俺の家のメイドと運命の人
「ふぅ、やっと撒けたな。子供の体力でもなんとかなるもんだな」
親の仕事関係だか交友関係だか何だかは忘れたが、僕からしてみれば外国まで来てあんなキチッとしたところで国籍、年齢関係なくいろんな人と会うのは疲れる。外国本場の物を誕生日プレゼントに買ってもらおうと思ってわざわざ日本からついてきたけど間違えだったな。
無我夢中で走ってきたためここはどこかを息を整え見てみる。
「…あれ?もしかしてマズい…かもな?」
周りを見渡してみると、整備の行き届いていない道、見るからにヤバそうな大人、明らかに普通の人が来るところではない。…そういえば父さんからパーティー会場近辺はほとんど安全だけど、一カ所だけ絶対に近付いちゃいけないと言われた場所があるな。
俺は慎重にもう一度当たりの様子をうかがう。
周りの明らかに少しイっている大人たちは僕の服装やアクセサリーなどを見るとまるで大金を見るかのような目をしている。なるほど、僕を誘拐して身代金などを要求するつもりだろう。今も親に迷惑をかけているが仕方がない、更にこれ以上迷惑をかけるわけにもいかない。僕はスマホからSOSを発信する。
さて、これで一安心だ。心配することは僕が母さんからキッチリ絞られて妹から暫くいじられる事だけだ。二人も少しは父さんくらい寛大な心を持てばいいものを。
僕はボディーガード達が来るまでの少しの短い時間を楽しむこととしよう。
そう決めたところで僕は周りに何か面白そうなものが無いか見まわす。すると少し奥になにか檻の様な物を見つける。
何か珍しい動物でもいるのだろうか、僕は檻の前まで歩みを進める。
檻の中には人間…女の子がいた、それも恐らく僕と同級生か何歳か違いかの。服とも言えないほどのボロボロな布切れを身に着け、本来であれば綺麗に輝いているであろう銀髪はぼさぼさ。瞳はアクアマリンのような見るものすべてを浄化しそうな青色をしているが逆にまるで死んでいるかのように暗く濁っている。
「酷いな…」
そう僕が呟くと彼女が反応する。
「日本…人…?」
「君も日本人なんだ…驚いた、顔立ちや目の色が日本人遺伝の物じゃないからハーフなのかな?それとも両親は外国人だけど日本育ちなだけ?なんでこんなところにいるの?お父さんは?お母さんは?」
「…綺麗」
「?。この金蓮花の柄のハンカチの事?」
僕が彼女にそんな事を尋ねると檻の所有者であろう男がどこの国の外国語は知らないが僕と彼女に向かって檻を蹴りながら怒鳴る。彼女は完全に委縮し、怯え切ってしまう。
しかし、今の僕とってにはどうでも良い。いくら怒らせたところでこの人と会う事はこれで最後だろうし、彼女と話す方が僕にとっては何倍も有意義だ。
「どうしてこんなところにいるの?いつからここに居るの?寒くないの?そういえば名前は?いや、知らない人にいきなり質問されても答えられないよね、じゃあ僕から自己紹介するよ。僕の名前は―――」
「〇〇〇〇〇〇!」
僕が彼女に話している途中で男が怒鳴り声をあげて殴りかかってくる。
ドゴォ!...バキッ!…
それと同時に男がすごい音を上げて吹き飛ばされていく。男はうめき声をあげながら地面にうずくまっている。
「遅れて申し訳ございません坊ちゃん。どこか汚れてしまったところはございませんか?」
タキシードを着たこれでもかというほどのイケメンが僕に質問をしてくる。
「大丈夫だよ駿。思ったより早かったね。僕が抜け出したのに来てもらって悪いね。汚れも怪我もしてないよ」
駿は僕の家で執事として働いている男性だ、僕が物心ついたころから既に家に仕えている。そのため一体いつから仕えているのかは僕は知らない。
「当然です坊ちゃん。もしかすり傷でもしていたら私は責任をもってこの世を去ります。…冗談です責任をもって執事を辞めます」
「冗談に聞こえないから、あと辞めなくても良いから。そんな事で駿に辞められたら僕どころかみんな困るから」
そんなことを言いながら僕は彼女に目を向ける。彼女は何が起こっているのか分からないようなポカンとした表情をしている。
「大丈夫、どんなにあそこでうずくまってる人が怖くても僕の後ろにいるこのイケメンなお兄さんがいる限り絶対安全だから。て言ってもいきなり信じるのは無理か。そうだな…じゃあ二つだけ教えて、君の名前は?君はどうやったらここから出られるの?」
彼女は僕の言葉を聞きゆっくりと一言一言少しずつカタコトな日本語を紡ぐ。
「名前…は無い。わた…しは、売り物…で、誰かが…わたしを、買ってくれたら…出られる。でも…高級?らしくて、欲しいって人はいても…誰も買ってはくれない…」
「なんだ、そんな簡単な事で出られるのか。ちょっと待っててね」
僕はポケットからスマホを取り出し父さんに電話する。
「もしもし父さん?うん…うん…うん駿が来てくれたから平気平気、心配かけてごめんね。ところでさ、誕生日プレゼントの件なんだけど…うん、買ってほしいもの決まったよ。大丈夫、危険な物じゃないから。うんじゃあ後でお願い」
そうして僕は父さんとの電話を切る。
「駿、この子買うからそこの男の人にお金払ってくれない?」
「坊ちゃん、お言葉ですがこんなクズ一人くらいどうにでもできますし、この檻も私の蹴り一発で壊すことが可能ですよ」
「良いの良いの。ただより怖い物はないって父さんがたまに言ってるだろ」
「失礼しました。では早急に支払いを済ませてきます」
そういうと駿は倒れている男に向かって宝石やら金塊などを投げつける。…現金で払うのがめんどくさいからって何も宝石を投げつけることは無いではないだろうか。多分足りてはいるだろうが値段も分かっていないのだし。そして駿はこちらに来て檻を一蹴りで破壊する。こんなカチカチの檻をよく蹴りで壊せるな、普通の人だったら絶対骨折するだろう。
檻は蹴られた場所だけ綺麗に壊れ、危険な破片などは出来ていない。僕は壊れた檻の中に手を差し伸べて少女に手を差し出す。
「ハイ、これでもう君は僕の物だ。安心して、僕は君を傷つけないから。て言うか、君はもう物じゃない、一人の人間だ。自由で幸せになるんだ。…君って言うのももうおかしいね、そうだな~…じゃあ君の名前はさっき綺麗って言った花のハンカチの金蓮花からとって、今から蓮花ね。ネーミングセンスに自信はないから後で自分で決めたくなったら教えてね」
先ほどまで暗く濁っていたはずの彼女の眼は少し光を取り戻す。そして蓮花は震えた手でゆっくりと僕の手まで手を伸ばし手を取る。そして彼女は僕に訪ねる。
「貴方の名前…は?」
僕?あぁ、確かに自己紹介がまだだったね。僕の名前は―――
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「―――…――げ…―蔭…、おい起きろ、宮蔭清良」
「んが…あれ?夢…?」
「なに寝ぼけてるんだ、しっかりしろ。ここの問題解いてみろ」
