17 小人の知恵
耕也「ハローユニティ!」
晃平「なんだそれ…というか、誰だ」
耕也「俺は竹内耕也。この作者が投稿してた『God Only Knows』の主人公だ」
晃平「はいはい。してたって、もう終わったのか?」
耕也「まあ、訳あって今は無くなってる。とりあえず、今回から俺が一緒に前書きでやっていくぜ」
晃平「面倒なやつが増えたな…」
ふと思いついたそれが果たして正しいかは分からない。
しかしこの突っかかりを取り払うきっかけにはなるかもしれないと、僕は二人に言った。
「…ちょっと気になったことがあるんだが」
「? なんだ霧生」
「あ、もしかして分かったのっ?」
ぐいと顔を近づけてくる夏菜…というか近い。
これでもかと近づいて来る夏菜を手で制しながら僕は語り始めた。
「まず砂糖を欲しがった奴なんだが…なんか呼びづらいな。名前分かるか?」
「んー…ちょっと待てよ」
白瀬はアルバムを捲り始める。なるほど、クラスの集合写真から探すつもりか。
やがて白瀬はページを捲る手を止めた。
「ふむ、こいつだ。種島」
「種島…やはり覚えてないな。まあいいや。まず種島は甘党だったわけじゃないと思うんだ」
「違うの? じゃあなんで甘党じゃないのに砂糖を欲しがったんだろ?」
まあ普通に考えて甘党でも砂糖を求めたりはしないけどな。
とりあえず話を続ける。
「白瀬が飴玉を持って行ったとき、確か種島は『もういい』と言ったんだよな?」
「ああ。やっぱ持っていくのが遅かったのが悪かったかな」
「いや、たぶんそのときにはもう砂糖が必要無かったんだ。お前に砂糖を求めてすぐに治まったんだろう」
「治まった? …何が?」
夏菜が訊ねるがそれを言ってしまっては少し面白みに欠ける。
僕は質問には答えずに話を続けた。
「で、お前に砂糖を求めたとき種島は苦しそうだったと言っていたな」
「ああ。…いや、苦しそうといっても死ぬほどってわけじゃなかったぞ」
「いや、そりゃそうだが」
逆にどうして修学旅行中に死ぬほど苦しくなるんだよ。
種島にいったい何があったんだよ。楽しい旅行が台無しだよ。
しかし些細なこととはいえ種島に何かがあったのは事実なわけである。
じゃあその何かとは何なのか。
「白瀬、お前はどんなときが苦しい?」
「俺か? まあ運動したときとかはキツいよな」
「お前は旅行中に苦しくなるほどの運動をするのか。物好きだな」
「何だよ、揚げ足を取ったような言い方すんなよな」
分かりやすく白瀬が拗ねる。
だが答えとして悪くない。運動をすれば息苦しくはなるしな。
つまり。
「僕が思ったのは、種島は息を止めていたんじゃないか、ってことだ」
「息を止めてた?」
「そうだ」
「…息を止めてるだけじゃそんなに苦しくないんじゃないか?」
そう言って自ら息を止めてみせる。
確かに、長い間でなければ息を止める行為自体はそんなに苦しいものではない。
「もしその時に『しゃっくり』が出ていたら。それなら苦しそうに見えることはある」
息を止めているだけでは苦しそうに見えることは少ない。
だが、その時にしゃっくりが出ていたんだとしたら、しゃっくりの作用で体が小刻みに揺れ、苦しそうに見えることはあるだろう。
そして息を止めていた理由はしゃっくりを止めるため、と考えることもできる。
「息を止めてればしゃっくりが止まる、みたいな知恵は誰でも知っているだろうしな」
「なるほど。息を止める理由もちゃんとあるわけか」
「…えっと、それで結局、なんで種島くんは砂糖を欲しがったの?」
夏菜が核心を突いて来る。もししゃっくりをしていた、というのが前提ならこれも説明がつく。
咳払いをしてから答えた。
「マイナーな方法なんだが、砂糖と一緒に水を飲むことでしゃっくりが止まる、という知恵がある。おそらくこれを信じたんじゃないか」
「へぇ、そんなのあったんだ。よく知ってるねー」
まあちょっと前にテレビで見ただけなんだが、役に立ってよかった。
この記憶力をもっと人との関わりについて有効活用していきたいです。
「じゃあ俺が飴玉を持っていった時に断られたのは、そのときにはすでにしゃっくりが止まっていたからだったのか」
「というか、飴玉じゃ意味が無かったんだろ」
「でも、真相が分かって良かったねぇ」
「何でだよ?」
「だって知らなかったら、種島くんが甘党だっていう間違った知識が脳内に蓄積されてたんだからねっ」
いや、そもそも種島を覚えていないんだからどうしようもないだろ。
種島もしかしたら甘党かもしれないし。
まあいいや、もし今度種島に会うことがあったとしたら、そのときはいろいろと気を遣ってやるとするか。
全然覚えてないけど。
「…よし、じゃゲームするか浅井っ」
「そうだね、やろっか!」
すぐさま二人はゲームの準備を始める。
こいつらもう種島のこと忘れてますね。
グッバイ種島、お前はもう過去の人間となってしまったんだよ…。
「…ところで、お前ら宿題とかはどうするんだ?」
「何言ってんだ霧生、俺がやるわけねぇだろ」
そんな堂々と言われても困る。
「夏菜はどうなんだ」
「私? うん、まあもう半分くらいは終わったかなっ」
「……半分? 本当に?」
「うんっ」
夏菜の目は眩しいくらいに輝いている。
こいつは嘘をついている目じゃねえ、こいつ本当に宿題を終わらせてやがっぞ。
「まあ冬休みが始まる前に配られた宿題を全部終わらせただけなんだけど。今日配られたのはこれからやるところ」
想像していたよりも凄いことだった。そういう当たり前のことを当たり前にやってのけるところがこいつの長所なのだろう。
思いもよらないところでこいつに尊敬させられてしまう。
「で、これから何するっ?」
「ゲームするんじゃないのか?」
「ゲームだけじゃつまいないじゃんっ」
ほう、夏菜もそんなことを考えるんだな。
ゲームのことしか考えていないのかとずっと思っていたが、そうでもないらしい。
「宿題でもするか」
「何言ってんだ霧生。俺は宿題なんかしない」
「偉そうに言うことじゃないな」
「じゃあ、どっか行こ。じっとしてて疲れちゃった。 ね、行こー!」
「いいなそれ、どっか行こうぜ霧生」
こいつらろくに行き先も決めずに言ってるだろ。
…そんなやり取りもまた楽しいものだけど。
「…じゃあそうするか。どこが良い?」
「決まり―! えっとね―――」
ゲームをしながら、二人は行き先を考え始める。
やれやれ結局ゲームはするわけですか…。
夢中になってゲーム機に向かい合う二人を横目に見ながら、僕は出かけるための準備を始めた。