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猫が往く

 彼女はうっすらと笑う。そしてその笑顔に引き付けられるように男がふらふらと近づいていく。

「ようこそ」

 彼女はまるで危機感を感じているようには見えなかった。

 そばに控えているメイドはティーセット一そろいを用意している。

 女主人の風格で彼女は一番いい席に座る。

 ジュディはその様子を黙って見ている。

 彼女を守ってほしいと言っていた割には彼女を率先してかばう様子もない。

 私は壁と同化してその様子を眺めていた。

 彼女を守ってほしい、などと言っていたが私ほどその役割にふさわしからぬ人間も珍しいと思う。

 体力普通。財力そこそこ、人より突出しているものといえば教養ぐらいのものだ。

「呪いか…」

 彼女は常に誰かが注視している。それが呪いなのだろうか。

 呪われているという、だがはた目には彼女は幸福そのものだ。だとすればのろいとは何だ。どうしてジュディは彼女が呪われているというのだろうか。

 いや、今物理的に災難が降りかかってきたのではあるが。

 物理的な災厄は実に嬉しそうに満足そうに彼女の一挙手一投足を凝視している。

 ジュディが彼女の身を案じているならば決して連れてきてはいけない相手なのだが、一体何を考えているのか。

 不意に足元に柔らかなぬくもりを感じられた。

 ふわふわの猫が私の足に額をこすりつけけている。

 この家では随分とたくさん動物を飼っているようだ。

 柔らかな茶色い毛色の猫だ。以前見た猫は白い毛足の短い猫だった。

猫も複数飼っているのだろう。全体で一体何匹飼っているのかは知らないが。

 私は足元にまつわりつく猫を抱き上げた。

 ふわふわの毛並みといいちらりと除く白い牙といいこの猫はずいぶんと若い、数か月前は子猫だったのではないかと思われる。

 毛並みに埋もれるように黒いリボンが首に巻かれていた。

 猫をそのまま抱いたまま所在なく私はその場に立ち尽くしている。あの男は私には興味を示さないようだ。

 むしろ願ったりかなったりなので、私はこの場を立ち去ることにした。

 巻き込まれたとしても私にできることはない。むしろなかなか力持ちなこの館の使用人の出番なのではないだろうか。

 私はそっと足を踏み出した。

 その時私は腐臭のような臭いを嗅いだ。

 さわやかな緑の香気あふれるその空気の中一筋の腐臭。

 私はそのままその匂いを追っていくことにした。そして、その腐臭が耐え切れないようになった時それを見つけた。

 上等なおそらく一財産と思われる絨毯の上で、猫がまき散らされていた。

 文字通り広範囲にまき散らかされているものが猫だとかろうじて分かったのはある程度原形をとどめている欠片から推測したのだ。

 半分割れていたとしても頭の上についている三角耳はやはり猫だろう。

 デフォルメされたさまざまな植物の上にグロテスクなオブジェのように巻き散らかされている猫のかけら。

 血で汚れていたがおそらく毛色は白だったのだろう。



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