「はい…え~と…ZnCl₂?ですかね」
「違う。じゃあ綾崎、解いてみろ」
「ハイ。AlCl₃です」
「正解だ。月見里、お前はもう少し自分の家のメイドである綾崎を見習え」
「はーい、気を付けまーす」
そうして先生は俺に対し一言注意し授業は続けていく。にしても懐かしいものを夢に見たな。
「きれいだよね~綾崎さん。美人で頭が良いなんて。はぁ~同性の私でさえ見惚れちゃうよ…」
「あのポーカーフェイスでクールビューティーな感じが良いよな。自分にだけ笑顔とか怒った顔とかデレたりしてくれて表情を出してくれたらそんなの誰でも一殺だよな」
「俺もあんな美人なメイド欲しいな~。いやメイドとしてじゃなく許嫁として…」
「普段のメイドの仕事だけでも忙しいだろうによくあれだけの成績を維持できてるよね」
「でもある意味宮蔭君は綾崎さんみたいな凄い人がメイドでかわいそうかもね。従者が凄いと部下に対しては嬉しいかもしれないけど同級生の従者としてはね。私だって劣等感感じてるのに宮蔭君は直にそれを感じてるんだからね」
キーンコーンカーンコーン
授業終了のベルが鳴り授業が終了する。そして昼休みに移る。昼休みに入ると周りからざわざわと会話音が大きくなる。授業の教材を片付け終わると友達である源春人から声をかけられる。
「清良。学食行こ」
「おう、行こうか」
俺と春人は学食へ向かい昼食を注文し席につく。そしてご飯を食べながら世間話を始める。
「清良、なんか夢見てたろ。どんな夢見てたんだよ」
「何で夢見てたって分かるんだよ」
「お前が授業中に寝るのはいつもの事だけど、起きた時に最初現状を理解するまでにいつもより時間がかかってたのと、そこまで難しい問題じゃなかったのに珍しく不正解だったからな」
「良くそんな事で分かるな。別に特に珍しい夢じゃない、子供の頃の夢だよ。よくそんな細かいところまで見てるな。やっぱ医者目指してるだけあって人をよく観察してんのか?あとあの難易度の問題だったら起きてたって俺の学力じゃどっちにしろ解けないよ」
「そうか?ここ通ってるなら別にあのレベルなら解けると思うんだけどな」
「別にこの学校は春人みたいに頭が良い奴は多いけど、俺含めて全員が全員そうってわけじゃないだろ」
俺達が通っている私立華羽高等学校は防犯面やOBとのパイプ、高校の時点で学ぶ経営学や帝王学が充実しており、親が会社経営者である俺や代々医者家系である春人などいわゆる富豪が通う中高一貫校である。
「そうは言うけどここの頭が悪い方の人だって全国的に見たら全然いい方ではあるだろ。清良だって学力で言ったら中の上から、上の下位だろ」
「あのなぁ、言っておくけどさっきの問題相当難しかったからな。それこそ上の上レベルでやっと解けるぐらいだろ。さっき先生が俺に当てたのも居眠りの罰だろ。やっぱ1位様は違うな。天才と凡人は違うんだよ」
「何回も言うけど別に俺は勉強を努力して点数を取ってる努力家なだけ。本当の天才は彼女みたいな人のことを言うんだよ。ね、綾崎さん」
「痛み入ります」
不意に俺の斜め後ろ方向から聞きなれた女性の声が聞こえる。
「うわ!びっくりした。蓮花~何回も言ってるけど急に背後から声が聞こえるとびっくりするからやめてくれ」
「申し訳ございません。清良様のお食事の邪魔をしてはいけないと思い」
「その様もいらないって何回も言ってるんだけどな。それでどうしたの?」
「ハイ、前々から言われていた通り今週の日曜日に休暇が取れました」
「あぁそれね、オッケー伝えてくれてありがと」
「それでは失礼します」
そうして彼女は要件を伝えるとクラスメイトの場所に戻っていく。
「なんだよ清良、綾崎さんとデートでも行くのかよ。良いな~俺もあんな美女とデートしてみたいな」
「違うよ。蓮花のお見合いだよ」
「は~?お前まだそれやってんの?もうあきらめろって。だれが相手でも綾崎さんは絶対首を縦に振らないから。第一釣り合う人なんていないって。実際お見合い関係ない告白含めてもう何十人も振られてるし。第一まだ高校生だぞ?気が早いって」
「俺はなんて言われても諦めるつもりは無い。あいつは生まれてからずっと苦労してきたんだ。蓮花には早く運命の人見つけてもらって楽しい人生を過ごしてもらう」
「清良そんなことしてるけど綾崎さんの事好きじゃないの?」
「好きだよ、異性として大好きさ。たぶん彼女以上の女性は今後俺の人生に現れないだろうな」
「でも運命の人って言ったって…どの大学でも選び放題な知性があって、男女関係なく好かれる性格と容姿があって、アスリートほどの運動神経があって宮蔭家の従者のナンバー2を任されるほどの能力持ち主だろ?少なくとも俺らと同年代だったり近い年齢で見合う人間はいないよ」
「別に見合わなくたって良い。一番大切なことは蓮花が一緒に暮らせて幸せって思う事だ。ただな~蓮花が首を縦に振る人間なんて見つけられるかが心配なんだよ。あいつ小中高いつもモテて毎週のように告白されてたからさ。春人、お前フリーだよな?お前、蓮花とも仲いいし俺もお前なら安心して任せられる。どうだ?今度お見合いしないか?」
「それは前から断ってるだろ。美人とデートはしたいけど綾崎さんは違う。第一俺と彼女じゃ器が違う」
「なにヤクザみたいなこと言ってんだよ」
前から春人はお互いに仲もいいし傍目には良いと思っていたが、当の二人にはその気はないようだ。
「清良、なんでそんなに急いでるんだよ。別に本人に良い人が見つかるまでゆっくりさせたらいいじゃんか」
「俺も元々そのつもりだったよ」
「じゃあ何でだよ。何か理由があるんだろ?」
「あ~…。まぁ言って減るもんじゃないしいっか。実は俺大学進学と同時に家を出るつもりなんだよ。宮蔭家と縁を切るわけじゃないんだけど上流階級とは縁を切りたいんだ」
「そうなのか?それまた何で?」
「俺は上流階級の生活だったり立ち振る舞いとかが性に合ってないんだよ。マナーだったり、腹の探り合いだったり、この学校だってそうだ。本当は放課後友達とカラオケ行ったりファミレス行ったり、そんな生活を夢見てたんだ。別に外出は制限されてないから休日なんかは何処でも行けるけど家がそこそこ大きいせいちょくちょく宮蔭家の未来の後継ぎって目で見られて疲れるからな」
「そうだったのか…でも家の後継ぎはどうするんだ?家族はなんて言ってるんだ?」
「後継ぎは昔から妹が継ぐ気満々で俺よりも何倍も向いてる。家を出てくことだって父さんは俺の意見を尊重してくれてる。まぁ誕生日とか長期休みには帰って来いっては言われてるけどな。俺は生まれてくる家族、場所、環境は間違えてなかった。でも家柄だけは間違えたんだよ」
これに関しては完全に俺のわがままだ。家族もよく許してくれたと思う。宮蔭家にかけている迷惑は少なくとも俺の物差しでは測れない。
「清良がそんな覚悟を決めてたなんて知らなかったな。でもそれと何が綾崎さん何が関係あるんだ?」
