第54話 宣戦布告
凛子による話題性を狙ったアメリカ軍を愚弄する炎上ツブイートには
そこそこの数のネット民が反応したが、結局のところ予想に反して世間の反応はさぶさぶだった。
とんだ期待外れ。ガックリ肩を落とす凛子。
あまりに非現実過ぎる過激な情報だと『煽り』が失敗してしまうのだ。
大多数が「うおおおお!!」って怒ったりブチ切れたりしてくれない。
大事件に便乗する、しょーもないデマと区別がつかないせいだ。
うっかり「マジ!?」だとか「けしからん!」って拡散リツブイートなんかして、後から「フェイクニュースでした~!」なんてなったら騙されたみたいでカッコ悪い。
普通の感覚の人には反応し辛いニュースだ。
「なんなのよもぉー! ここまでやってるのに、なんでろくな反応が無いの? どう思うシエンちゃん!」
〈人心を予想するのは容易ではありませんね。〉
「そういえば、医療ミスをしまくって何人も死なせたり不遇にさせて有名になった脳外科医のお医者さんがいたけど、あれですらネットに出回ってからちゃんとテレビニュースに流れるまで、ずいぶんかかったからなぁ。権力が関わるとこういうものなのかな?」
……と思いきや、テレビ局のひとつから凛子のアカウントにダイレクトメッセージが来た。
『突然のご連絡失礼いたします。テレビにゃっぽん報道局です』
とうとう来た!
「ふわぁぁぁー! シエンちゃん取材が来たヨー!!」
じつはこの急な変化は、堀部さんのツブイートが大きく関係している。
彼は律儀にも約束を守って、カミナギルの合体シーンの動画や、凛子とのツーショット写真の数々を自分のツブイッターに投稿していたのだ。
『青少年 自然の家』の広報アカウントと化しているあのツブイッターアカウントでだ。
社会勉強的にフォローさせられていた子供会のちびっこ達は、いつもは退屈な自然の家のツブイートなど関心は無く、時折、堀部さんが気を利かせて出しているカブトムシやクワガタの穴場情報ぐらいしか目に止めなかった。
だがそんなところに突然ロボットの動画が、それも人が乗れて合体するようなのが出てきて、そりゃもう飛び跳ねての大騒ぎの大喜びをした。
よくネットに転がってるCG動画なんかじゃない、マジもんだ。
青少年センターの堀部さんなんだから間違いない。
初めて本物の巨大ロボを近くから鮮明かつ詳細に撮影されている動画である。
凛子がカッコ良さにこだわって、あーだこーだ言ってるのも全部映ってる。
こどもたちからリツブライがいっぱい来た。
『すごいです』『かっこいい』『超おもしろい』
こんなに反応があったのはいつ以来だろう? 思い出せないくらいだ。
訳の分からん女(凛子)のアカウントと違い、堀部のアカウントには説得力があった。それも絶大な。
実直で寡黙で献身的に地域の活動に何十年も貢献してきた人物の情報発信には、本人にも想像しえなかったパワーが秘められている。その影響力は、もちろん今の子供だけでなく、この自然の家で体験学習を経験して育った、かつてこどもだった大人たちにもしっかり根付いているのだった。
にわかに脚光を浴びて困惑する堀部オジサン。
詳しい事情を児童の父母たちに尋ねられ、カミナギルが佐世保アメリカ海軍基地を襲撃する直前まで、ツブイッターに投稿する動画を撮影するが為だけに、わざわざ合体をやり直していた等の話をした。その事実にいろいろな界隈が激しく動揺。
アメリカ軍基地のすぐそばで。発見されるリスクを犯して、無防備になるであろう分離・合体を、カッコよく撮影する為だけに、わざわざ打ち合わせまでして良いアングルでやり直していたと。誰が聞いても呆れる余裕っぷりである。
なおかつ、これはカミナギルが現在の日米のレーダーをはじめとした早期警戒システムではまるで探知・発見不可能だったことを如実に物語っても居た。なにせ基地の直ぐ側の目立つ山頂付近で巨大なロボットや攻撃機が30分以上そのような悪ふざけをしていても発見されなかったのだから。
あわせて凛子は、堀部のツブイッターアカウントを勝手に相互フレンド登録しており、カミナギルに喜ぶちびっこ達のリツブライを見ては、ニマニマと笑いながら一つ一つ残さず「いいね!」と「リツブイート」のボタンを押しまくっていた。もう、誰が見ても無関係な人間ではない。(堀部さんは教育機関以外は相互フォローしていないので、凛子が異様に目立つ)それゆえに凛子への直接取材へと繋がったのだった。
テレビ局の取材により、一気に凛子がカミナギルのパイロットで有ることが世間に周知される。
凛子は──、
◆ 突然ロボットを手に入れたこと。
◆ カミナギルのコンピューターがアドバイスしてくれること。
◆ 結果、アメリカをやっつけて世界の覇者となる予定、というか決定事項。
──であることなどをネットを通じて取材記者に語った。
取材を申し込んだ冬月一郎,(ふゆつき いちろう:39歳)は、当初こそ興味本位で半信半疑、軽い気持ちだったが、とんでもなかった。モニターに映し出された巨大ロボットのコクピットに鎮座する凛子に、まさしく鎮座という言葉が本来意味するところの『神霊がそこにしずまりいること』かを思わせる畏怖を感じ取りはじめていたのだ。
「そ、それはまさか、アメリカに対する宣戦布告ですか?」
慎重に言葉を選んで尋ねる冬月に凛子はあっけらかんと答えた。
「? 何言ってるの? 最初からそうだよ? いったい何だと思ってたの?」
まぎれもない『宣戦布告』だった!
「別に相手はアメリカじゃなくても良いけど、一番強いやつをやっつけないと、みんなが納得しないでしょ?」
「いや、あの……わたし個人の意見としては、なんと答えていいか」
しどろもどろの冬月の背中に嫌な汗がどっと出た。
ここでうっかり「そうですね」なんて応えたら『テロリストの暴挙を肯定した』や『アメリカを狙うことに誘導した』などと断罪されかねない。それほどここでかわされている会話の内容には計り知れない危険性があった。
歴史ドキュメンタリーで見たことが有る。
第二次世界大戦の終結が見えてきた頃、連合国の首脳たちが集まって『戦後の世界を誰の国がどれだけもらうか』決める会議が行われた。
米大統領ルーズベルト、英首相チャーチル、ソ連首相スターリンという面々によって開かれた『ヤルタ会談』──超大国主導による勢力圏の確定。
あの場だ。
俗に『勝者の世界分割』と呼ばれた、一部の人間が勝手に世界の国境を決める。あの恐ろしくエゴイスティックな場に立たされている状態にそっくりなのだ。
これはヤバイ。このインタビューは、今後世界中の人間が幾度となく目にするであろう衝撃の記録となるぞ……!
──凛子はもちろん、インタビュアーである自分の一言一句さえが確実に歴史に残る。絶対にヘマは許されない。
まさか自分が世紀の重要人物への最初のインタビュアーになるとは思わなかった……。
冬月は、なんとか顔は冷静さを取り繕ってはいるが、思わず「失礼します」と断ってすぐさまミネラルウォーターでカラカラになった喉を回復させた。




