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ごく普通の高校生の非日常  作者: 瀬川しろう(サイキック)
第一章
30/59

29 アンカー

人間年を取っていくにつれて時が経つのが早く感じるものだ。

本日は最終日、今日を持って冬休みともお別れとなる。

来年の冬休みは受験直前だろうし、実質高校最後の冬季休暇期間だ。

最終日ともなればもうすでに宿題などは終わらせている人間が多いだろう。

まあ僕が宿題を終わらせたのは昨日なのだが。

油断していたよ、まさか小論文の宿題があんなに難しいとは……。

僕にはまるで構文の才が無い。小学生の時の作文でも常にもっと頑張りましょうをもらっていたほどである。


「……うーん」


ソファでくつろいでいると、目の前に座っている妹が唸っていたのが目に入った。

僕の妹、霧生華音は中学二年生。来年は僕と同じく受験生になる。

華音の前には一冊のノート……こいつまさか宿題やってるんじゃあるまいな。


「…………うーん」

「………」

「…………んーー」

「うるせえな」


唸りすぎだろ。今のお前ほど考える人という言葉が似合うやつはいないんじゃないか。

僕の言い方が気に入らなかったのか華音は僕の方を睨んでくる。


「なに、いいでしょ。ここは皆の空間なんだから」

「その皆の空間から、友達が来るからって兄貴を追い出したのはどこの誰ですかね…」

「それはそれだし。てか言い方が嫌だった、傷ついた」


絶対に傷ついたやつの物言いじゃないよな。

お兄ちゃんの方が何倍も傷ついてるよって泣きながら叫んでやりたい。


「というかお前宿題やってるのか」

「なわけないでしょ。そんなのとっくに終わらせてるし」


とっくに終わらせてるのか…へぇ、意外とちゃんとやってるんだな。

少し見直したな、これでお兄ちゃんに対する態度さえ良ければもう完璧なんだけど。

なんでそこだけは譲れないのかな。妹ってのはよく分からん。


「これは、リレー小説? っていうの書いてるの」

「なんだそれ、聞いたことないな」

「私もこの前聞いたんだけどね。人が書いたものに違う人が続きを好きに書いていって、一つの物語にするんだってさ」

「ふぅん。面白そうだな」


無論それを読むのが、だけど。書くなんて僕にはできないし。

しかし問題なのはこいつ、作文すごい苦手じゃなかったっけ。

その辺はやはり兄妹なんだなぁとしみじみ感じるが、はたして小説なんて華音が書けるのか。


「ところでお前で何番目なんだ?」

「うーん……たぶん、筆記体とか文体とかから見て…まあ5番目くらいじゃないかな」


ページを捲りながら説明する華音。

こういうところだ。論理的に物事を考えることは得意なのに、なぜか文を書くのだけはできない。

もったいないような、可愛げがあるような…なんとも不思議な感じだ。


「皆けっこういい出来しててさ。どうするか悩んでたんだよね」

「ほう。どんな感じなんだ?」

「えっとねー………見た方が早いか。はい」


華音はノートを僕に差し出す。

それはありがたいけど、なんでそんなにお兄ちゃんのこと睨むの?

不快? 不快なの? 自分が書いてる途中に人に渡すのが嫌なの?

それなのに睨みながらも渡してくれるって、こいつ良い奴なのかどうかよく分からんな。

…まあ華音のことはいいや。それよりも小説のほうは少し気になる、いったいどんなのが書いてあるのか。




 -------------------------


  『第一話 : 言語道断』


  私は花田花子17歳である。

  自分で言うのもあれだけど超典型的な女子高生。

  そんな私は今日も学校へレッツゴー!

  そんな朝の日、事件は起きた。

  「お、花子じゃないか」

  「あ、花山くん」

  彼は同じクラスの花山花太郎くん、超カッコイイ。

  「あれ?」

  「どうしたんだ花子」

  「財布が……ないわ」

  「大変だ、どこかへ落としたんじゃないか?」

  「そうかも……まあいっか」

  「そうだな、よし行こう」

  「そうだね」

  私たちは学校へ歩き出した。

  財布が無くなったことはどうでも良かった。

  それよりも大変なことが、この後起こってしまう。


 -------------------------


  「学校ついたな!」

  「今日は何があるんだっけ」

  「今日はテストだな!何忘れてんだてめえ!」

  「あ、そっか」

  あはは、とわたしは笑った

  教室へついたわたしたちは早速勉強をすることにした

  でも途中で思い出す このままじゃ昼ごはんがないままだと

  「やっぱサイフを探そう!」

  「えー、でもいいやって言ってただろ!」

  「このままじゃ昼ごはん無いんだわたし」

  「でもどこを探すんだよ!」

  わたしは辺りを見渡した

  けど教室にいるのは日頃勉強をしていないがために 

  今日必死に勉強をしている愚民たちだけ

  「でもやっぱりテスト終わってからでいいか」

  「そうだな!とっとと勉強するぞてめえ!」

  こうしてわたしたちはテストが始まるまで夢の中へ旅立った♪


 -------------------------


  事件はそのときに起きてしまった。

 

  ドカァァァァン!!


  「何事!?」

 

  アタシは音がした方を向く。

  

  そこにいたのは、黒いマントを羽織った男……。


  「ククク…私の名は『グレイティング=ラー=ドラゴン』。

   たった今よりこの学校は私が支配することに決まった…」


  「何てこと!?」


  「ククク…さあゆけ。我がしもべ花山花太郎、

   いや『サイスティング=スサン=タジーニャ』!」

 

  やつが指さす方向。

  そこにいたのはさっきまで隣にいたはずの花太郎……。


  「花太郎!? あなた…ま、まさか…」


  「フッ、そうさ…。おれこそがグレイティングさまの忠実なるしもべ。

   この学校は俺様が破壊してやる…闇の炎の名の元になぁ!!」


  「そっ…、そんなことはさせない! 花太郎…!」


  「どうした、本気を出せよ花子…

   いや『フローリング=セイス=キルチエン』」


  「…知っていたのね。こうなったら仕方ないわ、

   目を覚まさせてあげる花太郎。そして最後は…あなたと……」


  「フン、何をゴチャゴチャと…。さあ、来い!」


  そして最初で最後の、アタシと花太郎の決戦が始まる……!