「家を出てくって話がだいたい固まった後に蓮花にも言ったんだよ。そしたら私もついて行くって言いだしたんだよ。来なくて良いって言っても頑なに首を縦に振ってくれなくて、普段は俺の言う事は大体は聞いてくれるのにさ。蓮花もよかったら大学進学だったり就職と一緒に宮蔭家出てって自分の人生を歩んで幸せになりなって言ったら尚更ついて行くって言いだすし」
「ついて行かせたらいいじゃん」
「だめだ。多分、蓮花は小さいころから一緒に育ってきた家族同然である俺と離れるのが寂しいからついてくるつもりなんだよ。蓮花だって将来は恋愛をして結婚するはずだ。だけど今まで蓮花はメイドの仕事ばっかでそんな事考える暇がなかったんだ。だからその責任をとるために俺は蓮花に良い人を見つけようとしてるって事。」
「ふ~ん…なるほどな~」
この俺の蓮花のいい人を見つけようとする行動に、本物の兄である俺よりも本物の姉みたいに蓮花に懐いている蓮花大好き妹はひどい仕打ちを俺にしてくる。妹と蓮花と俺の普段の生活を思い返すと本当は蓮花と妹が姉妹で俺が他人なのではないかと思ってしまう。
「じゃあさ春人、誰か蓮花に合いそうな知り合い知らない?親が医者なら色んな人に合うでしょ。誰かいない?蓮花に合いそうな人っていうか蓮花が心を許しそうな人」
「あ~俺の交友関係の中で一人だけいるよ蓮花さんが心許してる人」
「本当か!?誰だ、ぜひ教えてほしい!お礼はする!」
「え?嫌だけど」
「なんでだ!?」
「今清良にその人の名前行ったって絶対意味ないから。無駄は嫌いなんだよ俺」
春人め、普段はこんな嫌がらせしないのに何でこんなこんな時に限って。
「じゃあヒントだけ教えてくれ!…おれ知ってる人かだけ教えてくれ!!」
「清良が知ってる人か?あ~知ってる知ってる。蓮花さんの嫁ぎ先候補としてある意味お前が一番詳しくて一番詳しくない人かもな」
「何でなぞなぞなんて出すんだ~!おれ頭堅いんだよ。…この学校の人だったりする?」
「あぁ、この学校の生徒だよ」
「そうか、大きなヒントをもらった、これはデカいな」
蓮花が心を許している人がいるなんて全く知らなかったし気付かなかった…。いったい誰なのだろうか、しかしこれは大きな進歩だ。雲をつかむような作業から一気にゴールが見えたような気がする。
にしても…誰だ?春人め、教えてくれればいい物を
俺は頭の中から華羽高校に在籍しているイケメンな人、紳士的な人、家柄、様々な部分から蓮花に合いそうな人を探す。
俺ら一年の中で一番イケメンな五十嵐か?それとも学校でも一般生徒とは数段レベルの違う粒ぞろいの生徒会所属メンバーの誰かか?そう言えば蓮花は生徒会に勧誘されて見学に行ったけど断ったって家で話してたな。
考えてみればあまり気にしてなかったけどよく考えてみれば自分の話をあまりしない蓮花が珍しく俺に話してきてたな。そう考えれば見学に行ったときに気になる人が出来たって線もあるな。…ハッ!なにも男性にこだわる必要はない、女性って可能性もあった!失念していた、蓮花が同性愛者だったという線を完全に絶っていた。しまった、これは完全に俺の失態だ。
「色々考えてるようだけど多分全部外れてると思うぞ」
「そんなこと言われたってな~」
俺が色々な華羽の生徒を想像していると春人が良いことを思いついたかのような顔をし一つの提案をしてくる。
「じゃあ清良、ヒント教える代わりに今週の日曜日蓮花さんのお見合いキャンセルしてちょっと付き合ってくれよ」
「なんだそんな事で良いのか?そんなのお安い御用だ」
「約束な。予定はその内連絡するから」
「オッケー。にしても何しに行くんだ?」
「大学と同時に一般人になるんだろ?その練習だよ練習」
そう言い残し春人は席を立ち食堂を後にした。
俺も昼食を食べた後教室に戻った。
――――――――――――――――――――
夜、自分の屋敷のバルコニーで椅子に座りながら読書をしているとメイド服を着た蓮花がティーワゴンを押してやってくる。
蓮花はいつも通りティーカップに紅茶を入れ俺の前に置く。俺はティーカップを持ち紅茶を口に運ぶ。
「うん、美味しい。いつもありがとうね」
「お気に召したようで、何よりでございます」
蓮花はそう告げた後何をするでもなくただ俺の横に立っている。
「…ねぇ、小さい頃言ってるけど椅子沢山あるんだし座ったら?ずっと立ってて足痛くならないの?」
「従者である私がご主人様である清良様と同じ目線になる訳には参りません」
「出たよそれ。俺と蓮花は確かに主従関係はあるかもしれないけど同級生じゃん、良いんだよそんなの。じゃあ俺の隣に座って、命令ね。あと言葉使いもせめて丁寧語とかにして、敬語だとこっちもむず痒いからさ」
「分かりました」
そう言うと蓮花は俺の隣の椅子に座る。言葉使いも少しだけ柔らかくなる。昔は友達みたいな距離感だったのにいつからか敬語でしゃべられるようになったな。
俺は門の続きを読み蓮花はただ俺を見てくる。そんな風にしていると後ろから足音が聞こえる。振り返るとそこには駿がいた。
「清良様、間もなくディナーが用意されます。そろそろダイニングルームへおいでください」
「ありがと駿…何でそんな変なところにいるの?」
「お気になさらず」
「あっ、そう?」
俺は本を閉じ席を立つ。立つと同時に今日の昼の春人との会話を思い出す。
「そういえばさ蓮花、せっかく日曜休み取ってもらって悪いんだけど日曜のお見合い所用でちょっとキャンセルになったから。ごめんね」
そう伝えダイニングルーム移動しようとすると上の方から何か叫び声と激しい物音が聞こえる。
「ちょっと待った~~~~~~!」
そう叫びバルコニーの上の方のおよそ三階分ほどの距離のある窓から一人の少女が飛び降りてくる。
駿は真上から落ちてくるその少女をお姫様抱っこの形で受け止める。スゴイ、落下の速度も相まって相当な重さのはずなのに微動だにしていない。
少女はゆっくり地面に降ろされるとものすごい勢いで俺のもとに走ってくる。
「ちょっと兄さん!蓮花義姉さんのお見合いの話私辞めろって言ったわよね!何でまだ続けてるわけ!?」
「まぁまぁそうカッカするなよ明乃。蓮花の幸せを願ってるのは俺もお前も同じだろ?だったら何が不満なんだよ」
「不満だらけに決まってるでしょ~~~!な~にが『俺もお前も同じ』よ。蓮花義姉さんの幸せが何かもわかってないくせに」
「蓮花がお嫁さんとして嫁ぎに行くと家にいなくなるからってそう我儘言うもんじゃないぞ明乃。時期宮蔭家当主なんだから我慢すべきことは我慢しなきゃ」
「このバカが~ッ…フン、行こ蓮花義姉さん」
明乃はプンプンと言う擬音が聞こえそうな態度をしながら蓮花の手を引いてダイニングルームへ向かった。
俺はそれを見届けた後駿のもとへ向かう。
「何で明乃がここから飛び降りてくるって分かったの?」
「確信はありませんでしたが長年の勘と言うのが一番正しいでしょうか」
