愛はどこ
「一体何匹の猫を飼っていたんだろう」
猫を片付けたメイドに聞いた。
飼われていたのは三匹、黒猫と白猫、そして茶色い猫。
「この家に飼われている動物は不幸すぎるな」
血で汚れた毛皮を眺めながら呟く。
「あら、どうして」
私のつぶやきにこたえる声があった。
いつの間にか現れた彼女に思わず飛び上がった。
ぶちまけられたはらわたの匂いの中顔をしかめもせずに彼女はそこにいた。
どす黒く変色した絨毯を不思議そうに見ていた。
「白い猫が死んだのですよ」
「ああ、リリイね、死んじゃったのね」
まるで何も感じていないようだ。
「可愛がっていたのですか?」
「あれは誰だったかしら、私にぴったりだと送っていただいたのよ、きれいな毛皮は触り心地がよかったわ」
にこにこと笑いながらそう語る。
私は知人に愛猫家を何人か知っていたが飼っていた猫が死ぬといずれも憔悴していた。泣きはらした目をした老婦人を思い出す、確かその猫の死因は寿命であったが。
このような無残な惨殺であったなら発狂していたかもしれない。
だけど、猫の血痕を見る目には何の感情ものっていなかった。
「全部の猫を一人が?」
彼女は首をかしげる。
「いいえ、確か全部ほかの人から、でも誰だったかしら」
どうやら本気で忘れているようだ。そしておそらく彼女に対する嫌がらせだったのだろうがかなり猫に思い入れがないので猫なのに犬死していることになる。
哀れな。
「そういえば、庭にいた犬はどうなのですか?」
「昔からいたのではないかしら」
その言葉にヒューバートの言葉の正しさを悟る。
本当に最近ここに来たのだ。だから犬をいつから飼い始めたか知らないのだ。
しかし、さして思い入れのない猫を居候している家で飼っているというのはいかがなものなのだろうか。
ジュディはいつの間にか後ろに来ていた。
「あら、ジュディ久しぶりね」
彼女はそう言って笑いかける。
ジュディはそっと彼女に包みを渡した。大きさは枕ぐらいだろうか。亜麻布きっちりと包まれていた。
「これ、贈り物よ」
それを受け取った彼女は通り一遍のお礼を述べてそれを受け取った。
「いつもありがとう」
笑っているけれど心はここにあらずな顔で包みを抱える。
いったい何が入っているんだろう。
そう思ったがあえて聞かなかった。できる限り彼女と個人的な話はしたくないと思ったのだ。
私はあえて傍観者でいようと思った。
ジュディは彼女に対して深い友情を感じているといった風情だった。
贈り物を抱える彼女に温かみのある笑みを浮かべている。
もしかしたらあの贈り物を用意するために別行動をとっていたのだろうか。
惨殺された猫の生臭い残り香漂う空間で女同士の美しい友情の姿だった。