 -------------------------


  いよいよ決戦が始まろうとしていた、けどそのとき。

  教室の扉が勢いよく扉が開いた。


  「席に着けー。鞄をちゃんと廊下に出して、机の中からっぽにしろー」


  入ってきたのは先生だ。

  決戦を始めようとするわたしたちだったけど、

  わたしは一つ重要なことを思い出す。

  今回のテストで赤点を取ってしまうとお母さんに怒られてしまう。


  「ここは一時休戦といったところかな」

  「そのようね。いったん勝負はおあずけだわ」

  「仕方ない。今回のところはこれくらいにしようフローリング」

  「ええ、見てなさい。まずはテストであなたを潰すわ」

  「フン、ボクも母上に怒られるのは勘弁なのでな。全力で試験に臨ませてもらう」


  これがわたしたちの本当の闘い。

  

 -------------------------




次のページを捲るが続きはない。どうやら話はここで終わっているようだな。

ふむ……これ華音じゃなくてもこの後に続けるの難しいんじゃないのか。

話がカオスすぎる。

財布とか落としたのは物語の発端としていいかもしれないが、なんで突然教室で戦争始まってんの?

しかもちょっと続き気になってきたかも、って思ったら普通にテスト始まっちゃうし。

なんかいろいろと言いたいことはあったのだが、とりあえず華音に投げかける一言はこれしかあるまい。


「……ま、頑張れ」

「な、なに、その悟りきったような目は…」

「いや…。ま、まあ、とりあえず適当に書けばいいんじゃないのか?」

「適当に言っても…これクラスの文集に載るんだよね…ちゃんとやらないと」


これ文集に載るの? この話の筋を理解できる人が他に何人いるの?

見ると華音は再びノートに向かって唸っていた。

…まあ、現状がどうあれ妹が真剣に頑張っているわけだしな。

邪魔しないように少し部屋を離れておくか。




 ・・・・




「とりあえず書いてみたんだけど…」


数時間後リビングに入ると、妹がすぐにそう言ってノートを差し出してきた。

……これってつまり読んで欲しいってことだよな。

こいつが素直に意見を求めるとかどんだけ切羽詰まってんだ…。

ノートを受け取り、さほど期待もせずにページを捲った。




 -------------------------


  テストが終わってすぐに私たちはバトルを初めていた。

  やつは強い、私がおもっていた異常に強かった。

  やつの一げきは重くの腕にのしかかる。

  「どうしたその程度かフローリング。きさまは俺と最後まで

   渡り合ってくれるかと思っていたのだがな」

  「あんたは、私の知ってる花太郎じゃない。

   なに、あいつに何をされたの!?」

  「ふん…馬鹿な。俺はもともとこういうやつなんだ。

   全部演技だったんだよ…きさまとのなれあいは…!」

  「そ…そんな……っ」

  そのしゅんかんに私の剣が押し負ける。

  今までの彼は全部演技だった。

  そんなのは信じたくなかった、けど今、実際に彼は。

  「違うぞ花子くん!すべてはグレイティングの仕業じゃ!」

  「サトリ博世!」

  「やつを倒せ!さすれば花太郎くんの洗脳はとける!」

  「はい!」

  私の真の敵は別にいた。

  財布でもテストでも花太郎でもない、真の敵は黒マントのあいつ。

  あいつを倒せばすべて終わる。

  「っ、花太郎! どいて!」

  「マスターの元へは行かせんぞ。きさまに俺は殴れまい」

  「…舐めないで」

  その瞬間、花太郎は教室の端までぶっ飛んだ。

  花太郎を吹っ飛ばしたこの右腕は不思議と痛くない。

  「……なんで、俺を殴れる…きさま!」

  「花太郎を元に戻すためなら私は……例えあいてが花太郎でも…殴る」

  倒れた花太郎を背に私は駆け出した。

  真の敵とたいじするために。


 --------------------------




読み終えて華音の方を見てみると、心配そうに僕の顔を覗いていた。

やれやれお前でもそんな顔するんだな。

誤字脱字が大きく目立つが……良いんじゃなかろうか。

全く期待していなかったというのもあると思うが、よくできていると思う。

少なくとも僕が書くなんかよりもずっといい出来に違いない。


「……良く書けてる」


妹を本気で褒めたのはいつぶりだろう…。

華音の不安そうな顔が一瞬で取り払われ、目に輝きが灯った。


「ほ、ほんと」

「ああ。凄いと思う」

「……そ、そっか。……まあ、これくらいできなきゃね、へへ」


華音はノートを取りあげ、鼻歌を歌いながらリビングを出て行った。

ちょっと褒めればすぐ調子に乗るな……今回は良しとするか。

僕もいい暇つぶしになったしな。

後日聞いた話によると、華音の後に書こうとするやつが全くいなかったらしく、結局のところ妹はリレー小説のアンカーと相成った。

正直続きがどんなふうになるかちょっと気になってたんだけど…まあいいか。


その方向が正しい事かどうかは分からない。

しかし妹の成長を微かに感じながら、僕自身はどうだろうかと考えてみる。

僕は何か変わっただろうか、あの文化祭の時から。

そんなことを考えているうちに、僕の高校最後の冬休みは幕を閉じてしまった。



















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