フフと爽やかに微笑んでいるが長年の勘で人一人が落ちてくる場所の下に予め立っておくことなど出来る物なのだろうか。
「ねぇ駿、俺ってバカ?」
「そのようなことはございません。ただ言葉を選ばずに言わせていただきますとニブイですね」
「そうかな~?俺運動神経はそこまで悪くないと思うんだけどな」
「フフッ、そのようなところがニブイのですよ。ですがそこも清良様の素晴らしいところの一つです」
「そぉ?…まぁいいや、じゃあ駿、ご飯行こっか」
「かしこまりました」
俺は二人でダイニングルームに向かう。
ダイニングルームへ到着すると先ほどまで機嫌の悪かった明乃がなにかニヤニヤしながらこっちを見てきた。
「なんだ思ったより機嫌いいじゃん。なんかいい事あった?」
「別に~。ただ近い内に兄さんには蓮花義姉さんの良い部分を身を持って知ってもらおうかなってね」
蓮花の良いところなんてもう分かり切っているというのに。そう思いながら俺は夕食を食べた。
――――――――――――――――――――
日曜日の午前10時、俺は春人と約束した場所である駅前の広場にいた。
「熱っついな~にしても、春人~早く来てくれ~」
そう呟いていると俺の目の前に私服姿の見慣れた人物が現れた。
「あれ、蓮花じゃん。奇遇~、誰かと待ち合わせ?休暇楽しんでね」
「ハイ、これから楽しませていただきます」
そう言うと蓮花は俺の横に寄ってきた。
「待ち合わせ相手はもうすぐ来るの?」
「いえ、たった今合流しました」
「合流した?」
俺は辺りを見渡す。しかし周りには俺と蓮花の知り合いはいない。
「…え?まさか俺?」
「ハイ、源様から聞いておられませんか?」
俺は急いで春人になぜ春人ではなく蓮花が来たのか連絡を送る。するとすぐにメッセージが返ってくる。
『付き合ってくれって言ってOKしてくれたじゃん』
『春人とじゃないのかよ。俺はてっきりお前と出掛けるのかと』
『誰かっては言ってなかっただろ。まぁいいじゃん、楽しんで。俺これから図書館で勉強するから』
それ以降いくら春人にメッセージを送っても既読はつかなかった。
俺は改めて蓮花の方に向く。蓮花は何も言わずにただ俺を見上げてくる。
「そうだな~、取り合えずカフェでも行こっか」
「分かりました」
ただここに居るだけでは何も進まないので俺達は近くのカフェに入った。そして注文を取りにきた店員さんに注文を始めた。
「俺はアイスコーヒーのブラックで」
俺は普段紅茶やレモンティー、また緑茶などの茶類を好んで飲むがたまにはコーヒーを飲むことにした。
「私も同じものをお願いします」
「あれ苦いの苦手じゃなかったっけ?」
「大丈夫です、お気になさらず」
店員さんは注文を取った後俺は今日の経緯を蓮花に聞いた。
「俺今日はてっきり春人が来るものだと思ってたんだけど蓮花はいつから今日のこと知ってたんだ?」
「清良様から今日のお見合いをキャンセルされた日のお昼から源様から伺っておりました」
そんな前からだったのか。春人め、最初からこれを計画していたな。
「蓮花はどこか行きたいところある?いっつもお世話になってるから休日の今日ぐらいは是非羽を伸ばして欲しいんだけど」
今日は完全に春人にお願いしていたため何も予定が決まっていない、蓮花の行きたい場所があればそれが一番丁度いいんだが。
「清良様の行きたい場所が私の行きたい所です」
「あっ、そう?」
俺の行きたい所か、ていっても俺も特にないんだような。
「・・・じゃあ映画でも見に行くか。屋敷で見る事はあっても映画館で見る事なんて滅多にないだろ?」
「映画館での映画…経験がないので楽しみです」
俺達は数十分間カフェで涼んだ後近くのモールの中にある映画館に向かった。
「やっぱ休日だから結構混んでるな…て、あれ?蓮花どこ行った?」
時間がちょうどいいという事もあるがそこそこの人数が映画館にいた。その為先ほどまで近くにいたはずの蓮花を見失ってしまった。辺りをゆっくりと見渡すと蓮花は今上映している映画のポスターが張られている場所に立っていた。そして蓮花は一つのポスターを注視していた。
「なに蓮花、この映画見たいの?」
「あっ、いえそう言うわけでは」
蓮花の見ていたポスターは最近実写化されたお金持ちの男性と一般人の女性の身分違いのラブストーリーの映画だった。
「いいじゃん見ようよ、恋愛映画ってあんま見たことないし俺も見てみたいな」
「本当によろしいのですか?」
「良いの良いの、他の映画と比べてもこれが一番面白そうだし」
「それではチケットを購入してまいります」
「お世話になってるから休日の今日ぐらいは是非羽を伸ばして欲しいって言ったでしょ。だから蓮花はここで残ってて」
「しかし…」
「良いから良いから」
俺は蓮花をそこに待たせチケットの列に並んだ。そしてチケットを購入した後軽食コーナーにも並びポップコーンとドリンクも購入した。そして蓮花の待っている場所に戻った
「蓮花甘党だったからポップコーンキャラメル味にしちゃったけど良かったかな…ってあれ?」
蓮花の元に戻ると蓮花は2人の男性に話しかけられていた。
「いいじゃん俺らと遊ぼうよ、映画見るより絶対にそっちの方が楽しいからさ」
「ていうか君その綺麗な銀髪と青い目、外国人でしょ?俺たちが楽しい場所に案内してあげるよ」
「申し訳ございません。気持ちはありがたいですが丁重にお断りさせていただきます」
「そんな堅いこと言わないでさ」
蓮花は対応こそしているがまるでそこには何もいないかのようなポーカーフェイスを保っていた。保っていたというより本当に何もないと思っているのかもしれない。
ナンパされてるな、まぁ蓮花のルックスを考えればそれも当たり前か。しかし感心している場合ではない。もしここで何かあり蓮花の体に傷を負わせることになれば蓮花の将来の相手探しに支障が出てしまうかもしれない。
「蓮花お待たせ~チケット買ってきたよ。後甘党だったよね?ポップコーンキャラメルで良かった?」
「おいちょっと兄ちゃん、邪魔しないでもらえないかな?もしかして彼氏?ってそんなわけないよなお前とこの子じゃ釣り合わなすぎだし」
「お兄さんたち意外と見る目ありますね、当たり前じゃないですか、俺と蓮花が釣り合うわけないじゃないですか、彼氏じゃないですよ。ただお兄さんたちと蓮花も釣り合ってませんけどね」
「あ”っ?ガキ、てめぇ舐めてるのか?」
「え?えっと…俺何かおかしなこと言いました?事実しか言ってないと思ったんですが」
何か失言してしまっただろうか…明らかに先ほどより目の前の人たちは怒ってしまっている。俺は自分の言葉を分析してみる。
「え~っと…あ!もしかして蓮花と自分が釣り合ってると勘違いしました?もしそう思っていたなら申し訳ありませんでした、容姿も能力も全然蓮花に見合ってなかったのでそう思っていたのだと察せませんでした。申し訳ございません」
「この野郎!!」
