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ごく普通の高校生の非日常  作者: 瀬川しろう(サイキック)
第一章
23/59

22 Find the Key

耕也「不思議なギモン!! のコーナー!」


晃平「なんだよ突然…。というかお前の存在が疑問だろ」


耕也「何を言うか! 俺だって好きでここにいるわけじゃないんだ!」


晃平「ならさっさとどこかへ行ってくれ」


耕也「まあ、それとこれとは話が別だ」


晃平「お前なんか白瀬に似てて嫌だな…」





鍵を借りた男子は藤原ではないと、とりあえずそう考えておこう。

では鍵を借りたそいつは果たして今、校舎にいるのだろうか。

いや…居るはずだ、そいつが鍵を借りたんなら返さずに帰ってしまうはずが無い。

よほどドジじゃなければ、たぶん。


「どうだ霧生、何か分かったか?」

「……いや」


僕たちは下駄箱があるところに居た。しかし…余計分からなくなった。

下駄箱で靴を見て判断すれば校内にいるかどうかの判断はできる、と思ってのことだったのだが…。

今、校舎内にいるニ年生は僕と白瀬を入れて三人のみ、しかも全員二年三組だ。

うちの下駄箱は出席番号順というものではないため、その靴が藤原のものかどうかは分からない…。


「鍵を持っているのは二年三組の男子…か」

「ああ! 早く誰か調べようぜ!」


毎度思うが、こいつも大概声が大きいな。

夏菜といるときは目立たないが、夏菜がいなけりゃこいつが一番大きいだろう。

あれ、僕の周りってすごくうるさいの?


「そう言うんならお前、藤原の靴の位置とか分からないのか?」

「そこまでは知らん。でも名前すら覚えない誰かさんよりは数倍マシだ」

「ほっとけ…」




 ・・・・




一通り近くの教室を見て回っても特に何も得られなかった僕たちは、仕方なく教室に戻ってきていた。

やはり誰かがいる様子はない。

結局何も掴めないままかと項垂れていると、白瀬が教室を覗きながら言った。


「なあ霧生…」

「なんだ?」

「机が動いてる」

「はぁ?」


意味がすぐには理解できない。なに、机がダンスでもしてるのか。動き回っているとでも言うのか。んなわけねえだろ。


「聞いてくれ。俺さっき、教室を覗いたときにあの机見てたんだよ」


そう言って教室の一番前にある机を指差した。

それよりもまず疑問が一つ沸いたんだけど…。


「お前なんで机なんか見てたの?」

「いや、桐原さんの机あれだったかなー、と」

「お前もうストーカーの域だな」


ていうか桐原さんうちのクラスかよ。いや別にそんなのはどうでも良くて、机が動いてるっていうのはどういうことなんだよ。

そんな意を込めた視線を白瀬に向けると、白瀬は続きを語り始めた。


「霧生、間違いない。あの机ちょっとだけ移動してるぜ」

「移動してるって…さっきと位置が違うってことか?」

「ああ、といってもほんの少しだけど」


そのほんの少しの移動距離が分かるくらい桐原さんの机見てたお前って一体何なの?

もはやお前が好きなのって女子なんじゃなくて机なんじゃないの。

しかしここまで物事に対して断言する白瀬も珍しい…ここは信用してみるか。

ということは…。


「この教室に誰かが入ったってことか?」

「…かもしれねぇな」


頷いて同意を示す白瀬。

誰が入ったんだ? とそんな疑問が浮かんだがすぐに飛んでいく。

決まってる、鍵を持っている奴しかありえない。


「白瀬、靴を見に行こう」

「靴? また行くのか」

「ああ、もしかしたら…帰っている可能性があるんだよ」




 ・・・・




下駄箱に行ってみると思った通り、靴は二つしかなかった。無論、僕と白瀬の分だ。

やはり靴の持ち主は帰ったらしいな…これじゃ現行犯で捕まえるのは無理か。

まあそれ自体は構わないのだが。


「おい霧生…帰っちまってるぞ」

「ああ、そうだな」


そしてよほどドジなやつじゃなければ、おそらく鍵は返されているはずだ。

そうだとすれば教室に入れる。


「白瀬、職員室に行くぞ」

「職員室? また移動か?」


だるそうに言うけど、お前の筆箱のためだぞ。

それに、藤原について少し気になるしな。

結局鍵を借りた奴のことは分からず終いになってしまうが、まあいいだろう。




 ・・・・



「………」

「どうしたんだ霧生」


白瀬が顔をのぞかせてくる。

職員室の温かい空気の中であんまり近寄られると暑苦しいのだが、それどころではない。

白瀬に端的に、事実を伝えた。


「鍵が無い」


まさか、鍵を持って帰ったのか?

