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ごく普通の高校生の非日常  作者: 瀬川しろう(サイキック)
第一章
22/59

21 Lost the Key

みなみから電話が入ったのは冬休みも中盤に差し掛かった頃。

思えば付き合っているはずなのに大して連絡を取り合っていないよな、僕たち。

これは良くないと思いつつも、やはり急には変わることができない。

だからみなみから電話がかかってきたときは恥ずかしくもあったが、嬉しかった。


『今日優たちと遊んでたんだけど、またみんなでどこか行こうって話になったんだ』

「また優の思い付きか…」


白瀬の思い付きにも大概困らせられてきたが、優もそれに似た何かを持っているな。

あいつの思い付きも大概ろくなことにならないし…。


「で、どこに行くんだ? 今回は」

『うーん…一応いろいろ考えて、まあ旅行…かな』


いくら優でもさすがにこの時期にキャンプなんて言い出しはしなかったか。

しかしえらく曖昧な答え方だったけど、大丈夫かね。


『旅行って言っても、旅館で何かするとかそんなんだけどね』

「なるほど…なんか良さげだな」


修学旅行とかは抜きにして、個人で行く旅行は初めてだ。なんか楽しみになってきたな。オラわくわくすっぞ。


「分かった、予定開けておくよ。いつの予定なんだ?」

『えっと……あー、えっと、明後日……だね』

「…早くないか?」


えっと二回言いましたよね今。そんな戸惑うくらいに急なことだって分かってるんだよね?

