降全く姿見せないし、不思議な人だ。


「さて、あらかた探したしもう今日はいっか」

「だいぶ軽いノリで言うなお前。部費って結構大事な事だろ」

「そうなんだけど。まあ一応メッセージは送ったし、大丈夫でしょ」


夏菜はスマホ画面を見せてくる。

ふむ、まあこれなら今日中には返信が来るか…なら大丈夫かもしれないな。


「それに明日小テストあるでしょ。勉強しないと」

「マジ? 俺全然聞いてなかった」

「寝てたのか?」

「最近疲れが溜まってましてな…」


頭を掻きながら耕也は言う。しかし小テストがあることは僕も知らなかった。

たぶんその時に寝てしまってたんだろうな…ならば僕が耕也を責める権利はあるまい。


「あ、明日進路相談もあるけど、それは?」

「マジ? それも聞いてなかったな」

「お前もう何も聞いてないんじゃないの」


照れるような仕草を見せる耕也だったが、別に照れさせるようなことは言ってない。

むしろ皮肉ったぐらいなのだが、この男には効かないらしい。


「……進路、進路か! なるほどな」

「なんだどうした急に」


耕也のテンションがみるみる上がっていく。

何だろう、現実逃避かな。現実は受け止めていこうぜ、そうやって人間強くなっていくもんだろ。

そんなことを思っていたのだが、どうも現実逃避ではないらしい。

なぜか耕也は拳を口元に当てて話し始めた。


「さてと、分かったぞ。先輩がどこにいるかがな」

「探偵みたいだねー」

「だろ? 確認だけど狩村先輩は校内にはいるんだよな?」

「ああ、さっき靴見ただろ」


僕がそう言うと耕也は奇怪な笑い声をあげる。

いや見てるから、人が見てるからもうちょっと抑えてくれませんか。

なにこいつこういうキャラなの?

耕也は人差し指を立てると言った。


「じゃあ答えは簡単だ。先輩がいるのは進路相談室だよ」


耕也の答えは確かに盲点だった。

進路相談室というと、職員室前にあるあの部屋か。

確かにあの部屋は三年生がよく出入りしている覚えがある。


「狩村先輩は進路が決まってなかったとか言ってたんだろ」

「ああ。でも結構前の話だぞ」

「いや、今でも決まってないんだよ。たぶん」

「お前いくらなんでもそれは…」


せめて探偵気取りならたぶんとか言うのやめてくださいよ。


「そして決め手はさっき言った学年集会」

「決め手も何もお前が言ったことだろ、それ」

「まあまあ。正確に言えば学年終礼とでも言ったところかね」


学年終礼というのは、学年集会を行って、終わり次第下校するというあれか。

僕たちも何回か経験したことがあるが、何か違うのか?


「学年終礼で『進路が決まってない生徒』は残るように言われてたとする。それで決まってない人は残り、決まっている人は帰った、もしくは部活に行った。という簡単な話だったわけだ」

「ふむ」


確かに筋は通っている、ような気がしないでもない。

とりあえず疑問だけぶつけてみるか。


「質問があるんだが。なんでほとんどの生徒が帰ったんだ」

「いや三年生にもなって進路が決まってない人は少ないだろ」

「…おお、確かに」


酷く簡単に論破されてしまった。

確かにその通りだ。何より狩村先輩が進路決まってないっていうのも完全否定はできない。


「とにかく行ってみようぜ、それで全部分かる」

「そだね、行ってみよっか」

「まあ、そうするか」


それで居たなら居たで別に問題は無いわけだし。

自信満々の耕也を先頭にして、僕たちは進路相談室へと向かった。





















耕也「第二章になってからもう二話か。感慨深いぜ」


晃平「いやいや『まだ二話』だろ」


耕也「まあまあ。第二章の内容はだいたい分かったぜ。要は俺の名推理を披露していく展開になっていくってことだな」


晃平「え、推理なの。あれ」


耕也「あ? 推理に決まってんだろ。れっきとした推理だよ!」


晃平「そう……いや別に良いけどさ」

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