まさか、よほどドジなやつだったってことなのか?

というか本当にそうだとしたら冗談にならないんだが…。

普通鍵は返すだろ、帰る前に………。


「そうか白瀬、事務室だ事務室」

「事務室? 事務室がどうかしたのか?」

「僕はさっき藤原に『鍵を借りに事務室へ行った』のか聞いただろ。もし鍵を持っているのが藤原だったんだとしたら…」


その先は言わなくても白瀬は分かっていたようだった。

藤原が鍵を返すために向かう場所は限られている。

それが事務室だ。




 ・・・・




事務室は職員室と違い暖房が効いていないようだ。

寒くないのだろうかと心配になるが、今はそれどころではない。

とりあえず近くにいた事務員に話しかける。


「あの二年三組の者なんですが、もしやここに教室の鍵が届いていませんか」


ここへ来たのはほぼ完璧に僕の妄想によってだが…。これでもし違ってたら痛いなんてレベルじゃないな。

しかし事務員は笑顔で答えた。


「ああ、あるよ」

「あ、あるんですか?」

「さっき二年三組の生徒が鍵を持って来て…対応には困ったけど。仕方ないから受け取ったんだよ」


言いながら事務員はズボンのポケットから教室の鍵を取り出す。

そしてそれを僕たちに渡してくれた。


「ありがとうございます」

「返す時はちゃんと職員室にね」

「はーい」


白瀬がいかにもやる気の無いような返事をする。まあ普通のやつは職員室に行くだろうしな。

一礼して僕たちは事務室を出た。

これでやっと教室に入れる…。




 ・・・・




教室の扉を開ける。中にあるのはいつもと何ら変わりのない教室の風景だ。

教室に入ると白瀬は、真っ先に先ほど指差した机のもとへ向かった。

桐原さん、という人の机だろう。


「で、どうだ白瀬」

「ふむ、落書きがしてあるな。桐原さん結構絵うまいぞ」

「お前馬鹿なの?」


こいつ何しに来てるのか忘れてんじゃないの?

大丈夫? こいつのこと信用しても大丈夫だったの?

そんな僕の想いをよそに白瀬は苦笑しながら言う。


「冗談だよ。…確かに動いてる、斜めになってるだろ」

「ということは、誰かがその机に何かしたのか、もしくはぶつかったのか」

「しかしなんで桐原さんの机が動いたんだろなぁ」


白瀬の疑問はもっともだ。藤原は男子生徒だし、鍵を借りに行ったのも男子生徒。

全然関係ないだろと思いつつも、白瀬に質問をする。


「何か変わったところはないか?」

「変わったところ、ねぇ…」


机を眺める白瀬。なんかこうしていると僕が命令しているみたいだな…。

まあ気にしても仕方ないけど。


「…鞄、開いてるな」

「鞄? この手提げ袋のことか」


見たところ確かに開いている。

しかしそれ変わったところなのか?

閉め忘れただけじゃないのか?

そう考えていると、白瀬が勝手にしゃべし始める。


「女の子ってのはこういうことにはきっちりしてるもんなんだよ。閉め忘れなんてほぼあり得ん、ましてや桐原さんだぞ?」

「いや、だから知らんって」


こいつもうわざと言ってるだろ。マジで誰だよ桐原さんって。分かんねえよ。

しかしこいつが熱く語るものには信憑性があるのもまあ事実。

くっ、なんか悔しい気もするな…。


「しかし結局、最初に鍵を取りに行ったやつはなんだったんだろうな?」


そう呟いた白瀬の言葉が僕には引っかかった。

鍵を最初に借りに行ったやつは間違いなく藤原ではない、それは最初から断定している。

じゃあ藤原はどうやって鍵を手に入れたんだろうか?

