プロローグ後半/転生(現在)
目が覚めると見覚えのある天井だった。幼い頃によく見た、懐かしい思い出の天井。まだ家族全員が一緒に暮らしていた頃に住んでいた家の天井だった、と思う。
それを理解するのと同時に覚えのない記憶が流れ込んできた。今なら分かる。俺は過去に飛んだ。女として産まれた世界で。しかし、それを把握できても1つだけ欠点があった。 まだ喋れねぇ。
「ふぎゃぁぁ、んあぁぁぁ」
まだ泣く事しかできなかった。それでも十分だった。母も兄も自分のことを見てくれたし、夜に生理行動として泣いても父すら自分の面倒を見てくれた。家族からの愛情を感じることができ、俺は十二分に満足していた。
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それからまた数年が経った。俺は兄と一緒にいたせいで男っぽくなってしまったと母に悩ませていた。それでも俺は兄と父と一緒にアニメを見たり、父がゲームしてるのを見ているのが好きだった。前世?でのこともあってロボットアニメには特にハマってしまい、父に迷惑すらかけたこともあった。それでも父は俺の我儘が珍しかったからか母によく怒られても見せてくれたし、なんなら「今度はバレないようにもっと静かにもっと落ち着いた時にやろうな!」と言ってくれた。そんな父との2人の時間が嬉しかったからか俺はもっとのめり込んでいった。だからなのか俺は父と母との離婚を忘れていたのは。
この世界でも結局は親は離婚し前世のように母に引き取られることになった。やはりと言うべきかまた今回も父と兄と月に1回会える機会があった。今世では兄と競うことはしなかった、するのが怖かったんだと思う。だからか兄の話を聞き、兄の試合の応援に行ったりはしていた。兄は試合のたびに来る自分に接してくれたし、笑ってくれていた。チームメイトに揶揄われてはいたもののそんな中でも笑顔でいた。そんな兄が眩しかった。そんな自分の目を知ってか母も
「貴女も何か習い事でもはじめない?」
と聞いてくれた。母がこんなことを言うのは前を含めても初めてだった。しかし俺はその提案を
「でも俺はお兄ちゃんみたいに器用じゃないから」
と拒んでしまった。その時の作り笑顔はとても見れたもんじゃなかったと思う。この時から母は俺が気を遣っているのではないかと考え始めたんだろう。俺が本をねだったりしたら買ってくれた。それほど高い本をねだるわけでもない自分に心配をしてるのを感じた。
違うんだ、これは自分が悪いんだと言いたかった。でも怖かったんだ。今が壊れるのがこれからが変わるかもしれないのは。
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中学を卒業間近に迫った時のことだった。母が再婚すると言い出した。前世ではそんなことなかった。これがこの後の人生のターニングポイントだったんだと思う。
俺は母が安心できて、幸せでいられるのであればいいと思った。それと同時に怖くなった。前世での高校の友達は本当にいるのか、本当に自分の居場所に戻れるのか。結論だけを言うならば高校は何も変わっていなかった。見覚えのある教師、見覚えのある顔ぶれ、安心して教室で泣いてしまった。
高校生になって半年が経った頃、義父に襲われた。私は義父に逆らえなかった。母の事を言われるとどうしてもすくんでしまった。母の幸せを壊したくなかった。これ以上母に何かを失わせたくなかった。でも俺の限界が来てしまった。
俺は家を逃げ出した。