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ごく普通の高校生の非日常  作者: 瀬川しろう(サイキック)
第一章
12/59

11 これだから

文化祭が終わった戸文高校ではすでに勉強ムードが漂っている。

この高校はとにかく『何事にもケジメ』をモットーとしているのだが、そう言われても、

文化祭直後にいきなり勉強ムードに切り替えられる奴なんてそうそういないと思う。


時は放課後、場所は学校。

僕、白瀬、そして夏菜は、『これからの学習計画』と記した紙を目の前にしていた。

ずばりこの紙の提案者は僕。


「なにこれ」

「見て分からないか? これからの学習計画を決めるんだ」

「えー、めんどくせえな」


好き勝手言ってくれるな。

この二人は毎回、勉強と言ってうちに上がりこんでくる割にはゲームしかしないという体たらく。

そんな様子についに親はそんな白瀬たちを連れてくる僕に『いい加減に勉強しなさい』と叱責、

そして妹からも『いつも二階でうるさいから集中できないんだけど』と苦情が来た。


『これからの学習計画』

つまりこれは僕たちみんなが笑顔で暮らせる世界を作るために必要なことなんだ。

学習計画、というよりはうちで勉強をする時の決まりと言った方がいいかもしれないが。



「ねえ晃平、こんなの決めるくらいなら勉強した方がいいと思うよ。中間試験近いし」

「そうだそうだ、帰ろうぜ霧生」

「お前らな・・」


どうやら僕の意図が分かってないらしい。

これは君たちのためでもあるんだからね?

これが無いと君たちの居場所はうちには無いからね?


「まあ聞いてくれ。計画といってもそんなに細かく決めるつもりはない」


どうせ実行は不可能だろうし。うん。


「いつ、どういった勉強をするのか、そしてそれを実行しなかった場合の罰・・・ペナルティ」

「おい今なんで言い直した」


罰もといペナルティは必要だ。これがないと誰もルールを守らなくなる。


「ちなみに、そのペナルティっていうのは?」

「ああ、もう決めてある。一週間うちへの出入り禁止だ。意義は認めない」

「まったく堅いな霧生」

「まったくだね、もうちょっといいやつだと思ってたのにっ!」


なんで僕が責められてるんでしょうかねえ。

そんな言葉をスルーして、続ける。


「まずいつ使うかだが、うちを使う上ではこれが最重要事項だ」


シャープペンシルで紙をトントンとつつく。

白瀬が手を挙げた。


「もう毎日じゃダメッスか?」

「お前は僕の話を聞いてなかったのか?」


少し強くシャープペンシルをつつくと、芯が折れた。

芯を出す。


「じゃあ、土日だったらキリがいいんじゃないかなっ」

「キリがいい・・? まあ、それでいいが」


まあ土日のどちらか、ぐらいが妥当だろうな。

毎日来られるのはさすがに迷惑だし。

書き終えると、白瀬が横から口をはさむ。


「霧生。これ別に帰りながらでも決められたんじゃないのか?」

「・・・愚問だな」


やばい。今白瀬に言われて気付いた。やばい。

帰りながらでも確かに問題は無かったな、これ。

僕としたことがドジった!


「晃平、私もお腹減ったし帰りたい」

「・・・じゃ、どういった勉強をするのかは帰りながら決めるか」


二人とも頷く。

カバンを担ぎ、僕たちは教室を出た。




 ・・・・




「で、どうする?」


夏菜がそう言ったのは、コンビニを出てしばらくしてからだった。

白瀬が肉まんを頬張っていたので僕が答える。


「どう言った勉強をするのか、ってのはまあ、教科と時間だけ決めればそれでいい」

「教科ねぇ」


少し悩んだのち、夏菜はもっともらしいことを言ってきた。


「教科なんて、そのときにならないと分かんないんじゃない?」

「・・・確かに」


そうかもしれない。特にテスト前なんかは、複数の教科を勉強することになる。

試験の時間割は試験一週間前に発表される、つまり今から教科を決めることはできないということになるな。

駄目だドジが多い!

これが浮かれているってことなのか!


「・・・じゃあ、時間だけでいいよもう。何時間するか」

「なんか急に投げやりになったね・・。えっと、じゃあ三時間くらい?」


決定までの時間およそ四秒。早いっていいことですね。


「じゃあ決まったことだし、霧生。さっそく今週の土曜日からだ」

「ほう、やる気だな」

「おう! 一学期は悲惨だったからな、二学期からはしっかりと!」


意気込む白瀬だが、問題はここからだ。

これを実行できないと意味がない。




 ・・・・




土曜日の朝、もういい加減涼しくなってもいいころだが、まだ暑い。

これは十月がくるまでは当分涼しくはならなさそうだ。

暑いし麦茶でも飲もうと、起きてすぐにリビングへと降りた。


「おはよ」

「ああ、おはよ」


リビンゲでは華音が勉強をしていた。

中学と高校の行事というのは大体時期が同じだ。

華音の中学も中間試験が近いんだろうな。

まあ特に華音と話すこともないし、勉強の邪魔をすると悪いし麦茶だけ飲んでとっとと部屋に戻るとしよう。

あ、そういえば白瀬と夏菜が来ること、華音に言っておいたほうがいいのか?