俺が謝罪をすると二人のうちの一人が殴り掛かってきた。相手のこぶしが当たる寸前のところで鈍い音と共にこぶしが遠ざかっていく。男Aは膝から崩れ落ちながら鳩尾を押さえる。状況は理解していないがAが反撃されたと察したBが俺に対して蹴りかかってくる。しかし俺に蹴りが当たる前にうずくまっているAが横に倒れる形で盾になる。そして不安定な状態のBがこれまた先ほどと同じような鈍い音がした後倒れる。そして凄い勢いで影がBに向かって動いたところで俺は声をかける。
「蓮花ストップ、そこまで。これ以上はやめとこ」
「だけど清良、このクズどもは清良に暴力を振るおうとした。私はそれが許せない」
「俺は気にしてないから、せっかく綺麗な目なのに目つきが怖いよ。あと駿の直伝の護身術はホントにシャレにならない所あるから」
俺はうなされている男Aの元により俺の持っていたコーラを渡す。
「蓮花がごめんね、ちょっと怒ると怖いところあってさ。これお詫びって事で」
「ヒッ…うわあぁぁ~~~!!!!!」
お詫びとして渡そうとしたコーラを払いのけ男Aは男Bを引き連れて逃げていった。
「あちゃちゃ、まさか拒否されるとは。コーラちょっとこぼしちゃった」
「清良大丈夫!?怪我は!?」
「平気平気ただちょっとコーラこぼしちゃったから床汚れちゃった。店員さん呼んでほしいな」
「分かった」
蓮花は店員さんを呼びに行き事情を説明した。
「悪いね~せっかくの映画の前だったのに」
「気にしてない、清良…その手」
「手?あ~こぼしたときに一緒に汚したのかな」
「ちょっとこっちに来て」
そうして蓮花はハンカチで俺の手を拭い始めた。…あれ?このハンカチって。初めて蓮花と会った時の。
「懐かしいな~この金蓮花のハンカチ。まだ持ってたんだ」
「うん…初めて清良が私にプレゼントしてくれた私の宝物」
「嬉しいな~そこまで言ってくれるなんて。新しい好きな物買ってあげるって言っても蓮花絶対これが良いって言ってたもんね」
まさかこんなボロボロになるまで使ってくれるなんて、プレゼントした甲斐があったってもんだな。
「にしても蓮花が本気を出してればこうなるって分かってたけど結局俺が助けに入った意味なかったな、カッコ悪ぃ」
「そんな事ない…初めて見た頃から清良はずっとカッコいい。私の運命の人」
「そうかなぁ。まぁカッコいいって言われて悪い気はしないな。でもやっぱりまだまだだよ、さっきの蓮花は本当にカッコよかった。でも何より俺の手が汚れているところを見つけたらすぐに気にかけてくれて物を大切に使ってくれてるところがホントに素敵だよ」
俺が感謝を伝えると急に蓮花の手が止まった。
「どうした?急に止まって」
「い…いや、なん…でもない」
「あれもしかして褒められて照れちゃった?可愛いな~」
「可愛い!?私、清良から見て可愛い!?」
普段無口で表情を顔に出さない蓮花が凄い勢いでこっちに尋ね帰してきた。
「え?そりゃ見た目も性格も可愛いでしょ。俺の知り合いの中でも一番かな」
「…可愛い、…一番かわいい」ブツブツブツ
テンションが上がったと思ったら今度は何か言いながらブツブツ言い始めた。今日の蓮花は何だか少し変だ。
「そう言えば蓮花久しぶりにため口だね、やっぱそっちの方が好きだな俺は」
久しぶりにため口で話すことが出来たため蓮花に自分の気持ちを素直に伝えた。すると今度はブツブツ呟くどころか微動だにもしなくなった。
俺は時間を確認するとあと少しで映画が始まる時間まで来ていた。
「蓮花、そろそろ入場しようぜ。映画始まっちゃう」
俺は蓮花の手を引いて映画館に入場した。ラブロマンスのいう普段見ないジャンルの映画だったが、ストーリーがとてもよく、とても充実した時間を送ることが出来た。
――――――――――――――――――――
「春人、蓮花と出掛けてきたんだからヒントくれよ」
休み明けの学校の放課後、俺は春人に約束通りのヒントを貰いに行った。
「日曜日蓮花さんと一日中一緒に遊んだんだろ?その時の蓮花さんの事を思い出してみなって、そしたら自ずと答えは出るから」
「日曜日の蓮花?」
そう言われ俺は蓮花と会った瞬間から家に帰るまでの間の事を事細かに思い出した。そして春人から貰っていた華羽高校の生徒だという事を念頭に置いて考える。
すると一人の人間が俺の頭の中に思い浮かぶ。
「そうか、分かったぞ春一!何でこんな簡単な事を見落としていたんだ!」
「ここまでヒントが与えられたら流石の清良でも分かるか」
「ああ、流石の俺でもな」
俺は頭の中に上がった人物の名前を高らかに春人に伝える。
「蓮花の好きな人の名前…それは宮蔭家の従者のナンバー1、駿だ!間違いない!」
華羽高校の生徒という事で現役生という事に完全に頭が固執してしまっていた。考えてみれば蓮花が年齢のまぁまぁ年の離れた年上好きと言う線があった。駿は華羽高校のOBだから華羽生と言う部分もあっているし小さい頃からあんなイケメンといるんだ、年上好きになるのも頷ける。尊敬もしているだろうし絶対に好意を寄せているはずだ。完璧な考察だ、なぜこんな簡単な答えにたどり着けなかったのだろうか。
違和感を持ったのは最初のカフェでの飲み物だ。苦いのが苦手な蓮花がアイスコーヒーのブラックを注文した理由、それは駿がブラックコーヒーが好きだからだ。俺や明乃が駿のためにコーヒーを入れると泣いて飲むほどだ。好きな人が飲むものを自分も飲みたいというのは当然だ。
二つ目に駿直伝の護身術をナンパを撃退する時に浸かった時だ。駿の護身術はあまりにもハードすぎて使える従者も二桁といない。その護身術を完璧に使いこなしていた、それは駿に褒められたいのと護身術を学んでいる間はず大好きな駿ずっと一緒にいられるからだ。逆説的に言えば駿とずっと一緒にいたから護身術を学べたという事だ。
最後に蓮花が駿の事を好きと考えると俺はどのタイミングで好きになったかが理解できる。それは初めて駿と蓮花が出会った時、駿は蓮花が怖くてたまらなかったであろう外国人を一撃で沈め、檻を壊して蓮花を助けていた。あの時の駿はカッコよかった、あれは男の俺でも惚れた。もう確定だ。
「ありがとう春人、君のおかげで俺はついに答えにたどり着くことが出来た」
「あ、そう。もうそれでいいや、ただ駿さんには俺がごめんなさいって言ってたって伝えておいてくれ」
にしても駿か。兄のように慕って育ってきたが考えてみれば好みの女性像を全く知らない。まず果たして今まで好意を持った相手など存在したことがあるのだろうか。これは強敵だ。
俺はこれからの立ち回りを考えていると後ろから誰かに制服を引かれる。振り返ってみると蓮花が服を引っ張っていた。
「清良…屋敷に帰ろ。また清良と二人だけで映画見たい」
「珍しいな蓮花から誘ってくれるなんて、じゃあ帰って見るか!じゃあな春人、ヒントくれてありがとな!」
俺は蓮花と一緒に屋敷に向かって帰り始めた。
