猫がいく
私は自分にあてがわれた部屋に落ち着いた。
食事は各自の部屋に届けられることになっていた。私としては大広間に全員集まっての食事を期待していたのだが。
別に私は和気あいあいとした会話など求めていない。だが、この場にいる人間関係を探るには会食というのは絶好の機会だ。
それにこの屋敷にどれほどの人間がいるのかも確かめられる。総人数が分からないのだではこちらも動きようがない。
やや冷めていたが冷え切っていはいない料理が出された。
こんな風に広い館では厨房と食事をする場所は離れていることが多い。
金属カバーは自分の役目をできる範囲で頑張っていた。
スープとパンとメインディッシュ、サラダ。普通の献立だ。
思ったより豪華ではないが、私としては普通の食事のほうがありがたかった。
幸いチキンなので冷めても硬くならない。
食事が美味しいが普通の夕食を食べ終えた後メイドがコーヒーとデザートを持ってきた。
コーヒーとデザートのコンポートは少し合わない気がした。
食事を終えると、入浴と睡眠だがその前にしておかなければならないことがある。
部屋に作り付けのクローゼットには私の荷物が入っている。鞄がそのまま。私はカバンの口金に鍵をかける習慣なので開けることができなったようだ。私はベルトに着けた鍵束から鍵を取り出し鞄を開ける。
入浴と睡眠のための道具を取り出すと鞄の底に隠しておいた武器を取り出す。
何やらきな臭い状況にあることはわかっていた。私は諸外国を回る際に常に武器を携帯している。
小型の軍用銃は、この屋敷にいる間懐に隠し持っておくことにした。
私の上着の何着かには銃をしまう隠しポケットが付いている。
そして私は自室の外に滑り出た。
最初には使用人に連れられてこの部屋まで来たが、道順を覚えているか確かめようと思ったのだ。
歩いていくと驚くほど人気がない。
上流階級ほど宵っ張りだ。一般庶民が早朝という時間まで起きていることも珍しいことではない。
それを考えると晩餐を終えたばかりという時間に全く活動している人間がいないというのは明らかにおかしい。
それにすれ違ったのがワゴンを押しているメイド一人というのがおかしい。先ほどの私のように食器を下げてもらったのだろうが。もう少し動いているものなんじゃないだろうか。
私は窓を見てみた。
私は目をこすった。
何かいる? 白いふわふわしたものが飛んでいる。
人のようなものが飛んでいる。うわ、なんだか表情までわかる?あれは老人なのか?
次に通りかかったのは鳴きながら飛んでいく半透明な女。
私はまた幻覚を見ているようだ。たまに幻覚を見るんだよなあ、まったく厄介な体質だ。
私は窓の外を見なかったことにした。そして再び廊下を歩き始めた。小さな猫が歩いている。
彼女の飼い猫だろうか。短い白い毛足の猫だが首にピンクのリボンが結ばれている。
猫は私をまるでいないかのようにして私の脇を通り過ぎていく。
私はあまり動物に好かれないのだ。