美しい彼女
彼女は呪われている。
そんな噂が流れてきた。
彼女はとても恵まれた女性だと誰もが言う。
彼女は若く美しい。資産家の両親から譲られた巨大な城を持ち。豪奢な生活をしているという。
長い金髪をダイヤの着いた髪飾りで結い上げ、最新流行のドレス。常に美しい青年が彼女の周囲に集いほめそやす。
そんな恵まれた彼女。だけど彼女は呪われている。
その美しさをたたえ、その財をうらやむ声に紛れてそんな噂が流れてくる。
私はその噂をどうでもいいと一蹴していた。
確かに美しい女だがそれだけだ。財産も彼女ほどではないが自分のもので満足しているので他の人間の物に興味はないのだ。
だから、目の前の女性に私は困惑を隠せないでいた。
「あの人は呪われているのです」
硬い表情でその女性は言った。
「miss、ええと……」
私はその女性の名前を何とか思い出そうとした。
褐色の髪とどこかエキゾチックな切れ長な紺色の瞳。
ほっそりとして見えるが顎が少し大きい。その顎の線がおそらくこの女性は強情だと語っている。
「私はジュディ、ジュディ・ガルトゥングと申します。私の友人、彼女マリアは呪われているという噂をご存じでしょう」
「知っているけれど、別にどのような呪いかは聞いていないな」
私自身家族の遺産で食っている。時々小銭を稼ぐことがあるがそれだけだ。
そういえば、例の彼女はマリアというのか、まったく実情にそぐわない凡庸な名前だ。
「ですが、貴方は知識がございますわ」
私はこの国の宗教のみならずさまざまな国の宗教に関する書物を何冊か上梓している。宗教儀式というのは国によって違いまたこの国の人間にはかなり奇異に映るものもある。
だがそれを胡散臭い呪術などということに勘違いされるのはずいぶんと不本意だった。
「それで私に何をしろと?」
はっきり言って何もしたくない。
ジュディは淡い水色のドレスの裾を握りしめた。
「彼女の呪いの正体を調べてほしいんです、このままでは」
ジュディは唇をかみしめていた。
しかし、私は単なる宗教比較学の徒であって超常現象については詳しくないのだが。
「どうかなさったの」
背後からの声に思わず肩が上がった。
先ほどの話題の呪われた彼女、本人が立っていた。
「ジュディ。どうかした?」
呪われているという本人は喉やかな笑顔を浮かべていた。