そんなことを考えていると、


「ねぇ」


と短い一言、華音が話しかけてきた。

珍しいこともあるもんだ。

華音に話しかけられるとかすごいレアイベントだ、戦闘でも始まるんじゃないかしら。


「ちょっといい?」

「長くなる用か? もうすぐ白瀬たちが来て勉強するから早めに頼む」


そう言ってやると、華音は少し強めの口調で言う。


「白瀬って、いつも来てる人でしょ? どうせ勉強しないじゃん」


鋭いところを突いてくる。さすがだ、こういうところはやはり兄妹。


「仕方ないだろ、あいつらがやらないだけだ。僕はちゃんと勉強しようと試みている」

「試みてるだけでしょ」


こいつは、そんなに兄を追い込んで面白いのだろうか?

そんなに正論で追いこんじゃったらお兄ちゃん理不尽なこと言うからね!

だがこのままこいつと話をしててもらちが明かなそうだな。

そう感じたので、


「・・・・分かった分かった。で、何の用だ?」

「まあ、たいしたアレじゃないんだけど」

「分かった分かった、早くしてくれ」


僕がそう言うと、華音は一瞬だけ怪訝な表情になる。怖いよ。

負けじと睨み返すと、妹は話の続きを語り始めた。


「たいしたことじゃないんだけどね」

「そいつはさっきも聞いた」

「はいはい。昨日のの休み時間なんだけどさ、一人で勉強してたんだけど」


ほう、意外だな。

こいつのことだから休み時間は友達とガヤガヤやってるのかと思っていたが。


「いつも勉強してるのか? そうだとしたら尊敬するが」


妹は眼を見開いて答えた。なんでいちいちそんな怖いんですか?


「そんな訳ないでしょ。今日は小テストがあって、それの勉強してたの」

「・・ああ、そういうことね」


妹の普段の行動を見ている限りだと、どうせそんなことじゃないかと思ってはいたが。

僕は手を差し出して話を続けろと促す。


「で。勉強しながらだったから詳しくは聞き取れなかったんだけど、横の子たちが何か悪口言ってるみたいでさー」


軽く言っているが、それってけっこう大変なことじゃないのか?


「悪口って、お前の?」

「たぶんね。みんなで笑ってたし」


本人の真横で悪口を言うなんてよほど酷いやつじゃないと考えられないと思うんだが。

ましてや本人に聞こえるほどのボリュームで言うか?


「どんなことを言われてたんだ?」

「それが訳わかんないことばっかなんだよね。悪口なのか私もよく分かんない」


僕からすれば、女子中学生の言動なんて全部訳が分からないが。


「死ねとか」

「えっ、それ悪口だろ」


庇いきれん、さすがに悪口だよそれ。

『○○だしね!』とかじゃない限りは完璧に悪口だよそれ。


「そう。そうなんだけど、でも似せだとか嘔吐だとか・・・あとナチュラルとかも言ってて、理解できないの」

「理解できないな」


訳が分からない。

何か裏の意味がある悪口なのか?

いや、だったら『死ね』だって裏の意味にすり替えるだろうし・・。


「まあ、私に言ってたって確証もないんだけどね」


いやまあ分かるよ。何かに打ち込んでる時に聞こえる笑い声って、

全部自分を罵っているように聞こえるときあるよね。お兄ちゃん分かるなあ。


「もう終わりか? たぶんそれお前への悪口じゃないよたぶん」

「たぶんって何。そうだとしても気になるでしょ、意味とか!

 可愛い妹がこんなに悩んでるのに放っておくの!?」


腕を力強くつかまれる。可愛い妹はこんなに強く兄の腕を掴むものなんですか。

兄の好物、どら焼きを買い置きしてくれるような未来的妹がお兄ちゃん欲しいです!


「・・少しだけな」

「やった。ありがと!」


妹は笑顔になる。

くそっ、顔はしっかり可愛いから腹立つな。




 ・・・・




華音は僕にあるノートを見せてきた。

さっきこいつが勉強していたノートらしい。


「これがどうかしたのか?」

「さっきからこれにいろいろ書いて考えてたんだけど、全然分からないんだよね」


というか別に勉強をしてたわけじゃなかったのか。

勉強の邪魔すると悪いとか思ってた僕の純情を返して。

華音のノートにはいろいろと試行錯誤の跡が見られた。




 ----------------------


  にせ → ニセモノ? 恋

   

   おうと → ハク      

    フィレ → 肉のどっか

  

  ナチュラル→ 天然? ←悪口じゃない


  しね →   暴言とかオモシロ


 ----------------------




こいつ、真面目に考える気はあるの?