「なんだ、俺がヒント与えるまでもなく早いうちに蓮花さんの好きな人見つけられそうじゃん」
――――――――――――――――――――
自分が小さい子供の頃の夢を見た。
ボロボロな小屋のような場所の中で国籍も年齢も性別も違うボロボロな人間たちが逃げられないようにされた状態で閉じ込められていた。何週間かに一回その人たち全員が無理矢理引きずられながら様々な場所に連れていかれる。そして何人かが泣きながら見ず知らずの大人たちに売られ連れられて行く。長い間買い手が見当たらなかった人達も泣きながら小屋の外に引きずられ二度と小屋に戻ることは無い。次売られるのは自分か、それとも小屋の外で何かされるのか。毎日そのことにびくびく恐れながら生きていた。
私は物心が付いた時からここに居たため自分が何人でどこから来たのかも分からない。言葉を知らなかったから周りの大人が何を言っているのかも理解できなかった。
一人だけ私に親切にしてくれたお姉さんがいた。そのお姉さんは私に日本語を教えてくれた、色々な事を教えてくれた。お姉さんは日本人らしく私にとってそのお姉さんとの勉強だけが人生の楽しみだった。
ある日の朝、目を覚ますとお姉さんの姿は無かった。私はお姉さんがいい大人に買われ幸せにしているという事を願うしかなかった。
ある日私はいつも違い一人だけ小屋の外に連れられた。私は今日が自分の命日であると直感した。様々な場所に連れられたが結局私の事を買う人間は現れず最後にはどこか薄暗い場所に着いた。
あぁ、私の人生に何の意味があったんだろう。そう考える事にも疲れていた時に聞いたことのある言語が私の耳に届いた。
「酷いな…」
私は反射的にその言葉が発せられた方向を見た。
「日本…人…?」
そこには私と同じくらいの年頃の男の子がいた。手には綺麗な柄が入った布があり、反射的に綺麗と言葉に出してしまった。
男の子は様々な言葉を私に話しかけてくるが私には何を言っているかほとんどが理解できなかった。
私がただ黙ってその男の子を見ているといつも私達に酷いことをしている男が男の子に向かって襲い掛かった。
大変なことになる。そう思い反射的に顔を伏せると凄い音が聞こえた。私はゆっくりと顔を上げると男の子は何事もなかったのようにピンピンしており、逆に男が遠くで倒れていた。
そして男の事また新しく出てきた男の人が何かを話していた。私は現状を理解できずにただポカンとしている事しか出来なかった。
そんな私に男の子はまた話しかけてきた。
「二つだけ教えて、君の名前は?君はどうやったらここから出られるの?」
私は自分の話すことの出来る日本語で精一杯男の子に答えた。
「名前…は無い。わた…しは、売り物…で、誰かが…わたしを、買ってくれたら…出られる。でも…高級?らしくて、欲しいって人はいても…誰も買ってはくれない…」
自分の日本語は間違ってはいないだろうか、これからどうなってしまうのだろうかそんな事を考えていると事この子が何かつぶやいた後何か板のような物を耳に当てて声を出し始めた。私には何が起きているのか全く分からなかった。その後男の子と男の人が話をした後男の人は男に何かを投げつけ私の入っている檻を壊した。
私は現状が呑み込めず、腰を抜かしていると男の子が私に手を差し伸べてきた。
「ハイ、これでもう君は僕の物だ。安心して、僕は君を傷つけないから。て言うか、君はもう物じゃない、一人の人間だ。自由で幸せになるんだ。…君って言うのももうおかしいね、そうだな~…じゃあ君の名前はさっき綺麗って言った花のハンカチの金蓮花からとって、今から蓮花れんかね。ネーミングセンスに自信はないから後で自分で決めたくなったら教えてね」
私はどうやら買われたようだ。それでも全く恐れは無く、私は運命の人に出会った。
心臓がドンドンと早くなり私は自分の気持ちの思うままに言葉を発した。
「貴方の名前…は?」
「僕?あぁ、確かに自己紹介がまだだったね。僕の名前は清良、宮蔭清良。よろしくね蓮花」
清良の手は私が生きてきた中で一番暖かかった。それを自覚するとより心臓が早くなり心が物凄く暖かくなった。
「ねぇ駿?僕人にこんなひどい事する人たち嫌いだな~」
「かしこまりました。明日の朝までには解決してまいります」
「ありがとね。じゃあ蓮花、僕と一緒に僕の父さんの所まで行こっか」
そうして私は清良に手を引かれキラキラとした建物に連れていかれた。
清良のお父さん…旦那様にはとてもよくしてもらい栄養のある食べ物と綺麗な洋服、ふかふかなベッドで寝かせてもらった。
飛行機に乗った後私は宮蔭邸に滞在した。明乃ちゃんは初めて私を見た時お人形さんみたいと言いとても私によく懐いてきた。口癖のようにお姉ちゃんが欲しかったから私が来て嬉しいと言っていた。私も明乃ちゃんに懐かれてとても嬉しかった。明乃ちゃんと清良と夢のような時間を過ごせた。
宮蔭邸に宿泊して一カ月ほどたった頃私は旦那様に呼ばれて旦那様の部屋に足を運んだ。そこには旦那様と駿執事長がいた。
「蓮花ちゃん、君の事を養子に迎えたいという人がいるんだ。君さえ良ければいつでもその準備をするんだが―――」
「何でもします…どうかここにいさせてください」
私は旦那様が話し終える前に言葉を遮って自分の気持ちを伝えた。怒られる…そう思ったが旦那様はニコニコした顔で私に答えた。
「そうか、君の気持ちはとてもよく分かった。じゃあ蓮花ちゃん、今日から君にはうちのメイドとして働いてもらおうかな」
私はあまりにも自分の要望がすんなりと通ったため呆気に取られていると駿執事長が私のもとに歩みを進めていた。
「蓮花、今日から私があなたに仕事のイロハを叩きこみます。そしてあなたに宮蔭のメイドとして恥のないように指南します。私は他の執事やメイドと違って厳しいですよ。覚悟を」
「ハイ、よろしくお願いします」
「それじゃあ私は蓮花ちゃんの戸籍を作りに行ってくるよ。蓮花ちゃん、心配しなくても私が必ず蓮花ちゃんの戸籍を作ってくるから安心しなさい」
「ありがとうございます」
そうして私は旦那様の協力もあり戸籍を手に入れ正式に宮蔭家の従者となった。明乃ちゃんは私の苗字が宮蔭ではなく綾崎となりなぜ宮蔭じゃないのかと旦那様と清良にとても駄々をこねていた。
私は一生懸命、宮蔭の…清良の名に恥じぬように研鑽を積んだ。
小学校ではただでさえ他の同級生より知識の量が遅れているのに加え給仕や掃除、言葉遣い、奉仕の練習、護身術、また他者に対してそして宮蔭家の従者としての振る舞い方などを死に物狂いで練習した。容姿が他の人とはこのなっている事もあり少しいじめのような事もあった。
「お前ら蓮花の事好きだからっていじめんなよ」
「だ…誰がこんな女の事好きになるんだよ!」
「振られたからってそんなダサい事するなよ」
しかしそのたびに清良が助けて慰めてくれた。
