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ごく普通の高校生の非日常  作者: 瀬川しろう(サイキック)
第一章
17/59

16 昔懐かし

『…とまあ長くなってきたのでそろそろ。えー、皆さん、怪我のないように過ごしてください』


校長の話が終わると、生徒会執行部が起立と礼を促す。

この瞬間、終業式がようやく終わりを迎える。

生徒たちの目は皆嬉々としていた。それはそうだ、ようやく休みに入れるんだからな。

短くはあるものの、やはりクリスマスや正月がある冬休みとは学生にとって貴重なものだ。


「よっしゃー、ようやく冬休みだな霧生!」

白瀬が背伸びをしながら言う。

こいついつも休みになる度に似たようなセリフを吐いているが飽きないのかね。

休みが嬉しいのはまあ分かるが。


「ま、お前はそうやって短い休みの中でもがき苦しむがいいさ」

「いきなりどうしたんだよ…」


白瀬のことだ、どうせ冬休み終盤になったら宿題関係のことで僕に泣きついて来るに違いない。

僕は一切手を貸さないぞ。今回こそは決めた、絶対に手を貸さない。

それによって最終的に目も当てられない状況になって結局貸しちゃう可能性あるけど絶対に貸さない。

そう決心を固めていると夏菜が唐突に話に加わる。


「でも休みの間は学校に行けない、っていうのはちょっと寂しいかな」

「何でそれでテンションが低いんだよ。俺はただただ休みが少ないって思うくらいだぜ」

「だって学校の皆に会えなくなっちゃうんだよ? なんかいろいろと寂しいじゃん」


いろいろとって、それって特に根拠もなく嫌がってるだけなんじゃないのか。

それにそうは思っていても冬休みは短いから、案外あっという間に終わるものだと思うが。


「やれやれ、頭のいいやつの考えることはよく分からんな霧生」

「なんで僕に振るんだよ。同感ではあるが」

「だろ。それより、せっかく今日から冬休みなんだし、今日はパーッと遊ばないか!」


白瀬がわざとらしく両手を上に掲げる。

どうにもこの男は何に関してもとにかくパーッとやりたいらしい。

だいたいパーッとやるって何だよ、パーッって一体何を表してるんだよ、何してるんだよパーッとやってる奴ら。


「じゃあとりあえず、晃平の家でいいよねっ」

「結局そうなるのか…。別に良いけど」


こいつらが遊ぶ場所に指定するのはいつも僕の家だ。

まあ僕たち三人の移動距離が一番少ないのが僕の家らしいから、そうなってしまうのは自然だと言える。

僕としては全く移動する必要のないという点ではありがたい場所ではあるのだが…。




 ・・・・




「さてと…」


僕は部屋の中で一人呟く。

遊び場を提供する立場の人間としては、やはり良い環境を用意しておかなければならない。

部屋の片づけでもしようと思っていたのだが、よく考えると僕の部屋はそれほど散らかっていない。

まあ、あいつらが座るところくらいは掃除しておいた方がいいだろう。

多分ゲームもするだろうからテレビのコンセントも挿しておいて…。

思えば僕、あいつらが来るたびにこんな事をしているな。

ひょっとして僕はもてなしのプロなんじゃなかろうか、もてなし屋とか開いたら儲かりそう。

しばらく片付けをしていると、僕はあるものを見つけた。


「何でこんなところにあるんだ?」


小学校の頃の卒業アルバムが机の下に落ちていた。

うーむ、そういえばだいぶ前に懐かしんでこんなものを引っ張り出した記憶があるが…その時にしまい忘れたのか。

しかし懐かしいものが出てきたもんだ。




 ・・・・




白瀬は夏菜よりも早くやってきた。

二つの座布団のうちどちらを選ぶかと思っていると、白瀬は僕の予想を裏切りベッドに座った。

こいつ遠慮というものを知らないな……まあいいけど。

僕が座布団に腰を下ろすと、白瀬が言った。


「しかしここに来るまで考えてたんだがよ霧生。やっぱ冬休みはあんまテンション上がらないな」

「? なんでだ?」

「簡単な話だよ。冬だから水着の女の子が拝めない」


白瀬はとても残念そうな顔をしているが、正直お前みたいなやつが幼馴染だという事実に対して僕が残念だ。

こいつがモテない理由の片鱗が見えたような気がする…。


「お前…馬鹿だな」

「何を! 男にとって水着とは動力源ともなるものだろ!」


