第57話 そして1・2列目は居なくなった
世界に激震が走った。
たった一人の女がアメリカとケンカしようというのだ。
「ここは動かなければ! 何らかの国としての対応を示さなければ!」
そんなプレッシャーで、世界中の国家や政府、責任ある立場の人間たちの血圧、脈拍は異常な数値に跳ね上がったことだろう。
──とくに日本なんかは。
しかし、未だ慎重に……。慎重に……。一切のコメントを控えていた。
日本政府はどんなご意見を言うのかとテレビを点けても、なにも発表していない。
無理もない。
日本という国は、その軍事力は。
『アメリカが助けてくれる』という前提。
自分の国を自分の力でほとんど守れない。
まともな根拠もなく他国を当てにしている冗談みたいな前提で形成されている。
(『北が攻めてきたら日本に亡命政府を作れば良い!』などと勝手にほざいている
「ハ? 寝ぼけてんじゃねーぞ」って日本人なら思わずツッコまずにはいられない、自己チューで自分らは一ミリも日本人から嫌われてないと思い込んでいる、気持ち悪いストーカー反日国家も同じような感覚なのだろうか?)
日本の自衛隊は一見、装備は一級品だし練度も高く、クオリティ自体はアメリカ軍と遜色無いレベルにある。……かのように見えるのだが、砲弾の備蓄が無かったりと『継戦能力』がまるで無い。
つまり、長い時間戦えない。一時しのぎの能力しかない。
『アメリカ軍が助けに来てくれるまで持ちこたえればいい』
そういう発想で組織されている、それが『日本の防衛力』
ところがここにきてアメリカ軍が真っ先にやられちゃってる。
どうするの?
どう、意思表明するっつーの。
まさに天下分け目の関ケ原、東西どっちにつくかなかなか決められなかった日本全国各地の戦国大名と同じジレンマに陥っている。
うっかり先走ってどっちに付くか発表した後、風向きが変わったり、その他大勢が敵方に付くとなったら大変だ!
「やっぱさっきの宣言はナッシングで!」で済むかどうか。
……済まんわな。
日頃「総理! 総理!」と追いかけ回すような、というか、それしか能のない
「なんでおまえらが政治記者やってるの? スキャンダル以外に質問したことないだろ、オマエの仕事は政治家を取り囲んでマイクを突きつけることか?」
みたいなボンクラ政治記者どももやけに静かにしている。
おそらくインタビューにも来てくれるなというお達しが出ていたのだろう。
「動けだと!? 危なくて動けるか! 先に動いたヤツから死ぬだろう!」
「見極めろ、世界がどう反応するか見極めろ! それから無難なコメントだ!」
なんて特撮映画で見かけるような不自然かつ寒いノリのお話し合いが永田町やら料亭やらで行われてたんじゃないかな?
さんざん待たせて結局出るのは「遺憾の意」とかそんなしょーもない、テレビ映えしないコメントだろうけども。
かつて、火炎瓶が飛び交う暴力革命をやりまくったあげく見事逮捕されずに生き残り、今では某政党のリーダーにまで上り詰めた元極左暴力集団政治家の座右の銘も
「三列目で叫べ」である。
これは激化した左翼運動のデモ行進で、二列目ぐらいまでは警察に逮捕される確率が高いので、〝先頭で活動してるっぽい空気を出しながら、それでいて逃げられる三列目、このギリギリの三列目を絶対にキープする〟という、とんでもなく姑息な、だが馬鹿にできない理論を、歯切れよく表している言葉だ。
日本政府はそこから学んだのか、そういう路線で行くつもりのようである。
まぁ、それはいいんだけど。
その後の方針についてはちゃんと話し合っているのかな?
凛子ちゃんを怒らせると怖いよ?




