三回も四回も一緒じゃないと思うんだが
次の日の朝。
俺と乃亜は学校に向かう為に通学路を歩いていた。
「むー」
乃亜は機嫌が悪く、頬を膨らませている。
「いい加減機嫌直せよ」
俺は乃亜の頬を突っついた。
あ、プニプニしていて気持ちいな。
「だって結局、子作りしてくれなかったじゃない」
結局、あの後。家に戻ったら乃亜が所構わず求めて来て大変だった。おかげで俺は寝不足だ。
「お前はそんなに子供が欲しいのか?」
「ん、欲しいよ。レンとの愛の結晶だから」
「本音は?」
「既成事実にできるし、レンの側にいる口実ができるから」
やっぱりな。
「でもね、でもね、本当は心配なんだよ」
「心配?」
「だって、レンがボクのことを愛しているかどうかわからないんだもん」
何を言っているんだこのツインテール?
でも、乃亜の言う通りで俺はこいつに好きも愛しているも言ったことがない。つか、口が裂けても言いたくない言葉だ。え、何故かって?恥ずかしくて言えるわけないだろ。
「ねえ、レンはボクのことどう思っているの?」
乃亜は立ち止まり聞いてきた。
いやいやいやいや、いつの間に告白のフラグを立てた風になっているの?俺、なんもしてないんだけど。
「ちなみに、それって絶対答えないといけない?」
俺も立ち止まり乃亜に聞いた。
「もちろん」
乃亜は期待に満ちた瞳で俺を見上げてくる。
「もし、答える前にこの場から逃げたらどうなる?」
「ボクが逃がすと思ってる?」
思っていません。さて、どうしよう逃げ場がない。でも、そうだな。ここであえて違うことを言ったらどうなるか試してみるかな。
俺は乃亜の変わった反応を見たくなり、自分の気持ちとは反対の言葉を言ってみることにした。
「大嫌い」
「え?」
乃亜は驚いた顔をした。
「だから、俺は乃亜の事が大嫌い」
「嘘」
「本当だよ。だって、乃亜いつも俺の気持ちを考えないでさ、こっちにすればハタ迷惑なんだよ」
・・・・・少し、言いすぎたかな。
「い」
「い?」
「嫌だ!」
乃亜はそういいながら俺に抱きついてきた。
「お願いだよ。ボクを嫌いにならないでよ。レンの為ならなんでもするから、嫌いにならないでよ。うわ~ん」
乃亜は泣きだした。
やばい、やり過ぎだ。
「ひっく、嫌だよ。・・・・えっぐ、レンに嫌われんのが嫌だよ。・・・・・、んぐ、せっかく会えたのに。恋人同士になれたのに。また離れ離れになっちゃうよ。えぐ、ひぐ」
乃亜はどんどんと自分の涙で俺の制服を濡らしていく。
さて、どうやって。乃亜の涙を止めるかな。・・・・・ようするに乃亜は俺が嫌いと思っているから泣きだしたから、俺の本当の気持ちを伝えればいいんだよな。そういえば、こいつが転校するって知った時も大泣きしたっけ、だったらあの時みたいにしてあげよう。
俺は乃亜の頭を撫でながらしばらく考え行動に出た。
「乃亜、顔を上げろ」
「ひぐ、なんで?別れの言葉でも言うの?」
「いいから早く上げろ」
「これでいい?」
乃亜が顔を上げてくれた。眼からは、まだ涙が流れて来ている。
さて、止めてやるか。
「ああ、いいよ」
俺はそう言って自分の唇を乃亜の唇に重ね合わせ、すぐに離した。
「えっ、えっ」
乃亜は何が起きたのかわかっていなかった。
「ごめん。さっきの嘘。本当は好きだ」
俺はそう言って乃亜の涙を拭きとった。
「えっ、ちょ、ちょっと待って、今何をしてたの?それとなんて言ってくれたの?」
乃亜は顔を赤くしながら聞いてきた。
「さあ、俺はただ、乃亜を慰めるに必死だったから覚えていないな」
俺は知らないふりをした。自分でも今頃になってとても恥ずかしい事をやったのだと思い、顔が赤くなっているのがわかる。
「それこそ嘘だ。レンは僕にキスをして『乃亜、もう離さない結婚してくれ』って言ってくれたよ」
「お前は一回、病院で頭の中を検査した方がいいんじゃないのか?」
なんで、俺が朝っぱらからそんな大胆な告白をしないといけないんだ?
「レン。お願い、もう一度言って。録音して朝の目覚ましにするから」
「嫌に決まっているだろ」
あんな恥ずかしセリフそうやすやすと言えるかっての。それに、なんで俺が自分の告白の台詞を聞いて起きなきゃならないんだ?
「それじゃあ、また、ボクにキスをしてちょうだい。今度はとても濃厚なやつを」
乃亜はそう言って、俺に顔を近づけてきた。
「断る」
しかし、俺は乃亜の顔を手で押さえた。
今やってしまえば、絶対に理性を保てなくなってしまう。
「いいじゃない、三回も四回も同じでしょ」
「同じじゃない。つか、ちょっと待て、三回、四回ってどういうことだ?」
俺の記憶では二回しかやってない筈なんだけどな。(一回目は子供の頃です)
「あはは、気にしない気にしない」
「気になるわ」
俺はツッコミを入れた為、腕の力が抜けてしまった。
「隙ありだよ。レン」
乃亜はそう言って俺の後頭部を掴み、自分の顔に引き寄せた。
「しまっ、ん」
俺の口は乃亜の口に塞がれてしまった。
そして、口が離れた後、乃亜の機嫌はとても良かった。