こいつはただの女好きだ。だからこういうことを平気で言うやつなんだ。

だからしょうがないんだ、分かったら構えている右拳を引っ込めろ僕。

僕の葛藤をよそに白瀬は続ける。


「よし霧生決めたぞ! 俺は冬休み中のいつかに必ず温水プールへ行く! 目的は分かるな?」

「お前の中坊が満足しそうなレベルの欲求を満たすためだろ」

「なんか言い方がキツくないか? まあ、そういうことなんだけどな」

「やれやれ…お前はなんというか、すごいな」


ここまで自分の欲求に素直な人間は現代においてかなり貴重だ。

そういう目で見ればこいつはかなりすごいやつという認識になる……いややっぱりただの女好きだな。

呆れ気味にため息をつくと、白瀬は鞄からゲーム機を取り出す。


「またゲームかよ」

「まあな。あれから浅井に負けまくったし、今日こそは勝ちたいんだ」


そう言うとそのままゲームを始めてしまった。

えっ、僕は? 僕は何もしないままここに座ってるの?




 ・・・・




夏菜が来てからも僕の扱いは変わらない。

夏菜が僕の部屋に参上するや否や、二人は早速ゲームを始める。

夢中になってゲーム対戦をする二人を見て僕がいつも思うのは、別に今じゃなくてもいいんじゃないですか、ということだ。

なんで僕を仲間外れにするの? 新手のいじめなの? いや仲間外れ自体は別に新手でも何でもないか。


「…ん? 霧生、それもしかしてアルバムか?」

「…あ、ああ。しまうの忘れてたな」


白瀬が来るまで少し見ていたのだが、やはりアルバムというものは良い。

写真を見るだけでその時のことを容易に思い返すことができる…何より良い暇つぶしになるな。

後ろにあったアルバムを取ってテーブルの上に置くと、白瀬も夏菜も近寄ってきた。


「…卒業アルバムか。懐かしいな、小学校の時だな」

「良いもの持ってるねぇ晃平」


お主も悪よのぉと言わんばかりの口調で夏菜が言う。

いやお前も持ってるだろ、というか君たちもうゲームはいいの?


「おーおー、懐かしいな。みんなガキだぞ、見ろよ」

「ほんとだ。晃平にもこんな時期があったんだよねぇ」

「お前らすごい人事のように言ってるが、お前らも写ってるからなこれ」


まあ確かにまだみんな子供だ、当然だけど。

こうしてみると、白瀬も夏菜もやはり変わったな。

夏菜は今よりも増して元気ハツラツだったし、白瀬はもっと馬鹿だった。

僕は…どうだろうな。

おそらく何も変わってはいないだろう、外見も内面も。

それが良い事なのか悪い事なのか、その判断は付けられない。


「おー、これ入学式の写真だね」

「さすがの俺もこの時は緊張したな。周り知らんやつだらけだったし」

「まあ、そうだろうな」


誰しも小学校の入学式というのはそういうものだろう。

僕も幼稚園のときの友達が数人いたくらいしか記憶にないしな、もう疎遠になってしまったが。


「おっ、運動会か。確か六年生の運動会には思い出があるんだよ」

「いや、普通だろ。最後の年だぞ」

「いやいやそうじゃなくてな。俺、水筒持ってくるのを忘れちまってなぁ。いろんなやつから水筒の中身をもらってたんだよ」

「迷惑な話だなそれ…」


運動会といえばかなり喉が渇くだろうに、水筒を忘れるとは。

さらに人からたかるとは迷惑極まりない。

そういえばこの年は例年よりも熱中症で倒れた人が多かったらしいけど、まさかお前のせいじゃないよね。


「でもなんと言ってもやっぱりこれだよねっ、修学旅行!」

「そうそう修学旅行でいろいろあったなぁ」


アルバムのページは既に修学旅行にまで進んでいた。

正直、小学校の修学旅行なんて僕は覚えてないが、この二人は覚えているのか。

アルバム一つでここまで語れるというのも覚えている奴の特権なのかもしれない。


「にしてもホテル、すごい豪華だったよな」

「そうそう、やっぱり小学校の修学旅行でも手は抜かないんだねー」

「感謝だよな。それに最終日に遊園地みたいなとこも行ったよな」

「みたいなっていうより、あれはほんとに遊園地だったよ」

「あ、そうだったか? とにかくあれが楽しかったな、一番と言っても過言じゃない」

「ほんとにねぇー」


ふむ、そういえばそんなこともあったようななかったような。

修学旅行で遊園地なんて行くものなんだなぁと当時は思ったものだが、こういうのは一般的なのだろうか?

