18 禁断の空間
白瀬と夏菜のゲーム対戦が終わったのはおよそ一時間後だった。
ただ遅くなっただけならともかく、まだ行き先は決まっていない。
ひとまず僕たちは小腹を満たすためにメスバーガーで軽食を取っていた。
「で、どこ行くー?」
「さあな、どうするんだ白瀬」
「うーむー」
バーガーを頬張りながら唸る白瀬。これだけで何も考えていないということを悟らせられるのだから大したやつだ。
「じゃ一通り食べ終わったし、これから第一回何をするかを考えようの会を開きたいと思います!」
パチパチと一人で拍手をする夏菜だが、まわりの人が見ているからやめてほしい。
あとそれ第二回以降があるの? ますますやめてほしい。
「では一人ずつ訊きまーす、晃平はどこ行きたい?」
手でマイクを作り訊ねてくる夏菜。いや僕は別にどこでもいいのだが。
ドリンクを飲みつつ答える。
「別にどこでも」
「じゃ、白瀬くんは」
「俺はやっぱり女がいっぱいいるところだな」
白瀬のその発言にはさすがの夏菜も黙る。
おいおい…夏菜黙らせるってお前、すごいレベルまで発展してきたな。
そのうちぶん殴られるんじゃないの?
白瀬が助けを求めるようにこっちを見つめてくるので、不本意だが助け舟を出してやることにする。
「あー、前言撤回だ。本屋に行こう、買いたい本がある」
「そうだな。まあ俺は女がいればそれでいいけど」
なんなのこいつ、せっかくの僕の心意気を完全に無視しやがって。
お前がそのつもりなら僕もう助けないからね。絶対助けないからねっ。
「本屋さんなら、ゼオンに行こっか。あそこなら何でも売ってあるしっ」
「そうだな、食べ終えたら行こう」
そう言って目の前のハンバーガーをパクついた。
・・・・
やってきたのは大型デパート、『ゼオン』。
移動面やら金銭面やらで、あまり好ましい場所ではなかったのだが白瀬が行きたがる場所よりは幾分かマシだろう。
「でもやっぱりここ広いねぇ、どこ行くか迷うよ」
「そうだな。まあまずは本屋だな」
「そうだね、私もゲームの雑誌とか読みたいしっ」
ゲーマーの発言にはいつ何時もゲームが絡んでいるものなのだろうか。
夏菜を見ていてそう痛感する。
・・・・
いくら探しても本屋が見当たらなかった僕たちは、ビデオショップへ入ることにした。
ここでも本は売っているはずだが…果たして目当てのものは売っているだろうか。
さっそく本棚を物色する…と、すぐに目当ての物が見つかった。
ダメもとで入ったビデオショップで新刊をお目にかかれるとは…僕の運も捨てたもんじゃないな。
「…あれ、足りん」
財布の中身を確認すると、百円ほど足りない。
僕としたことが家を出る前に確認して無かったな…もどかしい、せっかく新刊が出ているというのに。
白瀬にでも借りるか。
・・・・
side SHIRASE
俺は本を探している霧生から離れ、いろいろと探索をしていた。
やはりこういう大型デパートに来た時は店内の探索をするのが醍醐味だよな。
なかなかここに来れない分、そのありがたみは増す。
そして、俺はついに、見つけてしまった。
「何をしている」
「どひるんばぁ!?」
急に話しかけられ思わず変な声を上げてしまう。
おっと俺としたことが取り乱しちまったぜ、俺に声をかける人間なんて決まっている。
「驚かすなよ霧生…」
「いや、声をかけただけなんだけど…」
やれやれ、声をかけるにしてもかけ方があるだろ。
なんかこう、美少女が話しかけてくれる感じとか。
でも冷静に考えたらそんなの霧生にされたら俺は縁を切ってしまうかもしれないから逆に良かった。
浅井の姿が見えないな…どっか行ったのか?
霧生は俺の目の前にあるものを見て言った。
「…あー、もう一度聞くが。何をしている」
「いやぁ、ちょこーっとここに興味を持ってな」
俺と霧生の目の前にあったのは暖簾だ。
そしてその向こうに当然スペースがある。
ビデオショップにある暖簾の向こう側…ふっ、その答えはもう一つしかない。
俺は霧生の説得を試みる。
「霧生、俺たちはもうすぐ十八歳だ。この空間に入る権利はあると思わないか」
「いや、もうすぐ十八歳なだけで、別に今は入る権利ないだろ」
ちっ、やっぱり正論で攻めてくるやつだな。
まあいい、俺には持ち前の強引さがある。
最終的には霧生が折れてくれることを俺は知ってるんだぜ。
「まあ良いだろ霧生、入ってみようぜ!」
「おいおい…」
俺が何の躊躇いもなく暖簾をくぐると、霧生も後ろから付いて来る。
俺の勝ちだ。それに興味があるのは霧生だって同じ事だろうしな。
暖簾を潜り、中に入った先では雰囲気がガラリと変わっていた。
人は俺たち以外にはいないようだな。俺は興奮を抑えられず言った。
「やっと入れたぜ、この魅惑の空間に!」
「お前、もうちょっと静かにしろよ。ほら出るぞ」
「まあ待てよ霧生。ここは神聖なる空間だ、存分に楽しむとしようぜ」
「神聖な空間ならお前が汚す前に早く出ないといけない気がするが」
霧生の言うことはほっといて、俺はどんどん奥へ進んで行く。
奥になればなるほど、官能的なポスターが増えていく。
そのポスターの下のモニターには映像が流れていた。
「このモニターで好きなAVのサンプルが見れるんだとさ霧生」
「お前生き生きしてるな…」
「普通こんなモニターないだろうしテンションも上がるってもんだ!」
俺は霧生をよそに一人でモニターをタップする。
ふむふむ、有名女優がたくさんだ。ん、なんだこの人知らない。
「いつ出るんだ? 夏菜が探してたらどうするんだよ」
「まあとりあえず、いろいろ閲覧してからだな。お前も興味あるだろ」
俺がそう言うと霧生は何も言わなくなる。図星か。
これはしばらくここで足止めできそうだな…よし、まずはエロ本から閲覧しておくか。
いやぁ、しかしようやくこの空間に来る事が出来たか。
ここでなら堂々と、やらしいものやけしからんものが無料閲覧できる!
金をかけず堂々と! なんと素晴らしい!
「なあ霧生、この人どう思う?」
「まあいいんじゃないか」
「この前まで高校生だったらしいぜ、それがこんなに淫らに…」
「分かった分かった、頼むもう喋るな」
「お、霧生。上見てみろよ」
天井には大きなポスターが貼ってあった。
高校生くらいの女の子が制服を乱し、下着の中に手を突っ込んでいる。
しかしデカいポスターだな…むしろなんで今更気づいたんだろ俺。
「…あ、そういや白瀬、百円貸してくれないか?」
「百円? …貸してもいいが」
…このまま貸して終わるのも面白くない。ここは一つ利用させてもらおう。
「よし、もう少し俺と一緒に居てくれよ。そしたら貸してやる。それとも家まで取りに行くか?」
「…く、分かった分かった。一緒に居ればいいんだな?」
「いや助かるぜ霧生」
何とか霧生をとどめることができた。
一人でいるのと二人でいるのじゃ緊張感が違うからな。
一人じゃこんなところにとどまるなんてとてもじゃないができないしな…。