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プロローグ前編/走馬灯(過去)

 昔から自分は劣等感とコンプレックスの塊でしかなかった。

優秀な父、その血を濃くついで優秀だった3つ上の兄、あの父親がなぜ結婚したかわからない母とその血を濃くついでしまったがあの父親の血が入った分何もかもが中途半端になった自分。そんな自分が嫌いだった。

 兄は昔からなんでも要領よくこなしていた。そんな兄と比較されるのが苦しかった、辛かった、情けなかった。お前がどれだけ努力しても兄には遠く及ばないと実感させられるだけだった。

 ある時から父と母の喧嘩をよく見るようになった当時幼かった俺はその様子を見てもいつかは仲直りするだろうと楽観視していた。いつかは忘れたが幼い時。確か小学校の低学年の時くらいだったと思う。両親が離婚した。幼い俺には離婚がどのようなものか理解できずにいた。しかし兄は離婚がどのようなことでどうなるかをしっかりと理解していたんだと思う。それなのにあの人は俺を心配し、俺の側にいようとした。

 しばらくして父と母が正式に離婚し、俺たち兄弟の親権は父が兄を、母が弟である俺の親権を持っていった。しかし父も母も義理堅い人間だったからか父は俺の学費や医療費などを負担し、互いに月に1回は子供と会える日を作った。毎月の父と会う日はよく兄も一緒にいた。兄が母と会う日も俺は一緒にいた。この時間は家族が揃っている感覚がしてとても嬉しかった。それと同時に父も母も決して長くない時間しかない中で兄弟だけの時間を作ってくれていた。その時間で俺は互いに親が今どうかという話や互いの現状を話していた。

 だからであろうか、兄の背中を追いかけたくなったのは、兄の真似をするようになったのは。兄が言ったことを真似して始めると兄が一緒にいるような感覚がした。嬉しかったんだ。また会えたら今度は遊べるかもと考えるのが、兄と勝負して勝って褒めてもらうことができるかなと妄想することが。

 でも現実は非常だった。兄は自分が1進むたびに10進む人間だった。どれだけ努力しても追いつくことがないどころか突き放されていった。それをわかった時から兄の真似をやめ、背中を追うのをやめた。

 そうしたからだろうか今度は兄が俺と同じことを始めるようになった。始めですら兄と一緒にやることは5分5分でしかなく進むにつれて勝率は下がっていき体感2割を下回った時には別のものに逃げ、また兄に追い抜かれる日々を味わってしまった。

 地獄みたいだった苦しかった、辛かった、でもこれを辞めたら繋がりが消えてしまう気がして兄に対して辞めてくれというのが怖かった。しかし聡明だった兄は俺の嘘を見抜き、心を理解してきていたのだろう。俺が高校生に差し掛かった頃、唐突にこの2人の時間を止めようと言ってきた。それに対して俺は泣くだけで何も言えなかった。そんな俺ですら慰めたんだ、この兄は。それからというもの俺は燃え尽きたかのように何もしなくなった。ただ常に退屈と喪失感を抱えながら学校とバイトに行っては同じことを日々繰り返していた。

 たまたま友人に誘われて行った先のゲームセンターで昔父が見ていた横で一緒に見ていたアニメのゲームを見つけた。家族を思い出したかったのか、それともなにか別の何かがあったのかはわからなかったが金の使い道もなく貯まっていたためそのゲームにどっぷりとハマっていった。

 それからゲーセン通いをしてSNSを通じて友人もできた。相棒と言える存在すらできた。初めて自分から動いて誰かと一緒になって、自分だけの居場所を作れた気がした。

 程なくして大学生になってからも皆んなでゲーセンに通い一緒にバカやって楽しくいられた。充実していた。これからだったんだ。皆んなで旅行に行こうなんて話もして、皆んなで免許取って、誰を運転にするかのジャンケンなんかもして、笑って時には喧嘩して、これからもそんな日々が続くと思ってた。

 終わりは唐突だった。皆んなで旅行に行くための準備として免許を取った帰りだった。俺は居眠りの車に轢かれていくのがわかった。

 これが走馬灯かと、これからなのに、楽しくなるのはこの後なのにと後悔しかなかった。それに母を残すのは忍びなかった。母にこれ以上家族との別れを経験させたくなかった。でも時間も世界も残酷だった。

 一瞬の痛みの後、俺は意識を閉じた。

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