ちょっとでも心配したのが少し馬鹿らしくなってきたな・・。

なんだオモシロって、死神かよ。

参考にはならなさそうなので、ノートは華音に返す。


「こうやって見てみても、接点は感じられないな」

「でしょ?」

「このフィレってのも言ってたのか?」

「うん」

「なるほどな」


分からん。

もう全く接点無いし、やはり何かの暗号なんじゃなかろうか。

『死ね』が気になるが、他の内容からみるに華音の悪口ではないとは思う。


「華音、何か学校で流行ってる言葉はないか」

「流行ってる? そうだなー・・・ない」


言い切ったな。

だとすると、それはその女子たちの中で決められた暗号ってことになり、僕に解くことは不可能。


「じゃあもう分からん、お手上げ」

「えー、気になって勉強できないじゃん」

「いやもともとしてなかっただろ」

「お兄ちゃんが起きる前はやってたよ! 

 それに明後日試験だし、数学と英語と理科!」


教科に関しては知ったこっちゃないが。

試験前には勉強するのが普通だろう、別に特別なことじゃない。

ちょっと僕の周りが特殊なだけで。


・・いやそうだな、普通はそうだ。

テスト前はほとんどの奴が勉強するはずだ。

たとえそれがちゃんとした試験じゃなく、小テストだとしても。

普段サボっているような人間ならなおさら。


「華音、さっき小テストがあったって言ってたな。何のだ」

「何の? って、どういうこと?」

「教科だよ。小テストの教科」

「ああ・・英語だけど。単語と熟語のテスト」


なるほど、英語のテストか。

とりあえず伝えるべきか。


「華音、その死ねと言っていた奴らは別にお前の悪口を言ってたんじゃない」


まあ、それはさっきの段階で分かっていたが。


「その女子生徒たちは多分、勉強してたんだ。英単語の勉強」

「は?」


何言ってんの、とばかりに睨み付けてくる。

いったいどう対応するのが正解なんでしょうか、誰か教えてください。

妹に気圧されながらも僕は話を続ける。


「その休み時間の次の授業には、英単語のテストがあったんだろ?」

「うん、熟語もだけど」

「いやまあ、それはどうでもいい。その女子生徒は英単語をローマ字読みして、つづりを覚えていたんだ」

「ん? どゆこと?」


どうも分かってないらしい。

ていうか分かろうとしてる?

お兄ちゃんの話だからって流して聞いてない?


「たとえば『ナチュラル』がいい例だ。ナチュラルはローマ字読みしてもナチュラルのままだからな」


僕はさっきのノートに『natural』と書き、説明する。


「これをローマ字読みしても読み方は『ナチュラル』だろ。

 この考え方で行くと『似せ』はおそらく『nice』で、『嘔吐』は『out』、『フィレ』は『fire』か『file』という英単語になる」

「・・・お、あー、なるほどね。そういうこと!」


そこまで説明すると華音は納得した様子だった。

僕もよくやったものだ、実際に口に出したりはしなかったが。

今思えば何であんな覚え方してたんだろう、普通に暗記できなかったものだろうか。


「ねえ、でも『死ね』は? 『sine』なんて単語習ってないけど」

「ああ、それは『sine』じゃない。こういうことだ」


『sine』という単語は、実在するかは知らないが中学で習う単語には無い。

だが『shine』という単語ならある、光とか輝きという意味だ。


「・・ああ、シャインのことだったんだ」

「ま、そういうことだな。別に悪口じゃないってことだ」


華音は僕の背中を叩き、言った。


「いやーありがとっ! おかげで集中して勉強できる!」

「そりゃどうも」


普段からそんな感じなら、もっと可愛げもあるというものだが。

まあ良いか。悪口じゃないかと悶々としているよりは良かろう。



 ピンポーン



「例の白瀬って人じゃないの?」

「ああ、早いな。もう来たのか」


あの、なんでそんな嫌な顔してるんですか。

白瀬があなたに何したって言うんですか。

いや、まあいつも二階でやかましいって言ってたな。


「じゃあな華音、僕は2階にいるが、何かあったら言えよ」

「はいはい、さっさと行ってらっしゃい」

「この・・・」


さっきは少しでも可愛げがあると思ったのが間違いだった。

この妹、二度と良い顔はしてやらんからな!

僕はリビングを出た。


「がんばれ」


背後から声が聞こえた。

これだから妹は、憎めない。




 ・・・・




白瀬、夏菜と登校中の今日、ついに中間試験当日。

白瀬が力の抜けた様子で言った。


「はぁ・・・昨日徹夜でゲームしちまったぜ霧生・・・」

「お前・・・。それで点が取れなくても、責任は取れんぞ」


僕は昨日、独学でこれまでの試験からいろいろと推測をし、見事ヤマを張ることに成功した!

これで点が取れると良いが・・・というか結局まともに勉強してはいないな。


「まあまあ、もし悪くても期末試験で何とかすれば大丈夫だって!」


夏菜が笑いながら言うが、そんなに簡単にいくとは思えない。

それに期末試験は教科がさらに半分以上も増えるしな・・。


「まあ、勉強はそれなりにしたし、大丈夫だろ・・」


項垂れる白瀬。自業自得というやつだ。存分に苦しむがよかろう。

吹っ切れたのか、白瀬は急に顔を上げ、言った。


「そういや霧生」

「何だ?」


「お前鮎川とはどこまでいったんだ?」

「・・は?」

















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