時には心が折れてしまいそうな時があったがその度に宝物である金蓮花のハンカチを見る事で立ち直れたし清良が疲れていることを察してくれて息抜きをしてくれた。…私は息抜きをしてくれなくても一緒にいてくれるだけで頑張れるんだけど。
ある日学校の中を歩いていると清良と同級生の女の子が楽しそうに話しているところを見て心の中に良くないものがたまっていくのが感じた。自分のものでも何でもないのに清良が取られたと思ってしまった。
清良を取られたくないという気持ちからの物凄い努力、そしてみんなの支えのおかげで小学校高学年には十分すぎるほどに遅れを取り戻し中学受験の時には逆に清良に勉強を教えるほどまでに成長していた。そして無事に中学校にも入学することが出来た。
中学校に入学して告白されることが増えた。相手は大企業の御曹司達、それに対し私は一介のメイド。私とあなた様では釣り合わない、私などよりもっとふさわしい人がいると説得してもあきらめきれないなどと正直跡が絶えなかった。
沢山の人に告白して頂いた。しかしどなたから告白を頂いても私の中は既に清良でいっぱいだった。
清良がバレンタインデーにチョコを貰っていた時、私は本当に良くないところまで行きかけたがすんでのところで踏みとどまった。結果後からクラスメイト全員に渡ったチョコだと分かり安堵したがあれが本命だったら今頃私は宮蔭家にはいられなかったと思う。
中学三年生も終盤、もうすぐ高校に進学と言うところでまた私は告白された。しかし状況はいつもとは違った。いつもは私一人だけ呼び出されて告白されていたがその相手は私と清良が一緒にいるときに告白してきた。そして同時に何人も告白を断っている私にダメもとで交際を申し込んできた。
今まで清良には私がモテているという事を隠してきたが遂にバレてしまった。私はいつも通り断ったが内心は清良がどう思っているかが気になっていた。清良を窺うとまるで気にも留めていなかった。その時私の心は何故か少しチクりと針が刺さったかのように痛んだ。
自分の胸の痛みが分からないまま私は夜仕事が終わった後明乃ちゃんの所へ遊びに行った。小さなころから仕事が終わった後はたまにこうして二人で遊んで慣れないガールズトークなどもしていた。
「明乃ちゃん…何読んでるの?」
「蓮花ちゃんいらっしゃ~い、これね友達から借りた恋愛漫画なんだ。とってもキュンキュンするんだ!明乃ちゃんも読んでみて!」
私は言われるがままに明乃ちゃんから本を借りてその漫画の一巻を読み進めた。
あらすじはお金持ちの男性と一般人の女性の身分違いのラブストーリーものだった。漫画自体はこのように明乃ちゃんの部屋で呼んだ事はあったがこのようなジャンルのものは初めて読んだ。どこか恥ずかしいような照れるような、それでも登場キャラクターが羨ましような少しムズムズした気持ちになった。
「はぁ~良いよね身文違いの恋って。苦しいし切ないし」
「えっ…どうして?」
「だってさ、家柄や階級に差があるとお互いが愛し合っても世間や家族が許してくれないことが多いじゃん?酷ければ仲を引き裂かれちゃうなんてことも…でもさでもさ!そんな障害を二人で乗り越えていくからこそ―――」
身分違いの恋…『私とあなた様では釣り合わない、私などよりもっとふさわしい人がいる』。すべて自分で言った事だ。当たり前だどこの馬の骨とも分からない自分と清良。そんな二人が釣り合うわけない、ステージが違う。だから私が告白されていたところを見ても清良は何とも思わなかったんだ。…何を思いあがってたんだろ私…。
悲しさと同時に清良と両想いだったらと少しでも思っていた自分の浅ましさに恥ずかしく思う。本来自分が清良の事を思えているだけで幸せだというのに。
私はその事実を突きつけられて以降これ以上清良を好きにならないように清良様との主従関係を徹底した。
清良様は急にどうしたのかと心配してくれたし、明乃様は嫌いになってしまったのかと泣いて理由を尋ねてきた。
ある日清良様は宮蔭家を高校卒業と同時に出ていくと宣言した。私にそれについて行きたいと申し出たが断れてしまった。そしてそれと同時に何故か清良様が私の縁談を多くセッティングするようになった。私は沢山の縁談に出席したが、結局一度も承認することは無かった。
私の縁談のセッティングをすると毎回明乃様が清良様に抗議をしてくれたので回数が減りそれは正直助かった。
今の状況にも慣れてきたある日の昼、同級生である源春人様が私のもとに伝言が来た。内容は今週の日曜日清良様とお出かけをして欲しいとのことだった。そして日曜日の待ち合わせ場所と時間を伝えられた。なぜ源様経由からなのかは分からなかったが久しぶりの休日という事もありとても楽しみだった。
日曜日待ち合わせ時間丁度に行くと清良様が既に待ち合わせ場所にいた。私が話しかけると清良様はなぜ私が来たのかを理解していない様子だった。慌てて源様に連絡を送っているところを見る当たり清良様も突然の出来事なのであろう。
状況を理解した清良様と一緒に私達はカフェに移動した。カフェでは清良様は普段は飲まないコーヒーを注文された。私は苦いのは苦手だけど清良様と同じものが飲みたくて同じコーヒーを注文した。一口飲んで注文したことを少し後悔した。
のどを潤した後私達は近くの映画館に行くことになった。映画館で映画を見るという経験が少なくとてもワクワクとした気持ちになった。
映画館の雰囲気を楽しんでいると私の目に1つの映画ポスターが目に入った。それは前に明乃様の部屋で読んだ恋愛漫画だった。
「なに蓮花、この映画見たいの?」
「あっ、いえそう言うわけでは」
確かに他の映画よりも気にはなるが別に特別この映画が見たいというわけではない。ただ自分の人生の中で大きい決断になった作品であるため少し見つめてしまっただけで。
「いいじゃん見ようよ、恋愛映画ってあんま見たことないし俺も見てみたいな」
「本当によろしいのですか?」
「良いの良いの、他の映画と比べてもこれが一番面白そうだし」
「それではチケットを購入してまいります」
「お世話になってるから休日の今日ぐらいは是非羽を伸ばして欲しいって言ったでしょ。だから蓮花はここで残ってて」
「しかし…」
「良いから良いから」
そうして清良様はチケットを購入しに行った。待っている間に私はスマホで明日以降の予定を確認していると男性から声をかけられた。
「お姉さん暇?俺達と遊ぼうよ」
「申し訳ございません。これから映画を見る予定なので」
これはナンパと言う物だろう、どのような物かは知っていたが初めて経験した。
「いいじゃん俺らと遊ぼうよ、映画見るより絶対にそっちの方が楽しいからさ」
「ていうか君その綺麗な銀髪と青い目、外国人でしょ?俺たちが楽しい場所に案内してあげるよ」
「申し訳ございません。気持ちはありがたいですが丁重にお断りさせていただきます」
「そんな堅いこと言わないでさ」
流石に対応がめんどくさくなってきたところでポップコーンとドリンクを持った清良様が間に入ってきてくれた。