どうも白瀬にしろ優にしろ、あまり人のことは考えられていないらしい。

なんか致命的な気がするけど、幸い明後日以降に予定はない。


『じゃあ、一応そういうことだから……。じゃ、じゃあね』

「ああ、またな」


電話を切る。もう少し会話するべきだっただろうか……分からん。

しかし旅行となると楽しみだな。

あいつらのことだ、どうせただで終わらせる気は無いだろう。

僕はせいぜいそれを横から眺めていられる立場で居られることを祈るのみだ。




 ・・・・




その翌日、寒さで目が覚めた。

いつのまにか掛け布団はどこかへ行ってしまってる…また寝ている間に蹴飛ばしたか。

起き上がり時計を見るとすでに十二時を過ぎていた。


「…おお」


だいたいこのくらいだろうと想像はついてはいたが、さすがに声が漏れてしまった。

やれやれ最近とことん目覚めが悪くなっていっている気がする。

これが長期休みの影響か、ただでさえ起きるのが遅いのに。

だるだると階段を降りていると玄関のチャイムが鳴った。

親は仕事でいないし、テレビの音も聞こえないことから察すると、

華音もどこかへ出かけたのだろう…となれば僕が出るしかないわけで。


「よ、霧生」


そして扉を開けると白瀬が立っている、と。

もうここまでは決定事項だな…まあ、もうどうだっていいや。


「…今日は何しに来たんだ」

「なんだ今日はやけに冷たいな。いやー、お願いがあってな。一応前に言われた通りちゃんと昼過ぎに来たんだが…」


どうやら僕が昨日言った通り、昼過ぎに来たらしい。

しかし昼過ぎに来たところで僕が起きていなかった、というすれ違い。

結局どうやっても白瀬は迷惑なやつっていうポジショニングなんですね。


「お願いってのは何なんだ」

「いやぁ、まあちょっと言いづらいんだけどな。一緒に学校に来てくれ」

「またか? どうせ宿題を無くしたとかだろ、行かない」

「いや違うって」


白瀬は首を横に振った。

違うというからには違うのだろうが、他に理由らしいものは僕には思いつかない。

白瀬は軽く言ってのけた。


「実は、教室に忘れ物してたのを昨日思い出してさ」

「忘れ物?」

「ああ、筆箱なんだけど」




 ・・・・




白瀬の忘れ物の回収を目的として、結局僕は戸文高校へ到着した。

いったいどうしてこいつのために僕が休み中に学校へ来なければならんのか。

大体筆箱が無いことに昨日気付いたとか、宿題に一切手を付けてない証拠だろ。

宣言していたとはいえ、本当に宿題をやらなかったとはさすがは白瀬と言ったところか。


「しかし、教室に忘れ物してるやつってどれくらいいるんだろうな」

「さあな。筆箱を忘れたやつなんかいないとは思うが」

「はっ、違いないな」


どうでもいい会話を交わしながら、校舎の階段を上がっていく。

この学校は掃除に力を入れていることもあってか実に校舎が綺麗だ。

特に内部は隅の埃まで除去されている。


「まあいいや、とっとと済ませて帰るとするか。っし、急ごうぜ霧生!!」

「ああ、そうだな」


階段を上がり終えるとすぐに、二年三組の教室の前に人影が見えた。

冬休みだというのに珍しい、部活動生か?


「誰だあれ。白瀬分かるか」

「お前…藤原ふじはらだよ、藤原。同じクラスだろうが」

「ふじはら?」


白瀬は冷たい目で僕のことを見ていた。

やべえ全然分からない。誰だっけ藤原って。

というか『ふじわら』じゃなくて『ふじはら』なんだな珍しい。珍しいからもう覚えた、完全に覚えた。


「藤原!」


誰かさんみたく、白瀬が元気よく話しかけると藤原が振り向いた。


「……あ、ああ、白瀬くんと霧生くん」

「何やってんだ、お前」

「ああ、まあいろいろと。君たちは何しに?」


礼儀上君たち、とは言っているがほぼ白瀬に向かって話しているようだな。

それもそうだ、僕と藤原は対面して話したことがほとんどない。

まあありがたいことだ、あんまり知らないやつに話しかけられてもまともに会話ができないし。


「いや、実は教室に忘れ物しちまってさ」

「忘れ物……教室に?」


藤原は少し顔をしかめる。そらみろ、忘れ物なんか今頃取りに来るからこんな反応されるんだ。

ぜひそのまま白瀬を威圧していて欲しかったが、藤原の表情はすぐに穏やかになった。


「……あ、多分ダメだと思うよ」

「ダメって?」

「教室の鍵が、今無いんだ。わざわざ取りに行ったんだけど、無かった」

「えー…そうなのか」


それを聞いて白瀬は肩を落とす。だったらはなから忘れ物をするなって話だ。

少し気になったことがあった僕は藤原に一つ質問をした。


「藤原、お前一人なのか」

「え? うん、そうだけど」

「ふぅん」

「じゃあ、僕はもう行くよ。あ、じゃあね」


『じゃあ』を二回繰り返し、藤原は僕たちの後方へと駆けて行った。

こいつ何をそんなにキョドっているんだ、人見知りか?

僕は藤原を呼び止め、もう一つだけ訊ねた。


「藤原もう一つ。本当に鍵は無かったのか?」

「……は?」

「いや一応確認だよ。事務室まで鍵を取りに行ったんだろ?」

「…あ、ああ行ったよ事務室に、来てすぐにね。でもカギは確かに無かったよ」


なるほどね。心中で勝手に納得する。


「呼び止めて悪かった」

「う、うん。じゃあね」


今度こそ藤原は駆け出していった。

見えていないだろうが、片手を上げて挨拶をする。

やっぱりあいつなんかおかしいぞ。


「白瀬、お前あいつと仲良いか?」

「ああ、一年の頃からの付き合いだしな」

「そうか。あいつ普段何時ごろに学校に来る?」

「何でそんなこと聞くんだ?」

「ま、教えてくれ」


白瀬は考えながら答える。

これの答えによってはあいつに対する考え方を改める必要があるからな。


「んーどうだったかな……まあ早くはなかった…いや、どっちかと言えば遅い方だったかもな」

「遅い方か…。ところでお前、結局忘れ物はどうするんだ?」

「まあ諦めるしかないかな…鍵がないんじゃ仕方ねえだろ」


まあ落ち込むのも分かる。筆箱を持って帰れないということは宿題ができないということになるしな。

…いや別に筆記具を買うなりやりようは別にあるか。だが、それはそれ。

僕は帰ろうとする白瀬を引き留めた。


「まあ待てよ白瀬。わざわざ来てやったのに、すぐ帰るのはナンセンスだ」

「なんだよ急に痛々しい奴だな」


お前に言われちゃったらもうおしまいよ?