まあ考えても仕方のないことなのだろうけど。


「ふむ。そういえば、修学旅行の時に変なやつがいたな、思い出したぞ」

「そうだっけ? 変なって…どんな?」

「確か俺と同じ班だった。そいつは普通のやつなんだけど」

「じゃあ変じゃないだろ」


思わずつっこんでしまったが、まだ続きがあるらしく白瀬が人差し指を振る。なんだそれ。


「初日のホテルの部屋の中でのことなんだけど。俺がのんびりと本を読んでいたら急にそいつがやってきたんだ」

「その人とは仲良かったの?」

「いや別に」


ばっさりと斬り捨てる白瀬。

お前、いくらなんでもそんな即答することないだろ、その変なやつも悲しんでるに違いないよ。


「だから変なんだよ。そいつ急に、砂糖を持ってないか聞いてきたんだ」

「砂糖?」

「砂糖って、お砂糖?」


馬鹿みたいな聞き方をする夏菜に対し、白瀬は力強く頷く。

しかし砂糖を持ってないか聞くって、確かに変な奴だな。

コーヒーでも作ってたのか。


「しかし砂糖なんか持ってるわけないだろ?」

「まあ修学旅行に砂糖なんか持ってきてる奴の方がよっぽど変な奴だな」

「だろ? だから印象に残ってててさ。よっぽど甘党だったんだろうな、班員全員に聞いてたみたいだったし」


そんな奴がいたら印象に残るのも仕方がないだろうな。

しかし変わったやついたもんだ、そして僕には全くそいつに覚えがないもんだから恐ろしい。

ここで話は終わりかと思いきや、白瀬の話には続きがあった。


「で、ここからだが」

「…まだあるのか?」

「ああ。俺たちの物語はこれからだぜ」


あまりに格好つけた物言いをするものだから、ついぶん殴ってやろうかと思った。

白瀬は麦茶を勝手に飲むと、また話し始める。


「そのすぐ後なんだけどな、俺そういえば飴玉持ってきてたな、って思い出したんだ。

 ほらフルーツ飴ってやつ、分かるだろ」

「ああ、ちっさい頃に華音がよく舐めてた」

「ふむ。で、それを渡しに行ったら『もういい』って突き返されちまったんだよ」

「甘いもの欲しかったんじゃなかったのかな?」


アルバムをめくりながら夏菜が不思議そうに言う。


「俺もそう思ったんだけどな」

「飴持ってるなら早く出せって思ったんじゃないのか」

「一応ちゃんと『持ってきてるのを忘れてた』って言ったんだがなぁ。それにほとんど間は無かったぜ?」


なるほど。確かに、今の話を聞く限りではなかなかの変な奴だ。

変な奴選手権に出場させたら優勝できるレベルだ。どこでやってるかは知らないけど。

しかし班員全員にわざわざ砂糖を持ってないか聞くくらいの甘党なら、白瀬が持って行った飴玉を受け取ると思うんだが。

まあ気まぐれという可能性もあるから一概には言えんが。

すると突然夏菜が唸り出す。


「むー……」

「なんだ、どうした」

「いやー、砂糖持ってるか聞くなんて変だなーって思って。

 ほら、甘いもの欲しいんなら『お菓子持ってない?』みたいに聞かない?

砂糖じゃなくて」

「はぁー、確かに浅井の言う通りだな」


夏菜の言うことはもっともだ。確かにおかしい、砂糖なんか普通のやつなら欲しがらない。ましてや修学旅行で。


「そうなると、なんで砂糖なんか持ってないか聞いてきたか気になってきたなー!」

「そいつ、お前に砂糖を持ってるか聞くとき何かやってなかったか?」

「何か…って言われても、さすがに何年も前だしなぁ」

「…まあそれもそうか」


やはり覚えていないか。

まあ僕も全く覚えていないし、責める権利は無いが。


「…いや、何か思い出してきたぞ。…んー、ちょっと苦しそうにしてたようななかったような」

「禁断症状かな…」

「砂糖切れのか?」


なんて馬鹿馬鹿しい…。

砂糖切れの禁断症状、ってことでも別に僕はいいが、白瀬は納得がいかないようだ。


「もうただの砂糖好きじゃねえな。何か理由があったんじゃねえかな」

「理由ねぇ。例えば?」

「…いっきに口に頬張って噛まずに飲み込む、とか」

「それ喉に小骨が刺さった時の対処法だろ…。しかも砂糖じゃなくて米だ」

「あ、そうだったか」


だいたい修学旅行のホテルの中で小骨なんか絶対に刺さるわけがない。

そもそも本当にご飯を飲み込んで骨が取れるのか謎だ。

あ。

…そういえば何かあったような気がするな、砂糖についての何かが。

…これ、関係あるのか?


















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