…。


「霧生? 聞いてるか?」

「……それより、忘れ物はあったのか」

「え、ああ、あったぜ。ほら」


そう言って白瀬は筆箱を掲げる。なら良しだ。


「帰るぞ白瀬」

「えっ、急に」


これ以上ここに居るわけにもいくまい。

犯人は現場に舞い戻る、とも言うしな…。




 ・・・・




僕たちはすでに学校外にいた。結局目的を達成したのは五時過ぎ。

せっかくの休みをこんなことに使ってしまうことになるとは、つくづくツイていない。

もっともツイていないのは僕だけではなかったのかもしれないが。


「霧生。結局、藤原はなんで嘘をついたんだろうな」

「鍵が無かったって言ってたことか?」

「ああ。やっぱ気になるだろ?」


まあ気になる気持ちは分かる、だからこそ僕も調べようと思ったわけだし。

しかし結局導き出された結論はあまり好ましいものじゃなかったのだが…話さないというのもかえってモヤモヤさせてしまうかもしれないな。


「…あくまで僕の妄想だが、聞いてくれるか」

「また急だな。いいけど」


歩きながら白瀬がこちらを向く。


「鍵を借りた生徒のことだが、たぶんお前と一緒だ。忘れ物を取りに行ったんだろ」

「忘れ物?」

「まあ確証はないが、何か教室に用があったんだと思う。

 そして忘れ物を取るため教室に居ると、ある人物がやってきた。それが藤原だ」


白瀬は不思議そうな顔をするが、構わず説明を続ける。

いちいちまとめていては逆に話がまとまらないと思うしな。


「藤原はある目的のため教室に来た。藤原が教室の鍵を取りに行かなかったのはその必要がなかったからだ。藤原が来た時には教室はすでに開いていて、そして人がいたんだからな」

「…ふむ」


白瀬は半ば黙って聞いていた。

良い雰囲気ではないことに若干気付き始めているのかもしれない。


「鍵を借りた奴はもう忘れ物を取り終えたわけだし、それ以上教室にいる理由はないだろ。

 だから藤原はそいつから鍵を受け取り、鍵を借りた奴はそのまま帰ったんだよ。『返しておいてくれ』とか言ってな」

「…で、結局のところ藤原の目的ってのは?」


そう訊いてくる白瀬だったが、こいつもだいたい察しがついているはずだ。

軽く咳払いをしてから白瀬の問いに答えた。


「酷い妄想だが、藤原の目的はおそらく『桐原さんの手提げ袋』」


あくまで状況からの推測でしかないけどな。


「お前教室に着く前に大きな声で言っただろ、『急ごうぜ』とか」

「…ああ、確かに言ったな」

「あんな大きな声だったら教室まで響いたろうな。藤原はお前と面識があったし声の主がお前だと分かっただろう。そうなればお前が二年三組に向かっている、ということはすぐに想像がつく」


こいつの声のデカさは藤原にとってはラッキーだっただろうな。


「藤原は自分のやろうとしたことを知られないために、いったん鍵を閉め教室を出た。そして『鍵はない』と言って、僕たちをその場から退け、再び教室に入ったんじゃないか」

「で、……そのあと目的を果たしたってわけか」

「妄想だけどな」


そう念を押す。妄想であってほしいものだ、まったく馬鹿らしい。


「やれやれ……何をするかわかんねぇもんだな、人間」

「まあ大丈夫だとは思うぞ。あいつが何をやっててもそろそろ解決するんじゃないか」

「? どういうことだ」

「よく言うだろ、犯人は現場に舞い戻るって」


僕の妄想の中での藤原は完全にほぼ犯罪者みたいなものだ。

しかし犯罪者のほとんどは罪悪感に苛まれるという…ならば藤原も今頃は教室に戻っているころじゃなかろうか。

冬休み中の誰もいない今ならまだ何とかなるだろうと。元通りにできるかもしれないと。


「霧生」

「なんだ」


白瀬は妙に暗く言う。

この手の話は無理やりにでも盛り上げて話しそうだっただけに、正直意外だった。


「俺は止めるべきだったよな、あいつを」

「…知ってたらな」


知っていりゃ僕だって止めたかもしれない…と一瞬思ったがそれはないかもしれない。

知らないやつが知らないやつに害を加えようと、それは結局知らないことなのだ。

僕が知っていても止める理由は無いだろう。非情かもしれないが。

しかし結局どこまで行ってもこれは妄想に過ぎない。

この妄想がどこまで事実なのか、それは突き詰めないことししようと決めた。



















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