第56話 正義の天秤はプルプル震える
──── 大魔王の降臨である。
昭和にはプルトニウムを盗み出して原子爆弾を製造。日本政府を脅迫するという内容の活劇映画があったが、それどころではない。
この女は世界の覇者を目指し、そしてすでに戦争を、実力行使を始めている。
……やることのスケールと切迫感が違っていた。
『核』という実際には使いづらく、保有することに意味があるというような兵器ではなく、容易にドンパチを始められる陸戦兵器ですでにアメリカ軍相手に始めちゃっている。世界最強のアメリカ軍相手に、かなりお気軽にだ。
おまけに逆らうやつどころか、気に触るやつは誰でも潰すと公言している。
オーマイガー。
今まで、アメリカ合衆国に仇なす色々なテロ組織やテロ支援国家などと呼ばれるものがあったが、いずれもアメリカ軍からは狙われる立場にあった。
だが今回は逆である。
狙われているのはアメリカ軍の方だ。
というか『狩られている』と表現したほうが近い。
アメリカ軍が狩猟シーズン解禁直後のハンターに狩猟される野生動物のごとく、すごい勢いで狩られている。
それも警ら中の兵士がなどという末端ではなく、ど真ん中の正規軍、地域の防衛力、主力部隊がまるごと狩られている。世界中の戦争・紛争に毎度毎度と首を突っ込んでは新しく買ってもらったオモチャを開封するノリで、最新兵器の実地試験を脳筋ハッスルにかましてきたアメリカだが、これほどボコボコに被害を被ったことは第二次世界大戦以来一切ないだろう。完全に非常事態。
のんきにツブイッターで煽られている場合ではない。
はるか先をゆくテクノロジーの兵器で、実地試験をされる側になったのだ。
勘の良い方はもう、お気づきになられちゃってることだろう。
今、世界はグラグラ揺れている。
『テロ』だの『ゲリラ』だのは、結局正規軍に勝てないからそう呼ばれるのであって。
勝った場合は『抵抗運動の成功』などなど適宜に聞こえの良い呼び方に変更。
なんか正義が行われたかのように評価が真逆となる。やってることは同じなのにだ。
凛子が一方的にアメリカ軍を攻撃しているという悪者的な立ち位置なのは現状の評価であって、いつ『正義』に変わってもおかしくない。
世界は選ばなくてはならない。
認めなくてはならない。
その変わり目が意外と早く、すぐそこまでやってきている。
かつての日本、戦国時代。
天下分け目の関ヶ原、西軍東軍どっちに付くか究極の選択を迫られた全国各地の戦国大名。
「勝ち組はどっちだ? 勝つのはどっちだ? どっちに付いた方がマシなの? どっちの味方して良いかなんてマジわからんよ、どっちつかずは最悪なの? 間違うと国が滅亡なの? マジ勘弁してくれ」
あれと同じ立場。
あれと同じ、どうしようか胃がキリキリする立場に今。
世界中の人々が、偉い人らが、立たされつつあるのだが。
それがハッキリ認知されるのは、もう少し先である。