「お兄さんたち意外と見る目ありますね、当たり前じゃないですか、俺と蓮花が釣り合うわけないじゃないですか、彼氏じゃないですよ。ただお兄さんたちと蓮花も釣り合ってませんけどね」
清良様はがしゃべったその言葉、分かってはいたが私の胸にとても深く突き刺さった。正直この後の映画を楽しめる気がしない。
私はただ清良様がナンパ二人をたしなめていることを見ている事しか出来なかった。その様子を見ていると男の一人が清良様に殴り掛かろうとした。
私は反射的にその男の鳩尾を殴った。そして次に清良の事を蹴ろうとした男を蹲っている男で防ぎ反撃した。
「蓮花ストップ、そこまで。これ以上はやめとこ」
私は清良に害を与えようとしたクズに止めを刺そうとしたところで清良本人からストップがかかった。
「だけど清良、このクズどもは清良に暴力を振るおうとした。私はそれが許せない」
「俺は気にしてないから、せっかく綺麗な目なのに目つきが怖いよ。あと駿の直伝の護身術はホントにシャレにならない所あるから」
クズ相手にも慈悲深い。そんな優しいところが相変わらず素敵。
清良は蹲っているクズに謝罪をしたがクズどもは最後に手を払いのけ逃げていった。しまった、清良に傷がついてたらどうしよう。もし怪我でもしていたら自分で自分を抑えきれずトドメじゃすまないかもしれない。
安心したことにけがなどは無く、直ぐにその後の対応に回ることが出来た。
私は店員さんを読んだ後清良の手が汚れている事に気が付いた。私はすぐにポケットから宝物のハンカチを取り出し汚れを拭いた。
清良は私がまだこのハンカチを使っていることに喜んでいたが捨てる事なんて私にはできない。逆に感謝したいのはこっちの方だ。ここまでの宝物を私にくれたんだから。
「にしても蓮花が本気を出してればこうなるって分かってたけど結局俺が助けに入った意味なかったな、カッコ悪ぃ」
「そんな事ない…初めて見た頃から清良はずっとカッコいい。私の運命の人」
「そうかなぁ。まぁカッコいいって言われて悪い気はしないな。でもやっぱりまだまだだよ、さっきの蓮花は本当にカッコよかった。でも何より俺の手が汚れているところを見つけたらすぐに気にかけてくれて物を大切に使ってくれてるところがホントに素敵だよ」
清良から出た素敵と言う言葉。その言葉に私は柄にもなく飛び上がりながら喜びそうになった。ちょっとでも油断すると顔に出てしまいそうで動きが止まってしまった。
「どうした?急に止まって」
「い…いや、なん…でもない」
「あれもしかして褒められて照れちゃった?可愛いな~」
可愛い…可愛いって言った?清良が私に?何とも思ってないんじゃなくて?
「可愛い!?私、清良から見て可愛い!?」
「え?そりゃ見た目も性格も可愛いでしょ。俺の知り合いの中でも一番かな」
「…可愛い、…一番かわいい」
清良から発せられた一番かわいいという言葉。その言葉が私の中で何度も反芻し私の頭の中はとろけてしまいそうになった。
「そう言えば蓮花久しぶりにため口だね、やっぱそっちの方が好きだな俺は」
無意識にため口をしてしまったという失敗したという考えとトドメの好きと言う言葉。この言葉により私の頭の中は完全に沸騰しオーバーヒートしてしまった。
その後の事はあまりよく覚えてはいない。確かに映画を見たはずだが映画の内容とは違うドキドキのせいで全く内容は覚えていなかった。
――――――――――――――――――――
その日の夜私は明乃ちゃんの部屋にフワフワした頭で向かった。そして今日一日あった事を話した。
「ナンパって本当!?大丈夫!?蓮花義姉さん、怪我はなかった」
「うん大丈夫…。ただ私が油断したせいで危なく清良に怪我させちゃうところだった…」
「兄さん?良いの良いの、蓮花義姉さんの気持ちを蔑ろにしてる兄さんなんて一回ぐらい痛い目に合えばいいのよ。それよりあの漫画の実写版見たんでしょ?やっぱり良いよね~あれ。身分違いの恋」
「…でもやっぱり、身分違いの恋なんて非現実的だよね」
「えっ?なんで、全然そんな事ないんじゃない?だってお父さんとお母さんが実際にそうだし」
「え?どうして?」
私は予想外の回答を明乃ちゃんに返され反射的に聞き返す。
「だってお父さんは一般家庭出身だもん。お母さんが特待生で華羽高校に入ったお父さんに一目ぼれして毎日のようにアタックしまくって最終的にお父さんを打ち抜いたわけだし」
「そっ、そうなの?」
「そうだよ~。そっか~おじいちゃんとおばあちゃんこの家来るときは正装でくるし蓮花義姉さんはお父さんの実家行った事ないもんね」
旦那様には昔からお世話になっていたけどまさか旦那様が一般家庭出身だったなんて。
「やっぱり奥様と旦那様が結婚する時には様々な障害などはあったの?」
「あんまり知らないけどそれは勿論いろいろあったみたいだよ。でもまぁお父さんが優秀って事もあって最終的には上手くいったみたいだけどね」
そんな事があったなんて…それなら私も諦めなければもしかしたら
「蓮花義姉さんなんて父さんと母さんの障害に比べたら全然大丈夫だよ。だって当の本人が高い身分辞めるって言ってるんだから」
私は明乃ちゃんの言葉を聞いて顔を赤くして聞き返す?
「なっ…なんで私が清良の事好きだって知ってるの!?」
「え~そこ?見てたらだれだって分かるよ。気付いてないの兄さんぐらいじゃない?」
「とっという事は旦那様や奥様、駿執事長も知ってるの!?」
「当たり前じゃん」
は、恥ずかしいっ。私は体を丸くしてベッドの中に入り顔を枕に埋める。明乃ちゃんが可愛いと言って一緒にベッドの中に入ってくるのが逃げ場を塞がれたようで尚更恥ずかしくなってくる。
「お父さんもそうだけどさ、家の家系は女系は肝っ玉で男性は押しに弱いからドンドンアタックしなよ。蓮花義姉さんもとっても肝っ玉だからね。身分の差なんて気にしなくていいよ。私はお兄ちゃんはどうでも良いけど蓮花義姉さんの幸せは願ってるし、何より私の蓮花義姉さんの関係を邪魔する人は誰であろうと容赦しないから」
「…うん、ありがと」
私は次の日から清良に対して敬語で接するのを辞めた。そして自分の中でドロドロしていた気持ちを一つに固めた。
そして私は放課後になりすぐ私の運命の人の制服を引いた。
「清良…屋敷に帰ろ。また清良と二人だけで映画見たい」
「珍しいな蓮花から誘ってくれるなんて、じゃあ帰って見るか!じゃあな春人、ヒントくれてありがとな!」
私は清良がと一緒に屋敷に向かって帰り始めた。
私は今までの人生で欲しい物をねだった事が二回しかない。一回目は私の宝物のハンカチをねだった時、二回目は宮蔭家に残らせてほしいとねだった時
今日私には三つ目の欲しいものが出来た。でもそれはねだらない。自分の手で手に入れて見せる。
そしてこれから清良と私の間に漫画のような障害があったとしても絶対に清良を手に入れて見せると決意を固めた。




