ジュディの帰還
何とかお昼は口に入れることができた。といってもトーストとお茶だけだが。
食欲がない。やはりここは私と相性が良くないようだ。
「あの、何かわかりましたか」
私をここに放置してどこかに行っていたジュディが私のもとにようやくやってきた。
何かと言われても私の知っていることは犬が殺されたことと、わけのわからない幻を見たことだけだ。
私はいつまでここにいればいいのだろう。体調がすこぶる悪いのだが。
「では、どうかあの人を助けてくださいますか?」
「どうも、助ける余地が見つからないのですが」
「本当ですか?」
「番犬が二頭ばかり殺されたくらいですよ、そんなことぐらいで彼女が困りますかね」
私は本心から真摯にそう言ったのだがジュディは大きく目を見開いていった。
「そんなことではないでしょう、飼育されている動物が殺されるなんて典型的な脅迫行為ではないでしょうか」
まあ、彼女が飼育しているのならそうだろうが、しかし聞いている限りでは彼女は間借り人だ、飼育されている犬は彼女の物ではない。
「なんで彼女はああいう振る舞いが許されているんだろう」
私はそう小さくつぶやいた。
「何かおっしゃいましたか?」
私は小さくかぶりを振る。なんとなくジュディに聞かれてはいけない気がした。
「それはそうと、一体どこに行っていたんだね。私を一人ここに残していってしまうとはあんまりじゃないか」
無責任極まりないと責めても構わないだろう。私はジュディにここに連れてこられたんだから。
「それは、相応の理由があるんです。実は彼女をつけ狙う輩がいるという噂を聞いて」
「探ってきたのか?」
「実は先ほどここに来ました」
何を言っているんだろう。
「ここに来たって?」
私に何とかしろというのか? 私は知力はともかく体力は平均的な男性より少々下回る。そもそもここに連れてくるなど一体何を考えているのだ。
「君は彼女を守りたいと思っていたよ」
ジュディはそう言った私に笑いかけた。
「守りたいと思っているからこそ、私はここに戻ってきたの、傍で守るために」
私より知力も体力も足りていない人間がそばにいてどうかなるのだろうか。
私はジュディが言う相手を確認してみることにした。
思わず二度見した。
あれは間違いない。私としても遠巻きにしか見たことがないのだが。何でも裏稼業の人間と付き合いがあるという実業家だ。
あのごつい顎とはちりつけたような金髪のもみあげは忘れ難い。
「どうして連れてきた?」
「連れてきたわけじゃありませんよ、勝手に来たんです」
糸のように細い目なのにその眼力が半端ではない。かかわってはいけない相手だと私の経験則が語っている。
彼女が現れた。いつも通りの邪気のない笑顔で。男はそんな彼女を値踏みするように見ていた。