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第51話 だから凛子は子猫のような泣き声で



 「馬鹿か? カッコつけんじゃねぇ、ただの負け犬じゃねーか。アホかと。」


 凛子と仕事をせめぎ合っていた女たちは吐き捨てるだろう。

 あの業界で、芸能界で、体を張って成功している女たちには白ける話だ。


 彼女らにしてみれば、半グレだの、プロ経営者だの、ヤクザプロダクションだの、なにが悪い? 


 そういう業界を取り仕切っている、金と仕事を生み出している強い人間。

 それは悪どころか、むしろとてつもなくカッコイイ男どもだろう。そうだろ? 

 そうじゃないのか? 


 野球少年が強い球団に憧れる。

 就活生が大手企業に憧れる。

 エリート気取りの東大生が官僚に憧れる。


 何が違う。全部同じ。全部同じキモチ……。

 

 いわゆる『体制に迎合する』というやつだ。弱者にこれ以上の正解はない。


 ──ああカッコイイ。ああカッコイイ。抱かれたい。お近づきになりたい。

 それが普通だ。それ以外に何がある。

 ねえ、何がある?

 

 そういう男ども、オヤジどもの強い組織の力に取り入りたい。取り入って自分もその恩恵に預かりたい。あわよくば虎の威を借りたい。

 ああ、取り入りたい。取り入ってなんぼのもんだろ。

 それが女の領分だろ。そういう仕事だろ。その為に選ぶ仕事だろ。


 それが出来なかったヘタれが何をカッコ付けてるんだ? 

 なぁ、なんで? ダサくね? いやマジで。

 ダサい女の言い訳だ。

 ケツの穴と同じくらいに価値がない、誰にでも必ず一つはある負け犬の言い訳。そんなクソダサい言い訳でしかないだろ。


 芸能界といってもジャンルで事情は変わるが、その中でグラビアアイドル・タレントなんてのは、モロに誰に取り入るかが勝負の世界じゃねーか。

 そんなことすら知らずに入ってきた、覚悟も何もないやつが、なにが『自分に不義理』だ。聞いて呆れる。ただの半チク.(ハンパ者)が勝手に消えただけだろ。その先の成功も自分から投げ捨てておいて勝手に悲劇のヒロインぶるんじゃねーっつーの。


「無知で無垢な女」の補正だけでここまで生きてきたバカ女の妥当な末路だ。

 凛子の周りの女たちの目にはそう映ったことだろう。

 

 その通りだ。

 まったくその通りだ。

 答えを合わせるまでもなく、その後の凛子がどうなったか。時間は知っている。


『 女は他人にマウントを取ることにおいて、男の存在が絶対不可欠 』


 これが『絶対のルールだ』

 男どもとよろしくやってる女どもが作ったこの絶対のルールは、いくどもそれに従わない女達を容赦なく虐げ、敗北に追いやることに成功してきた。


 これが現実だ。


 動物研究で野生のゴリラのメスでさえ、交尾を報酬にオスをけしかけて、敵対するメスを攻撃させて勝利していた。人類だけではないのだ。自然界のメスの戦術。メスの掟。メスが背負った絶対ルール。


 変えようのないリアル。

 女が、人類が、幾度となく変えようとして失敗してきた非情な『現実』。

 敗北の歴史。


 だが運命もまた変わるのだ。

 劇的に。

 盛者必衰。

 決して衰えることなど無いようにみえた君臨せし者であっても必ず衰える。


 そしてチャンスはかつての敗者に、不遇な道を選んだ者に訪れるのだ。突然に。いや、忘れた頃に……。


 二億年の隆盛を誇った無敵の恐竜が、夜陰に紛れてしか生きられなかった小さなネズミ程の哺乳類に取って代わられたように……。


 あれから10年……。

 凛子がただの負け犬にしか見えなかったかつての者達の目に、これから映るのはどんな光景になるのか。凛子はどんな世界を見せつけるのか────。



 ◇  ◆  ◇  ◆  ◇  ◆



「ね! おじさん、一緒に写真撮ろうよ!」

「え!?」

 堀部は凛子に言われていろんな角度やポーズで一緒に写真を撮った。

 それからロボの合体シーンをもう一度撮影させられた。


 凛子は

「まぁまぁ、よく撮れてるかな」とかしたり顔で言っていた。


 最初はなんだこの女とも思ったが。

 ヤレヤレと思いつつ。……つい付き合わされてしまった。


 それは彼女が、なんとなく危うい気がしたから。

 気が強そうに見えたけど、実際はどうなんだろう?


 俺からそんな風に見えるなんて、この子はホントに大丈夫なんだろうか……?

 堀部には凛子が路地裏で鳴く痩せた子猫のように感じられて仕方がなかった。




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