しかしここで帰られても困るのでそれに関しては何も言わない。


「今日の目的、忘れ物を取りに来たんだろ」

「…でもさっき藤原も言ってただろ? 鍵無いって」

「いや、そうとも限らん」


僕がそう言うと白瀬は不思議そうに首を傾げた。

まあ、これはあくまでも妄想みたいなもんなんだが、話してみるとしよう。


「あいつは学校に来てすぐに事務室に鍵を取りに行ったって言ってたよな?」

「ああ、言ってたな確かに」

「例えば白瀬、お前教室に一番に来たら何をする?」


僕が訊ねると白瀬は即答した。


「まあ、黒板に落書き」

「小学生かよ…。そうじゃなくて、一番に来たってことは鍵が開いてないんだぞ」

「あ、鍵取りに行くな。職員室……に」

「だろ?」


教室の鍵は主に職員室で管理されている。

確かにそこに鍵が無ければ事務室に行くのは不思議ではない、だが学校に来てすぐに事務室に鍵を取りに行くというのはおかしい。

まあ仮に本当に事務室に行っていたとしてもそこに鍵は無い。

結局職員室には行かなければならないのだが、やつは行かなかった。



「嘘ついてたってことか、藤原の奴」

「じゃないかと思う。あいつは学校に来る時間が普段遅いんだったな。

 だったら鍵のある場所を知らなくても無理は無い。真っ先に登校して教室の鍵を取りに行く、なんて経験したこと無いだろうからな」


問題はなぜ嘘をついたのか、ということなのだが。

こればかりは妄想で話を広げるわけにもいかん。

白瀬と教室の中を覗いてはみたが特に変わった様子はないし…。


「とりあえず、職員室に行ってみよう。何か分かるかもしれないし」

「おお霧生が自主的に動くなんて…なんか燃えて来たな」


白瀬もやる気を出したようだった。

ところで、僕って普段そんなに自主的に何もしてないように見えますか。




 ・・・・




職員室前までやってきてもやはり冬休み中だけあって人の数はかなり少ない。

生徒はほぼいないが、先生もほとんど見当たらない。

職員室には居ると思うが…。

職員室内を覗いていると白瀬が言う。


「よし霧生、行ってこい」

「僕が行くのか?」

「そりゃそうだ、さあ行くがよろし」


いつの時代の人間だよ。

まあいい、先生に聞きたいこともあるし僕が行こう。

職員室内は暖気で満ちていた。

ここに入るとやはり廊下の寒さを痛感するな…。

とりあえず教室の鍵が保管されている場所まで向かい確認してみる。

…二年三組の鍵だけが無くなっているな。誰かが借りて行ったのか?


「あの」

「何だ?」


誰でもいいやと先生に話しかけたのだが、見るからに偉そうな先生だな。

見たことがないし、違う学年の担当だろう。

しかし人選ミスだったかな…。

悔やんでも仕方ない、さっさと訊いてしまおう。


「アー、すみません。さっき教室の鍵を借りにきた生徒はいませんでしたか」

「鍵? さー、どうだったかな……」


考え込んでしまう先生…やっぱり人選ミスか?

そう思ったとき先生は答えてくれた。


「……ああ、いたいた。男子生徒だったかな」

「何年生か分かりませんか」

「まあたぶん二年生だろう」




 ・・・・




「さむ……」


暖かいところから寒いところへ出れば寒く感じるのも当然。

しかし外で待っている白瀬も寒そうだった。


「おお、お帰り…」

「教室の鍵を二年生の男子が借りて行ったらしい」

「マジか。もしかしてそれが藤原か?」

「さあな」


おそらく違うとは思うけどな。

だが、藤原が嘘をついた理由に何か関係があるかもしれない。

















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